~女性(おんな)の長蛇~(『夢時代』より)

天川裕司

~女性(おんな)の長蛇~(『夢時代』より)

~女性(おんな)の長蛇~

 素通りしていた経過(とき)の晴嵐(あらし)が俺の足元(もと)まで流行(なが)れて独歩(ある)き、切れ切れながらに俗世(このよ)の労苦を行き場の見得ない霧の内(なか)へと幾つか捨てた。幾つか分らぬ憤怒の揚句(ようく)は彼岸(きし)から離れた人間(ひと)の〝古巣〟を如何(どう)にも成る間(ま)に奇妙に隠し、苦労の絶えない暑い夜には、幻想(ゆめ)の脚色(いろ)さえ無遊(むゆう)に失(き)え行き、明日(あす)の塒は昨日へ落ち着き、黒から白へと空の鼓動(うごき)も伸びやかだった。霧の鳴く間(ま)に俺へ生れた奇妙の主観(あるじ)は白い表情(かお)から一口さえ突き、現れ始める宙(そら)の根城を他人(ひと)に保(も)たせてくよくよし始め、これまで利(い)き得た〝学(がく)〟の旋律(しらべ)は、寝耳に水ほど僅かでもなく、俺の無意味を揺り動かすまま小さな針にて旅をも通す。

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 俺は様々な紆余曲折を通り、会社の重役に成って居た。その紆余曲折には、嘘で固めた構築も含まれていた。

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 苦しく成れない空の高嶺に白雲(くも)の動きが間近に意気込み、涼風(かぜ)が吹く間(ま)に見る見る増え行く人の晴嵐(あらし)の言動(うごき)の元には、決して解(と)けない脆い〝一重(ひとえ)〟が生(せい)を高(たか)らめ俺へと居座り、何処(どこ)へ行っても明暗(あかり)を漏らさぬ漆黒(くろ)い境地を大事にしていた。硝子箱(ガラスケース)に執拗(しつこ)く明かせる二本の虚無には帆柱さえ行き、昨日まで観た人間(ひと)の生き血は何処(どこ)へ向くのか、自己(おのれ)の末(すえ)まで真逆に観た儘、独り切りにて、ずっと独りで、如何(どう)にも成らずの旧い橋からその身を投げ往き、自己(おのれ)の旧友(とも)から親(ちか)しい共へと自体(からだ)を化(か)え生き未熟を洗う。明日(あす)の背後へつつつと忍んだ向きの感覚(いしき)は絶望する儘、強靭(つよ)い両眼(まなこ)で貴方を見詰めるhemの生き血へ足場を借りた。透った瞬時(とき)には自己(おのれ)を隠せる空間(すきま)さえ観ず〝生(せい)〟を掬って、これまで識(し)り得た十(とお)の託つを幻影(かげ)に認(したた)め如何(どう)でも好くなる。

 振(ぶ)れる素顔(かお)から紺(あお)い表情(かお)まで旧来(かこ)を夢見た真摯の塒は〝筋肉痛〟から回復する内、他人(ひと)の余裕(あそび)を撮み損ねて悪事を蹴破り疾走(はし)って行った。煙(けむり)に巻かれた幻夢(ゆめ)の〝階〟には個人(ひと)の表情(かお)など如何(どう)にも好く成り、間違う初歩(はじめ)を砦に着飾り、昨日から現行(いま)、現行(いま)から明日(あす)へと、如何(どう)にも好く成る襖の画(え)を見る昼夜の脚色(いろ)まで払拭して往く。

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 〝源氏の君〟から小さく顰めた小形の易写(えきしゃ)を渋々承け取り、明日(あす)の過去へと運好く流行(なが)れる薬(くす)の気を知り、女性(おんな)の人影(かげ)から男性(おとこ)の人影(かげ)迄、こよなく相(あい)せる浮世の内実(なかみ)へ巧く独歩(ある)ける人生(ぶたい)を知った。

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 主観(あるじ)を亡くせる奇妙から成る二つの手腕(うで)には、奇妙と妙とを巧みに併せた物見(ものみ)の来手(きて)から素応(すおう)を仰け反り、白紙へ宿せる王の〝襖〟を掌(う)け手へ失くして疾走(しっそう)していたときの速さに驚いても居た。旧い〝軒端〟が俺の元から順々失くされ、白い光沢(ひかり)は明日(あす)をも識(し)れ得ぬ新たを観ながら俗世(このよ)を固めた。桃(あで)に煮やした可笑しな女性(おんな)は男性(おとこ)の両肩(かた)へと染み付きながらも撰抜者(エリート)から発(た)つ仄かな人光(あかり)がときの壁まで辿れて在った。生きながらにして活きながらにして利(い)きながらにして幻想(ゆめ)の許容(うち)へと若立(わかだ)つ本能(かたち)は人間(ひと)の内実(なかみ)へ経験せぬまま紺(あお)い星から黄色い星まで、一目散にて凌いで独歩(はし)れる経過(とき)の芯まで温(ぬく)めていながら、直ぐに観棄(みす)てる他人(ひと)の八頭(おろち)を夢想(むそう)に冴え立て、旧来(かこ)の〝古巣〟へ逆行され得る脆(よわ)さを見付けて蠢き始めた。

 まるで諸葛孔明が、様々な重役達を言い負かして行くように、俺は俺に出会うようにして手向かう様々な重役達を、言い負かさねば成らなかった。その重役の内に、西田房子が居た。

