~歳子の夢想(ゆめ)~(『夢時代』より)

天川裕司

~歳子の夢想(ゆめ)~(『夢時代』より)

~歳子の夢想(ゆめ)~

 〝揚々白く成り行く〝頂上(ピーク)を迎えて俺の分身(かわり)は、節度を保って理想(おんな)を観て活き、空転(ころ)がり続けた「明日(あす)」を攫って仄(ぼ)んやりしていて、経過(とき)が興(おこ)した人間(ひと)の上手を愛せずにいた。遂に自分の身元へ転がり込みつつ夢想(ゆめ)を観せ得た分身(かわり)が在るのを俺へ灯った独身(ひとつ)の独気(オーラ)は大層悦び喜楽を象り、情緒不安に敗退していた可笑しな文句を奇麗きっぱり背後(あと)へ逃がして未来(まえ)へと直って相槌打ちつつ、疾走しはてた刹那の傀儡(かたち)を暗(やみ)へ葬り心算(つもり)を固める。近しい他人(ひと)など誰とも会えずに喜楽に遊泳(およ)いだ自由の主観(あるじ)は、常枠(かた)に懐いた有識人(エリート)達など遠(とお)に放(ほう)って埋葬していて、自分に対した自然の科学に如何(どう)でも対抗して行く独身(ひとり)の謳歌をこの世に根付けて浚ってみるなど、自重解(と)け得る遥かな豊富を自身へ懐けて自信を認(したた)め、矢庭に独歩(ある)けた白い白痴を細目に見て取り落ち着き払う。

 俺の心身(からだ)は空転しながら〝刹那〟に生れた自然の科学を上手に認めて〝俺〟まで近付き、俺の身内(うち)から衰退して行く遥かな節理を道理に纏めて注記(特記)していて、「明日(あす)」へ盛(さか)った俺の活気に何ら知り得ぬ〝意味〟を脚色付(いろづ)け寝ようとして在る。そうした空地(あきち)を俺の夢想(ゆめ)など大きく闊歩(ある)いて目的(あて)を携え、俺へ集った人間(みな)が静まる気色を観ながら活きて在っては瞬く間にして孤独が和らぎ、俺の心身(からだ)は見る見る間(あいだ)に何処(どこ)ぞの学舎へその身を滑らせ這入らせながらも、好きな画(え)を描(か)きその画(え)を字にして見ようと目下忙(せわ)しく言動(うご)いて在った。学舎の景観(ようす)は何処(どこ)かで見知った大学校舎の一角に在り、壁から何から下手(へた)に象(と)られた一室(へや)を表し確立していて、俺の描写はそこへ呑まれて身悶えして在り、つい先ほど辺りに、奇麗に上がった起草の成果が折り目正しく一枚半ほど自分を揃えて朗笑(わら)ってあった。初春(はる)が色付く陽気な気候に学舎は落ち着き、試算に沿えない脱稿間近の規矩(サンプル)なんかが文字を透して順繰り佇み、俺の前方(まえ)には風の立たない波乱の穂先が自ら微笑(わら)って直立して在る。

 自然に灯った白灯(あかり)の下(もと)では誰が講じて仕切っているのか一向知り得ぬ授業が疾走(はし)って常識(かた)など伝(おり)え、伝(おし)えられ行く生徒の未熟は沈黙したまま机上へ並べた文士の教材(ツール)に集中するうち自分の居場所を小宇宙(レトロ)へ還してまったり伸び行き、生徒各自の理想(ゆめ)から抜け出た異人達には如何(どう)でも従い尽せぬ丈夫が成り立ち〝自分〟を認(したた)め、涼風(かぜ)の抜け行く一室(へや)の床上(うえ)にてのんびり生育(そだ)った悪魔を観ている。俺の感覚(いしき)もふらふらする程空気へ透り、人間(ひと)の微温身(ぬるみ)に気付けた頃には白光(ひかり)の灯った一室(かこい)の許容(うち)にて常枠(かた)に伝(おそ)わり修業に感け、人間(ひと)の内からそれでも抜けない強靭(つよ)い作法(みかた)をこっそり連れ浮き、人間(ひと)の景観(けしき)に浸透するまま減退して行く自活を眺めた。

 何時(いつ)しか変った独身(ひとり)の一室(へや)から人間(みな)が息衝く一室(かこい)の内へと知らない間(あいだ)に未熟を透してそれでも落ち着く自分を見採れば、〝虚無〟へと遣られた自分の主観(あるじ)に真向きに対してぽつんと佇む気弱な試算が一層目立ってほころび果てるが、それでも掌(て)にした最寄りの〝微温身(ぬるみ)〟が俺を隔てて既実(きじつ)を被(こうむ)り、「明後日」迄へと闊歩させ得た強靭(つよ)い作法(みかた)を手繰り寄せると俺の主観(あるじ)はほとほと脆(よわ)って正体(からだ)を失くし、苦楽を転じる教官(ひと)の手中(うち)へと這入って行くのだ。この夢想(ゆめ)の内にて俺の文士として限度(かぎり)は現実に於いて認(したた)め続けた素描の術(すべ)など好く好く見詰めて〝良し〟として活き、起草に始まる〝枕〟の文句(ことば)は普段通りの突発性に筆力(ちから)の全てを託したあの遣り方を採用して行き思惑(こころ)を固め、揚々落ち着く景色を見る儘、鷹揚足り得る俺の姿勢(すがた)は許容(かこい)の内にて自分を見定め他に奴との表現法(すべ)とは異なる魅力を翳して独歩(ある)いて在った。そうした景色を見詰める最中(さなか)に俺の独歩(ある)いた努力の跡にはなるべく筆力(ちから)に上手く沿い得る普段通りの文句(ことば)を通して、人間(ひと)の気配に上手く解(と)け得る無力の爪痕(あと)など置いた心算が、中々冷めない人間(ひと)への熱気に自分の方からついついふらふら寄り付き始めて如何(どう)する間も無く懐かぬ文句(ことば)が白紙に並んだ景観(けしき)を見て取り落胆し始め、そうする内にも経過(とき)が静かに俺が呈する机の傍(そば)など闊歩を興じて悶々小躍(おど)らせ、そうした衝動(うごき)へついつい釣られる人間(ひと)の言動(うごき)は俺の前方(まえ)にて丈夫に成り立ち盛んに跳ね起き、青く茂った稚体(ちたい)の微動(ふるえ)を芝居に掛けては俺を観ていた。皆の視線へ勝手に震えて困った俺には、段々自身を固く呈する術(すべ)など失くした呆然が在り、不動に動かぬ幼稚な衒いに何処(どこ)かで忘れた文士の勢(せい)など血気盛んに囃し立てれば〝俺の為だ〟と後先構わず奮って用意し落ち着かずにある少年(こども)が居座り、そうした〝少年(こども)〟を見兼ねた故にか崇めた故にか、以前(むかし)に知り得た連れがひらひら涼風(かぜ)と並んで自由に落ち着き澄んだ心身(からだ)を俺の目前(もと)へと野晒しにして、野草の原野に這(ほ)う這(ほ)う放たれ跳ね行く肢体(からだ)で許容(そこ)から連れ出す試算を設けて駆け付けていた。許容(そこ)で抗う手順(すべ)など失くした俺の麓(もと)まで駆け得た男児は高校時代にそれほど俺には絡まずに居た身形の少々肥った男子で、〝一緒に何処(どこ)かへドライブでもして遊んで見よう〟と少しも思わぬちょい悪加減に上手く沿い得た気骨の死太い男性(おとこ)と成り行き彼の名前は微かに憶えた〝三原(みはら)〟と言った。

