~脆(よわ)り始めた小獣(あり)の群れ達~(『夢時代』より)
天川裕司
~脆(よわ)り始めた小獣(あり)の群れ達~(『夢時代』より)
~脆(よわ)り始めた小獣(あり)の群れ達~
行方知れずの〝恋〟の生死に自失しながら、如何(どう)でも好くなる女性(おんな)の燻香(かおり)を上手に取りつつ、俺の躰は夢の柔らにほっそり浮き出た砂地(すなじ)の上へと突っ立っていた。以前に恋した菅野春野(かんのはるの)の人影(かげ)を追いつつ、そうした香女(かじょ)には自己(おのれ)の正味を具体に明かさぬ数多の女像(かげり)が次々重なり、俺の感覚(いしき)を摘み取る振りして、何とも言えない強靭(つよ)い眼(め)を保(も)ち途次へと就き行く。何処(どこ)へ向くのか一層知れない俺の前途は、硝子張りにて周囲(まわり)が見えない夢遊の気色が成り立ち始める。「スラムダンク」の流川楓が、俺と春野の間(あいだ)に呼吸(いき)して静的(せいてき)に在り、俺と春野は彼の吐息を宙(そら)を見上げて上手に感じた。彼女と彼との何時(いつ)でも尽きない臭味を匂わす愚弄が飛び出し、俺の手元を上手く離れた彼女の姿は白壁(かべ)に当てられ白味を増して、流川楓は男性(おとこ)の妙味を巧みに観(み)せつつ幾らか独歩(ある)いた細い両脚(あし)には憎悪を燃やさぬ清(すが)しい活気が具体を報せ、真昼の空気に明るく灯った男性(おとこ)と女性(おんな)のまったり感には、俺の感覚(いしき)がこれまで憶えたやらしい気色が走らない儘、俺と彼とはそれ故交せる嫉妬の暴挙を表す内にて、物理的にも身体的にも容易く失くせる喧嘩をした儘、夢想の砂利には女性(おんな)を立たせる濃い目の楼気(ろうき)が仄(ぼ)んやり在った。
「とったぁ!」
と腰を持ち上げ、宙を土台に狂々(くるくる)廻った春野の心身(からだ)は軟手(やわで)を従え重身(おもみ)を示し、〝どさっ〟と音立て俺の頭へ落下したのはそれでも見知らぬ女性(おんな)であって、子供の体(てい)した娘の記憶は何処(どこ)からともなく〝俺の昔〟をその掌(て)に収めた主(あるじ)の姿勢(すがた)を描いて在って、段々砂地(すなじ)に馴染む女体(からだ)は、耄碌し得ない虚無の微光(ひかり)を発光していた。彼女の躰に蟻が集(たか)った。俺の足場に蟻が集(たか)った。俺の感覚(いしき)はその瞬間(とき)何を観るのか定まらない儘、彼女に彩(と)られる景色を見詰めて彼女を欲しがり、欲しがる「彼女」の柔い躰は俺の心身(からだ)へ進行して行く蟻の手数(てかず)を放出していた。彼女の女体(からだ)は白光(ひかり)を受けつつ彼の元まで遁走して居り、彼女の足場は俺の頭上(うえ)へと浮き立ちながらに、俺へ群れ出す蟻の手数(てかず)は執拗な程に振っても揺れても俺から離れぬ力(ちから)を有して黒々光る。俺は彼女を通した白い上着を横目に見ながら、黒い内にてぴかりと光れる蟻の頭の牙を見た。俺の右手を執拗(しつこ)く這い擦り纏わり離れぬ蟻の強靭(つよ)さを恨む傍ら、如何(どう)にも死なない蟻への恐怖が小さい体(からだ)に隠れ続ける牙に見取れて矢庭に動けず、彼女を目前(まえ)にし動けぬ我には彼を恨める隠れた恐怖が生気を保(も)った。
立て続けに鳴る可笑しな発音(おと)には夏に聞える風鈴仕立ての細い初音(はつね)がぽんと浮き出てほろりと流行(なが)れ、白い空から綿を崩した白雲(くも)の無形(かたち)が俺の頭上(もと)まで誘われていた。彼女の足場にひそひそ集(たか)れる蟻の群れには青空(そら)が覗かれ、撓(しな)んだ手足は彼女を支えてほっそり浮き立ち、俺の孤独は彼女の足場(もと)から漏れ出す態(てい)して日傘を取った。陽(ひ)から揺れ出す陽炎(ほのお)の牙には白雲(くも)の動きがきらりと灯り、人と人とを不純に囃せる大きな言(ことば)を途々(みちみち)語り、明日(あす)の大河に個人(ひと)を馴らせる愉快な音頭を構築して行く。俺の頭上(もと)からひっそり失(き)え行く無体の輪舞曲(ロンド)は、端(はな)から咲けない空気の匂いに機敏に添いつつ、彼女の柔身(やわみ)を剛身(おとこ)へ懐ける死線を潜(くぐ)れる硬さを以て、俺の身横(みよこ)に流行(なが)れる体(てい)して泳いで来て居た。幻想(ゆめ)に纏わる清閑(しず)かな輪舞曲(ロンド)が西日を承けつつ燃え立ち柔味(やわみ)を知り抜き、大した賭けとも想像されない漆黒(くろ)い大空(そら)にて自明を着飾り、淡い火の粉は東の宙(そら)観てにやりと微笑み、俺の頭上(もと)から暫く離れる漆黒(くろ)い〝お腹〟を愛撫して行く。俺の記憶を優(ゆう)に辿れる俗世(このよ)の歴史は俯瞰され得ず、人の目から観た紺(あお)い夕べが拍車を掛けつつ白い砂礫へ埋れて行くのが、俺の感覚(いしき)と感覚(いしき)に集まる白い蟻との関わり合いには、眩しい程度に幻惑され活き、明日(あす)の足元(もと)から一向発(た)てない白い夕日に発音(おと)を重ねて、何の興味へ跳び付く間も無く、俺から飛び散る生気の労には一つの効果も得られず儘での淡い〝人の歴史の砂塵の曇り〟が、滔々流行(なが)れる瞬間(とき)の狭間で左右に言動(うご)ける気色を見せ付け小躍(おど)って在った。