ファイナルゲーム

 Side 北川 舞


 =昼・大阪日本橋、でんでんタウン周辺=


 この事件は大阪日本橋に始まり、大阪日本橋で終わろうとしている。

 谷村 亮太郎の説明が本当なら、ベルゼは世界一つ、異世界その物を、惑星一つ分のエネルギーを一種のパワーアップアイテムとして使用しているらしい。

 そんな事が可能なのかと思いもしたが、実際にベルゼは信じられない程のパワーアップを遂げている。

 あっと言う間に周辺の建造物が破壊し尽くされていく。

 

 もはや個人の力を超えている。

 今のベルゼは災厄の権化だ。

 背中に浮かぶ金色の神々しいリングから異世界の力を供給し、体の各部がグレードアップする。

 より魔人らしさが増している。


「ちょっと驚きましたが、私はレイガンスリンガー!! 史上最強にして最高のヒーローになる人間です!! こんな事でへこたれはしません!!」


 それでもレイガンスリンガーは—―諦めていない。

 ボロボロになりながら、それでも合流したヒーロー達と一緒に前へ前へと進んで行く。

 どんな強敵が現れても諦めない、挫けない、倒れない。

 それがヒーローの本質なのだろう。

 

「しかし驚きましたね。まさか異世界をそんな風に使うとは」


『これはちょっとした異世界の応用さ。闇乃 影司対策の一つとして考案した方法だが、結果的に全てが解決する算段は付いた。Eー00ファイルと闇乃 影司を凌駕する武力。世界は変わる。世界は終わる。今からこの瞬間から私が変える』


 アスファルトの地面が裂け、建造物が消し去られていく。

 まるでパワーインフレが激しいバトルマンガのように周辺の地形が破壊されていく。

 ベルゼに近寄れない。

 とうのベルゼ本人は一歩も動かず、空中に浮かんで片腕だけで近づく物を排除している。

 とんでもない絶対的な強さだ。

 

(だが逃げません!! 必ず勝機はある筈です!!) 

 

 今迄、レイガンスリンガー、辻沢 風花はどんな強敵にも立ち向かっていった。


『素晴らしい。少々危険な懸けだったが、セイクロスト帝国と繋げて正解だった』


「よりにもよってセイクロスト帝国に!?」


 セイクロスト帝国。

 秋葉原と繋がる異世界。

 そして友好国になろうとしている世界だ。


『そうだ。本当は別の世界に繋げたかったが、君達はいけないんだよ。こうして襲い掛かって来るんだから』


「被害者面して責任転嫁しないでください!!」


『だが君の責任となって終わる! 世界は強者に優しいように出来てるんだよ! 敗者に誰も優しい手を差し伸べてはくれない!』


 回しにこの戦いは必ず勝つ、お前達の負けになると告げるベゼル。

 それでも風花は諦めない。


「何を言ってるんですか? 私達の勝ちで終わりに決まってます。どんなチート技を使ったとしても私がいるから勝つんです。アナタは私と言う最高のヒーローの踏み台になって終わるんです!」


『子供の様な屁理屈を!!』


 パワーをさらに上げつつ、攻撃をより激しく振るう。

 風花も必死に避けて反撃の隙を伺うが、攻撃がまるで途切れない。

 タチの悪い弾幕ゲームだ。

 異世界一つをパワーアップアイテムにしているだけある。

 

『作戦失敗だ—―』


 そして北川 舞が唐突に敗北を告げた。


『今の奴は巨大なエネルギーの爆弾と化している。仮に現時点で奴を倒した場合、この周辺は吹き飛ぶ。最低でも広島型原発規模だ』


 その理由も簡潔に述べた。

 

『諦めるのは早いさ—―』


 変わるように谷村 亮太郎が話を続けた。

 

『前にメイド喫茶で言ってただろ? 民主的な方法で人々に訴えるって? アレをやろう』


 とんでもない方法を提案した。

 支離滅裂にもとれる。  


『ちょっと待って!? 今更そんな事をしてどうする!? お伽噺で世界を救うとでも!? お伽噺はお伽噺だ!! お伽噺にそんな力はない!!』


 皆の気持ちを代弁するように北川 舞が言った。

 彼女が取り乱す姿を見るのはレアのようにも感じる。

 

『念話と念写の魔法を最高出力にして、とにかく全ての人々に呼びかける』


『その魔法をサポートする――いや、やる。やって見せる』


 亮太郎につづいて闇乃 影司も乗り気のようだ。

 

『なあに、やる事はニチアサの変身女児向けアニメの劇場版でよくあるアレだ。応援して戦うヒロイン達の力に変える奴。辛いのは変身アイテムがない事ぐらいだけどね』


 と、亮太郎は軽口を叩いて—―とんでもない力の奔流を感じた。

 街全体、日本橋を中心に――意識のネットワークが広がる。

 その意識のネットワークは次々と繋がっていく。

 同時に情報が流れていく。 

 この街で起きた事。

 この街で起きた事件の真実。

 この街で起きた事件の裏側もだ。

 そしてこの街で最後の戦いが起きている事も。


 ただ言葉ではなく、感覚で理解できた。

 風花達にとっては今更だが、それが世間の人々にも実感として伝わったと言うことだ。

 近くにいるベルゼも同じ感覚な攻撃の手が止まっている。


『馬鹿な!? こんな事が!? こんな事が可能だと言うのか!?』

 