「見物しに行こう、」

という型に彩(と)られた誘いの文句を、三原は俺へと自然に近付き妙に近付き浅黒顔(あさぐろがお)した表情堅めて投げ掛けて来て、俺の気持ちは許容(そこ)で忘れた自信を灯して三原へ近付き、何にも知れない許容(かこい)に居座る人間(もろもろ)達を遠く跳ね退(の)け元気に振舞い、巧く通った一本路(いっぽんみち)から体を滑らせのっそり抜け出て、淡い期待へ夢想(ゆめ)を観ながら彼の誘いの手中へ落ち得た。何を、如何(どう)して〝見物〟するのか、一向知れ得ぬ冒険だったが、ついつい離れた俺の〝分身(かわり)〟が旧友(つれ)に振り向き相対したため許容(クラス)を外れた〝常枠(かこい)〟を見て取り生き生きし始め、夢想(ゆめ)の気泡(あぶく)へ溺れ始めた徒労の名残が無為に小躍(おど)って、俺は三原の妙な仕草にほとほと遣られて操られたのだ。

 そうした計画(プラン)が二人の目前(まえ)にて揚々身固めして行く少し以前(まえ)にて、俺の心身(からだ)は大学校舎に小さく囲った〝改札口〟など喜楽に見て取りそこへ居着いて、それまで手にした過去へ懐いて小鳴(ささや)き始める断片(はへん)の一つを、直ぐさま講じて作品(かたち)へ置くなど普段に認めた自分の手腕へ程好く任せて尽力して在り、許容(クラス)へ向かった〝俺〟の目前(まえ)には分身(かわり)へ居座る前身(まえ)の〝俺〟など確かに根付いて存在したのだ。そうして改札口(そこ)にて物を書く内、初春(はる)か初夏(なつ)かにゆっくり息衝く涼風(かぜ)が吹き抜け雰囲気(オーラ)が通り、陽光(ひかり)を反射し揚々白光(あかり)を灯してまったり嘯く白紙の上など独走(はし)り続けた俺の筆力(ちから)は何かの陰にて注意を奪われ、ふっと途切れた寒気(かんき)を外(ず)らして陽気を見て取り、自分の背後にほっそり立ち得る二、三の女性(おんな)が、目的(あて)を報(しら)さぬ無防を呈して漫(ある)いて行くのを、何気に身構え相対するまま自己(おのれ)の立場を重々踏み締め〝俺〟の代わりに見送って居た。静観していた女子(おんな)の容姿(すがた)は俺が居着いたこの大学にて支給され得る徽章の四辺形(かたち)を胸の辺りへひっそり縫い付け、他人(ほか)へ対する眩い体裁(すがた)は如何(どう)にも徽章(それ)など気付け得ぬまま我が身を立て行く魔性の姿勢(すがた)へ具に片付け見てくれなんかをきちんと畳める女学生(おんな)の容態(すがた)をしっかり見付けて微動だにせずそう見る間(あいだ)に初春(はる)が過ぎ行き、初夏(なつ)の暑さに追い立てられ行く淋しい季節へ移って行った。人間(ひと)のぬくもりを見知らぬ潤滑油の態(てい)した俺の身元は「明日(あす)」を忘れて釣れない、暗い〝お払い箱〟まで体を反らしてまっしぐらの儘、人間(ひと)の気配を横目に観た後、〝意味〟を訪ねて独歩(ある)いて行った。初春(はる)に落ち得た真夏を呈した四旬での出来事(こと)。

 好く好く見遣れば女子大学生(おんな)の頭数(かず)には拍車が付けられ仄(ぼ)んやり灯った四肢(てあし)の端先(さき)には物見愉快な人群(むれ)が集(たか)って鼓動を織り成し、俺の前方(さき)から白光(あかり)を灯した群青(ぐんじょう)達が一つ一つの肢体の芯(うち)にて自己(おのれ)を擁する細かな主張(こえ)など存分照らしてのんびり佇み、俺から離れた大学校舎へ体を連ねて這入って行くのが彼等を要した景観(けしき)の内(あいだ)で持ち上げられ得た。俺と白紙と分身(かわり)が呈した女性(おんな)が先行き、自体に灯した奇妙な〝許容(はこ)〟には誘惑(なぞ)が灯した明かりが表れ、群れを成し得た彼女を洗った具体(かたち)の仕種は細かに言動(うご)いて一向観えずに誰にも知り得ぬ暗い庭園(その)へと返って行った。

 経過(とき)が自体(すがた)を現し切れ得ぬ四季の内にて、俺から滑った脂の色彩(いろ)など丁度煌めき温もり始め、経過(とき)の在り処を伝(おし)え切れ得ぬ涼風(かぜ)に紛れて俺の脳裏は、大映(おおうつ)しにした再現理想(ドラマ)を気の行くまで観る空間(すきま)を手に取り初春(はる)の矢庭に居座ってある。も一度女学生(おんな)が華など手に取り四季(しき)へ流行(なが)れる白地(しろじ)の具現(すがた)をほっそり立て行く景観(ばめん)を講じて俺の注目(りょうめ)は人間(ひと)の体温(おんど)を上手に束ねて自体を失くした一女の姿勢(すがた)を黙認している。殆ど俺からこっそり離れた遠くの空地であれやこれやと言動(うごき)に興じて遊泳(あそ)んであるため人波(なみ)に塗れた一女の姿勢(すがた)を具に知るのは至難に在ったが、そうした言動(うごき)をひょいと越え行く表情(かお)を呈してぽつんと居たから〝一女〟の容姿(すがた)は涼風(かぜ)に冴え行き俺まで伝(つた)わり、そうして並んだ一女の名前は鶴崎有美(つるさきありみ)と運好く称して俺の分身(からだ)が講じた心中(こころ)へすうっと這入って何処(どこ)かへ失(け)された。厚い檻には俺まで透さぬ柵(さく)が見得出し、白く並んだ白壁(かべ)の罅には永らく生き抜き母体(どだい)を据え得る静力(ちから)を翳して前進して在り、そうして並んだ旧舎の裏にはまだまだ俺から気取れぬ螺旋(なぞ)が集まり画策している。何を如何(どう)して画策するのか一向分らぬ悶絶(なやみ)を仕切りに〝自分〟の巨体(からだ)は大きく膨れて水泡(あぶく)を吹き溜め、そうして馴らした一つ一つの泡(あわ)の表面(おもて)は俄かに灯って直ぐに失(き)え行く黄金色(おうごんいろ)した並木の景色が上手に仕上がり俺の行方を慣れた風貌(かお)して執拗(しつこ)い程度に伝(おし)えてくれ得る。

 俺はそれから白紙へ連ねた気性の露わをさっと隠して門戸から退(の)き、学舎を侍らす校地に敷かれた緩い坂などどんどん上(のぼ)って仄(ぼ)んやりして活き、彼女の姿勢(すがた)が遠く離れた暗(やみ)に在るのを細目に匂った手中へ拡げて、如何(どう)にか新たに試算を仕立てて再び彼女の麓(もと)へと辿れる手法(すべ)など執拗(しつこ)く談じて身元へ還り、俺の目前(まえ)にて旧さを立たせた黒いい鞄が口を開いてずんぐり在るのが如何(どう)にも先から気勢を振るわせ、以前(むかし)に使った鞄の内からぢ大色(オレンジいろ)した見慣れたファイルを何気に掴んで取り出し見ると、書類を頬張る固い表紙は白い一線(せん)など中央(なか)に設けて上から下へと中途へ着くまで予想の通りにすっぱり割れ得て使えなかった。