他人(ひと)の労苦は自己(おのれ)の功(こう)へと全ての温味(ぬくみ)を揃えて在って、褒美を得(う)るのは自分だけだと、人を蹴落とす餓鬼の途(みち)へと入没して生く。自己(おのれ)に彩(と)られた輝(ひか)って飛び散る無数の快楽(オルガ)を秘め足る陰から、有限(かぎり)に咲き得る男女の華など、珍し気に生く過去の散花(さんか)を欲して止まずに、ぽたり、ぽたりと、俺が生き得る一つの陰へと立場に彩(と)られた遠近法など総て無視して、手頃に射止めた人の淡味(あわみ)にほっそり寄り付き、明日(あす)を詠めない詩人の態(てい)して孤独を彩(と)りつつ呆(ぼう)っとして在る。白身の魚が孤独を隔てて時間を跳び生き、人から見得ない俗世(このよ)の経過にぽしゃりと飛び立ち飛沫を挙げた。俗世(このよ)の見得ない〝経過〟の頭数(かず)には人が持ち得る嗣業の功など何気無いまま軌跡(あと)を残さず紅(くれない)仕立ての夕日へ跳び退(の)き、やがては行方を清閑(しずか)に晦ます常套(いつも)の手腕(うで)にて満足気に立ち、こちらの悲惨を味気無いほど静観(せいかん)して行く硬い仕草を維持して在るのだ。俺と人との虚ろな空気は数多に生育(そだ)てた生身を着飾り、自然に象(と)られた超微(ミクロ)の個室を体内(からだ)に宿して超音波を識(し)り、明日(あす)にも今日にも過去にも現行(いま)にも決して彩(と)り得ぬ不可思(おかし)な気力を存分次第に露わに組み立て、決行し得ずの不可思(おかし)な独言(こごと)は超微(ミクロ)の明暗(やみ)をも貫く態(てい)にて新たの魅惑を〝孤独〟に着せ得る嗣業の一連(ドラマ)に返り立て得た。
硝子の表をひょろひょろ這いつつ、俺と人との無言の晴嵐(あらし)を突き出る人影(かげ)には、過去から挙がった生身の上気が暗い屍(かばね)を単人(ひとり)で牛耳り、機械仕掛けの俗世(このよ)の憂慮へ迷走するまま孤独に棄(な)げた。
「勝(と)ったぁ!!」
彼女の共鳴(こだま)が単独(ひとり)で仕上がり空に解け込み、宙返りをする蜻蛉(とんぼ)の態(てい)して、真逆に損ねる生気の小片(かけら)を過去と現行(いま)として大きく仕分けて糧とした後(のち)、自活に臨める不可思(おかし)な契機はしどろく不膨(ふくら)み、脆(よわ)い利潤(オルガ)を巧みに捉える女帝の人為に突っ伏して居た。孤独を見知らぬ彼女の生気に何らの始動が不可思(おかし)く進んで行李を仕上げ、生気を保(も)たない精神(こころ)が乱れた無知の者まで一気に採り立て自活に用い、狂言仕立ての〝生気〟の止まない未完の仕手には、永久(とわ)に奪(と)れない正義の翳りが潜んで在った。
俺から離れる柔身(やわみ)を保(も)ちつつ陽(よう)の撓(たわ)みに一心乱して遊歩を重ねた春野の伽藍(すきま)に、現代人から執拗(しつこ)く彩(と)られた長い躰の一男(おとこ)が突っ立ち、ぎょろ目を飛ばして呑気に構えた自分の在り処を俺へと突き出す。暴漢(おとこ)から発(た)つ乗りの行方は行方知れずの〝恋〟にも似て居り果ての識(し)れ得ぬ不動の根拠を人の居場所に具に見立てて自明を証せる許容の仕上げに邁進して活き、取手(とって)の付かない無難の遠慮は他人(ひと)を割かせる白紙を呈させ俺へと乗り出し、彼女と俺とに根拠知れずの無謀を突き立て静観(せいかん)するまま俺と彼女の行方知らずのふとした間柄には、仲裁して行く暴漢(おとこ)の一姿(すがた)が不動を呈して居座っていた。しかし好く好く見遣ればこの暴漢(おとこ)、以前(むかし)に見識(みし)った友の一姿(すがた)と酷似して居り、暴漢(おとこ)に彩(と)られた憐れ成らずの習癖(くせ)の内には、俺から象(と)られた返り発(だ)ち成る暴気(ぼうき)が居座り気性が崩れ、荒れた男の精神(こころ)の底には、何時(いつ)か見取れた友との情(こころ)が仄かに煌(かが)やき頷いてもいる。情緒(こころ)の俄かが夕雨(あめ)を見定め、女と男の嫉妬の晴嵐(あらし)をその日の内にて擁して仕舞える奇妙な演技に逆上せて仕舞い、俺の伽藍(から)から逸脱して生く無謀な賭けには主観(あるじ)が居らずに、徒党を組めない俺の弱味が清閑(しずか)の腰を砕いた儘にて明日(あす)の活路へ自信を発(た)たせる優雅を感じて黙って在った。抜け足差し足、奇妙な文句(ことば)が俺の耳元(もと)へとどよめき騒ぎ、彼女の身元は狂う迄にて虚無の邸(やかた)へ下って行った。白い虚無から〝春野〟が漏れ出し、肉付き程好い拙い共鳴(ひびき)を遊びに行かせる。有名虚無にて疾走(はしり)の止まない俺の身元を薄ら仕上げる露頭の主観(あるじ)は、曇天雲から程好い生気の蹂躙(あしぶみ)を観て自体(おのれ)に寄らせる白雲(くも)の柔さを充分識(し)りつつ悪態さえ吐(つ)き、小言を束ねる夢遊の連呼は彼女の〝共鳴(さけび)〟と程好く相対(むか)い、俺の身元へ暫く集える烏有の硬さを讃美していた。