 不思議と、とんでもなく動揺しているのが伝わる。

 同時に風花はベルゼはとんでもなく哀れな存在に思えて来た。

 彼は愚かな人間を超えたつもりでいたのかもしれない。

 だがその考えを持ちながら我欲のままに行動する行為事態が未だに愚かな人間と言う枠組みである事を証明していた。

 

『どうも皆さん。少しだけ時間を取らせてもらう。今皆さんは不思議な状況下で混乱していると思う。だから手短に話そう』


 と、谷村 亮太郎は語り掛ける。

 日本に生きる人々、海を超えてユーラシア大陸にも届いている。

 そこに善悪の違いなく。

 ただ助けて欲しいと乞う。


『力を貸して欲しい。相手は秋葉原と繋がっている異世界セイクロスト帝国の世界そのものを力に変えている。言ってる意味は分からないと思うが、何となく理解できるはずだ』


『力の貸し方は簡単だ。ただ僕達を、この日本橋で戦ってくれている僕達を祈ってくれればいい。直接この日本橋に出向いて戦うと言うのも――本当なら推奨すべきではないが、歓迎したい。迷惑だと思うならただ近くの人にでも譲渡してくれればいい。感覚で理解できる筈だ』


 変化は起きた。

 空の彼方から次々と光の玉が日本橋に降り注ぐ。

 戦いの余波で荒れ果てた日本橋が修復されていく。まるで時計でも巻き戻したように。

 風花にも変化が。

 疲労がなくなり、傷が治り、身に纏う装備もピカピカになった。

 同様の変化は彼方此方で起きている。


そして彼方此方から人々が押し寄せてくる。


国内の一億を超える人々の意志。

今も尚、広がり続ける数十億を超える世界の人々の願い、祈り。

辛く、過酷な事だらけの世界はこんなにも優しい顔を見せる事が出来たのか。


『認めん、認めんぞ!? 世界は残酷に出来ている筈なんだ!? 今更善人面をすれば、死んだ人間は救われると言うのか!?』


 ベルゼの怒りに答えたのか、巨大化、パワーアップが行われる。

 同時に今迄戦ってきた敵が、オートボーグ、コンバットボーグの区別なく召喚されていく。

 100――1000次々と生み出されていく。

 だが今この瞬間、今この世界には一億を軽く超えるヒーローがいる事を考えればこれでも少なかった。


 やがてベゼルは自分だけの世界を作り、現実の世界を侵食していく。

 此方も此方でなんでもあり。

 巨大なファンタジーのモンスターすら産み出していく。

 だが、それでも負ける気はしなかった。

  

 警察官がいた  

 今回の事件では嫌な役回りのモブでしかなかった。

 だが全ての真相を知り、真実を知り、上から現場に向かえと指示が飛ぶ。

 善意か、あるいは身の保身かは分からない。

 だが今はそれでもいいと思えた。

 生身の徒手空拳で無尽蔵に湧き出るモンスター相手に憧れのヒーロー達と一緒に戦う。

  

 自衛隊もスクランブルが放たれているのかこの場に駆け付けていた。

 宇宙人事件の名残で未だに配置されていた自衛官達だろう。

 こちらも銃器を使わず生身で戦う。

 相手を投げ飛ばし、飛び蹴りをかまし、次々と敵を闇の粒子に変えていく。

 

 様々な名も無きヒーロー達がいた。 

 宇宙人事件からこの方、一部のヒーローを除いて活躍らしい活躍はない。

 警察官と同じくやられ役のポジションだ。

 だがそれでも一流のヒーローと同じ立場、同じ土俵に立てる力を与えられている。


 一般人の男性、女性がいた。

 年齢も様々。

 若者から老人までいた。

 この場に事情を知って駆けつけた人々。

 彼達もまたヒーローになりたいとかそう言う欲求もあるかもしれないが、自分に出来る事、自分達一人一人の人間がしでかした罪と向き合うためにこの場に足を踏み入れた。

   

 子供がいた。

 気持ちは分からんでもないが親や教師が必死に止めようとする。

 子供は道行く敵を薙ぎ倒し、親や教師は子供の行先を邪魔する敵を薙ぎ倒しながら子供を確保しようと必死だった。

 この後、盛大なお叱りが待っているのだろう。 


 そんな状況だからディフェンダーズの隊員も、そして北川 舞ですらもヤケクソ気味に戦う。


(凄い—―)


 この光景を風花は生涯忘れないだろう。

 多くの人々が一つの目的の為に立ち上がり、一致団結する。

 そこに強さも弱さも関係ない。

 ただただ、ひたすら素晴らしく、美しい。


『力だ!! 力を寄こせ!! このクソったれな現実を!? この今を壊す力を!!』


「あいつ、まだ!?」


 ベルゼは引き際を見失ったギャンブラーのように、ただただひたすらに力を求め、振るう。

 今この瞬間も世界は書き換わっていく。

 暗闇の空間。

 不毛の大地。

 そこに存在する無数の異業の化け物の数々。

 魔界と呼ばれる世界があるならきっとこんな物だろうと思った。

 ベルゼはさらに巨大化。

 天高く聳える白い影の魔人と化していく。

 

 ベルゼは善悪関係なく、稀代の天才であったのだろう。凡人にここまでの事は出来る筈がない。

 今起きている奇跡と拮抗する事すら出来なかった筈だ。

 もしかしたら――彼もまた、今起きている奇跡の恩恵を受けているかもしれない。

 そう考えると風花は少しホッとした。

 こっちは億単位の味方で相手は少数。

 後でぐちぐち嫌味を言われるのも癪だ。

 殴るにしてもやっぱり対等かつ正々堂々がいい。

 辻沢 風花も駆け出した。

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