 俺の脳裏は密かに輝(ひか)った景観(ばめん)を講じて俺から離れた数多の塵埃(じんあい)をくねくね歪曲(ゆが)めて螺旋(らせん)を設け、ふとした契機(こと)から校地(そこ)に居座る夢想(ゆめ)とを順手に採りつつ俺の心身(からだ)をもっそり取り立て界隈(そと)へと誘い、俺の体温(ぬくみ)を内実(うち)をも見知らぬ斬新(あらた)を欲して鶴翼に着く校地を照らした人間(ひと)の凡庸(ぬめり)が宙の内へとひっそり続いた一本路(いっぽんろ)に在り、そうする過程の要所要所に関を設けて官(かん)に落ち着く得体知れずの人間(じんかん)が在り、そうして生れた〝人間疑似餌(じんげんもどき)〟は俺の思惑(こころ)が独走(はし)り廻った過去の上気を上手(うわて)に見立てて俺の心身(からだ)が外界(そと)へ出るのを巧みに構えて検査している。上目遣いにほとほと疲れた俺の態度は保身に阿る両者の間柄(あいだ)を自由に飛び交い白痴を象(と)り活き、自分に課された不動の〝玉手(たまて)〟を短命(いのち)に化かして救助を営む〝人間疑似餌(にんげんもどき)〟に切磋巧みに歩調を合せてこれから象(と)り行く未知の騒音(ノイズ)に首(あたま)を擡げて華美を見詰めて、「明日(あす)」への徒労が何に化(か)わるか横転するまま酷く疲れた褥を手に取りにんまりとした。俺に連れ添う三原の肢体(からだ)は〝上手(うわて)〟に倣って怒調(どちょう)を発して、自己(おのれ)の体躯を大きく拡げて宙(そら)へ返らぬ外套(マント)を手に取り大童(わらわ)に行き着き、感覚(いしき)に居直る躍動(うごき)を講じて俺から離れる予兆を止(と)めては孤高に念じた幸先(さき)を気にして疾走して行き、人渦(じんか)に埋れた蜜蜂(はち)の畝(うねり)は騒音(ノイズ)を気にして言動(うごき)が振るわず、調子尽くめの慌てた姿勢(ようす)は俺から離れて音頭を取った。三原の姿勢(すがた)は俺の目先(さき)へと一歩離れて前進して活き校地の界隈(そと)ではそれほど見慣れぬ人間(ひと)の沿岸(きし)など自体を象(と)り活き仔細を講じ、まるでひっそり古郷(こきょう)へ手渡す懸橋(はし)を設けて俺の心身(からだ)を軟(や)んわり掬って疾走(はし)らせている。陽光(ひかり)の陰など校舎が落した日陰に呑まれて次第に拡がる予兆へ先駆け奮迅して居り、滅多に見取れぬ弱い吐息が人間(ひと)へ懐いた心気(しんき)に上乗り見る見る内にも丈夫を呈した白壁(かべ)を講じて一画(いっかく)を成し、続けて生れる自然(あるじ)の舞踏にゆったり降り立つ人間(ひと)の孤踏(おどり)が四肢を拡げて合さって活き、俺の目前(まえ)ではもっくり仕上がる夜空を下して閉幕していた。これまで観て来た校地(うち)での舞台が陽光(ライト)を窄めて落胆したのはこれより始まる舞台稽古の演目並びが俺にとっても人間(ひと)にとっても随分憚る〝得体〟を奮(ふん)して示してあるのが遠目に見得てもはっきりしており、これから始まる淋しい旅路の途上に際して嘆いて見せても、誰も彼もが挙って益(えき)する夢想(ゆめ)を欲しがり億尾にあるのが誰から観得てもはっきりしたまま止まったからだ。

 三原の四肢(からだ)は俺が独歩(ある)いた前後左右に分身するほど素早い微動(うごき)であれやこれやと算段しつつも沈着して居り、何時(いつ)しか乗じた角菱車(ワゴン)の四隅に堂々座って俺の心身(からだ)を手取り足取り方向修正(さだ)めて相乗りしていて、便乗していた気忙(きぜわ)の辛気(ムード)は散らばり続ける俺の注意を前方(まえ)へと延ばして自責を負い就け、矢庭に騒いだ曇天辛気(どんてんムード)は俺の目前(まえ)でも華やぎ出した。そうしてそのまま角菱車(ワゴン)は独走(はし)って迷走知らぬや炎天から抜け、暗い浪漫が要所を牛耳る俺の懐古(レトロ)を十分(じゅうぶん)引き寄せ輝き始めて、昔フェリーに搭乗する彩、船上(うえ)から引かれた延道(タラップ)など観る不可視な景観(ばめん)を構築した儘、角菱車(ワゴン)を引き摺る細道(みち)の姿勢(ようす)は〝懐古(おれ)〟から離れて憫笑していた。三原の四肢(からだ)はずうっと居座る夜雲(よぐも)の体(てい)して俺から離れる〝懐古〟の穂先を不正に動じず見守り続けて、ふいと首(あたま)を左右へ擡げて薄ら傾げた表情(かお)の内には到底知られぬ文句(ことば)の綾(あや)など失速し続け、矢庭に被(かぶ)った疑問の余地には俺から敷かれた甘い誘惑(さそい)が充満し続け、大きな柄(から)した三原の図体(わく)には、初めから成る異彩の湿気が程好く立ち込め堂々と在り、三原はそうして延び得た灰色(グレーいろ)した延道(みち)の頭数(かず)とは俺の前方(まえ)へと程好く並んで朗(すが)しく先立ち、朝陽が来るのを密かに待っては俺に居座る〝懐古〟の体温(ぬくみ)に程好く敗け得た。