黒髪(かみ)を掻き上げ、日向に堕ち生く、紳士と云われた文士の豪(ごう)から、巧みに仕立てられ行く奇妙な情惰(じょうだ)が何等に向かって共鳴して生く不可思(おかし)な様子を俺の純(すなお)へ真向きに居直り、過去の途(みち)から素直に飛び出て滑稽(おかし)く連呼(さけ)び、「慌てた乞食は貰いが少ない」果実の描写を軽く浮き出し人間(ひと)から削がれて、人間(ひと)の立場へ上手く懐ける自己の要(かなめ)に及第せずまま発狂して行く人間(ひと)の純(すなお)を浮き立たせていた。俺の感覚(いしき)は暴漢(おとこ)の寄り付く島を観てから滑稽(おかし)く燥いだ涼風(かぜ)の態(てい)して循環(とき)へと失(き)え出し、軌跡(あと)から軌跡(あと)へと、自分の生気を発(た)たす儘にて何等の伽藍(もぬけ)に直進するまま夢想(ゆめ)と現行(うつつ)の狭まる気色を一つ瞼(まなこ)に認めて在った。旧い友から野分を呈して仄(ほ)んのり挙がれる白蛇(はくじゃ)を想わす白い軒火(のきび)は、俺から離れた白い温味(ぬるみ)を密かに酔わせた春野の在り処を散策しながら、旧い温味(ぬるみ)に決して詠めない「明日(あす)の連歌」の樞(ひみつ)を識(し)った。俺の身元(もと)から静かに挙がった旧い軒端の〝白蛇(はくじゃ)の焔(ほむら)〟は、宛てなく直ぐさま俺を射止める空気の空間(すきま)へ巧みに這入り、俺の両眼(まなこ)に決して観得ない円らの模写(うつし)を漏れ立たせていた。〝白い壁〟から仄かに挙がれる気色が見得る。
俺の生写(すがた)は俗世(このよ)を離れる手腕(うで)の元から小さく成り立つ幼女(かのじょ)の一姿(すがた)を巧みな言にてここぞと記(き)し取り、厚味を成せない宙(そら)の文句と同調しながら、決して還れぬ俗世(このよ)の以前(むかし)へ許容を失くして飛び立っていた。〝春野〟の名前も暴漢(おとこ)の気配へ巧く紛れて厚味を成せ得ぬ遠い純(すなお)に自分を着飾り自粛した儘、古巣へ還れる両親(おや)の行方を清閑(しずか)な夢見て追い駆け始める拙い遊戯を演奏している。暴漢(おとこ)の一姿(すがた)も宙(そら)から騒げる無体の文句(ことば)を口にした儘、彼女の柔身(やわみ)と温(ぬく)みを追い駆け、通りに咲けない竜胆(はな)の体(てい)して根こそぎ足場(どだい)を失くして行った。弓折り数えた光眩(こうげん)の果て、俺の背中は真白(ましろ)く冷め行く〝彼女〟の気配へ追随して行き、〝古巣〟の在り処が何処(どこ)に居るのか、さっぱり識(し)らずの空気(もぬけ)の体(てい)へと堕とされ始めた。〝彼女〟の身元を好く好く識(し)らない友の薄手(うすで)は空気(くうき)を遮り自活を発し、俺の前方(まえ)から〝加減〟を減らせる曇った両眼(まなこ)を順々温(あたた)め、現行(これ)から呟く生身の識(し)らない仄かな文句(ことば)を、暗(やみ)に投げては暗算して行く自己(おのれ)の様子を垣間見て居た。漆黒(くろ)く惹かれる俺の純心(こころ)は懊悩(なやみ)を識(し)り採り、「明日(あす)」の咲かない無鈍(むどん)の器へ低く掲げる上肢(からだ)を投げ入れ、昨日から成る〝慌てる乞食〟の一改悛など、〝如何(どう)とも巡り〟の初春(はる)の陽気に自体(おのれ)を観た儘、白い蛇(あくま)に凝(こご)りを溶(い)れ得ぬ闇の積量(シグマ)を〝永遠〟にした。永久(とわ)に咲き得る個人(ひと)の活気は〝勝気〟を識(し)るまま競争して活き、眠れぬ終(つい)の〝晴嵐(あらし)〟を俗世(このよ)に観たまま渇水させられ、自然を透した軟い教習(ドグマ)も、俗世(このよ)を離れる強靭(つよ)い内輪(うちわ)へ潜って行った。漆黒(くろ)い泡(あわ)には人間(ひと)の活気が当然咲かない俗世(このよ)の〝通り〟を逆さに観る内、裏手通りと表通りの境界(さかい)を認めず悶々して生き、奇麗に忘れた阿弥陀被りの〝帽子のお道化(ばけ)〟をここぞとばかりに中傷した儘、俺の目下(ふもと)にさんざに堕ち得た人間(ひと)の快夢(オルガ)へ追従(ついしょう)している。〝笑い〟の少ない俺の終生(すみか)を蛙が跳ね行き長閑に囀り、女性(おんな)が掌(て)にした男性(おとこ)目当ての玉手箱には、白蛇(はくじゃ)の毒さえ一切効かない〝笑い〟の迷路が遍く満ち果て、〝俗世の女性(おんな)〟と姿態(うつり)を沿わせる強靭(つよ)い吐息を幻想(ゆめ)に想った。足元(もと)から崩れる酒宴(うたげ)の肴は俺の目前(まえ)から友の前方(まえ)から永久(とわ)に薄れる脆味(もろみ)を知り抜き逆光(ひかり)を片手に、死太く這わせる恋の宴は人間(ひと)の躰を熱くしたまま見得ない小山(やま)へと還って入(い)った。だれにも知られぬ〝恋の山〟には人間(ひと)の単身(ひとり)が〝木霊〟を切り抜き我執を棄て去り、男女の契りを非道(ひど)く結べる女人(にょにん)の口笛(あいず)を照輝(てか)らせていた。心を読めない可笑しな辛苦が俺の足元(もと)からほっそり浮き立ち、過去を知らずに未来も知らない欲の実りを期待して生く円らな人見(ひとみ)が、両親(おや)の元から離れたがった。