 転々(ころころ)空転(ころ)がる幻想(ゆめ)の壁画が俺を支える両脚(あし)の浮輪を確認し始め、人間(ひと)の姿勢(すがた)を描き始める髑髏の輪郭(かたち)は、俺の文句(ことば)にふっと対せる夢想(ゆめ)の土手(みち)へと独歩(ある)いて行った。過去を見詰める俺の感覚(いしき)は漆黒(くろ)い坩堝(ふち)へと悶々して活き、〝デジタル壁画〟を翻(かえ)して羽ばたく漆黒(くろ)い本能(ちから)を口から出した。木枠に擡げた卵の殻には朝な昼なと夕(よる)まで待てない硝子の隣に苦労を灯せる、灯(あか)りに対せる一枚(かみ)の感覚(いしき)に埋没して行く。〝イノセンス〟に似た白い壁画は個人(ひと)の感覚(いしき)を巧く発(た)たせて現代人(ひと)へと興味を失(な)くせる筋肉(にく)の柔みに固体を見せ付け苦労を識(し)った。黄金(おれんじ)色した無暗の肢体(からだ)は神の神秘(すがた)へ回帰して行き、〝堂々巡りの房(ぼう)〟へ戻れる二本の脚馬(きゃくま)に嫉妬(ほのお)を発(た)たせる。消化不良から気分の悪さを漆黒(くろ)い闇間に仰け反らせて活き、一つ一つの新たな延命(いのち)が遠い一番星(ほし)から落ちて来るのに一向絶えない回顧(レトロ)の空気を散々吹き掛け、「明日(あす)」の意欲を得てして知らない人間(ひと)の人影(かげ)から両掌(りょうて)を突き出し、昨日から観た現行(きょう)の事実へ反芻して行く。茶色い人髪(かみ)した無類の八頭(おろち)が陽(よう)を逃れて体動(うごき)を誤魔化し、人体(からだ)へ懐かぬ奇妙な言葉を思惑(こころ)へ植え付け、〝堂々・砦〟の明日(あす)の行方を馬脚に表し痛感して生く。俺の心身(からだ)は幻想(ゆめ)の許容(なか)へと挙がって居ながら逆行(もど)り切れない極致の両眼(まなこ)へ追随し始め、陽気な感無(オルガ)と適せる人影(とりで)を、如何にか斯うにか画筆(えふで)に気取らせ烏有を託ち、桃(あで)に割けない可笑しな仕種を人影(とりで)の許容(うち)より引き摺り出せた。俺に生れる孤独の手数(あたま)は人影(かげ)を観ぬまま透って在って、狂い始める虚無の距離まで、独りで歩ける安心(こころ)を観るうち撓(しな)んで行った。過去の俺から二つの火の粉が漆黒(よる)を越え出し発音(おと)へと傾聴(かたむ)き、相(あい)した女性(おんな)を好きに成りつつ、本能(ちから)を宿せる煩悩(なやみ)の一滴(しずく)を忘却していた。新たな代物(もの)など俗世(ここ)には無いのだ。予(すで)に置かれた既成の事象(もの)しか俗世(ここ)では立たずに、虚無が取り巻く人間(ひと)の身内(うちには、嫉妬(ほのお)の挙がれる虚無の酒宴(うたげ)が毎夜毎夜に咲き乱れて活き、漆黒(くろ)い瞳(まなこ)に立ち表れるのは人間(ひと)を殺せる経過(とき)の狭間でどんどん揺らめく代償とも成る。反省し得ない俺に与(く)まれた才能(ちから)の限界(かぎり)は夜雨(あめ)に濡れない傘と同じで、必ず自宅に据え置かれていて、男女の気色が留(と)まれぬ程度の倒れた白壁(かべ)へと吊られて在った。白い壁には散々透れる俺の文句が緻密に仕立てた傀儡(どうぐ)の鞘まで吊るされても在り、空気(もぬけ)の感覚(いしき)が限界(かぎり)を識(し)らない他人(ひと)の嘘まで見抜けてさえいる。俺の孤独につとつと降り立つ〝しどろもどろ〟に汚(よご)れた刹那は、他人(ひと)の孤独をふいと啄み、泥濘(ぬかる)むmorgue(モルグ)を堕落に導く脆(よわ)い音頭を潜々(ひそひそ)奏でて、淡い夜霧(よぎり)は初春(はる)に冷め行く拙い経過をこつこつこつこつこつこつこつこつ、革靴(くつ)の発音(おと)から真向きに先立つ脆(よわ)い気色を放(ほう)ってもいる。大人と小人(こども)が暗い通りで一滴(しずく)を蹴散らす脆(よわ)い光輪(ひかり)を胸中(なか)へと抱(いだ)き、冷めた眼(め)をした異国の玄人(ひびき)が所々で打ち倒され行く孤独の積載(シグマ)を見上げ、夢に惹かれる孤独の光輪(ひかり)は無数の集積(シグマ)に哄笑(わら)って在った。

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 誰かと行かねば成らないお出掛けに電車で行って帰った後、重役達が構築していた会社内の秩序(儲け方法)は用を成さず滅茶苦茶に見え、それを直す事を口実にし、俺は帰宅してそのまま西田房子が付き添っていた、歩きながらの時間の無い小会議に出席し、その時指揮(しき)っていた、出来そうで、如何(いか)にもこれから人望を集める準備をして居そうにありながら人気も在りそうな重役(経営コンサルタント)に、それまでと同様に対峙せねば成らなく、エレベーター内で、客に対して内の社員がサービスした場合の問題発生への解消法を「もう言いましたか?」と事務的に問い、途端に笑顔を立てて和んだ重役が「未(ま)だです」(心の中で〝言わなきゃ成らないんですか?〟)と言い、俺は、その重役に付き添って居た他の重役・新人社員に顔を向け「ばいかきゃく制度五一七条の第二一規約です。」と直ぐさま言い、「当り前です」と彼の心中の声にもきちんと答えた上で言を続けた。