 そうして俺の前方(まえ)へとふらりと成り得た「同門」では、お化け屋敷を不思議に模し得た催し会など人間(ひと)を集めて陽気に鬱にと鈴を鳴らして開催しており、そこで働いた事になっている村井初穂が、俺の目前(まえ)から直ぐの辺りにお化けの体(てい)して真面目を奏して暗く灯った青さの内(なか)にて突っ立って居た。村井初穂は細い形成(なり)して丈夫に佇み、俺が以前に長らく勤めた介護現場の上司であって、上司であるくせ俺の同期で、これまで通った中学・高校なんかは互い同士が近所に縮まり身近な衒いを要所へ振り撒き輝いていて、俺は彼女に〝上司〟である故、遂に密かな下心を見て彼女の微動を多分に漏らさず固く制して不埒な限度(かぎり)は俺の熟体(からだ)に逆上せてあった。そんな彼女がふらふら釣られて遊興したのは何処(どこ)から漏れ得た人工照(あかり)に在るのか、ぱっと点き得て目的(あて)を沈めた日頃の陽光(ひかり)に起因(もと)が在るなど想像させられ、彼女の傍(よこ)には鎮座に並んだ彼女の供など給仕(バイト)君たち多勢を初めにちらほら散らばる俄かの有志がここぞとばかりに引き連れられ得て、そこへ集(つど)ったお客達への宣伝用にと紅(あか)く塗られた報画紙(ポスター)等が供に保(も)たれて並んで在った。そうした〝供〟には吉本喜劇に代表され得た末成由美など、五十歳(ごじゅう)を越え得る初老の女性(おんな)も黙って居座り社交に興じ、他の怪(かい)には、ドラキュラ、化猫(ばけねこ)、漆の妖怪、塗り壁なんかが〝水木漫画〟に登場して行く原色仕立ての児向(じむ)けの形成(なり)して頓狂足るまま微動(うご)いて在って、騒音(ノイズ)を立てない経過の内には、未熟に成り立つ俺への軌跡が如何(どう)にも歪曲(まが)らず直立して在り、そうして集(つど)った妖怪疑似餌(ようかいもどき)を自分好みの脚色(かたち)に見据えて大きく構えた延道(みち)の門(もん)へは青色仕立ての稚拙な綽名を重々温(あたた)め暗唱したままくっ付け取り付け、此処(ここ)の人工照(あかり)の〝演目〟にした。そうして集った怪(かい)の内では何気に構えたidea(イデア)が居座り俺から離れた景観(ばめん)を講じて脆くもあって、人格なんかの細かい項(こう)へは一切触れずに目立たせぬ儘、やおらに透った具現(かたち)を見据えて具体化され得る〝怪(かい)〟の内には、〝幼稚〟に騒がれ人気を博した女神(アイドル)なんかが自分に丁度の着ぐるみなど着て可愛く振る舞う〝猫娘(ねこむすめ)〟が居て、同じく〝娘〟の傍(よこ)にて純心(こころ)を興じて鈍(どん)と居座る即興被(そっきょうかぶ)れの猫又が居て、そうして乗じた調子の上では他で掲げた〝鬼太郎〟なんかの報画紙(ポスター)等より一層目立って豪華を頬張る彼等の美臭(びしゅう)が騒いであって、こうした美体(びたい)が拳も通れと俺の感覚(いしき)へ直接来たのは〝彼等〟を真似した他の擬態が七つも八つも揃え置かれた〝臭う気配〟が目立った頃だ。そうしてうろうろ俺の陽気が徘徊し始め、暗い路地にも仄(ほ)んのり柔らな人工照(あかり)が立ち込め俺を誘(さそ)って、俺の心身(からだ)は〝お化け〟の類(たぐい)を遊覧して行く心機に伴い孤高が目立ち、拍手を受けない固室(こしつ)の内へと埋没していた。そうした遊覧(あそび)を程々し始め俺の孤独が突然折られて人工照(あかり)を観る頃、暗(やみ)の内にて日本に憶える怪(かい)の類(たぐい)が翻(かえ)る最中(さなか)に、見慣れたような見慣れぬような、金の色した竜の胴体(からだ)に独気(オーラ)を任せた退屈(ひま)な主(あるじ)がぽつんと湧き立ち俺の瞳(め)を見て、〝堂々巡り〟に退屈(ひま)を設ける地味な見立てに歩速(ほそく)を止めつつふと振り返り、これから始まる〝陽気〟な肴(さかな)を根強く仕留めてほくほく温(ぬく)もり俺の目前(まえ)から湯気立つ上気を暗(あん)に敷かせて灯(あか)りを観(み)せた。すっと手に取る俺の人形(すがた)を何処(どこ)で観たのか慣れた視(め)に遣り調和を呈し、俺から外れた仲間の温(ぬく)みをほっそり浮かせて細々(ほそぼそ)呟き「同門(ここ)」迄来るのに空けて透った「仲間」の具象(かたち)を何処(どこ)で観たのか再び手にした容易(やす)い奇声(ことば)に十分(じゅうぶん)近付き揺ら揺ら揺れ得て、俺へ対する魅惑を灯して相対(あいたい)するのは対峙に満ち得ぬ試算の空転(まわり)を自明するほど愚かに観得た。俺の心身(からだ)は誰の人形(すがた)を黙認したまま勝手に揺らいだ暗路を先取りてくてく独歩(ある)くが誰の人形(からだ)も自明を灯さず〝暗(あん)〟は暗(あん)にて至極自然の行程(みちはば)なんかを十分(じゅうぶん)照らして遊泳(およ)ぎを観(み)せ付け、俺の仕種が物憂い様子へ無機を捉えて沈んで行く頃、魅惑に解け得る一筋(ひとつ)の無間奈落がこっそり忍んで俺の前方(まえ)へと闊歩(ある)いて行くのが鮮明に在る。瞬間(そこ)で見て取れ、揚々新奇(しんき)に灯(あか)りを点して俺の懐古が何時(いつ)に知り得た淡い神秘を十分(じゅうぶん)手に取り蹂躙して生(ゆ)く〝金の色した竜〟の姿勢(かたち)は、頭を地に遣り猫背に沿い得る背骨を通して〝一本だたら〟の一つの脚(あし)など宙(そら)へ放(ほう)って直立して在り、〝金の色〟など体色(いろ)こそ違うが子供の頃観た〝怪獣〟に知る〝ツインテール〟の隠微な姿勢(すがた)を巨躯に取り入れ模倣しており、俺の目前(まえ)ではきらきら輝(ひか)った両眼(りょうめ)を翳して〝宙(そら)〟を仰いでじっとして在る俺の痩躯を微動だにせず狙いを定めて、衝動(うごき)に機敏なぎらぎらした〝気(き)〟を暗眼(くろめ)に研(と)がせて憤怒に寝そべる。彼が保(も)ち得た大きな両眼(りょうめ)は地上へ伏せつつじっと身構え、見上げて見詰める両の瞼は一女(おんな)の瞳(め)程も輝彩(ひかり)を画した白壁(かべ)を彩り丈夫に立ち得て、奥の閉まった両眼(りょうめ)の露わは自然に灯った薄緑(きみどり)色してまったり物言う。

 土偶に纏わる旧い社(やしろ)が俺の両眼(め)に来て根固めし始め、如何(どう)にも斯うにも「明日(あす)」を知り得ぬ希薄な憂いは〝宙(そら)〟を飛び交いまったり静まる人形(ひと)の気配を巡回しながら自己(おのれ)に宿った分身(かわり)を見付けて遊泳(あそび)を認(したた)め、〝今日(きょう)が駄目なら明日(あす)…〟と旧(ふるい)に故習(ならい)に算段し始め夢境(むきょう)を捉え、俺の伸びには到底失(き)えない呑気が盛って逆立ちして在る。暗(あん)に紛れて両眼(りょうめ)を大きく見開く柄は名前を〝きんこ〟と言って、〝金子(きんこ)〟と書くのか〝金庫〟と書くのか、はた又〝禁錮〟と書くのか〝禽子〟と書くのか、終(つい)に見取れず経過はゆっとり構え俺の前方(まえ)では何時(いつ)とも報せぬ鏡張りした四角い固室(こしつ)が暗(あん)を照らした空間(すきま)に取り憑きひっそりしたまま上下に揺れ得た。暗(あん)を敷かれた道程(みち)の上では地中へ掘られた坑(あな)が目立って、自重を揃えた俺の気迫は薄く静まり怒声を蹴落とし、彼等が揃えた〝お化け屋敷〟に歩調は益々未然に仕留める〝彼等〟の表情(かお)など画紙(がし)に見て取り奔走して行き、忙(せわ)しく衝動(うご)いた三原の姿勢(すがた)を暗(やみ)に紛れて即座に把握し、付かず離れず、二人の独歩は所構わず一定に就き俺の主観(あるじ)は彼等を飾って〝屋敷〟を棄て得た。言うに及ばず、お化けの魅了へ邁進して行く感覚(いしき)の静寂(しじま)が目的(あて)を介せず徒労へ赴き、自然に見て取る怪(かい)の恐怖を素直に仕留めて跼蹐していた無様の故では決して無いのだ。唯飽きた所為にて屋敷(そこ)を離れて、次へ居座る俺の〝景観(けしき)〟を素直に愛で行く気配に見惚れて心身(からだ)が疼き、丁度三原が有無を言わさずてくてく黙って俺の元までやって来たのがこうした契機の起因でもある。俺の姿勢(すがた)は何時(いつ)しか三原(こいつ)に目的(あて)を認めて期待して居り、何やら解らぬ楽しい興味を摺り摺り引き出す手腕の発揮に先を見ていた。