俺の躰は幻想(ゆめ)から夢想(ゆめ)へと渡って行く途(みち)、何にも知れない小さな囲炉裏を目敏く見付け、宙(そら)の麓を自分へ当て付け、ゆっくり、ゆっくり、大きく拡がる艱難辛苦を両手にぶら下げ、筆跡問わずの小児(こども)の宴が微かに鳴るのを気付いて在った。俺の心身(からだ)は幻想(ゆめ)から夢想(ゆめ)へと終生(すみか)を替えつつ頃には〝小さな囲炉裏〟が見る見る大きく、取手付かずの百貨店へと成長するのが、端(はた)から見ていた傍人(ひと)の目を借り、具に見取れて不思議に会った。百貨店には黄色く光った人の輪が出来、旧友(とも)と彼女が〝我先限り〟に奔走して居り、何を急いで走って居るのか、不思議に見取れて覗いて見ると、如何(どう)やら彼等は俺の識(し)らない経過の隅にてマラソン仕立ての長距離走など誰かに云われて遣っているのか延長して行く通路で独走して居り、ふらふら独歩(ある)いた小さな躰はデパート内にて矢庭に大きく成長して生き、俺から見得ない虚空の空間(すきま)に逆毛(さかげ)を靡かせ吸い込まれていて、彼女の肢体(からだ)は春野の幻想(ゆめ)からふわりと落ち行く架空を発(た)たせて同化して活き、俺に対した春野の身重は俺の頭上(うえ)から地中へ這い行く蛇の硬さを気取って在った。春野の心身(からだ)が宙(そら)で燃え尽き、くらくらしらしら、脆火(よわび)に咲けない人間(ひと)の人火(じんか)を欲した折りから、俺の両眼(まなこ)は女性(おんな)だけ観る特殊な装置へ化(か)わって行って、春野の肢体(からだ)を一々惜しめる無欲の火花を散らせて行けた。段々静まる〝独歩の競い〟は俺の感覚(いしき)を隅へと追い遣り、男性(おとこ)と女性(おんな)の樞(ひみつ)の内から最終(ラスト)の気色を巧く紐解き俺へと投げ掛け俺の感覚(いしき)が男女の幅から区別を失くして成就する迄、一向止まない春野の共鳴(さけび)は俺の身横(となり)で姿勢(すがた)を消した。過去から挙がれる蟻の強靭(つよ)さに味を識(し)らない俺の糧には誰にも寄れずの小さな社(やしろ)が陰から突き出て静かにおっ立ち、〝彼女〟を呈する小さな小児(こども)は小首を曲げつつ白砂を奏でて自信を伝え、白い景色はデパート内でも硬く溶けない夢想(ゆめ)の轆轤を廻してあった。白砂の溶け入(い)る病弱(よわ)い躰は女性(おんな)を着飾り時計を失くし、〝始め〟も無ければ〝終り〟も無いまま見事に吸い付く〝尻切れ蜻蛉〟を、予期の淡目(あわめ)にずるりと引き立て、正義と称する幻想(ゆめ)の行方を男女から奪(と)る俺の表明(あかり)を現してもいた。俺から挙がれる脆(よわ)い強靭(つよ)さは蟻の強靭味(つよみ)を排して得意で在りつつ、得意がるのは説教して居る幻想(ゆめ)の主観(あるじ)が〝白さ〟に敗(ま)け得ぬ空(から)の楼気(ろうき)を見事に打ち立て念じたからにて、男児(おとこ)の幼稚は飴を頬張る泡(あぶく)を識(し)るうち仄(ぼ)んやりして来た。俺の目下(もと)には〝俺の為に…!〟と小さく呟き集(つど)った空(から)から小さく鳴り得た〝巨大〟を称する烏有病者が屍(かばね)を拾って内実(なかみ)を投げ捨て、漆黒(くろ)さに乗じて留(とど)められ得る真昼の温(ぬく)みは彼女に適して早退する儘、「明日(あした)」へ咲け得る孤独を配して俺へと発(た)った。俺の感覚(いしき)と夢想(ゆめ)の〝口笛(あいず)〟は女児(おんな)を識(し)りつつ無防備と成り、外的刺激に功を成せない軟い細身を浮き出る途次にて玉砕させ活き、彼女の延命(いのち)を放れる端(はな)にて、幻想(ゆめ)を見ながら後悔して行く夢路に嫌われ、意識に駆られる蟻の恐怖に、昨日も知らない明日(あす)を知らない無駄に憶えた知識の辺りに鼻をくっ付け稚拙に伝わり、伝い独歩(ある)きはとんと向かない柔手(やわで)を取りつつ彼女に伏した。彼女から出る蟻の群れには人が咲いても後光の咲けない俗世(このよ)の文句(ことば)が熾烈を極めて、以前(むかし)に憶えた弱者の人見(ひとみ)を何かに蔑み〝哀れ〟と呼んで、蟻の内実(なかみ)へ降伏して行く憐れな身覚(みかく)を演出して居た。
*
〝変に成りたい。変に成りたい。変に成りたい。変に成りたい。変に成りたい。変に成りたい。変に成りたい。変に成りたい。〟
*
〝可笑しく成るのだ。可笑しく成りたい。可笑しく成るのだ。可笑しく成りたい。可笑しく成るのだ。可笑しく成りたい。………〟
*