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 日捲(ひめく)り様(ざま)にて脆(よわ)い言(ことば)は俺の胸内(なか)から人間(ひと)の外面(そと)へと疾走するまま干乾びても活き、顧客を問えずの俺の立場は夜雨(あめ)の降(ふ)るのを散々気にして、どっち付かずの旧い習癖(くせ)まで自分の仕種へ追従(ついしょう)させ行き曖昧から成る怒調(どちょう)の集積(シグマ)へ自己を対せる瞬間(とき)を見付けて小躍りする内、明日(あす)の倣いへ〝こここ〟と哄笑(わら)える人豚(ぶた)の藻屑を粉砕していた。人豚(ぶた)に奏でた人の望みは夜が明けるのと殆ど同時の真昼の輪舞曲(ロンド)の発音法から何処(どこ)から変らず奏でられ行く白い気色の藻屑の小片(かけら)を具に見立てて人へと放り、瞬間(とき)の経過を感じ損ねた旧い輩は表情(かお)を見合わせ、如何(どう)とも付けない結論(こたえ)の辺りを悠々泳がず隙を見るまま個人(ひと)の過去へと飛来して行く旧来(むかし)の景色を人間(ひと)に想わせ欠伸をして居り、漢字一つに調子を損ねる人の感覚(いしき)は言葉を失い、虚無とも現行(いま)とも見分けの付かない深い既実(きじつ)を感じても居た。不思議の辺りは銀杏(いちょう)に埋れた延命(いのち)を啄み、暗(やみ)に対せる魅惑の辺りを如何(どう)ともせずまま予期せぬ儘にて、自己(おのれ)を律せる旧来(むかし)の辺りに自分の感覚(いしき)を上手く懐かす腕力(ちから)の辺りを翻弄していた。きしきし軋んだ俺の足場は瞬間(とき)の経過を全て無視して、瞬間(とき)の経過に人の言動(うごき)が動いて行くのを端(はた)から覗いて滑稽(おか)しく想う。生きる許容(うち)にて意味を履き替え、両親(おや)が在っても独りで居るのと何等変らぬ不思議で可笑しな常識(かたち)を象り今日の孤独を費やし生くのを、俺の心身(からだ)は灯(あか)りの許容(うち)にてほっそり気付き、何処(どこ)まで経っても俗世に沸き立つ人間(ひと)の空気を払拭出来ない白い微弱に常識(かたち)を観て居た。敏感極まる幾多のの英知が歴(かこ)の隙間で沸々沸き立ち、孤独を透して孤独を見せ得ぬ人間(ひと)の数多を嘲笑している常識(かたち)の縁(ふち)から翳りを見出し、翳りに纏わる密の晴嵐(あらし)は経過を鳴らせぬ夜の許容(うち)へとひっそり途切れて埋没して行き、当面華咲く栄華を気取れる人間(ひと)の土地から新芽を出した。慌て切らない俺の残骸(むくろ)は人間(ひと)の常識(かたち)に啄み損ねた寒い狭筵(むしろ)を人の街へと〝云々〟言い出し、何処(どこ)かで借り行く矛盾の独気(オーラ)を事も無いまま夢遊に擡げ、〝形が無いのが常識(かたち)〟とする儘、灰(グレー)から成る生気の器に寝首を包(くる)んで疾走して行く。容姿(かたち)を失くした我(われ)の姿勢(すがた)は男性(おとこ)ながらに煩悩(なやみ)を見出し、男性(おとこ)から成り男性(おとこ)に縋れる女性(おんな)の息吹に散々尽きない懊悩(なやみ)の屍(かばね)を夢細(むさい)に読み取り、仔細に肢体(からだ)を重ね損ねた俗世の流行(ながれ)は、俺を離れて下(しも)へと下りた。女性(おんな)の美味(うまみ)が甚だ大きな男性(おとこ)の残像(ビジョン)を掲げて来たので、俺の足場は空気に漂う漆黒(くろ)い傘下へ甚だ遊泳(およ)げる心許ない生気の坩堝(うず)へとその身を任され、大身(からだ)から出る独我(どくが)の猛りは過去とも現行(いま)とも露にも見取れず細かを成さない経過(とき)の現(うつつ)にその実(み)を絆され、遊泳(あそび)へ伴う人間(ひと)の定めは、自己(おのれ)から発(た)つ他人を連れ添う脚色(いろ)の許容(うち)へとその賭(と)を宿す。暗(やみ)の桶には人間(ひと)の余りを改竄して行く未知の気力がぐうっと仰け反り膨張して活き、宙(そら)から果て行く自ずの景色を陽と陰とに細かに仕分け、明かりをと暗(やみ)とを端正(きれい)に仕立てる人間(ひと)の因果を散滅していた。粗い砂地が孤独を連れ添う、俺と人間(ひと)との機密が在った。何処(どこ)に在るのか尋ねた際では季節の縫い目が如何(どう)とも揃わず、崩れた小片(パズル)の一片(ピース)が先立ち、俺と人間(ひと)との崩れた間柄(あいだ)は通り縋りの経過仕立てに、発狂して行く他人(ひと)の歴(かこ)から事実を取り去る。幻影(ゆめ)に仰がず褥を絡めた暗(やみ)を奏でた土台を踏んだ。満足し得ない俺の気質は経過に綻び、熱気を灯せる仇心(らいばるしん)には旧友(とも)を宿せる気力(ちから)の無い儘、先行き乏しい不和の情緒へ這い擦り廻った男気まで保(も)ち、表情(かお)を隠せぬ人間(ひと)の純心(こころ)は常識(かたち)に添えずに脱線して行く脆(よわ)い音頭に盆を打った。