「俺はこの敷地を『同門』と呼んでいる。」

 三原が呟き、俺の両耳(みみ)とも口とも思惑(こころ)ともなく、素手で触れ得る生声(きせい)に象(と)られる具現の効果は俺の心身(からだ)の何処(どこ)の一部(ぶぶん)を触発して活(ゆ)き活性するのか一向分らぬ気色に彩(と)られて俺は在ったが、三原の口元(くち)から未熟に咲き得た白い成句(せいく)は霞を飛ばして暗(やみ)をも突き抜け俺の元まで無傷に着くほど生き生きしており輝かしい儘、「明日(あす)」をも彩(と)り行く不変の淡さは、これまで観て来た幾つの鏡花を細かく堅(かた)めて落着するほど俺の陰まで揚々駆け行くシグマを発して成り立っている。過去(むかし)を馴らした数多の〝手順(てかず)〟は人間(ひと)を飛び越え黙認され活き、人間(ひと)から観得ない幾多の小片(はへん)を揚々積み上げ合算(ごうさん)と成(な)し、俺から見取れた三原(かれ)の活気は〝勝気〟を装い〝俺〟を懐ける験術(すべ)など覗けて忌々しく在り、三原(かれ)の〝勝気〟は俺へと居座る〝涅槃〟の色気を素早く講じて刹那へ陣取り「明日(あす)」へ遊泳(およ)いだ自身の小片(かけら)を拾い集めて忙(せわ)しく在った。三原(かれ)の手元は温度(ぬくみ)を保って俺の手を取る僅かな衝動(うごき)は哀れに気取れず閑談(かんだん)して行く空気(もぬけ)を発して呑(のん)びり居座り、彼が先取る暗路(みち)無き一道(みち)を彼の体温(ぬくみ)に操(と)られて引かれる俺の心身(からだ)は見る見る間(あいだ)に気色の化(か)わった〝次の景観(けしき)〟へ赴き静まり、二人に立ち得た白壁(かべ)の上には既に成り得た怪(かい)の総身が画紙(がし)に貼られて共鳴して居た。三原(かれ)に連れられ賢く居座る白壁(かべ)に面した朗(すが)しい場所とは、如何(どう)もこれまで無性に象(と)られた「社(やしろ)」の姿勢(すがた)を軽く手に取り眺める際には、〝お化け屋敷〟にほっそり続いて〝暗路(みち)〟を就かせた最上階だと俺の思惑(こころ)は誰に気取れず歪曲(まが)った夢想に伝(おそ)わる形で静かに頷き首肯している。そうした白壁(かべ)を背面(うしろ)へ咲かせて敏々(きびきび)働き、暗(やみ)に乗じて如何(どう)する間も無く細い肢体(からだ)を左右へ動かす見慣れた人形(すがた)がふわりと現れ、じっとしている俺の両眼(りょうめ)に惜しむ事無く自影(かげ)から発する若い気力(ちから)を伝(おし)えて来たのは、階下に知り得て俺の脳裏へ纏わり付いた村井初穂その人である。彼女の姿勢(すがた)は俺から見得ても中堅気風(べてらんきふう)をこよなく発して大きく居座り、矢庭に幼いやおらの表情(かお)などちらりと覗かす器量の居所(いどこ)は彼女の母性にひっそりつかまりか弱さを観(み)せ、彼女の過去など一時(いっとき)線引き忘れた頃から伝手(つて)を失くした俺の脳裏は彼女の現行(いま)に居座る事情(こと)の仔細と天秤(はかり)に掛け行く微力を呈して自然であって、予想が講じたちびた伝手から、〝村井初穂〟は俺の過去にて長らく居着いた介護現場の「現行(げんこう)」を得て、〝如何(どう)やら此処(ここ)でも中堅(ちゅうけん)程度に長く居座る従人(ひと)に変えられ根付いたものだ〟と、俺の精神(こころ)を十分(じゅうぶん)黙らす予測が講じて黙って在った。彼女は如何(どう)やら、此処(ここ)で働く中堅社員のOBとして、朝から晩まで腰を落ち着け案外楽しく、偶にこうして俺の体(てい)して釣られて立ち寄る以前(むかし)の仲間を、僅かに気取った母性で愛して自活を見て取り、自発に掴んだ空虚の腹など柔(や)んわり満たして愉しむようだ。しかしそうした記憶を程好く澄ませた夢想(ゆめ)の果てでも彼女を囃した〝騒音(ノイズ)〟の在り処は予測付かずの得体を晒して軽浮(けいふ)に落ち着き、〝彼女〟を漏らして暗(やみ)に紛れた〝主観(あるじ)〟の姿勢(すがた)も、一体全体誰を通して社(ここ)まで来たのか白く霞んだ機運の弾みに何にも言わずに偶然装い、俺の手元(もと)から直ぐさま飛び立ち分らずに在り、如何(どう)して彼女の存在理由を結託され得た〝白壁(かべ)〟に取り添え矛盾を採るのか、三原も俺も寸とも言えずに彼女が働く度詰(ゴール)を観ながら暗黙に在る。一度に飾った画紙(がし)の視点は〝働く彼女〟を遠目に置き遣り未熟に生育(そだ)った斑(ぶち)の〝機運〟を真横に捉えて、俺と三原の奇遇へ託け自体を晒して呑(のん)びりして在る。そうして揃えた機運の限度(かぎり)は真横で働く彼女を捉えて一睡さえせず、俺と三原が気丈に振る舞う度詰(ゴール)の辺りを仄(ほ)んのり乱して端(はし)から片付け、次第に晴れ行く体温(ぬくみ)の〝霞〟をもやもや燃やして上気と立たせて踏ん反り返り、立ち振る舞いから表情(かお)を気取らぬ彼女の幼躯(ようく)に程好く仕上がる灯(あかり)を差し出し、二人の前方(まえ)では妙に空転(ころ)がる彼女の姿勢(すがた)は清潔感から気丈に成り立つ孤踏(ことう)の主観(あるじ)を演出していた。そうして目立った彼女の背後にゆらりと仕上がる無双の〝喜楽〟は画紙を偽り新作(あらた)と差し替え、煌びやかに鳴る無言の人影(かげ)など演出している。急に身固めし出したロジック等は彼女が通った廊下の辺りを必要以上に照らし始めて俺と彼とに途方の暮れない明度を投げ掛け自体(おのれ)を呈し、全く新たな景観(けしき)を放(ほう)って「明日(あす)」の具象(かたち)を伝(おし)え始めた。俺も三原も彼女がそうして以前(まえ)から社(ここ)にて働き続けて人を待つのは如何(どう)やら夢想(ゆめ)の内にて報(しら)されていた。彼女の表情(かお)が自分の四肢(てあし)を好く好く温(あたた)め忙しそうに振舞う露わな行為の内にて〝目立ちたがり屋〟の変らぬ習癖(くせ)を宿して居たのは白壁(かべ)の前にてはっきり灯って自然へ透る。三原はさておき、如何(どう)やら俺の思惑(こころ)は彼女の目前(まえ)にて三分(さんぶ)程度の実力(ちから)を採りつつ彼女の肢体(てあし)へ巻かれて陶酔し果てる露わは行為へ独走(はし)ったようだ。〝俺〟は彼女が呈する四肢(からだ)、清潔感、虚無感、母性の生気、あらゆる角度に望める容易な仕草の無垢な止体(ポーズ)に、容易く仕舞える愛情(こころ)を採るまま女性(おんな)の息吹をそよそよ感じてほとほと痩せ得る精神(こころ)を知りつつ彼女が呈する〝見える具象(かたち)〟に絆されて居た。俺は唯、彼女の姿勢(すがた)に惚れていた。