虚ろに駆られて出任せ模様の口頭描写を、後ろ手を組み指揮官顔した憂慮へ任せて呟き始め、俺の心身(からだ)は誰もを離れて漆黒(くろ)い柄(え)が咲く宙(そら)へ蹴上がり躊躇を踏ん付け、以前(むかし)に憶えた朋(あか)るい女性(おんな)を朗らに連れ添い連想していた。春野の躰が先に在るのに、俺の眼下(めもと)は美麗を着飾り腿を晒ける独猿(さる)の赤身へどっぷりである。どっぷり浸かれる独猿(さる)の内実(なかみ)は宙(そら)に蹴上がる物憂い調子を俗世(このよ)へ響かせ、俺の精神(こころ)を小さく通わす物憂い波状に自己(おのれ)を立たせる進化を得て来て灯(あか)りを付けた。暗い内(なか)へと洋風倣いのホテルが突っ立ち俺の目下(もと)から人間(ひと)の離れる荒い粗目が鼻を劈き、以前(むかし)に憶えた外人交じりの明るい〝赤〟から、一本調子を片手に仕留める、辛(つら)く、弱い、日本の男性(おとこ)が何気の表情(かお)して現れていた。心身(からだ)へ懐ける細い涼風(かぜ)から延道(みち)が絡まり身軽を呈し、俺の足元(もと)から少なく独歩(ある)ける夢遊の主天(あるじ)を招集していた。文句の在り処に気後れして居る俺の目前(まえ)には何気におっ立つ看板(サイン)が見得て、次から次へと延長して行く看板(サイン)の裾には俺に対して頗る手紙(ことば)が暗(やみ)を見せずに並んで在った。
「ホテルのような場所に俺は父母共に泊まって居り、そこにハリエットと前川清も泊まって居て、ハリエットは時折り姿を変えるベイカー先生の教えの通りに、栄養の付く物を、自分の興味を満足させる為にも探し始めていた。ハリエットは、グレー色の木の筒の中に丁度すっぽり嵌って仕舞い、その儘ずうっと滑って行った。板が緩くなった所でも全然立たずにそのまま滑って行った。よく何にもしないで、唯滑って行くなぁ、やっぱ怠け者だ、等と少々馬鹿にしながら、俺は感心していた。漸く止まったハリエットは近くのパン屋まで行き、ベイカー先生に言われたタピカか、ピロカか、又他の名前か、言うスイートメロンパンを買いに行ったようだ。バイキングに、だった。~、~、~、~、~、~、~、~、~、~、~、…。」
延々続いた宴の文句は俺を連れ添い自体(おのれ)を表し、決して見得ない自体(おのれ)の在り処を青空(そら)の下(もと)にて記して行った。俺の躰は文字に連れられお腹を空かし、男女を欲しがる煩悩(なやみ)の虫から暫く、束の間、離れながらに脆味(よわみ)を打ち行く真昼の温風(かぜ)へと脚(あし)を伸ばして撓(しな)んでいった。〝古都の花嫁〟、俺が観ていた彼女の名である。啄ばむ陽気にほとほと打たれ、俺の心は大きく拡がり矢庭に解け入り、入った先には旧友(とも)が居座る無重の粗地(あらじ)が仄(ほ)んのり在って、俺が行くのを待ってたようだ。旧友(とも)は旧友(とも)でも俺と女性(おんな)の両手に跨る器用を手にした男性(おとこ)ではなく、中学時に見た橋本豊を彷彿させ得る現行(いま)に積もれる学友(とも)の様(よう)にて、俺の身近で少々省ける現実描写を小脇に抱え、七転八倒、在る事無い事未曾有に長け得る豪語を以ては仄(ほ)んわり傅き、微笑(わら)う姿勢(すがた)は可笑しくなくとも俺の背後をきちんと知り抜き単座に在った。各自で品(しな)を賄い、並べられ得た美食の数から好きな味など物色して行くビュッフェの景色が前方(ここ)に現れ、俺の気色は生来気取った卑しさからして、ととと、と美味の香へ誘われ始めて正味を失い、学友(とも)の表情(かお)から久しく輝く表現(かお)が出るのを細目に認め、一色冴えない覚悟の許容(うち)にて体をたえた。「明日(あす)」に花咲く気力の水面(みなも)は何時(いつ)とは言えずに白砕(よい)を窺い、衒い続ける外身(そとみ)を見続け温もる話も冷ました儘にて、何にも識(し)らない学友(とも)の背後(うしろ)へちょこんと付くうち文句(ことば)が静まり、すらすら解(ほど)ける人間(ひと)の会話(はなし)が学友(とも)と俺とを匿い続けた。
*
橋本「ここ、今から向かう所、何処(どこ)か知ってる?!」
*
学友(とも)の口から奇麗に零れる言葉の波には愚問も気取れず、今日へ手向ける人間(ひと)の鼓膜へ純(すなお)な気力(ちから)が表れ出した。味気無いほど時が流れて、俺の周囲(まわり)に人が無いのを不思議に問うと、問うた矢先に煙(けむ)に巻かれる陽気な私塾が点々整い、二人の会話は見る見る流行(なが)れて見得ない〝経過〟へ自体(からだ)を潜め、明日(あす)へ手向かう至純の傍(そば)にて独歩に興じる。俺の尾翼は背中に付けられ、空気に解(と)け入る稀有な共鳴(ひびき)へ遁々(とんとん)鳴り出し、響いた矢先は誰にも問えずの〝開かずの間〟に居る、白蛇(はくじゃ)の意識に呑まれて行った。俺と学友(とも)との美談の手数(かず)から白紙に付き添う肴が成るのを遠に知り抜き転々(ころころ)落ち着き、未熟に無いのが未熟である等、私塾を提(てい)する人間(ひと)の見栄には一糸も纏えぬ脆い仕種が波打ち出した。俺の口から学友(とも)の口から、現行(いま)へ辿れる不思議の経過がどおんどん成り立ち暴来(ぼうらい)して活き、落ち着き先には何にも識(し)らない天使が居るのにほっそり気付いて〝ふふふ…〟と微笑(わら)い、学友(とも)の表情(かお)した小さな悪魔は男児を訝る女帝に落ち着き、エデンの園での裸視(らし)を装い悶絶していた。