退屈さえ無き旧い〝軒端〟へ宿せる我が身は、文句(ことば)の端(しり)から上肢を起せる獅子の容姿(かたち)を姿勢(すがた)に保ち、蔑ろにした人と人との脆味(よわみ)の関係(あと)など、混流して行く感覚(いしき)の裾から激しく燃え立つ他人(ひと)の柔味(やわみ)へ〝今か〟〝今か〟と暗(やみ)を呈した群庸(むれ)を連れ添い、事毎騙せる言動(うごき)を見せ付け独歩(ある)いてあった。俗世(このよ)から退(の)き遁世していた野蛮な心身(からだ)が、俺の表情(かお)から微笑を取り去り、小言を吐き行く独創仕立ての傀儡(どうぐ)を組み立て、果てを識(し)り得ぬ可笑しな虚無まで煩悩(なやみ)に任せて言動(うご)いて行くのは、俺の背後(うしろ)を端正(きれい)に仕立てた自然の主観(あるじ)に一致していた。涼風(かぜ)を止まさぬ男性(おとこ)の嫉妬に甚だ恨める労苦を携え小言に悩める厚い夜には、経過を割かせぬ人間(ひと)の狡猾(ずる)さが著しく発(た)ち人間(ひと)を取り巻く全ての獣に狡猾(ずるさ)を打ち立て勝る姿勢(すがた)が、明(めい)と暗(あん)との二極に分れた二つの集積(シグマ)をくっきり立たせ、人間(ひと)の狡猾(ずるさ)は男性(おとこ)より出た女性(おんな)を操る狂力(ちから)の鈍さを呈してもいた。初春(はる)の晴嵐(あらし)が頭を擡げて柔らに来る頃、四肢(てあし)の延びない〝亀の季節〟が矢庭に挙がって非力を嘯き、自分の肢体(からだ)で女性(おんな)に成れない小さな宙(そら)をもその実(み)で夢見た。厚い空気がその身を透して俺から遠退き、遊泳(あそび)から成る可笑しな文句(ことば)に常識(かたち)を投げ捨て支様(しよう)に独歩(ある)く。辞典の少ない俗世(このよ)の許容(うち)にて、如何(どう)とも付かず結論(こたえ)から見る模写の乏しい人間様には、脱し切れない鬱の姿勢(すがた)が遠くで空転(ころ)げて、真摯から成る滑稽(おかし)な態度は俗世(このよ)の紺(あお)さに解(ほぐ)れて行った。人間(ひと)の茂みに束の間安らぐキー・ワードを付け、何処(どこ)とも言えない脆(よわ)い住所をその身に掛けつつ、「明日(あす)」へ跳べない自己(おのれ)の〝井戸〟から虫の鳴く音(ね)も聞かれてあった。白い浴衣にひっそり包(くる)まり、相(あい)する者から失(き)える者まで、遠くに浮んだ陽(よう)の住人(あるじ)は事々共鳴(さけ)んで小躍(おど)って在った。白い帆に立つ真昼の空気は、人の頭にくっきり彩(と)られた余程の奇策へうっとり身構え、何にも無いのに有無を着飾る脆(よわ)い感覚(いしき)に漂ってもいる。なけなしから成る人の勇気は白壁(かべ)に彫られた〝自分〟を観たまま、人の活気へほくほく躍進(ある)ける未熟を呈して春眼(ねむ)ってもいる。人の厚味は衣服を脱がせた乙女の軟味(やわみ)にほっそり浮き立つ〝貝の柱〟にひっそり似て在り、年齢(とし)を気にする幾多の影には、虫から人から季節の傀儡(いろは)が矢庭に仕分けた〝機会〟を仕立てて、厚味に耐え得る人間(ひと)の本能(ちから)を揚々取り次ぐ眼差しさえ持ち、明日(あす)への小言へ巧く対せる柔味(やわみ)を儲けて純進(じゅんしん)していた。脆(よわ)く啄む結束から成る小虫達への謳歌の〝茂み〟は、人間(ひと)の季節に上手く彩(と)られた涼風(かぜ)の擬音(おと)まで堂々巡りに隠して在った。無形(かたち)を失くせる人間(ひと)の文句(ことば)が各自に懐ける教習(ドグマ)を掲げて俺をも囲み、見得ない空手(からて)で何にも保(も)たずの脆(よわ)い気迫を、現行(いま)に返した道化を描(か)いた。空転して行く企画の限りが宙(そら)へ向けられ羽ばたき始める。俺に対した彼の正体(からだ)は人間(ひと)の温味(ぬくみ)に真っ直ぐ放られ地に足着かずの軟いだ気色に翻弄された。彼を横目に、俺の心身(からだ)は人間(ひと)の真面目を仰いで居ながら自分に擡げた文句(ことば)の手数(かず)など誰にも問われぬ思いに説き伏せ、初めから成る人間(ひと)の原罪(つみ)には突拍子も無い〝狭間〟が置かれて微笑(わら)うものだと、独り淋しく、時に泣き止み、〝彼女〟を見上げて返唱(へんしょう)していた。何度も何度も現行(いま)に流れた人間(ひと)の動悸(うごき)を予測して居り、女性(おんな)へ対する不問の主観(あるじ)と、男性(おとこ)へ対した愚問の企図には、夫々互いに折り好く懐ける共通頁(きょうつうこう)など見付からない儘、男性(おとこ)と女性(おんな)の両者を見て取り自分の定めへ準じた俺には、何も語れぬ魅惑の限界(かぎり)が近付いてもいた。