 固まる景観(けしき)を傍観しながら俺は三原の背後(あと)へと続き、三原の気配は暗(やみ)に塗れた晴嵐(あらし)の容姿(すがた)を横目に象(と)る儘、俺の感覚(いしき)を細目に見遣ってその儘てくてくてくてく、四方(しほう)へ拡がる段を上がって目先の出口(とびら)に明かりが見え行く新たな場所へと進んで行った。俺はそうして見知らぬ内にて他人(ひと)の姿勢(すがた)を排除出来得る彼の仕種に必要以上に鋭く成りつつ同時に彼の立場を覆(かえ)せる実力(ちから)を内実(うち)へ隠した未熟な精神(こころ)を矢庭に手に取り彼を睨(ね)め付け、敵意さえ無い嫉妬の情念(おもい)に暫く観た儘、彼と敵とを識別して行く新たな方程式(かたち)を自分の内実(うち)へと静かに置きつつ、彼の独歩(ある)いた大きな軌跡を唯々じいっと眺めて、彼が行き着く度詰(ゴール)の周辺(あたり)を具に見て取る気丈な黒瞳(ひとみ)を自分の目前(まえ)へと据え付けていた。僅かに騒いだ冷風(かぜ)の誘(さそ)いが俺の身に乗り周辺(あたり)を散らして、彼の躰は目的(あて)から外れて光沢へと失(き)え、俺の傍観(ひとみ)は彼の背後を執拗に追う。涼風(かぜ)が緩んだ歪曲(ゆがみ)の境地で俺の快感(オルガ)は無想に叫んで彼をも愛し、自分を愛した定めを見付けて葛藤したのは彼がそれから見知らぬ獲物に襟首辺りをぐわしと掴まれ、光沢(あかり)の周辺(あたり)で既に身構え二人を待った少年(こども)の姿勢(すがた)を観た頃(とき)だった。少年(こども)の姿勢(すがた)はわんさか割れ活き、俺の目前(まえ)にて恐らく三原の目前(まえ)にて必要以上に屯(たむ)ろして行く堪り場なんかを改装しながら活き活きし出して我らを囲む。暗(あん)に隠れた少年等(かれら)の実力(ちから)が俺の心気(しんき)へ薄ら灯って見えなくなるまでそれ程要(よう)さぬ経過(とき)を講じて独歩(ある)いて居たのが頻りに手早い暗気(あんき)に見舞われ、あっちこっちに死人が行く程〝お化け〟の態(てい)した稚体(ちたい)が目立って充満して居た。散乱して行く彼等の身元は何処(どこ)から出たのか三原(かれ)から出たのか、一向気取れぬ得体を採りつつ俺の前方(まえ)には必要以上にねっとり輝く光沢(ひかり)を観(み)せ付け俺の言動(うごき)は三原の背後で堅く成りつつ自分へ宿った〝定め〟を気にして護身を憶え、三原(かれ)から離れぬ幼稚な手法を容易(たやす)く採りつつ危うく光った廊下の周辺(あたり)で自身の居所(いどこ)を確認するまま睡魔に襲われ少年等(かれら)の裾から遠く退(しりぞ)く脆弱(よわ)い試算へ駆られて行った。三原の肢体(からだ)が少年等(かれら)が呈する快感(オルガ)の残骸(むくろ)に丁度好い体裁(かたち)を呈され絡まれている。俺の肢体(からだ)が三原(かれ)から遅れて三原(かれ)から観えない背後(あと)に居たのは極々自然に鞣され終え得た白い空間(すきま)に立てられ俺の気配を講じた行為と程々自然に相当している。この「遅れ」は極自然に成されたものだ。

 恐怖を憶えた俺の思惑(こころ)は精神(こころ)を跳ね退(の)け彼女まで行き、彼女の呈した母性を和らげねっそり寝そべる寛容(おお)きな文句(ことば)に揚々操(と)られる稚体(ちたい)を奏してそれから始まる未然の防音(おと)にも注目している。次第に昂(たか)まる体温(ねつ)を下げつつ、自己(おのれ)を燃やした悪魔の容姿(すがた)を下手(したで)に観ながら、景観(けしき)を破った虚無の未熟に塞がり返った奇妙な文句を心行くまで感じて見て取る脆(よわ)い行為が俺の麓(もと)まで辿り着けては互いに見合った無関(むかん)を知り活き、到底醒めない夢想(ゆめ)の内にて具に仕立てた〝虚無〟を手に取り呆(ぼう)っとした儘、三原に与えた白痴の周辺(あたり)で少年等(かれら)を要(よう)して傍観して在る。如何(どう)もこれまで俺の肢体(すがた)が見知って来たのは〝何〟にもし難い虚無の夕べとそれほど内実(なかみ)を違(たが)え合えない人間(ひと)の歩速を順手に晒してそうっと見送る景観(けしき)に当てられ息衝いてある。俺が灯した愚かな苦労は労を費やす空間(すきま)さえ観(み)ず三原(かれ)を呈した光沢(あかり)の傍(そば)にてめっきり茂った〝葦〟を観るのに相当している。

 少年等(かれら)の動きは自然にのろまり、俺の手中で後塵濁さず鶴と成りつつ、俺の前方(まえ)から三原の目前(まえ)から奇麗に飛び立ち暗路(あんろ)の上にて見えなくなった。