女体の神秘は神から育てた幾兆限りの恵みの内にて、男性(おとこ)・アダムの体に麻酔を振り掛け、寝て居る間(あいだ)に創り立たせた蛇の言葉の分る女性(おんな)で、罪の咎めに不意と身を寄せ陶酔する内、正味を失くした果実の如くに青空(そら)から堕ち行く孤独を見付けて空転(ころ)がり始めた二人の主観(あるじ)を模造させ生く。蛇の体は女性(おんな)の内にて正体(からだ)を隠せる曖昧模糊足る箴言(ことば)の限りを人間(ひと)へと及ばせ、女性(おんな)が信じた悪魔の文句(ことば)は神と男性(おとこ)に煙を見せ付け堂々巡りの不明の迷路へ、人間(ひと)の定めを具に誘(いざな)う孤独を呈して墓標を抱いた。女性(おんな)に訓(おし)えた蛇の体は自然に問われる感覚(いしき)の許容(うち)では文句(ことば)を問う程固めた立場に立脚して行く正味を添えずに悶着して在り、人間(ひと)の感覚(いしき)はエバの苦言(ことば)に、人間(ひと)を誤魔化す悪魔の陰など見出すのである。
*
「アダムはエバから木の実の事を教わった。人から訓(おし)えられた訳であって、アダムの言葉に嘘は見出せない。しかしエバの文句(ことば)は〝蛇から教わった〟と言い、蛇が話せる根拠も事実も人には知られぬ既成にある為、エバの苦言(ことば)に曖昧さが立ち、嘘を吐き得る樞(ひみつ)を見付けて疑い出すのだ。蛇の箴言(ことば)とは元々エバの心中(なか)に在ったもので、エバ自身の箴言(ことば)じゃないのか?自分が食べたかったから神の目を盗み態と食べ、食べて仕舞ったからには神に拠る罰を受けねば成らぬ事を〝悟り〟により尚識(し)り、その時少しでも気安めに成るよう、道連れに男性(おとこ)・アダムを誘(さそ)って定めをと共にさせたのではないか。聖書にはその景色の後先が無く、それについては私は知らない。となると、女性(おんな)・エバの心内(うち)に元々悪魔が棲んで居り、エバとは悪そのものではなかったか。堕落だ。向上に見せ掛けた堕落だ。女性(おんな)が男性(おとこ)の煩悩(なやみ)の源種(たね)だという事もようく分る…」
*
凝(こご)りを携え俺の元へと素早く取り付く文句(ことば)の波には、学友(とも)の口からするする流行(なが)れる止まぬ楼気(ろうき)がほとほと落ち着き、何処(どこ)へも行けない勝手な集積(シグマ)が俺と学友(とも)との経過に窄まり、経験(かて)を束ねる強いロープは俺と学友(とも)との躰を縛り、何処(どこ)かへ失(き)えない事実の在り処を絶やさぬ儘にて口火を切った。美食の手品(しな)から弛まず流行(なが)れる美味の香りに二人は寄り添い、腹を空かせた仔犬の態(てい)して、ととと、と駆け寄る未熟な行為は学友(とも)と俺から少し離れた盆の置き場へ少々寄らせ、白銀色したステンレスから光射を成らせる見慣れた盆など二人へ取らせて、妙に静まるビュッフェの景色は二人の両眼(まなこ)へ不意に飛び入り、再確認する人間(ひと)の景色にわいわい騒げる虚無の宴が横行するのを、二人の感覚(いしき)は何気に認めて沈黙して居た。木枠に挟まる鉄の棒から発条(ばね)式の反り返りに拠り〝取れるように〟と何枚もに重ね積まれた盆の内から、盆一枚抜いて遣ろうと俺の気力は純(すなお)に立ったが、俺の横から奥まるフロアへ高識顔(こうしきがお)して去り行く女性(おんな)が先程見知ったハリエットである既実を見据え、中々片手に〝一枚〟取れない盆を取るのを既に諦め、ハリエットが持つ〝タピカ〟か〝ピロカ〟か何か言われる〝スイートメロンパン〟に目を遣り体が固まり、彼女の感覚(いしき)に漆黒(くろ)い矢を差す非力な天使を俺と学友(とも)は密かに持ち得、それを観て居た周囲(まわり)の彼等も、我先根性丸出しながらに〝ハリエット〟である女性(おんな)へ目掛けて非難を放てる悪鬼の正体(すがた)を大目に見ていた。猪突に駆られた歪んだ気質が純(すなお)に飛び発(た)ち非道を投げ掛け、肴(あて)に認めたハリエットに向き、
「もっと失敗しろよ」
等言う鬼畜の言(ことば)を再三舐め取り、男性(おとこ)と女性(おんな)の立場の水面(みなも)を好く好く重ねて乱し廻って、白紙に並べた女性(おんな)の情緒(きもち)を理解するのを、男性(おとこ)に彩(と)られた細かな衝動(うごき)は無言に生くまま認めて在ったハリエットの眼(め)は端(はた)から逃げ得る猪突の目をして、誰にも合せず独自を湿らす女性(おんな)の好意を実践して居り、「明日(あす)」へ向けない可笑しな文句を冷たい両眼(まなこ)で読んでいながら、誰にも知られぬ虚無の許容(うち)へと、横手を振りつつ這入らされ得た。興味(おもしろみ)を観て、人を追い遣る刺激に遣られた二つの極(きょく)から、学友(とも)と俺との二つの行為は気怠(けだる)さから成る経過を読み取り、男性(おとこ)と女性(おんな)の鈍い間柄(あいだ)に木の実が咲き得る景色を見付け、感じる儘にてホテルの外界(そと)へとハリエットを出し、不揃い極まる木の実の赤味は空気(もぬけ)に奪(と)られて焦って在った。