      *

 まるで、これまで俺が現実で得意として来た〝論文発表の際の書き方〟のように退屈であり明確な論理を以て喋り、取り敢えず誰にも文句(はんろん)を言わせないように試みていた。その付き従った社員の内に、第一の秘書・筆頭として、西田房子が居た。

      *

  占星術から着の身着の儘、夕(よる)の星空(そら)から真逆(まさか)に下れる人間(ひと)の無体(からだ)を観賞しながら、これまで独走して来た人の〝歴史〟は自己(おのれ)を立たせる根本(ねもと)を忘れて生気を流出(なが)し、仄(ぼ)んやり観ている俺の記憶に嘘を吐(つ)けない延命(いのち)の孤独が冷(ひ)んやりするのを眺めていながら、明日(あす)の宙(そら)へと当面咲けない〝勇気の華〟には下らぬ心算(つもり)が宿って在るのを地獄の果てからそっと見定め、唯々死後に生き抜く人間(ひと)の労苦を白痴に読み取り呑気であった。過去を弄(ろう)して雲散(うんさん)され行く自然の生き血は人間(ひと)に読まれる多くの書物へひっそり隠され閉口して居り、人間(ひと)の欠伸が世に出て自然の生気(オーラ)に絡んで往くのを子供心にふとふと企む暴挙の手腕(うで)には加筆が添えられ、人間(ひと)の囃した下天の合図に何も取られぬ向きの正味は高値が付けられ、慌て眼(まなこ)に二言三言(ふたことみこと)、有無をを問えずの人の行為は宙(そら)へと跳び立ち、初めから無い白亜の岸には俺の足元(ふもと)に刻み込まれた稀有の夢路がぱっくり割れた。揺ら揺ら揺らめく気楼(きろう)の帆影は俺の頬から発散され活き、黄泉に下れぬ無双の感無(オルガ)を堪能して居た。右の耳から僅かに聞える怒涛(いかり)の集積(シグマ)が高鳴り続けて、俺の足元(もと)へと暫く還れる〝稀有の夢路〟は白い塗料(ペンキ)に埋没して活き、隠し切れずの稀有の〝定め〟は人間(ひと)の歴史へ空転(ころ)がり続けて、〝魅惑〟を保てぬ個人(ひと)の孤独は頭上を見上げて久しく泣いた。俺の思惑(こころ)は父母の還りを生きながらにして待ち、漆黒(くろ)い宙(そら)では小鳥が鳴くのを夜目(よめ)の奥にて俯瞰した後(のち)、激しく狂える男女の行方は人間(ひと)の〝定め〟を透して小躍(おど)り、俺の頭上(うえ)には何も変らぬ黄泉の景色が色濃く映って蔓延している。小人の傀儡(どうぐ)を宙(そら)から伸ばした片手に見て取り、小言を仕分けて人間(ひと)を誘(いざな)う幻想(ゆめ)の右手は神の神秘を袖にする儘、ふっと寄り添う不思議な木の実にその瞳(め)を奪われ、「明日(あす)」を数えぬ奇妙の奥地へ羽ばたいては失(き)え、羽ばたいては消え、気にも留(と)まらぬ延命(いのち)の温味(ぬくみ)は「昨日」を手にして落ち着いてもいる。俺の背後(うしろ)へ隠れた〝動作〟は誰の身元(もと)へと巣立って行くのか、俺の背後(はいご)へ隠れた延命(いのち)は何を気にして規矩を読み取り、小声に発した延命(いのち)の柔手(やわで)を「明日(あす)」へ投げ掛け夢路を得るのか。万種(まんしゅ)を彩る個人(ひと)の発声(こえ)には俗世(このよ)を突き刺す〝意味〟の常識(かたち)がその実(み)を惜しまず停滞し続け、苦労を識(し)り得ぬ男女の柔らは軟派を片手に横行し始め、「明日(あす)」へと還れぬ夢路(みち)の固さをその身に寄り添え感嘆した儘、旧い美里を律儀に準(なぞら)う孤島を目にして静まってもいる。

 俺の小声(こえ)には出(い)で立ち少ない〝気味〟を呈する世迷の仕手から、脆(よわ)り損ねた蜻蛉(とんぼ)の小声(こえ)など気色に見取れてぐっと落ち込み、塞いだ〝火の粉〟は人間(ひと)の悪魔に知らぬ間(ま)にして自信(おのれ)を売り付け、「明日(あす)」へ束ねる以前(むかし)の恐怖は、〝律儀〟を保(たも)てる漆黒(くろ)い宙(そら)にて十分(じゅうぶん)戦き、嘶く古巣へ還る果てには、誰にも懐けぬ延命(いのち)の小躍(おど)れる旧来(むかし)の文句(ことば)が遅滞を象り、俺の旧友(とも)から現行(いま)の伴(とも)まで、儚い灯(あか)りに反応して行く脚力(ちから)の在り処を発見している。白い悪魔が何処(どこ)へともなくつつつとふらふら独歩して生き、白壁(かべ)に凭れた気高き自然(べっど)は旧来(むかし)の初出(いろは)を浮き掘らせた儘、過去の消えない以前(むかし)の玉(ぎょく)へと自信(おのれ)の勇気を出納して行く。俺の心身(からだ)は西田房子の頭の先から脚の先まで落下して活き、彼女の思惑(こころ)に巧く嫉妬(もや)せる嗣業の辺りを充分気取らせ、矢庭に出ていた人の脚には歴史の砂礫にすっぽり覆える無味の感覚(いしき)がほろ苦くもある。紺(あお)い珊瑚が白い宙(そら)から浮き立ち昇り、人間(ひと)の住む血を獣に宿らせ解析して行き、初めから棲む葦の諸刃は〝稀有〟に紛れて陶酔させられ、墓穴(あな)を開(あ)け得た独創(こごと)の感覚(いしき)を気丈に押し付け、相(あい)した両眼(まなこ)は全く透らぬ気脆(きよわ)な賛美に酔い痴れ始める。紺(あお)い器が固味(かたみ)を丈夫に丸で囲って、丸い影から男性(おとこ)を覗ける波紋の効果はほろ酔いながらに、俺の足元(もと)へと悠々辿れる旧い磁気には、文句(ことば)を失う巨身(きょしん)が舞い立つ無病(むびょう)の気色が輪郭(かたち)を成せた。群れを抜け得る旧い夢想(ゆめ)には旧来(かこ)の仕上がる白い四肢(てあし)が孤独を連れ添う晴嵐(あらし)が描かれ、経過(とき)に不揃う無肢(むし)の志気には、机上に成り得た脆(よわ)い孤独が城下を彩り革命さえ為す。人間(ひと)の誠実(まこと)に曲がりを付け得る自然(ベッド)にたわった淡い獅子から、心身(からだ)を湿らす微温(ぬる)い唾液が飛沫を伴い発射され活き、子供の表情(かお)した赤子を束ねる柔い肢体(からだ)の女芯(おんな)が現れ、幻想(ゆめ)を見る間(ま)にさらばえ始める男性(おとこ)の身元を明るくした後(のち)、二度と還らぬ女神の主観(あるじ)を背後へ撓(しな)らせ、朽ち果てながらに延命(いのち)を保てる人間(ひと)の哀れを発狂させた。狂い咲きする夜目(よめ)の寝床を見取った俺には〝彼女〟の弁から儚く伝わる孤独の主観(あるじ)に凡庸を立て、歯牙(しが)も無い儘、覇気も無い儘、尖りも無いまま孤独へ手向ける女性(おんな)の母性(さが)にて自適を傾ぎ、初春(はる)の四月に嘘の吐(つ)けない夢想(ゆめ)の在り処を茂らせ始めて、堂々巡りで堪能して生く性(せい)の初出(いろは)を片手に取り下げ男性(おとこ)と女性(おんな)の新たな門出を俗世(このよ)の規律(ルール)で束縛して居た。言葉の葉掘りに身包(みぐる)み剥がされ、いち、にの、さんからしのごの始まる密を灯した情(こころ)を先読み、遠くへ空転(ころ)がる白い紙には男女が射止める常識(かたち)の厚さが誰にも気取れず廻転(かいてん)し始め、現行(いま)に纏わる物憂い種子(たね)から欠伸に出さない可笑しな虚無など、億尾にも出る下品を遊ばす天皇制には人間(ひと)の文句(ことば)も白亜の記述も人間(ひと)の脳裏で続けられ行く活気に収まり涼しく萎えた。孤島から観る柔手(やわで)の感覚(いしき)は、そうしてああして男女の居所(いどこ)を激しく晒せるYiYan(イヤン;陰の陽の意)の寝床を牛耳り続け、朝陽の昇らぬ陽無し絵画を俗世(このよ)に根付かせ八倒して生き、人の来るのを今か今かと、何にも成れない無為の極致へ追悼していた。

      *

 この西田房子はこれ以前には、又、別人だった様(よう)に記憶する。そこで俺は、その「ばいかきゃく制度」について夢ながらに成功する行き当たりばったりの頼りなく苦しい説明にいて何とか難局を乗り越えつつ、その苦し間際の説明の内で、我が社がそれについて(エレベーターに乗っている)客に直接リアルタイムに質問して得た回答が在ります、我が社はこの現実の声に耳を傾け、今後の改善を図ると共にアイディア(発想)の土台を構築してゆきたいと思います、等と続け、そのアンケートにて、客が我が社の社員(じぶんたち)について普段どう思っているか、についてのアンケートランキングを言うと、第一位…(何を言うべきか迷いつつ選びながら、溜めて、)第一位、面白くないです、と語った。

      *

 無(む)から生れた無の頭脳に寄っては、何にも識(し)れずの倦怠だらけが宙を飛び交い思惑(こころ)を曇らせ、果(さき)の見得ない高嶺の花までどれだけ経っても追い付かないまま明日(あす)の手先に従い生くのだ。右手の力が転々(ころころ)唸った未熟の集積(シグマ)に俗世(このよ)を凌げる金を欲して自粛の術(すべ)など孤独に採りつつ、淡い幻想(ゆめ)にも企図を求めて巡行して行く。男女の子供が橙色(オレンジいろ)した夕日を眺めて自虐を蔑み、陽(よう)を損ない活き続けて行く陰(いん)の集積(シグマ)を傍観しながら、えっちらおっちら、遠くの舟まで俗世(このよ)を過せる稀な延命(いのち)を求めてさえ居る。稀な延命(いのち)は飯を喰うのに女性(おんな)に従い、女性(おんな)の対岸(きし)までほろほろ遊泳(およ)げる密室(へや)の芳香(におい)を知り抜いてもいた。男性(おとこ)の臭味は出来(こと)の無いまま宙(そら)まで昇り、明日(あす)の旋律(しらべ)を空(くう)へ任せて自分から観た泡(あぶく)の畔(ほとり)へ流行(なが)して行った。男性(おとこ)と女性(おんな)に採られた朝には硝子の態(てい)して透れる朝陽が孤独を晒して桃源郷まで、俺の背後を如何(どう)にも押し得る限界(かぎり)を見せ付け清閑(しずか)に靡き、俗世(このよ)の華まで養い続ける苦労話にその実(み)を宿せる。

 誰も通らぬ旧い社(やしろ)に俺の全能(すべて)は寝床を借りて、誰の興味も寄り付かない内ほとほと枯れ行く寂れた狭筵(むしろ)に俺の全身(からだ)はずっと在る儘、他(ひと)の気色や浮かれる景色がずっと活き得る定めを眺め、明日(あす)の識(し)らない可笑しな郷(きょう)まで、心身(からだ)を透して音無(おとな)しを観た。夕日に外れた目下の共鳴(さけび)は俺の背中へ宿る儘にて、決して咎めぬ神秘の出足は音の無いまま稚拙に降り止み、堂々巡りの同じ事には、箍を外せる無頼の憂慮が、ひしひし、ひしひし、俺を囲んだ。囲いに賑わう当の主観(あるじ)は、俺の足元(もと)から離れた顧客を自分の身元(もと)まで誘い出せ得る新たな術(すべ)などその実(み)に重ねて、人間(ひと)の識(し)れ得る俗世(このよ)の共鳴(さけび)にどれだけ時間を費やそうとも、昨日に逆行(もど)れぬ定めの運びは俺の言動(うごき)を矢庭に封じ、人間(ひと)の四肢(てあし)も広い野原へ放逐された。宙(そら)の広さと俗世(このよ)の広さがどれだけ並んだ〝桃源郷〟でも、決して明日(あす)の定めへ並び立ち得ぬ不思議な迷路をその実(み)へ励ませ、切りの無いのを口輪(くちわ)にした儘、他(ひと)から蔑む憐れな像まで、ずっと小躍(おど)れる切ない躰を時折り失くして嗣業(しごと)へ手向けて、漆黒(くろ)い夜霧は過去へ還れぬ経過(とき)の動静(うごき)の噴悶(ふんもん)に在る。高々装飾(かざ)れぬ心身(からだ)を携え縁切寺まで、古い社寺から暗(やみ)の無形(かたち)を拙く取り添え明日(あす)の彼方へ夢ばかりを見て一向辿れぬ奇行の跡から、空転(ころ)がり続けた俺の肢体(からだ)は男女の区別を着忘れた内に、眠れる明日(あした)を探し求めて人間(ひと)の鳴らない杜の奥へと後退して行く。爪弾きに観る稚拙の要旨は嫉妬に遣られた熱の興味にその実(み)を絆され、〝憐れ〟〝哀れ〟と散々言われた自己(おのれ)の記録に夢中であるのを事毎識(し)った。詰らなく身籠める自己(おのれ)の志気には、決して宿れぬ妖精(こども)の活力(ちから)がふらふら成り立ち相応足る儘、気分の上下と記憶の上下が手と手を繋いで活き永らえ行く現行(いま)の名残をほとほと顧み、俺から失くせる活命(いのち)の記憶は、「明日(あす)」を遮る白亜の紋(しろ)へと脱稿して居た。宙(そら)から実れる活力(ちから)を宿した生(せい)の小声に、小波(さざなみ)から成る人間(ひと)の虚ろが〝生(せい)〟を顧み、活きる許容(うち)にて如何(どう)にも付かない煩悶(なやみ)の解脱を留(とど)まる事無く薄ら知らされ、俺の覚悟は何処(どこ)まで行っても何を追うのか一向識(し)れない虚無の酒宴(うたげ)に廻り廻って、「明日(あす)」の記憶を今日に宿せる旧来(かこ)の仕種を愛して在った。文句(ことば)の限界(かぎり)が刻(とき)を追うのに草臥れ寝転び、直面している宙(そら)の寝音(ねおと)に常識(かたち)の付かない糠(ぬか)を眺めて独りと成って、無音(むおん)に落ち着く虚無の酒宴(うたげ)は他(ひと)を観ぬまま稚拙に微笑み、今日の末路は明日(あした)へ靡ける古来(むかし)の語りを空転(ころ)がしてもいた。

      *

 周りで(社員の内で)やや小さく笑うような騒めきが起こった。「別にウケを狙ってる訳じゃないのでこれは別に良いんですけども、まぁ『面白くない』なんて言われれば、ちょっと、ねぇ…(微笑)(ここで確実に笑い声が起きた)まぁ見ず知らずの人から面白くないって言われたら凹みますよね」等と冗談を交えながら俺が言うと、皆(重役達)は、日頃の競争など忘れて暫しの間、歓楽に耽っていたようだった。西田房子も薄く笑って居た。

      *

 腹の虫から太古の虫まで宙(そら)に浮べた端正(きれい)な藻屑は何処(どこ)まで経っても人間(ひと)の藻屑で、軟い葦から緑の四肢(てあし)が四方(しほう)に延び活き溜息など吐(つ)き、小言(独創:こごと)を辿れぬ可笑しな気色が俺の唇(くち)へと野平(のっぺ)り被さり、白い途次にて幻想(ゆめ)を語れぬ無臭の芳香(かおり)が暫く発(た)った。注意力(ちから)が衰え集中力(ちから)を付し得ぬ黄色の個人(ひと)には点滅(シグナル)さえ無く、卑猥な輪郭(かたち)が前方(まえ)に佇む脆(よわ)い景色が俺へと辿る。無形(かたち)の付かない脆(よわ)い感無(オルガ)が感覚(いしき)を閉ざして薄く微笑み、俺や周囲(まわり)の稀有の景色へ文句(ことば)の初歩(いろは)を一切問わさぬ未熟の既知にて大事として活き、結束出来ない人間(ひと)の絆は傷の舐め合い孤独の賞味で結託して行く無数の密かを常時保った。白紙から成る人へ対した脆(よわ)い礼儀は音の無いままかたかた揺れ出し、足跡(あと)の付かない空威張りにまた緩みを見付けて対峙して活き、独創(こごと)を呈せぬ空気(もぬけ)の糸へと拙い合間に慣れ親しむのだ。無音の共鳴(ひびき)にぽつぽつ発(た)たせる人間(ひと)の両脚(あし)には魔法が灯り、何にも劣らぬ未熟の気色は地に足着かずの土駄八駄喜劇(どたばたきげき)を事実に見付けて交響(ひびき)を奏でて、空腹時に付すイデア(idea)の小波(なみ)には現行(いま)を損なう強靭(つよ)い嫉妬が畝(うね)りを持ち上げ空虚を認(したた)め、物の陰にてすうっと煩う白蛇(へび)の堕落に奇問を投げ掛けうっとりして居る。こうした行為が何等の黄泉(いずみ)を訳無く追い駆け、遊泳(およ)げる住処は暗(やみ)の裾へと誰にも識(し)られぬ峡谷(たに)の間(あいだ)で独り湧き立ち愉しみ果てて、自粛していた自己満足など何にも向かえぬ日々の景色を放棄した儘、その後(のち)匿う脆(よわ)い気色は独りに宿れる無為の発破へ追従して生く。