      *

 慟哭(さけび)が程好い湿気へ紛れる頃にて少年等(かれら)の言動(うごき)は大人しくなり、俺と三原(かれ)とを支えた〝廊下〟は見る見る内にも白壁(かべ)を携え野平(のっぺ)り灯り、黙った裾には光沢(ひかり)を漏らさぬ気丈な扉がすうっと開かれ、俺と三原(みはら)と少年等(かれら)の〝海〟とは、耄碌するまま白い〝空間(すきま)〟を気怠く通って肢体(からだ)を梳いた。して居る内にも暗路(あんろ)を照らした僅かな光沢(ひかり)は周辺(あたり)へ漏らさぬ明度の調子を自然に伝(おそ)わる加減に任せてひょいひょいすうすう彼等の目前(まえ)にて漸く化(か)え活き、彼等を通った〝未熟の音頭〟は野平(のっぺ)り輝(ひか)った彼方へ失(き)え行き自然が放(ほう)った新たな環境(うち)へと夫々解(と)け得て目立たない儘、俺と三原はそれから独歩(ある)いて光源(こうげん)へと就く何時(いつ)か見果てた〝少年(こども)の運河〟を四方八方上手に拡がり、自体を漏らさぬ淡い期待へほっそり向かって旅路へ就いた。少年等(かれら)の古巣が何処(どこ)に在るのか、少年等(かれら)と喋った俺達ではもう到底分らぬ境地であったが、そうする境地にすっぱり納まる一人の人種が揚々流行(なが)れた少年等(かれら)の内からすうっと現れ、俺を過ぎ去る三原の肢体(からだ)へしっかり寄り添い俺を観ぬ儘、まるで巧みに用意され得た相棒(なかま)の態(てい)して変らぬ歩速に歩んで在った。少年等(かれら)の身元は中学生にて、独り残った彼の得体も中学生にて漸く静まる。そうして留(とど)まる中学生は俺と三原の背後(あと)を独歩(ある)いて光沢(ひかり)に塗れた暗路(みち)の上まで差し掛かると直ぐ、俺の居所(いどこ)を通り過ぎ活き三原の傍(よこ)へとぴたっとくっ付き離れぬ態(てい)にて、自分に纏わる以前(むかし)の苦言をあれやこれやと吟味し始め、三原の心気(しんき)へ気付かぬ内にて多弁を呈して気取って在った。そのうち熱気が翻(かえ)ってほとほと疲れた俺と三原へ少年(こども)が示した元気の活路が白さを増し活き、二人を呑むほど大きく膨れて増長し出した。少年(こども)はそれでも飽きずに三原へ仕掛けて絡んで来そうで、俺の弱気は何時(いつ)とも見ぬ間(ま)に少年(かれ)の独気(オーラ)を具に妬んで解体するまま三原(かれ)を離れて静かに立った。狂い咲きする正義に埋れて程好く疲れた四肢(てあし)を拡げて呑(のん)びり佇み、俺の調子は三原(かれ)を採らずに中学生(かれ)を採らずに、何へ対すも無関を呈してぐらぐら蠢き、自然に灯った〝軽浮(けいふ)の都〟へどんどんどんどんまっしぐらに向き、俺を囲った全ての〝独気(オーラ)〟に棄てられ行くまま独りで独歩(ある)いた未開の境地を愛して在った。対峙して行く新たな景観(けしき)は人の能力(ちから)を粗方窄めて一塊と成し、人が気取った表現力など各自が費やす一つの物語(はなし)へ解体して活き改築して在り、人の程度が他へ並んだ生人(いきびと)など観て、何やら蠢く賞など着飾り悦へ向くのは酷く馬鹿げて滑稽味を増す稚拙な行為とじゅんじゅく赴く不思議の境界(はざま)で首肯していた。そうして頷く俺の前方(まえ)にて、小さく輝(ひか)った争い事が三原を囲って充満したので俺の心身(からだ)は急いで延び活き、人影(かげ)を連れ添い彼等が弄(あそ)んだ光沢(ひかり)の目前(まえ)まで辿って行って、三原(かれ)と中学生(かれ)とが静かに掲げた論争呈する火種が在るのを束の間見知って軟(やわ)らに這入り、三原(かれ)と中学生(かれ)との一線伝(いっせんづた)いの間(あいだ)を取り持ち、周辺(あたり)の光沢(ひかり)を丸く輝(ひか)らす仲介などして踏ん張って居た。白壁前(そこ)へ止まってにこにこ輝く俺の表情(かお)には白壁前(そこ)へ辿ってやおらを知るまで過去に咲き得る場面を講じて相対(あいたい)しており、俺の信仰(まよい)が頻りに遊泳(あそ)んだ教会などでの光沢(ひかり)が現れ、光沢(そこ)へ居座る山木(やまき)の姿勢(すがた)を子細に彩(と)り行き憎み始めて、山木(こいつ)を白壁前(ここ)から遠くへ退(の)け得る算段等して俺の迷路は複雑に成る。山木というのは彼の以前(むかし)に暴走族など一般(ふつう)に取られて好くない体裁(かたち)が沢山散らばる稚体(ちたい)を頬張り、精神(こころ)の内にも始終跳ね行く落ち着かずの実(み)が所狭しと飢えた表情(かお)して散らついていて、容姿は痩躯に隆々付き得た日焼けの強靭(つよ)さに彩られて在り、一番通(とお)った彼の顔にはぎょろっとした両眼(め)とぼこっと出た鼻、体内薬(くすり)にやられた空いた歯を観(み)せ自慢話を大いに咲かせる多弁の口とが所狭しと密集して在り、それらを衝動(うご)かす頭脳の辺りは体内薬(くすり)にやられた加減を示して朴訥と在り、暴力行為へ容易に誘(さそ)って山木(ひと)を操る不変の節理は堂々輝き誰にも頼らず、誰にとっても襲撃され得る危険を具える無敵の気配が縦横している。体内薬(くすり)をやっては屠所へ送られ、体内薬(くすり)をやっては人間(ひと)の躰を傷付け廻った不動の幼稚に彩(と)られて居ながら、彼を衝動(うご)かす自然の歩力(ほりょく)は一向萎えずに彼の背後にぴたりとくっ付き、彼が意図する先の境地を彼の為にと大きく拡げて悠々身構え、彼を彩る空いた口から沢山飛び出る自慢話を脚色付けずに人間(ひと)へ通らす自然の樞(ひみつ)は俺にとっても三原にとっても、一向萎えない悪魔の体(てい)して煩わしく在る。俺はそうして山木の躰がけたけた嘲笑(わら)った光沢(ひかり)が仰け反る境地へ佇み、三原(かれ)と山木(かれ)とが一騎打ちに見る悲惨を遠ざけ和むようにと、仲介して行く徒労に努めて悪態吐(づ)いた。こうした衝動(うごき)は滑稽味に似て本心(こころ)は問われず、淡く火照った感覚(いしき)を抜け出る俺を止(と)め置く和みが呈して飾った景観(けしき)で、彼等を射止める試算に満ち得る脆(よわ)い仲裁(かたち)に嵌らずに在り、それを認(みと)めた俺の意識も彼等を認(みと)めて従順(すなお)に有り付け、自然が呈した空気(もぬけ)の気迫に押されて在った。山木が発する言葉の端(たん)にはこれまで観て来た無頼の気丈が矢張り目立って俺の元から直ぐさま去り行く〝他人の衝動(うごき)〟にほとほと就くまま自由に言動(うご)いた軌跡を灯して孤独に在ったが、孤独に立ち得る山木(かれ)の姿勢(すがた)は白壁(かべ)に似ていて屈曲成るまま矛盾を起(きた)せず俺の目元を仄(ほ)んのり和らげ友の情(なさけ)に泳いで在って、俺の心中(こころ)はそれほど言うほど穏やかには無く、山木(かれ)の独歩(ある)いた煌めく歩幅が暗路(あんろ)に浸ってそよそよ戦ぎ、俺の目前(まえ)には山木(やまき)の体裁(かたち)は何にも化(か)わらず強靭(つよ)い富貴に有り付いていた。

「妙に落ち着いているね」

「…」

「ここは暗いから気を付ける方がいい」

「…」

「明日(あした)、僕らは暗路(ここ)から去って、どこか遠い光沢(ひかり)に在るのだろうか」

「…」

「何時(いつ)になっても寒い季節は彼等を取り巻き、橙色して、ほとほと冷め行く男女の内など独歩(ある)いたようだ」

「…」

「君の仕種は明日(あす)をも見知らぬ無冠の表情(かお)して如何(どう)やらここまでゆるりと辿った景観(けしき)を観ている」

「…」

「何処(どこ)ぞへ消えゆく人間(ひと)の〝歩幅〟は透(とお)の以前(むかし)に、誰かが使った手法(すべ)に似ていて困ったもんだ」

「…」

 山木(やまき)は黙って在った。何かふとふと言いたげにして居た風(ふう)だが会話をしている当の俺には「○※△×」と記号ばかりが宙を過(よぎ)って、見当付かずの言葉の波紋が如何(いか)に遅くて二人を分かつか、山木(かれ)の素顔をちょいと覗けば矢庭に手にした快感(オルガ)の態(てい)して山木(かれ)の〝記号〟が〝歩幅〟を呈する。

 〝滑稽〟ばかりが競いたがって、彼等の周囲(まわり)をふらふら取り巻く暗気(あんき)の有様(すがた)は何処(どこ)でも観得ない以前(むかし)を語って野平(のっぺ)りはにかみ、当の両者に従う形成(かたち)で孤踏(ことう)が連れ添う孤独を睨(ね)めては「明日(あす)」の為にと一瞬気取る。気取った両脚(あし)には泥も付かずに二人で掲げた夕日が哀しく揺ら揺ら燃え立ち、「明日(あす)」と「以前(きのう)」をしっかり分けつつ、素早く歩いた〝空気(もぬけ)〟を語って鼻歌(うた)を歌った。俺は夢想(ゆめ)の内でも山木(かれ)と語って一歩も引け得ず、山木(かれ)の表情(かお)など真向きに見ながら震動(ふるえ)を抑え、空気(もぬけ)に咲き得た純白(しろ)い手帳に自影(じえい)を落して揚々縮まる。誰へ向いても気取る必要(こと)無く、俗世へ活き得る真綿に包(くる)まる自分の規則(ルール)を重々保(も)ちつつ自分の内実(なかみ)を空気(もぬけ)に照らせて空間(すきま)へ埋(うず)まる不明の強靭(つよさ)を具に仰いで見て取りながらも、山木(やまき)の落した滑稽(おかし)な〝強靭(つよさ)〟に対抗出来得る冷めない体温(ぬくみ)を保(たも)って在った。山木(かれ)へ向く刹那(とき)、自分を保(も)つのに何を気にして座れば好いのか、果して分らず、俺と山木は三原の姿勢(すがた)を巧みに従え絶頂(やま)の麓(もと)まで上がって行った。

 白く輝く空(す)いた歯をして、上歯下歯(うえばしたば)をかちかち鳴らした山木の姿勢(すがた)は二人から観て純粋足りつつ日焼けの表情(かお)など山木の白さを微妙に呈して後(あと)へは退(ひ)かずに、二人の麓(もと)まで〝怪訝〟を潤す独自の活力(ちから)を矢庭に放(ほう)って見境失くして、山木は三原を歯切れの良いまま注意し続け、〝下町〟を観(み)せる固い独気(ムード)に覆われていた。俺の独気(オーラ)が二人へ近付き、矢庭に担いだ徒労も図らず、山木の気配(におい)は暗きを落して輝いて在る。見栄の好く効く空っ歯(すっぱ)が奏して二人の加減に上手に並んだ山木(かれ)の仕種は眉間に寄らせた皺の皮数(かず)より本が露わで、俺から観え生(ゆ)く〝山木(かれ)の上手〟は剛(ごう)を逸してみだらに咲き得た童女(こども)の肢体で片付いている。

「言っとくけど、喧嘩は良くない」

 俺の文句(ことば)は彼等の頭上へ大きく拡がり最初に解け得て、それから拡がる彼等の文句(ことば)は賽を忘れた予定調和へすっぽり這入って黙りこくって、未熟を湿らす人間(ひと)の性(さが)にて安穏を得る。彼等が踏まえた予定調和に争い事など難儀に始まる〝仕分け〟を観たゆえ俺の心身(からだ)はしっとり上気へ反応し出して彼等の微動を仕留めた次第で、彼等の表情(かお)には観得ない〝懸橋(はし)〟など真綿に包(くる)まり図太く輝き、俺が呈した〝夢遊の泡(あぶく)〟へ巧く消え行く算段等して上手に立った。俺の口元(くち)からぽんと出たのは以前(むかし)に知り得た洋画ドラマの一詞(せりふ)に在って、塞ぎ込み行く〝夢遊〟の価値など暫く見詰めて空想(おもい)へ暮れ活き、とにかく活き得る山木の前方(まえ)では気丈の風味を余程に漏らさぬ堅く立ち得た俺の泡(あぶく)が幾多の過去を明度へ撓(しな)らせ、〝二人〟に遊泳(およ)いだ境界線などはっきり写して斬新に在る。「現実逃避」を翻(かえ)した俺には自分の背に乗る〝夢遊病理〟を隈なく見据えて泡(あぶく)へ浸らせ、おっかなびっくり、孤高の人体(むくろ)へすっかり準じた夜光の肢体(からだ)をしっとり愛して、山木と三原に矢庭に撓(しな)った〝苦労の匣〟などひょいと両手へ大事に灯し、夢想(ゆめ)の内での密かな安堵を窘めている。「現実逃避」が現実に成り、山木を宿したキリスト教系宿屋の内にて、以前(まえ)まで通(かよ)った俺の姿勢(すがた)と体裁(かたち)が盲目ながらに微細に棚引く〝古巣〟へ居座る古狸(たぬき)の顔して新来信者を揚々愛せず、仔細の微動(うごき)に敬遠したまま恐怖に戦く滑稽(おか)しな文句を並べているのが暗路(ここ)から見得ても好く好く輝(ひか)る。俺の姿勢(すがた)は山木(やまき)に対して、宿屋(そこ)に集(つど)った旧来信者を前方(まえ)にしてでも、ゆったり構える先の一詞(せりふ)を往々足るまま無限に発して、山木(かれ)の仕留める俺の弱身(よわみ)を細々(ほそぼそ)手に取り見詰めて居ながら山木(かれ)の掌(て)に在る温度(ぬくもり)など知り満喫して在る。ふとして俺に宿った新たな心気(こころ)は、初めて恋した色白娘を眺めて在った。

 夢想(ゆめ)から這い出て無性(むしょう)に懐(うち)にて淋しく成り得た俺の表情(かお)には、うつつに騒いで明度を透したやおらの気色がしっとり微温(ぬる)まり離れずに居て、全く淡さを立たせた儘にて、俺から嫁いだときの寡は顔に似合わず化粧などして小躍りして居り、夢想(ゆめ)かうつつか揚々気取れぬ淡い人体(むくろ)を被(かぶ)った儘にて、俺を宿した〝宿屋〟を咲かせて吐息が白い。白壁(かべ)の呈した残骸(むくそ)の小片(かけら)が俺の麓(もと)まで落ちて来たのは、そう遠くには無い初春(はる)の気取りに気付いた頃だ。〝中学生〟は山木を慕って青白(ブルー)に成った。俺の文句(ことば)は山木を伝って三原を愛した。村井初穂は暗(やみ)に応じて姿勢(すがた)が見得ない。俺の文句(ことば)はそれから経ち生(ゆ)く〝経過〟を固(こ)にして山木へ懐いた中学生(かれ)の輪郭(すがた)を描(えが)いて在った。結局冷め行く四季(きせつ)を通して、「物を書」き得る俺の姿勢(すがた)は〝未然〟に止まって涼風(かぜ)に揺らいだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

~歳子の夢想(ゆめ)~(『夢時代』より) 天川裕司 @tenkawayuji

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