ちゃんちき可笑しい黒い空気(もぬけ)は闇に紛れる人間(ひと)の現(うつつ)に手綱を取られ、明日(あす)まで生き行く孤高の行程(うち)へと黙々独歩(ある)いてうんざりして居た。白い香味に調子を汲み取り、誰にも何にも孤独に留(と)めない浪漫の宮(みやこ)を確認して居り、確信され得ぬ生活情緒を時の経過へするりと落とし、俺の孤独は世界を透してうんざりしていた。色々仕事が延命(いのち)を閉ざして白雲(くも)の上から立脚して居り、女性(おんな)の横手(おうて)に具に見ていた興味を奪(と)る涼風(かぜ)に宿され、白い景色は男女に彩(と)られて生育(そだ)って行った。
体(からだ)を崩した女性(おんな)の情緒は〝ハリエット〟に観る淡い孤独を記憶へ宿し、俺の無言(ことば)を白紙へ写せる弱気な態度を落着させた。齧り掛けにて、小片(かけら)を落したパンの甘味は行方を定め、女性(おんな)の生気(オーラ)が何処(どこ)かで活き得る「エデンの東」を映写している。俺の心身(からだ)は現行(いま)を離れて何処(どこ)へ向くのか、一向識(し)れない端正(きれい)な孤独を寄せ集めて活き、彼女の文句(ことば)に一途を成せない軽い人間(ひと)への栄華を知らされ、俺と女性(おんな)は立場を明かせぬ〝囲い〟の許容(うち)にて凡滅(ぼんめつ)していた。ハリエットは又、男性(おとこ)から退(ひ)き自分の明体(からだ)を身軽に置き遣り流行(なが)れて行って、男性(おとこ)の姿勢(すがた)が屯して居るフロアの許容(うち)へと逆行していた。逆行しながら彼女の横手(おうて)は俺の思惑(こころ)を他所へ引き抜き、溜息吐(つ)く間(ま)に何処(どこ)へ向くのか、自分の居場所を〝一途〟に眺める気色の許容(うち)へと入(い)り込み始めた。スイートパンには甘味が失くされ、新たな〝甘味〟が堂々付けられ、硝子器に観る淡い明かりが宙(そら)へ向けられ逆行(かえ)って往くのを、人間(ひと)の眼(め)から観る脆(よわ)い視界(うち)にて、指揮を乱さぬ強靭(つよ)い感覚(いしき)へ男女が在るのを眺めて在った。思惑(こころ)へ拡がる男女の脆味(よわみ)が白紙へ根付かす俺の行為へ大手を振り行き、なんやかんやでしゅんとしていた彼女の横目を現(うつつ)に囃して可笑しくさせる。ハリエットが持つパンを観ながら、俺の心身(からだ)も閉腹感(へいふくかん)から空腹感へと次第に高まる孤独の勇(いさ)みに準じて寛ぎ、慌てふためく男女の勇みは俺の生理へ飛び立ち始めた。啓蒙され得る生理の類(るい)には正理(せいり)と称され生味(なまみ)を隠せる軟い手練れが横行して居り、言葉遊びの机上に乗れ得る、飛び立つ感覚(いしき)を啄んでいる。ホテルに彩(と)られたバリエーションから幻想(ゆめ)の〝屯(たむろ)〟を幻惑して行く脆い記述が無数に拡がり、正理に纏わる俺の孤独は感覚(いしき)に寝取った調べの正味を、朝に打ち立て発散させ得た。男性(おとこ)の手腕(うで)には内実(なかみ)が問われて女性(おんな)の手腕(うで)には外見(そとみ)が問われる現代から観る写実の樞(ひみつ)に、神秘に漏れないしどろもどろが一緒くたに成る混沌(カオス)の〝現代(かたち)〟に嫌気が差した。嫌味を憶えて嫌気に駆られた俺の夢想(ゆめ)から本能(ちから)が表れ、明日(あす)の記憶へうっとり割け得る微量の衝動(うごき)が羽ばたき発(た)った。経過に反せぬ俺から生れた虚実の岐路には、〝ラーメン〟、〝どん兵衛〟、即席から立つ鼓動の写りが俺を誤魔化し欲をも満たし、噓の吐(つ)けない俺の本能(ちから)に何等の文句も悪態吐(づ)けない夢想(ゆめ)の独創(こごと)が表れていた。彼女の夢想(ゆめ)には俺から零れた生気(オーラ)の算から誤謬を取り抜き、優しく扱う女性(おんな)の柔手(やわで)が如何(どう)にか斯うにか愚問を付せない〝意味〟の新たが転がされて行く。空転(ころ)がり続ける〝意味〟の藻屑は人間(ひと)の憐れを遁(とん)と取り次ぎ、明日(あす)から今日へと経過(とき)を這わせる酒宴(うたげ)の無形(かたち)を宿し続けて、〝カップ麺〟から事実を取り出す理系の悪義を言葉に這わせ、白い思惑(こころ)に焔(ほのお)を散らせる重味を馴らせる記憶を男女の気色に添わせる儘にて、遠い感覚(いしき)の成れの果てから感覚(いしき)を空転(ころ)がす人間(ひと)の虚実を成り立たせていた。過熱して行く徒党の驕りが宙の彼方へ少々消え果て、届かぬ想いに女性(おんな)の記憶が跨るのを見て、俺の思惑(こころ)は寸での所で理(ことわり)を得た。極めて薄まる〝記憶〟の美味(あじ)には〝演歌歌手〟から滔々聴える夢想(ゆめ)の限度(かぎり)が呆(ほう)っと薄まり、濃くは成らない俗世の記憶に女性(おんな)の妙味は如何(どう)言う間も無く俺を葬り、宙(そら)の果てから俗世(このよ)の果て迄、駆け擦り廻って空転(ころ)んで失(き)えた。俺の心身(からだ)はお湯を求めて在る場所・無い場所独歩(ある)き廻ったが、誰にも識(し)られぬ虚無の極致は新緑(みどり)の僻地へ追い遣られて活き、俺を賄う明日(あす)への主観(あるじ)は細道(みち)を通って嘆き廻った。演歌歌手とは前川清で、宙の極致へ煌々(きらきら)冴え得る紺(あお)を着ながら堂々巡りの白地(はくち)へ赴き、苦心を呈した細道(みち)の上での俺の生気(オーラ)にくるりと振り向き孤独を見せ付け、孤独に活き得る活気の温(ぬく)みは俺の前方(まえ)へとするりと抜け去り、如何(どう)とも言えずの旧い〝極致〟が俺の背後に浮かれて失(き)えた。