限度(かぎり)の付かない淋しい記憶を、俺の胸中(むね)から飛び出た〝案山子〟は、如何(どう)にも成れない無境(むきょう)の孤独を鷲掴みにして、遠い祖国へ足を引き摺り唄って還り、今まで観て来た黄色の快感(オルガ)をふいにするまま泣き始めて居た。健気な古書から俺の前途が延びる一面、〝あっぷ、あっぷ〟で嘶き始める。旧い〝古書〟から型(かたち)の崩れた〝濡れ衣本〟等、手に汗握った過去など引き連れ、俗世(このよ)の魅力を排除しながら、派手な微笑(わらい)を馬鹿にしてゆく未曾有の憤怒に燃え立たせている。俗世を遊泳(およ)げる人工撰抜人(エリート)達から味覚を失くした人間性(いのち)を引き抜き、闊達して行く個名の主観(あるじ)は「明日(あした)」から観て暴君には無い。煙(けむ)い眼(め)をした味覚の主観(あるじ)は孤独を束の間〝前途〟へ返して霧を吹き下げ、女性(おんな)へ群がる孤独の騎士など糞水(みず)へ化けさせ延命(いのち)を保(も)たせた。俺の過去から緑色した女性(おんな)の生気が狂った無実を真横へ従え、〝掠め取るのは延命(いのち)だけだ…〟と微笑に煮やした豪華の眼(め)をして、田舎の彼方へそっと退(ひ)き込む俺の姿勢(すがた)を嚙み潰して居る。

後戻りの無い俗世(このよ)に生れた新たの髑髏は狭筵(むしろ)を被(かぶ)って轟轟唸り、「昨日」に夢見た個人(ひと)の残骸(むくろ)を片手に頬張り忌憚を焼いた。モノクロから観る人間(ひと)の終りは俗世(このよ)に寄り添う神の光と悪魔(サタン)の暗(やみ)を両掌(りょうて)に仕分けて噴散した儘、俺の孤独は未熟を連れ出し教会(かい)の内から投身して行く。失(き)える月日(つきひ)は人間(ひと)の孤独をそっと取り消し、淡い幻想(ゆめ)には真昼の確かを送っていながら、胸面(むなも)に伝わる霧の宮(みやこ)は胎児を上げ行く男性(おとこ)を採った。俗世(このよ)を現す樞(ひみつ)から成る、人間(ひと)の温(ぬく)みは気丈に燃え尽き、暗(やみ)へと還せる若気の獅子には俺の感覚(いしき)が揚々見得ずに、確信出来ずの木霊の延命(いのち)が揚々見得ずに、きゅるきゅる灯れる涼風(かぜ)の文句(ことば)を贈って在った。父と母から大層豊かな肢体(からだ)が成され、肢体(からだ)に灯せる延命(いのち)の記憶は神の神秘を蔑ろにして、「明日(あす)」を凍れる人間(ひと)の噂は帳ガ丘(とばりがおか)で落胆している。沈没出来ない無笛(むてき)の郷里は嫌味に被(かぶ)った派手な帽子を終ぞ束の間乳飲み子から観て、「明日(あす)」を倒せぬ無敵の集体(シグマ)を煩悩(なやみ)の胸中(うち)にて強姦して行く虚無の内(なか)へと投擲して行く。雨散(うさん)に茂れる青い果実は人間(ひと)の宮(みやこ)を強姦したまま蝗の群れには七つの選択肢(うち)から五番目を取り、言葉から成る七つの記憶に大炎(ほのお)に上がれる災いを観て、聞かざる言わざる、何にも逢えない孤独の人生(みち)へと旅順(りょじゅん)を呈して落着して行く。文学者に割く硫黄に採られた滑稽(おかし)な人形僧(モンク)は、何時(いつ)まで経っても自己(おのれ)に還らず、歳を取っても俗世へ居残る無駄を称した夢商(ゆめあきな)いまで、手頃に仕留める大炎(ほのお)に嫉妬は俺の人形(かたち)へ脚色(いろ)を呈した。

      *

 〝残念なる哉、残念なる哉。災いなる哉、災いなる哉。無駄と成る哉、無駄と成る哉…齢二十歳(よわいはたち)の頃には或る意味過した最後の仕手まで、自滅(おのれ)の主観(あるじ)へ恍(とぼ)けて投げ売り、結束出来ない女性(おんな)の生気は自己(おのれ)の生き血をけして流さず、白い粉には無感の刺激が映って程好い。誰にも知られぬ細い路地にて、誰にも生れぬ紅い果実の果肉を頬張り、ばりばりばりばりばりばりばりばり…、良くない発音(おと)から自滅の暴音(おと)まで、見境無いうち自分を頬張り、男性(おとこ)の機力(ちから)を狂わせ始める女性(おんな)の無邪気の恰好(かたち)を好くする。…(轟音)、(轟音)、(暴音ぼうおん)、暴音ぼうおん)…―。

      *

 何故(なぜ)に女性(おんな)の肢肉(からだ)が男性(おとこ)の躰に表れ出たのか、羽音(はおと)程度の女性(おんな)の欠伸が如何(どう)して園(その)まで刃(やいば)を得たのか?自滅(プライド)ばかりが横行して行く白蛇(へび)の幻想(ゆめ)から無幻(むげん)が先立ち、女性(おんな)の純心(こころ)は白蛇(へび)の言葉に最初に従い、自己(おのれ)の刃(やいば)を逆手に携え、厚い臭味はその実(み)を離れて独歩に就いた。男性(おとこ)の純情(こころ)を手玉に取りつつ、無益で堕落の、涎を垂らせる悪の幻(げん)までその掌(て)へ携え、しどろもどろの弱味を装い懺悔の出来ない、孤高の王者へ失神して生く。女性(おんな)の脆力(ちから)は既に萎え生く。女性(おんな)の主観(あるじ)は遠(とお)に死に得た。



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~女性(おんな)の長蛇~(『夢時代』より) 天川裕司 @tenkawayuji

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