お湯を求めて長蛇の列からふらふら零れ、俺の活気は寝首を掻く間(ま)に自然の塒を少々潤ませ、至極担いだ縁(えにし)の祠は人間(ひと)の声から浮んで堕ちた。俺の心身(からだ)が求めて止まない旧い水には到底涸れない緑水(みず)の滴が宙(そら)に流れた一途の星からあっと言う間に生成され生き、人間(ひと)の長蛇を少々横目に追走しながら、形の付かない虚構の頭上(うえ)では白夢(はくむ)がたわって面白くも成る。お湯の水面(みなも)は一つしか無く、幻想(ゆめ)の内(なか)では各自の感覚(いしき)が生成され活き、こうした水面(みなも)の在り処を既実(きじつ)に捉えて不憫の無い儘、万遍無く問う晴嵐(あらし)の夜には奇妙な恋など性(さが)にて忘れ、女性(おんな)の小路(こうじ)は立派に投げ遣る未練の無いまま朴訥とも鳴る。白い白地(はくち)の幸(こう)を観たのは人間(ひと)に象(と)られた集積(シグマ)から見て、何等問えずの旧い下着に放心して在り、精神(こころ)の無いまま記憶を覚ませる暗い音頭を真横に携え、真向きに捕えた赤の夕日は桃源郷からほとほと離れた旧い軒端に散乱している。集(つど)った者等は組(く)んず解(ほぐ)れつ取っ組み合いから軽佻浮薄へ、幻想(ゆめ)の通いが何処(どこ)に在るのか、さっぱり問えない無暗の表情(かお)して、低俗から成る怒調(どちょう)の一途(いっと)へその身を翻(かえ)して小躍りして居た。
お湯の温(ぬく)みが俺の掌(て)にするカップ麺への流れを知る時、何処(どこ)ぞの未熟な奇怪な男性(おとこ)が精神(こころ)を失くした可笑しな虚無へとその実(み)を棄(な)げ捨て、我欲を通せる〝我先魂百まで譲る〟、と到底利かない不様な暴力(ちから)をあからさまにして、最後尾(さいこうび)の程、此処(ここ)から見得ない背後(うしろ)の方からつかつかづかづか歩幅を狭めず独歩(ある)いて近寄り、俺へ対して因縁さえ付け、不味い表情(かお)して伸ばした拳(こぶし)はぱっと直って胸倉掴み、揺るがしながらに男性(おとこ)の精神(こころ)は経験(かて)を蹴破り光沢(ひかり)を当てた。自然から成る光沢(ひかり)の許容(うち)では俺の動悸も脆く尖らず丈夫に横たえ、拙い表情(かお)した男性(おとこ)のモルグ(morgue)が男性(おとこ)の背後(はいご)に仄(ほ)んのり浮き立ち男性(おとこ)の孤独が未練・情緒も刈り取り始めた餓鬼の様子をしっかり射止め、そうして空転(ころ)がる男性(おとこ)の外観(かたち)に取るに足りない不動の重身(おもみ)が表情(かお)を持ち上げ共鳴(さけ)んで居たので、俺の怒りは男性(おとこ)の局部を刈り取る程まで烈火に燃え立ち気丈を拡げ男性(おとこ)に対して切れる衝動(うごき)を幻想(ゆめ)を貫き突き立て始めた。精神(こころ)の内にてぐるりと居直り、男性(おとこ)の生命(いのち)を奪える程度に我欲を高めて萎縮する後(あと)、男性(おとこ)の居所(いどこ)をほとほと探してその眼(め)を開(あ)ければ、白い極致が滔々流行(なが)れる虚無の淵から延命(いのち)が飛び出し、明日(あす)さえ識(し)れ得ぬ個人(ひと)の生き血が沸々煮えて、此処(ここ)まで辿れた〝俺〟の孤独は男性(おとこ)と女性(おんな)の区別を失くして切れる衝動(うごき)に収集付けない〝吃り〟の合図を横目に敷いた。曇った両眼(まなこ)で狂々々々(くるくるくるくる)、々々々(くるくるくる)、きょろきょろきょろきょろ、きょろきょろきょろ、転々転々(ころころころころ)、転々転々(ころころころころ)、自分に問われた周辺(あたり)を気にして細目(ほそめ)に見上げた温(ぬく)みを識(し)ったか、男性(おとこ)の孤独は何処(どこ)にも見得ずに幻想(ゆめ)の晴嵐(あらし)へ一向傾き何も無いのが自然に在った。
「さあ、切れよう」
俺の文句(ことば)はこれまで掌(て)にした涼風(かぜ)に跨る経験(かて)を得ながら女性(おんな)を感じ、蟻の仕草に怖れて止まない強靭(つよ)い吐息を感じても居た。
~脆(よわ)り始めた小獣(あり)の群れ達~(『夢時代』より) 天川裕司 @tenkawayuji
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます