~司春(ししゅん)~(『夢時代』より)

天川裕司

~司春(ししゅん)~(『夢時代』より)

~司春(ししゅん)~

 日頃の人より発する猛暑を凌いで宙へと靡き、口を尖らす俺の幻想(ゆめ)には人が集まる囲いが見付かり熱気が灯され、てくてく独歩(ある)いた俺の宴は人を擁して得意に成り活き、晴嵐(あらし)の初めに憶えた孤踏(ダンス)を、想いの澄むまで堪能して居た。初秋(あき)の陽(ひ)などが燦々照り付く清(すが)しい景色が満載していた。何処(どこ)まで続くか気取れぬ坂道(みち)にて、俺の心身(からだ)は具体を欲して散策して居り、そのまま独歩(ある)いた俺の記憶は何時(いつ)しか観(み)ていた自分の在り処を山へと放(ほう)って得意気に在る。空気の中から人が出て来て熱気を認(したた)め、俺へと対した自体(からだ)の底から余力を発して朗らに映る。人の自体(からだ)は俺から透って幸先掴めず、俺の記憶は感覚(いしき)を片手に浮遊して居た自分の主観(あるじ)を上手く仕留めて静かに鳴りつつ、自分の行くべき執着地等にほんわり置かれた自分の糧など、ゆっくり探して確認して行く柔い気迫を大事にしていた。自分の得意を自分で否めて彷徨するのは、新たな施策を器用に見付けてそれを大事に活用して行く未熟な文士に視点を向ければ、当りの向かない稀有な事象へほとぼり冷め行き、文士の卵は自体(おのれ)を見捨てて空気(もぬけ)に駆られた淡い残骸(むくろ)をここぞとばかりに着用して行く哀れな行為を被(こうむ)るのである。何を文句に楽(がく)を付け活き自体(おのれ)の歩先(ほさき)を射止めて行くのか、全く知り得ぬ悔やみの内にて居眠りし始め、硝子に透った浮世の蓮葉(はすは)を女性(おんな)に宛がい憤悶(ふんもん)している。これまで観て来た柔い女性(おんな)の気配が仕上がり俺を包(くる)んで、これから始まる見知らぬ〝宴〟の細かい準備を精神(こころ)に温存(あたた)め、自分の感覚(いしき)がでっぷり肥った哀れな残骸(から)から抜け出し生(ゆ)くのを、然(しっか)と射止めた自分の〝両手〟に準え観ている。〝山(やま)〟と言うのは俺の感覚(いしき)に充分透った外形(かたち)に有り付き、小鳥が騒いで陽(よう)を帰(き)すなど、矛盾の豊庫(ほうこ)に遮り始めた俺へ対する幻覚にも在り、俺が精神(こころ)を射止めて落ち着き、誰に対して暮らして在るのか、揚々気取れぬ〝厚み〟を呈せた群象(ぐんしょう)に在る。緩い坂道(さか)など、何処(どこ)まで行っても緩い傾斜で、俺の覚(かく)から散々離れたmonk(モンク)の宴は執拗(しつこ)く謳って仰け反り振り向き、翻(かえ)った眼(まなこ)を異様に紅(あか)らめ、俺に対する血色掲げて自面(じめん)の体温(おんど)を紫陽(しよう)に描(か)かせてほっそりして在る。〝山の音〟など人の欲する共鳴(ひびき)に打たれてぐだぐだ崩れて、具体(かたち)の成せない遠い共鳴(ひびき)に薄ら隠れて紋様を知り、俺から隠れた〝哀れな末路〟を巧みに隠して静まり返った遠い美的を静かに挙げつつ居眠りして在る。俺の感覚(いしき)はそうした〝共鳴(ひびき)〟を巧みに通(とお)って算段し始め、淡く担げる〝浮世の懸橋(はし)〟など巧みに賄い薄ら架け活き、激しさ忘れる浮世に生き着き、外界(そと)で騒げる他人(ひと)の〝宴〟へすんなり這入る。初秋(あき)の夜長と昼の〝夜長〟がほとほと落ち合う合流点へと俺の心身(からだ)は暫く透って他人(ひと)から見知らぬ虚無を吐き付け未完を愛し、未完に終えられ謎を遺した他人(ひと)の奇策に順繰り辿って仄(ぼ)んやり微笑(ほほ)えみ、哀れに微笑(わら)える他人(ひと)の限りは限度を知れずにほっそり棚引き、俺の感覚(いしき)を巧く誘(いざな)い宙(そら)へと翻(かえ)って大童に在る。俺の気熱が生命(いのち)を放(ほう)って成らせた大樹は、陽(よう)を象り生命(いのち)を受け継ぎ、継ぎ接ぎだらけの他人の表情(かお)から可笑しな文句を構成した後(あと)、俺へと対せる具現を射止めてしっかり立ち得た。樹(き)から発する人間(ひと)への坩堝は俺の記憶がこれまで観て来た鉄壁(かべ)を講じる淡い残骸(むくろ)を大いに着た儘、俺へ対せる無重の要(かなめ)をしっかり取り寄せ、揚々生(ゆ)くまま各自の愛した古郷(こきょう)へ飛び生(ゆ)き失速し始め、宙(そら)から放(ほう)った水を被(かぶ)れば、忽ち失(き)え行く努力を失い家族を射止めぬ他人(ひと)の未来を散在せる儘、俺の感覚(いしき)へほっそり翻(かえ)って無音に息衝き、具現(からだ)を忘れて無色に化(か)し得た小さな具体(からだ)を、ほっそり和らげ経過(とき)に散(さん)せる、過去(むかし)を掲げて〝水〟へと対する。微分され行く結晶(つぶ)の木霊は〝山〟透った子音(おと)へと小刻(こまぎ)れ、俺から愛せた人への温(ぬく)みは初秋(あき)の涼風(かぜ)へとすんなり這入って身固め始めて、誰から何から鑑賞されても決して曲げ得ぬ美色(びしょく)を放(ほう)って雲散され行く余程に透った未知の家来を従属させ得る。静かに降り立つ〝家来〟の身元は、俺から離れた気色に降り立ち自分を紡ぎ、滅多の事では雨散(うさん)に定めぬ無力を欲して衰退して生(ゆ)く。俺の身元はそうした気色に自分へ取り付く景色を観たまま無性(むしょう)に分れる篝の麓で〝哀れ〟を共鳴(さけ)んだ群象(むれ)を知り抜き、滅法矢鱈に換算され行く清閑(しずか)な山緑(みどり)に彩らせた儘、自分の降り立つ〝山〟の景色を美化に努める遊興詩人へ姿態(すがた)を化(か)え生(ゆ)く。清閑(しずか)な〝音頭〟がどれだけ鳴いても、獣の通れる細い山道(みち)には青い花など一つ咲け得ぬ紫煙(けむり)が立ち行き〝緑〟を化(か)えて、木枠(わく)に灯った可笑しな景色は、そこに潰えた人命(いのち)を携え放浪する内、俺へと懐いた〝人命救助〟が紫煙(けむり)に巻かれて仄(ぼ)んやりして行く。俺の周囲(まわり)は生命(いのち)を絶たれて淡路を通(とお)った他力の霞が幾様(いくよう)豊かにほくほくして居り、古豪と呈した〝救助〟へ際せた人の影でも、竜胆(はな)の落ち行く無暗な気力(ちから)は俺に対して鷹揚である。〝細い道〟には俺から透った〝淡路〟へ辿れる霞が立ち行き、旧い〝木枠〟はほろろに灯せた強い気力(ちから)をほっそり固めた群象(むれ)を退(しりぞ)け俺から独歩(ある)ける無造の琥珀をしっかり射止めて散漫に立ち。淡く棚引く宙(そら)への帰路へは白雲(くも)が講じる白煙(けむり)が立ち込め、立派に仕上がる虚構の畝(うねり)を静観している。怒涛の記憶にすんなり紛れる俺から透った感覚(いしき)の内には、晴れた青空(そら)へとしっかり延び行く竜胆(はな)の吐息が虚構を嫌って落ち着き始めて、如何(どう)でも止(や)めない孤高の宴は気運(きうん)を強請って寸断され生き、俺の脳裏をしっかり翳(かす)める無機を灯して分団に在る。分れた群象(むれ)には立派に象(と)られる人の生命(いのち)が我が身を呈してほっそり立ち込め、思惑(こころ)を謳える仮称(かしょう)を装い題に冠した刹那の文句(ことば)を〝白紙〟に書き留め微笑(わら)って在って、微力を伴い失速する内、俺の腕にも掠め奪(と)れ得る堅い気色に散在した儘、恥辱を忘れる優雅な気配を満喫して居た。〝宴〟に敷かれた冠名(かんめい)とは又、俺から灯った温(ぬく)い気色へ分裂して活き、細かく途切れた各自の小片(はへん)は破れぬ儘にて浮世へ佇み、一向落ちない輝彩(きさい)を灯して生(い)き活(い)きして在る。「夢」と冠した〝宴〟とは又、俺の歩速(ほそく)をやんわり緩めて晴空(そら)へと渡った白煙(けむり)に横たえ微笑して居り、唐変卜から俺へと成らせたやおらの静気(しずけ)に自体を任せてほっそり佇む陽(よう)の試算へ屈折して活き、俺が欲した青い情(じょう)には億尾にも無い脆弱(よわ)い記憶が隠滅して生(ゆ)く無様な波動を観賞している。人の生気が矢庭に通れる〝波動の軌跡(みち)〟には初秋の落ち葉が仔細に色付く俺へと向き得た紅い勝気が静か足るうち奔走して居り、気付き忘れた人への生命(いのち)を初春(はる)の暦に流行(なが)して行くのは軌跡(みち)に根付いた淡い突起に葬られている。そうした流動(うごき)を仔細に採るまま俺を取り巻く無機の気色は景色に紛れて清閑に就き、黄色い萎んが宙へと輝(ひか)った絵巻物から、俺と人とに悠々象(と)られた無様なの主観(あるじ)は幻想(ゆめ)に彩(と)られてねっとり立ち行く〝生き残り〟として俺と人との情(じょう)に気取られ底辺(そこ)へと活き行く人の思考(ドグマ)を縁取り始める。幻想(ゆめ)の底辺(そこ)へと根付けた教理(ドグマ)は一進一退、進まず弛まず、自体(おのれ)の呈せた淡い気色を、自由自在に羽ばたけ活き切る至高の教義(ドグマ)へ追走させ得て、宙(そら)へと浮んだ透った試験管(グラス)に自体(おのれ)を立ち入れ密封して活き、快活極まる孤高の舞踏(ダンス)は野平(のっぺ)り灯った陽(よう)の淀みを裸体に受け入れ、活殺(かっさつ)され行く天変等には繁(しげ)く浮んだ他人(ひと)の行為が充満して居た。しどろもどろに馴らせた羽化には文士のきらいが人へ立ち込め体当りをして、何処(どこ)まで活きても類(たぐい)を観れない淡い荒野が分散するまま自己(おのれ)へ介せた残骸(むくろ)のcoachを真に受け小刻み、すんなり翻(かえ)った昼間の情事に〝燈り〟の観得ない活気を報され憤慨したのは俺へと懐けた初春(はる)の陽気にすんなり通(とお)って自然を象(かたど)る。経過(とき)の狭間で夜雲が流行(なが)れて、見る見る〝無残〟に晴朗(せいろう)際立つ晴嵐(あらし)が過ぎれば、過去に振り向く以前(むかし)の主観(あるじ)は精神(こころ)の白紙を放棄するまま故習(むかし)に識(し)り得た人への煩悩(なやみ)を活殺(かっさつ)し始め、小山に透った淡い路(みち)には、俺の心中(こころ)へ隠し切れない見事の試算が人の気迫にぽつんと吹き立ち、俺の行方を胸中(こころ)に按じて問わず語りに詩(うた)を詠って徘徊して生(ゆ)く。思惑(こころ)成らずも初秋(あき)に満ち得た結束(むすび)の跡には、自然(じねん)の実力(ちから)が見事に宿った景色を携え輪舞曲(ロンド)を置き遣る。白い宙(そら)から小脇に抱えた〝人〟への下りを悠々自適に燻(くす)ねた輩は、俺と独歩(ある)けた紫煙(しえん)の道にも白煙(けむり)の路(みち)にも、堂々豊かに飼育を揺らせる人への御意などしっくり目立って上手と沸き立ち、三寒四温の自然(じねん)の道理はほっそり隠れて効を魅せつつ、人と俺には転んで直って辿り着け得ぬ〝未開の森林(もり)〟など上手に佇み微笑んで居て、微笑を呈する流動(うごき)の端(はし)から脆く蠢く初老の白刃(やいば)がこっそり歯を観せ生きて行くのが宙(そら)から観得ても〝底辺(そこ)〟から見得ても〝混沌・上手〟に浮き立って居た。俺の精神(こころ)は心身(からだ)を預けた不運の生気にほっそり立ち活き、〝混沌・上手〟を巧みに操る宙(そら)の息吹に上々乗り活き、昨日に沈んだ人間(ひと)の具現(かたち)を〝手造り・上手〟にぐらぐら仕上げて混迷に断ち、切られた小片(はへん)は宙(そら)の抵抗力(ちから)に破れぬ内(まま)にて、暫く透った〝山師(やまし)〟の遊興(あそび)に相対(そうたい)している。蛞蝓みたいな光沢(ひかり)の通(とお)った小虫が一匹、大きな気配を未然に掲げて奔走して居た。何処(どこ)へ向けての〝奔走〟なのかが今いち掴めず、表情(かお)を隠して〝狐寝入り〟に徹した我だが、我欲に満ち得た〝宙(そら)〟の翻(かえ)りが遠(とお)に辿れた〝三寒四温〟を自由気儘に描写をし始め、堂々豊かな初春(はる)への傾斜を宙(そら)から伸び込む自体の勝気へ根付かせ生(ゆ)く儘、その内〝徹した俺〟の歩影(ほかげ)は意を失くした無機の内(まま)にて、小鳥が翔(と)び行く弱い景色を堪能して活き、右と左を全く識(し)らない無垢な古式を、漆黒(くろ)い暗(やみ)へと棄(な)げ付け損ねる淡い夢など堪能していて、堂々巡りの波線の照射が俺の額(ひたい)へ縁当(ふちあた)るのには相応(そなわ)り準備が敷かれた派手の余韻(におい)が所々に散滅(さんめつ)したまま体温(ぬくみ)の還りを密かに待ち行く身構えに在る。佇む脚色(いろ)には俺の前方(まえ)にて小さく跳べ得る未色(みしょく)の文化が聡明(かしこ)く頷き揺ら揺ら蠢き、初春(はる)の景色へ行く行く辿れぬ初秋(あき)の気長を充分認(したた)め孤高に棚引き、「明日(あす)」への感覚(いしき)を揚々射止めて得意気に在る。白さに翳んだ宙(そら)の捻(ねじ)れは〝怒涛〟に澄ませた俺への感覚(いしき)を薄ら侍らせ、他人(ひと)から識(し)れない微かの吐息も自然(じねん)に彩(と)られる流行(ながれ)へ向くまま活水(かっすい)され行く流水(みず)の如くに余韻を認(したた)め、自流(おのれ)の果(さ)きさえ気取って燈せる。自然(しぜん)に問われた山の底辺(そこ)から上手く出された〝殺戮隊〟とは小虫に化け得る活力(ちから)を伴う生命(いのち)に有り付き自体を流動(うご)かし、俺の佇む古風な景色に我楽(がらく)を奏でて浸透して来る。透った自体(からだ)は心身(からだ)を灯して俺へと近付き、白砂に見立てた宙(そら)への白路(みち)まで曲折したまま〝意〟を介さず儘にてほっそり立ち行き、人間(ひと)から離れた円らの生命(いのち)を俺と他人(ひと)とに分散する儘、自体(おのれ)の岐路へと向かい就くのは〝人間(ひと)〟から離れた暗(あん)の内にて未熟に極まる。人間(ひと)が配した〝山〟であるから、小耳に挟める人間(ひと)の詠(うた)とは詠吟(えいぎん)豊かな不毛を彩(と)られず孤踏(ことう)を束ね、初めから観ぬ〝人命救助〟の淡い〝脚色(いろ)〟には、山道(とおり)に置かれた人間(ひと)の轆轤が無性(むしょう)に片付く幻想(ゆめ)さえ靡かせ主導を操(と)り行き、揚々画せぬ〝泡(あぶく)〟の脚色(いろ)には、人間(ひと)から彩(と)られて全く落ちない孤独の景色が棚引いていた。七月初めの流動(うご)く感覚(いしき)に俺から象(と)られた景色が上がって上気を介して、八月飛び越え九月と成るのは、常識豊かな自然の放棄に相対(あいたい)して居た。遊泳(およ)いだ記憶は紫煙(けむり)に巻かれた〝軌跡〟を飛び越え木霊を刻み、山へと落ち行く仄かな機影(かげ)には白煙(けむり)を透せた真っ赤な夕日が次第伝(しだいづた)い気色(いろ)を立ち上げ動転して活き、〝山(そこ)〟から始まる「明日(あす)」への生命(いのち)は瞬く間にして活動(うごき)を取り止め、はっきり遺った漆黒(くろ)い小宇宙(そら)だけ〝山〟を根城に佇み始める。佇み始めた〝山への感覚(いしき)〟は俺から始まる人間(ほか)への連動(うごき)へ同調する儘、何に集まり何を越えるか、施行に暮れ行く刹那に居座り耄碌し始め、他人(ひと)から識(し)れ行く仄かな〝宴〟は、茶番と化(か)せ行く新たな活歩(かつほ)へ尽力した儘、透った景色に〝山〟を見て取り誇張を知り抜き、「明日(あす)」へと渡った儚さを観て無気力を識(し)る。稀有な景色を場面に講じて圧力を識(し)り、刹那に小躍(おど)れた人間(ひと)の宴は俺から離れて盲目とも成り、無音に喫した阿弥陀の仕種は〝夏の帽子〟にくっきり表れ鉄格子を知り、他(ひと)が燈せた仄かな細道(みち)など具現(かたち)を見捨てて形成され行く。小虫が浮んだ俺への景色は逆さから観て陽気を象り、淡さを忘れた竜胆(はな)の生命(いのち)は大樹に解け入り円らと成り得て、他人(ほか)と俺とが晴れ間に覗いた雲道(みち)の上では、鉄面皮を彩(と)る無色の大工がひっそり並んで生気を識(し)った。自明を晒せぬ人間(ひと)の残骸(むくろ)は宙(そら)から化け出た夢遊の気色を充分認(したた)め、精神(こころ)の白紙へこっそり落した素描の具(つぶさ)は俺へ解け入る助力(ちから)を固辞して立脚して居る。〝鉄面皮〟に識(し)る、他人(ひと)から欲せた〝山師(やまし)〟の心は、これまで観て来た固有の景色に上々打たれて共鳴(なげき)を識(し)り得た俺が愛せた感覚(いしき)の元にて成り立つのであり、充分温存(ぬく)めた〝三寒四温〟の綻ぶ最中(さなか)で、俺の両足(あし)には枷が付される丈夫な脚力(ちから)が重々祟って人間(ひと)から表れ、俺から観得行く緻密の恐怖は宙(そら)から被(かぶ)った〝水〟に覆われ見得なく成った。

      *

 俺の自体(からだ)は〝小山〟を辿って下界へ降り立ち、緩く流行(なが)れた人間(ひと)の体温(おんど)を揚々知りつつ、〝下界〟が呈した〝寝耳に水〟など自然に解(かい)して孤独を辿れる主観(あるじ)を射止めて丈夫に在った。器用に流行(なが)れる人間(ひと)の小声(こえ)から、何処かで遣ってる講演会など行く行く報され辿って行って、人間(ひと)の体温(ぬくみ)は小声(こえ)を伝(おし)えて俺の気熱は揚々翻(かえ)らぬ気丈を徹してほっくり佇み、始動を兼ね得た空気(もぬけ)の〝宴(うたげ)〟に未熟を感じて嬉しく成り得た。そうした俺から仄かに観得行く霞の透った山道(みち)の向うに、か細く立ち得た道標(みちしるべ)が在り一本調子に根強く在る儘、俺へと対した標(しるべ)の上には俺の温度(ぬくみ)にこっそり識(し)り得た奇怪な文句が記述を擡げる。

      *

「俺が、何処(どこ)かの講演会でも聴きに行こうとして居たのか、緩い下り坂の歩道を歩いて居た時、一人の、少し太めの少年が声を掛けて来た。」

      *

 まるで俺の感覚(いしき)が先走りをして未来の絵図など覗いたようで、それから間も無く、一人の少々肥(ふと)めの少年(こども)が俺の背後(あと)からてくてく付けて来、標(ひょう)に掲げた同じ文句を俺へと呟く。

      *

「ねえ、現場はどこですか?飛行機の墜落現場。僕らマキノプロジェクトから来ました。」

      *

 俺の目前(まえ)にて振舞う少年(こども)は背後や周囲(まわり)に誰も付け得ず、全く一人の気配だけして他の仲間は見得なかったが、彼(かれ)の横から陽光(ひかり)が差し込み、自然に倣った運動なんかが彼の姿勢(すがた)を勢い付け活き、俺の前方(まえ)へと大きく立ち得て、彼の他にも誰か仲間が居そうな気配が俺の周囲(まわり)へふらりと落ち着き、彼の言うのが成る程〝事実なのか…〟と俺の思惑(こころ)は納得して居た。〝マキノプロジェクト〟と彼は言ったが、その実、戦前流行(はや)った〝マキノ・プロダクション〟だと知ってはいたが幻想(ゆめ)の内にて彼の言には俺の疑問を解かした儘にて正体気取れず、確か衣笠・直木と細々遣ってた、川端康成氏の描(か)く『笑はぬ男』のパントマイムが俺の過去からにゅっと挙がって、此処(ここ)で憶えたか弱い温味(ぬくみ)をほんわり和らげ俺へと伝わり、堂々巡りの過去への問いにて、俺の思惑(こころ)は彼を寝かせて放置して居た。

 俺の思惑(こころ)は彼へ飛び乗り有頂(うちょう)を知り抜き小躍りした儘、「墜落、もしかして…」と、少年(かれ)の素顔へ解け入る儘にて彼から発する言葉の意味など具に味わい握(つか)んで行ったが、その後(ご)に続ける彼の話を好く好く聴き付け観照(かんしょう)し得れば、彼の落した〝墜落〟なんぞは最近起った事故の様子で俺には合わず、御巣鷹尾根にて一九八五年(むかし)に起ったあの惨劇から退(の)く自重の畝(うねり)が俺へと現れ俺の心身(からだ)は彼との会話に解け込めないのを具に見て知り少年(かれ)の前方(まえ)からひょいと飛び退(の)き、彼の目前(まえ)へと路(みち)を通した。用途を忘れて俺から遠退く彼の姿勢(すがた)を陰から観るほど細目に認(みと)めた俺の姿勢(すがた)はか弱くか細く、坂の下から緩々上(のぼ)った涼風(かぜ)の威にさえ倒れる姿態(かたち)で、

      *

「あーそうかぁ、いや、八十五年頃に起きたあの墜落事故なら良く知ってんねんけどなぁ~」

      *

など頭をぽりぽり、こきこき掻きつつ少年(かれ)に対して上擦る調子を続けて居たのだ。そうこうしながら、少年(かれ)の呟く実しやかな企画の実(じつ)にはほとほと通(とお)った現行(いま)の強靭味(つよみ)が矢庭に浮んで俺から離れず、少年(こども)が独歩(ある)いた生活歴など独歩に任せて鑑賞して行く俺の分身(かわり)は妙に霧立(きりた)ち、〝遠くの場所から田舎の京田辺(ここ)まで遥々辿った彼等の努力(ちから)はやっぱり現行(いま)にも根強く息衝く。彼等を辿って揚々歩けば、きっとテレビか何かの企画に当って不思議は無い儘、俺の分身(すがた)はテレビに映れるエキストラに成り、暫く見取れる満足にも成る…〟、そんな調子を念頭(あたま)に根付かせ、少年(こども)の姿勢(すがた)と、見得ない彼等に追従する儘、〝気に入るように、〟と俺の熱気は彼等を取り巻く〝壁〟とも成って、彼等と俺とを分け始めていた。

 少年(こども)の歩調は妙に速くて先々(さきさき)行くのに、少年(かれ)を取り巻く無性(むしょう)の景色は生気を保てず経過を見忘れ、少年(こども)の姿勢(すがた)は俺から離れず一向経っても変わらなかった。故に俺には、心身(からだ)を衝動(うご)かす動機が分らず、呆(ぼう)っとしたまま緩い涼風(かぜ)にて頬を流され、熱気の冷め行く淡い経過(とき)等、両手に握(つか)める無様の景色を射落とし得た後、俺の背後で何やら騒めく〝彼等〟の様子が実しやかに微象(びしょう)を携え小さく太くほそく笑むのが照射冴え得る舞台の程度に見て取れ始めた。成る程先から少年(こども)の放(はな)った「マキノ企画」や「墜落事故」等、現実味を帯び、これから始まる〝人のレース〟を世間へ振り撒く宣伝文句は明るく成り活き、俺の景色に彼等の〝土台〟が組み込め得るのも、幻想(ゆめ)の内にて照射され行く虚空の遊戯に相当し始め、俺の両眼(まなこ)は彼等を捉えて放さなかった。

 俺と少年(こども)を少し離れた左後方(うしろ)の辺りに、予定を携え自然に集えるバスの姿が一台、二台、三台集まり、俺から離れた奇妙な熱気をむんむん観(み)せ行くバスの車体(からだ)は陽光(ひかり)に照らされ俺の這入れぬ白壁(かべ)を講じて七色(ななしょく)にも成る。疲れる熱気を車内(うち)より吐き出し、昇降口からぞろぞろ下(お)り行く〝彼等〟の表情(かお)には、目鼻立ちから特徴掴めぬ遠くに浮んだ淡さを火照らせ、〝当て〟の見得ない〝彼等〟の言動(うごき)は少年(こども)を目掛けて独歩(ある)いて来て居た。俺から間近に浮んだ〝彼等〟は脚(あし)は着くのに生気を灯さず、わいわい燥いで笑顔で在るのに陽光(ひかり)の線など〝彼等〟を通(とお)って少年(こども)の背中に当って落ち着く。彼等と俺には柔く浮き行く〝白壁(かべ)〟が立つ儘、〝白壁(かべ)〟に記(き)された見知らぬ景色へ皆(みんな)一緒に落ち込んで活き、何時(いつ)しか青空(そら)から落ち得た初夏(なつ)には暑さを潜(くぐ)らぬ蜻蛉(とんぼ)が一匹自分の死地へと羽ばたいて生(ゆ)く。

 俺と彼等は緩く敷かれた坂道を下(お)り、初夏(なつ)の暑さを仄(ぼ)んやり忘れた平らな舗道(みち)迄とっとと辿れ、そうした舗道(みち)から少し前方(まえ)まで漫ろに歩けば、皆(みな)の背後(うしろ)に巨大な施設が立ち活き始める。照明器具、カメラを担ぐ者、衣装掛(がかり)に化粧掛、台本・台詞に脚色(いろ)を付け行く演出掛に塗装の掛、環境掛に椅子運び、衛生掛に電話番まで、あらゆる気色が総出を醸して人へと寄り付き、俺と少年(こども)を支援して行く〝厚み〟を成しては一体とも成る。そんな彼等に俺も加わり、〝彼等〟の背後に日陰を投げ掛け霞んで生(ゆ)くのは何処かで見知った公民館かで前庭(にわ)に敷かれた広い空地(あきち)は車庫を呈したコンクリにある。微かに鳴り生(ゆ)く柔い騒音(おと)には人間(ひと)の息吹が感じられ得る過去への愁いが忍んで在って、俺と彼等に暫く突き刺す〝鋼(はがね)の音〟など、「しゃんしゃん…」鳴ってはしゅんと鳴り止む弱い努力が垣間見られる。彼等の前方(まえ)には広く輝く昼間の景色が浮んでいながら、喪服が降り立つ空地の陰から車が出入りし、陽光(ひかり)を被(かぶ)った人間(ひと)の死地には表情(かお)の灯らぬ助力(ちから)が伝(つた)って演戯を始める。如何(どう)やら此処(ここ)では、今から始まる慰霊の気色が不断に飛び交い、俺等を迎えた空地の横では陽光(ひかり)に満ち行く黒い車が出入りをしている。何に対する慰霊なのかが今いち掴めぬ〝彼等〟を前方(まえ)に、俺の覚悟はひょいと降り立つ白雲(くも)を観ながら成長して活き、〝飛行機事故にて死んだ者らの慰霊なのだ〟と、らしく仕上がる初夏の悲哀へ対峙を始めた。

 その少年(しょうねん)に、確認の為に話を聞くと、その少年は如何(どう)やら秋田県から来ているようで、〝彼等〟の内にも何人か、東北訛りの者が居るのに俺は気付いた。又話のついでに、俺の想いや疑問に対してけろっと応対して居た内容からしてその墜落事故とは、最近と言っても少々以前のものにて、他の遺族を含めて、此処(ここ)に集えた遺族の心を慰め得る相応の経過が在った事にも俺は気付いて周辺(あたり)を見回し、そうした経過をすんすん歩いた目前(まえ)の〝遺族〟に敬服する儘、俺の心身(からだ)は人間(ひと)の内へと這入って行った。見方が変った俺の表情(かお)には、それまで悲哀に一層堅めた人渦(じんか)の衝動(うごき)は浮び上(あが)らず、遺族の心にそろそろ灯った脚力(ちから)の源(もと)には、陽光(あかり)に当れる無用の強靭(つよ)さが表れ出て居た。そうした陽(よう)へ解け込む空地の人渦(うず)へと後(あと)から後から漫ろ歩きに難なく繋がる別の遺族が到着し始め、初めに集えた幻想(ゆめ)の主観(あるじ)に如何(どう)とも付き得ぬ怜悧に灯って余所余所しく在る。これから何か別の用事がきちんと用意され得て、祭が終れば各自が散らばる予定調和を端(はな)から見せ得る気色が芽生えて、脚力(ちから)を増し行く人渦(じんか)の主(あるじ)は幻想(ゆめ)から外れて用地を配した。刹那(とき)の経過がきちんと成し得た景色であった。

 緩い坂にて佇む頃から、俺の心身(からだ)は少年(こども)を辿って青空(そら)へと根付き、〝彼等〟の灯せた人の〝渦〟等、遠くに眼(め)を遣る傀儡からでも一層採り得た強靭(つよ)さを保(も)ち得て岐路へと就いたが、〝彼等〟の言動(うごき)は俺の幻想(ゆめ)からほっそり立ち去り、空地に集えた〝遺族〟の温身(ぬくみ)もやがては消え去り散らばり生(ゆ)くのを俺の感覚(いしき)は孤高の内にて想像して居る。少年(こども)に対した〝孤高〟の頃から、この〝講演会がある〟との噂を聞き付け、公民館(ここ)まで辿って期待をしたのに、坂から舗道(みち)へと歩いた最中(さなか)にするする漏れ行く感覚(いしき)を紡いで別途が仕上がり、気付いた時には〝講演会〟から〝慰霊祭〟へと雨散(うさん)に飼われた孤独が目に付く。仕方が無いので俺の心身(からだ)は荒れた境地(ばしょ)からてくてく歩いて〝彼等〟へ寄り添い、少年(こども)を抱(いだ)いた浮遊の両脚(あし)から散歩され行く未開の人群(むれ)へと揚々辿り、彼等と一緒に何処(どこ)へ行くのか、新たな〝経過〟を順繰り辿れる弱い葦へと撓(しな)って行った。〝マキノプロジェクト〟と称した淡い残骸(むくろ)を着飾る人影(かげ)には、これまで観て来た俺への〝経過〟が過去から未来(さき)から堂々巡りで〝許容(かこい)〟を付け活き俺から見果てた端正(きれい)な岐路(みち)には何分(なにぶん)豊かな脚色(いろ)さえ付き得て、これから辿れる淡い路(みち)には、何も纏わぬ俺の回顧が一層照輝(てか)って固まり始めた。陽(ひ)が唯燦々照り出す初夏の日である。

 〝マキノプロジェクト〟は漫ろに独歩(ある)いた刹那(とき)の内から恐らく〝遺族〟を迎えて土台を固めて、俺の後方、傍ら、前方(ぜんぽう)等へと、人間(ひと)の生気を俄かに放(ほう)っておっとりし始め、他人行儀に関係絶え行く日頃の怜悧を感じた頃には、俺の心身(からだ)は粛々縮まり、肢体(からだ)の四方(しほう)が全く見えない経過(とき)の小片(はへん)にその身を置いた。そうした頃から俺の肢体(からだ)は順々翻(かえ)って若気を取り留(と)め、二十歳(はたち)の頃から高校生へと、純心豊かな思春に寄り付き滑走して行く。順々返れた若気を見て取り、少々嬉しく朗らへ懐き、俺の夜目(よめ)には陽光(ひかり)が差し込み気丈を手にして、俺の心身(からだ)は何処(どこ)かの校舎を気分の知るまま散行(さんこう)して居た。気分が解(ほぐ)れて〝安行(あんぎょう)〟足る儘、それまで信じた人の道程(みち)から解放され行く無心を知り得て乱歩に在った。何処(どこ)へ着くのか知らない儘にて、無音を感じぬ廊下を独歩(ある)けば外界(そと)さえ覗け、小窓の奥には結構降(ふ)り行く小粒の雨など、素知らぬ表情(かお)して仄(ぼ)んやり歌う。幾つか伸び行く木目(きめ)を呈した廊下の表面(かお)には、小窓を通(とお)って薄ら佇む陽光(ひかり)の輪郭(かたち)がしっかり浮き立ち、くっきり透った自分の体格(かたち)は俺から離れて他人顔して、雨と同じく見知らぬ景色を仄めかせている。現実には恐らく見た事が無い校舎と廊下とを行き、退屈(ひま)に成り得た俺の心身(からだ)は行く行く通(とお)った暗い〝廊下〟を逆行したまま門外へと出て、小窓から観た中庭(にわ)を通(とお)って別の順路へ辿って見ようと、不思議に誘われわくわくして居た。独りで憶えた期待でもある。俺の心は夢遊を呈して彷徨して居り、か弱い自分を雨に打たせて仕事を見付け、自分に課された豊かな自然に相対(あいたい)した儘、微かに浮んだ多忙を味わい〝やおら〟を冠した。心身(からだ)が小躍(おど)って雨の内(なか)まで自分を律して這入って行ったが、やおらに衝動(うご)いた気忙(きぜわ)を仕留める俺の四肢(しし)には、雨を打たせる自然の力が如何(どう)でも全く妙を呈して、俺に懐いた故習の〝宴〟を奇麗すっかり改竄したのだ。〝言い得て妙〟とはこの事である。俺の関心(こころ)は校舎を離れて外界(そと)に在るのに、未だに引き摺る家屋の独気(オーラ)に清閑(しずか)を窺い、まったり灯った自然の張羅を新たを知るまま着熟してある。誰に言っても誰から観得ても、俺が相(あい)したこの日の感心(こころ)は引き取れぬのだ。そうこう信じて俺の意図には、光沢(ひかり)に止(と)まった〝夢遊の感覚(いしき)〟へするする絆され、在る事無い事、誰をも観ぬまま注意を射止めて、燦々足る〝雨〟の内へと埋没し果てた。

 俺が解(と)かれた〝校舎〟の内実(なかみ)は高校時に観た独気(オーラ)を仕向けて静かに在りつつ、佇む間際にふいと擡げる光沢(つや)の内実(なかみ)は中学時に観た淡い斑気を揚々興せる〝雨散〟にも似て得体が知れない。俺の心身(からだ)は心と身(からだ)が分離して行き、四方(しほう)に散り行く孤独の小片(かけら)を無暗矢鱈に拾い集める〝無体〟を通して解体され活き、〝二つ〟に芽生えた〝波紋〟の言動(うご)きは宙(そら)へと還った〝淡い通度〟を即座に独歩(ある)いて活気が付いた。俺の心に半分敷かれた主観(あるじ)の記憶は高校時に見た光沢(つや)の最中(さなか)へ独歩(どっぽ)を始めて勢いが付き、物の陰からこっそり生れた疎らの人には軽い会釈で世渡りをした。一方気取った俺の心のもう半分には、中学時に観た憧れなど在り、孤独を射止めた狂った乱歩へ歩速(ほそく)を上げて、在る事無い事、二重写(にじゅううつ)しで混沌(カオス)に活き行く哀れな残骸(むくろ)を着飾り始める。何方(どちら)の〝自分〟も雨に打たせた未熟の乱華(らんか)に華咲くのであり、白い感覚(いしき)に無重に認(みと)めた白衣(きぬ)の裂かれた人間(ひと)の労へは、ちっとも向かれぬ固陋が祟って雨散(うさん)を纏得(まとえ)る。そうした〝螺旋〟が更に渦巻き螺旋を描(えが)けず、〝自分〟の感覚(いしき)に平らと成り得る虚空の宙には幻想(ゆめ)を描(えが)いて、俺の意識は孤高を描(えが)けぬ〝校舎(かこい)〟の許容(うち)にて散在して居た。人間(ひと)が居るのに気配を辿れぬ、耄碌して行く感覚(いしき)の許容(うち)にて、俺の肢体(からだ)は〝孤独〟に根付ける〝他力〟を知るまま睡魔に打たれる。独歩(ある)き疲れた虚無の許容(うち)から、如何(どう)とも言えない少年(こども)の姿勢(すがた)が返って来て居て、彼を介せる人間(ひと)の残骸(むくろ)は〝億尾〟を熱して賛歌を挙げ行く。小窓に灯った人の気熱は雨を観るうち小雨を知り活き、自己(おのれ)の辿れる淡路を見付けて算段したのだ。算段してから、暗い物陰(かげ)からひっそり灯った気配が現われ、俺の傍(よこ)へとこっそり灯せる〝哀れな呼吸(いき)〟など手軽に仕留めて傲慢にも成り、俺の背中は〝彼等〟に見取れる盲唖(もうあ)の如くに零落れて行き、土台を呈せぬ未知の懊悩(なやみ)へ踏ん反り返って落胆して在る。落胆なのか落着なのか、が然(はっき)りし得ない猛火の許容(うち)にて、俺への倣いは郷愁から観て独唱し始め、俺を見詰めた豪華の厄日は一目散へと未熟に散り咲き、人間(ひと)の渦(らせん)へ静かに認(みと)めた鬱の気色は、小さな吐息に自然を晒して俺と人とを合算(ごうさん)して行く。勝手を知らない俺の〝夜目(よめ)〟には、徒労が落ち着き幻想(ゆめ)が現われ、人と俺とが〝無暗〟を配せた記憶の温度(ぬくみ)は淑やかとも成り、成り着く頃には俺の気配は泡(あぶく)に散り行く七色(ななしょく)を観て、遠い以前(むかし)に試算を付け得る終止符(ピリオド)を見て人へと渡った俺の経過は暗(やみ)へと還る。

 雨の内(なか)へと轟々唸って這入った俺には〝雨〟に解(と)け生(ゆ)く死太い覚悟が鷹揚に在り、何処(どこ)でも生き得る小さな〝覚悟〟は俺の掌(て)に乗り快調豊かで、暫く失(き)えない自分の領土を分散して居た。唯、これから始まる〝奇妙な宴〟に、服を濡らして気忙(きぜわ)を知るのを余程に嫌った俺故の事。俺の周囲(まわり)は奇妙に仕上がる、奴隷を射止めた雰囲気(くうき)の流行(ながれ)が仄(ほ)んわり佇み、紅(くれない)から成る〝雨の雰囲気(くうき)〟に俺の分身(かわり)は俄かに鳴りつつ、透明色した人間(ひと)の記憶を巡回したので、人間(ひと)の気配はそんな俺から片時離れず、平らに咲け得る独気(オーラ)の坩堝に屈(しゃが)んで居たのだ。〝目的地〟は未(ま)だ、遠い記憶に散行(さんこう)した儘、小雨を見上げて人間(ひと)の温身(ぬくみ)を追い駆けて居た。その〝目的地〟へ行く迄に俺は一度晴れた夕焼けを見、又、漫々(ぞろぞろ)と優しく嬉しく出て来た俺の旧友のような人群(ひとむれ)をその夕焼けの内(なか)で認(みと)め、うち何人かと知り合う事が出来ていたのだ。緩々流れた空気の果てにて、一人ぽつんと此方(こちら)へ歩いた少年(しょうねん)が居た。先程から居る、太目で野生児のように少々逞しくもある少年であり、陽(よう)に靡いた短髪(かみ)を見遣れば、緩々流れる涼風(かぜ)へと紛れて、人群(むれ)へ付き添う女性(おんな)の気配が不意に挙がった。夕陽に暮れ行く刹那同士が真横に被(かぶ)った麦藁帽子(ぼうし)に隠れて、俺の目前(まえ)からするりと抜け活き、何処(どこ)か果てない盲唖の宙(そら)へと追い遣られて行く。記録掛の女性(おんな)のようだ。少年(こども)が歩いた経過(とき)の軌跡(あと)からふらりと出で立ち俺と一人へ現れ出たのは早々殊更特別でもなく、俺の心中(こころ)に生れた小声(こえ)へと期待の向きさえ巧く拾えた結果でもあり控え目でもある。そうして出て来た女性(おんな)の姿態(すがた)は陽(よう)に攫われ活発なれども、ふらと視線を離そうものなら忽ち失(き)え行く気楼にも似て脆々(よわよわ)しく在り、俺の思惑(こころ)へきっちり役割(ルール)を堅(かた)めて這い出た少年(かれ)の元から、矢庭に遠退く気配すら見せ颯爽とも鳴る。共鳴して行く俺と彼女の気配の裾には、何時(いつ)しか止まった「明日(あす)」への景色が雲散しており、彼女の記憶は少年(かれ)から離れず、共に独歩(ある)ける予兆をすら立て俺の前方(まえ)へと闊歩して行く。少年(こども)の短髪(かみ)から対照され行く女性(おんな)の黒髪(かみ)には輝きが在り、陽(よう)を受け得る小さな線には斜に構えた身震いが立ち、目立った頭髪(あたま)の頂には又護謨で結えたポニーテールの丸味が翻(かえ)り、底から背中へすらりと落ち着くやおらの流行(ながれ)は俺を初めに男性(おとこ)を惑わす強靭(つよ)い白壁(かべ)など真向きにたえる。額(ひたい)に掛かった前髪などには涼風(かぜ)に任せたか弱さが在り、少年(こども)から擦(ず)れ俺へと跳び付く少女の色香(いろか)は目にも映らず気力を誂え、孤独に慣れない女性(おんな)の脚力(ちから)は俺と少年(かれ)とを充分仕留めて微笑(わら)って在った。彼女の呈した瞳は大きく、一般(ふつう)から観て可愛らしさの少々活き立つ奔放さえ彩(と)り従行(しょうこう)して在り、何に従い何処(どこ)へ向くかを、男性(おとこ)の知れない暗(あん)の内にてひっそり隠して夕日の内へと沈んで行った。恐らく、彼女だけ知る目的地へ迄、何かに誘われ独歩(ある)いて在るのだ。女性(おんな)の瞳は烈しさをも知る世相から漏れ敗退して活き、俺と少年(かれ)から真向きに去り行く活力(ちから)を呈して落ち着いて居た。俺の思惑(こころ)はこうして独歩(ある)いた彼女を見て知り、何時(いつ)しか遊んだ幻夢(げーむ)の内からやおらに跳び付く物影さえ見て、夕日に沈んだ女性(おんな)の気配に静かにか弱く馴らされ始める男性(おとこ)の脆さを感じても居た。少年(かれ)の思惑(こころ)は彼女の気色へ揚々懐き、涼風(かぜ)が吹いても一向飛び去る脆(よわ)さを知らずに、晴れやかに成り、俺の前方(まえ)では何にも謳えぬ身軽を手にして空々(からから)鳴る儘、陽(よう)を受けつつ次の場所まで転がり始めた。機会(タイミング)の好い経過(ながれ)を見て取り俺の胸中(むね)には彼女へ寄り付く拙い気色が揺ら揺ら上がって身(からだ)も寄り付き、女性(おんな)の決意を逆手に採り得る脆(よわ)い気迫は彼女の足元(ふもと)で空転(ころ)がって居た。陽(よう)が昇った坂の麓で彼女と俺との華奢な気色が蓑を剥ぎ取る微(よわ)い涼風(かぜ)にも相対(あいたい)して行く。俺はそれから彼女へ近付く覇気さえ認(みと)めず、女性(おんな)の躰を包(くる)み始めて、滔々流行(なが)れる世間の騒音(おと)へと片耳立てつつ彼女の言動(うごき)へ追従(ついしょう)して行く。そうする間(あいだ)に彼女と俺とは仲に空転(ころ)がる刹那(とき)の歯止めを一層易しく認(みと)め始めて、後先知り得ず多分に話せる機転を見付けて機敏と成り得た。彼女の口端(くち)から仄かに流行(なが)れる文句(ことば)の色葉(いろは)は群陽(ぐんよう)にも敗け、男性(おとこ)の息衝く俺の元から陽(よう)へ解け込む気力(ちから)が無いのを彼女の幼心(こころ)は機微に誘(さそ)われ知る処と成り、世間に流行(なが)れた所謂〝御託〟に自ら偲んだ迷いは打ち負け、彼女へ懐いた遠い記憶は憧憬さえ観ず綻び終(つい)えた。そうした挿話に彼女が辿った過去の軌跡(あと)などくっきり挙がって俺へと這入り、纏わり付き出す彼女の魅力が俺の足元(もと)から一向離れぬ悍ましさを魅せ彼女の立場は独気(オーラ)を従え輝いて生(ゆ)く。会話に上乗り、彼女の文句(ことば)を好く好く聴けば、何でも彼女は坂道(ここ)まで来るのに家族を連れ添い来て居たらしく、「お母さんが直ぐそこに居る…」と言うような事を、朗(あか)るく返して微笑(わら)って落ち着き、そうした彼女の〝朗(あか)るさ〟から出た妙な気迫は警戒にも採れ、俺の思惑(こころ)は彼女の足元(もと)から淋しく離れて、独りで懐けた女性(おんな)の魅力に縋って在った。

「もしやこの娘、俺と坂道(ここ)にて一緒に居る事、否、俺とこうして会話(はなし)をしながら愉しむ事には、何にも興味がふらとも上がらぬ燻る温身(ぬくみ)に巻かれてあるのか?はた又、恋への一歩に俺の気配は役不足にて、自分へ寄り添う未知の男性(おとこ)と相(あい)して居るのか?躊躇しながら話す表情(かお)には俺の温身(ぬくみ)を離して活(ゆ)き得る女性(おんな)の強靭(つよみ)が輝(ひか)って止まない。そういう事なら彼女に憶えた微かな〝気迫〟も道理に落ち着き知る処と成る。彼女の瞳は既に離れて、俺から上がった別の男性(おとこ)に紐解かれている。彼女の心中(こころ)から出た孤独の一線(ひかり)は陽(よう)に紛れて解体され活き、やがては透った一眼(ひとみ)を掌(て)に取り落ち着いて居る。どうも坂道(ここ)での彼女と俺には安い逃避は現れないまま彼女の口端(くち)には気高く曇った白壁(かべ)が落ち着き俺へと対する。彼女と俺には好機の口など一切開かぬ安い息吹が這入ったようだ…」

      *

 俺はくどくど彼女の周辺(あたり)で愚痴を呟き雲散して居り、彼女の眼(め)からは一向語らぬ重い気色が発され続けた。俺の角(かど)から心中(こころ)の丸味へ、少々流行(なが)れる思いの丈など口を丈夫に辿って行ったが、彼女に向き出す想いの形成(かたち)は何処(どこ)へも辿れず真っ直ぐに在り、俺から離れた彼女の胸中(むね)へと静かに這入って充満して居た。俺の生粋(もと)から外れた〝愚痴〟には、娘に対する毒気を含んで黄色く染められ、陽(よう)を拝した俺の〝謝辞〟には彼女を凍らす魅力(ちから)が失(な)くなり〝堂々巡り〟の道程(みち)から返った僅かな〝気迫〟が散在していて、〝毒気〟を含んだ一語の脚力(ちから)は、彼女の頭上(うえ)にて揚々輝き、彼女の眼からは彼女を射止める惰力(だりょく)が祟って毒々しい儘、美味さえ誘える俺の独気(オーラ)は彼女を攫って孤独に在った。そのうち知らずに経過(とき)が流行(なが)れて、俺の思惑(こころ)は彼女を放(ほう)って確立して活(ゆ)き、陽(よう)の降(ふ)り行く新たな景色に、うっとり身構え対峙をする儘、自分の不様を非道(ひど)く気にして、彼女の目前(まえ)から失(き)える努力に試算を講じた。彼女の目前(まえ)から自分を失(け)すのは容易ではない。そうこう想って算段して居た俺の前方(まえ)から彼女の姿態(すがた)の観得なくなるのが経過(ながれ)に従い簡単だった。失(き)えた彼女の白い眼(め)からは、俄かに上がった〝宙(そら)〟が転じて暗雲(くも)を呼び寄せ、俺の精神(こころ)を未熟に取り巻く彼女の尽力(ちから)は、人間(ひと)から離れた見慣れぬ〝分身(おれ)〟さえ体好く隠した。俺の前方(まえ)から〝彼女〟が失(き)え生(ゆ)く完全無欠の〝白壁(かべ)〟に見取れた淡い坂での景色でもある。なに、〝不様〟を気にした俺の孤独が彼女を意識し〝恰好〟を付け、自分に似合った〝気配〟を着替えて耄碌して行く隙間に認(みと)めた〝景色〟であるのだ。その為誰もに映った朗(あか)るい場面は早々映らず、他人(ひと)に説き得ぬ〝景色〟へ浮んだ陽(よう)を知りつつ、陽(よう)の麓でぱたぱた羽ばたく彼女の輝体(きたい)は俺に隠され見得なく成り得た。それだけである。

 彼女の目前(まえ)には逃走して行く俺の〝分身(かわり)〟は表情色(かおいろ)落して従順(すなお)に有り付き、気の向く儘にて本能齧って機体を取り付け、意志の早さも健気の早さも経過(とき)の行くまま丈夫に廻され、俺から芽吹いた彼女への気は、やがては相場を操(と)り行く気勢に乗じて悔しさを知る。無念へ乗じる俺の分身(かわり)の単色主義(モノクロリズム)は成形(なり)を潜めて、口火を切り出す世間の目からも遠く離れて非常に落ち着き、見慣れぬ俺の経験(かて)には好く好く光った女性(おんな)の香りが転々(ころころ)空転(ころ)がり、行方を晦ます近しい〝息吹〟は彼女に止(と)まらぬ〝早さ〟を具えて活き活きして来る。〝活き活き〟し出した無機の〝息吹〟は、近しい人間(ひと)から首を擡げてすうっと失(な)くなり、金剛石(ダイヤモンド)の固さと明かりを非常に射止める別の女性(おんな)へ、未知から離れて容易く身軽に飛んで行っては土台を誂え、〝いやに輝く「謎の女」〟を逆手に見て取る気丈の眼(め)を知り、人間(ひと)の末期を揚々看取れる強靭(つよみ)を具えて成長して生(ゆ)く。彼女の目前(まえ)から遁走していた俺の〝分身(かわり)〟は俺へと還り、巧く辿れる〝気丈の岐路(みち)〟には彼女の肢体(からだ)が放られ置かれた頼り無さなど緻密に描(か)かれ、薄ら灯った絵図が仕上がり、俺の記憶は分身(かわり)が観て来た敬虔(かて)を睨(ね)め取り自活に備え、はっきり見知った自分の本心(こころ)を揚々語れる足場を固めて活力(ちから)を見付けた。〝母親が出て来たらどうしよう…。彼女の歩いた軌跡(あと)を辿って、俺と彼女が自由に活き行く自然に乗じて憤慨したなら、俺の姑息は如何(どう)して活き抜き、落ち着けうるのか…〟、そうした角(かど)から俺の本能(ちから)は鎌首擡げて灼熱を識(し)り、「明日(あす)」を忘れた賛歌に頼って合唱して生(ゆ)く。俺の煩悩(なやみ)は自然の塵(ちり)から生成され行き彼女へ目掛けて放られて生(ゆ)き、噂に隠れる良からぬ事など、〝彼女〟に芽吹いた娘に対して試みようなど道理の通らぬ未熟を愛して瞑想して居た。

 白さに透った夕暮れを見て、俺の躰は娘に被さる経過を覗いて〝早さ〟を見知り、娘の肢体(からだ)の右傍(みぎ)の影にて、娘を按じた母親(おや)の姿勢(すがた)がほっそり在るのに揚々気付き、先程迄した試算の残骸(かたち)は捨て置かれた儘、俺の姿勢(すがた)は娘と母とに巧く連れ添う供と成り得て会話をして居た。母と娘は輪唱する程互いの気配を上手く取り寄せ発声(こえ)として活き、俺の明かりを気丈に意識し身軽に備えた〝女性(おんな)の会話〟を無駄に仕立てて威勢を取り付け、俺の煩悩(なやみ)が巧く這入れぬ白壁(かべ)を立たせて立場の影には、二人が隠れる空間(すきま)など無く、静かに謳えた男性(おとこ)の渋さが味覚を狂わせ、女性(おんな)の芳香(かおり)を具に吟味(あじ)わう生粋(もと)の強靭(つよ)さを葬っている。女性(おんな)の気配にしどろもどろを突き返され行く男性(おとこ)の脆(よわ)さを想像したなら、女性(おんな)の私情に容易く取られた俺の背後に、女性(おんな)の息吹が上手く咲き得て孤独を象(と)るのは何程でもない。しかし、その母の姿は、自分が連れ添う娘から発(た)つ輝彩(きさい)を横手に、〝母親〟と呼ばれるには少々年老(としお)う気力を含めて竦んでも居た。娘から発(た)つ仄かに浮んだ若い魅力が、陽(よう)の解け得る空気を背にして膨張して活き、俺の思惑(こころ)を富ませたからかと、俺の思惑(こころ)は始終に浮き立ち算段して居る。娘の出所(でどこ)は自然に浮き立ちくっきりして来て、俺の以前(むかし)が何時(いつ)しか備えた幻夢(ゲーム)の内だと呟き仄(ほの)めき、土台構図(どだいこうず)は日本から出た中国に在り、〝三国志(六~八)〟という歴史物(れきしもの)にて清々しく在る。黄金色した田舎の景色が都会の温度を密かに夢見て唄って在って、回顧(レトロ)に根付いた本能構図は俺の胸中(むね)から平々(ひらひら)零れて〝場面〟へ降り立ち、幻夢(ゲーム)の内にて俺が創った〝司春(ししゅん)〟というのに揚々似付いてその者とも成り、絵面(えづら)ながらに密かに恋した〝司春〟に対する恋心を見て俺の孤独は我をも捨てた。亡失して行く〝我〟の内にはこれまで知り得た恋への秘密が恥辱を掻き立て騒いで在って、司春を据え置き、自分に宿った全ての残骸(むくろ)は当てを見ぬまま複雑とも成り、嗣業を保(も)ち得て所々で相対(あいたい)され行く狂った孤独は出口を知らずに徘徊して居た。司春は幻夢(ゲーム)の内から気色と身(からだ)を無性(むしょう)に携え現(うつつ)へ出て来て、暗い雲から陽(よう)を遮る人間(ひと)の手を借り涼風(かぜ)の手を借り、俺の目前(まえ)では温(ぬく)い他人顔(かお)してつつつと歩く。俺の気持ちは彼女を観てから白壁(かべ)へ打(ぶ)つかる活力(ちから)を和らげ生気を通り、何処(どこ)かで被(かぶ)った陽光(ひかり)を覚えてどぎまぎ独歩(ある)き、未熟に生育(そだ)った人間(ひと)への〝恋〟など懐手にして放り置く儘、見知った彼女の方では恬としたまま外面菩薩で衝動(うご)いてくれない。揚々透った俺への気配に、割腹するほど律儀を損ねた彼女の態度(かたち)は、俺へと跳び付く夜叉を呈して微動だにせず、俺と彼女の周辺(あたり)一面血の海にも似た紅(あか)い陽(ひ)を寄せ冷笑(わら)って在った。彼女の思惑(こころ)がふらと呈した柔い向きには春風(かぜ)の落ち着く寝床を冴えなく苗床冴えなく、俺の精神(こころ)へ淋しく象る生娘(むすめ)の無聊を筆に流して色香を喩えう哀しい〝知的〟が余命少なに説明され行く。俺の創った〝司春〟というのは娘で在りつつ軍師で在って、知的能力〝九十九〟との完璧(かべ)を晒して立脚して在り、戦闘物(せんとうもの)から戦略物での男性(おとこ)を愛で行く俺へ対すと、少々か弱く成り立つ脆弱(もろ)さを謳って女性(おんな)へ還る。喧喧囂囂、戦(いくさ)の火蓋があちらこちらで切り落され行く戦国時代の華でありつつ、その身に咲くのは常に拙い知略の限りで、俺から離れた興味に暮れつつ。擡げる首には牡丹の咲き得ぬ女性(おんな)の生身が朧に翳り、既に遠退く〝恋〟への帰途へは一向経っても揚々就け得ぬ危険な孤独が身構えてもいる。俺から離れた〝彼女〟の表情(かお)には〝拙さ〟に見た聾唖を語って自分を見忘れ、滔々着け得ぬ道標(しるべ)を見た儘、自分の温床(とこ)へとすんなり逆行(もど)れる脚力(ちから)が光って気の毒さえ識(し)る。俺の乱心(こころ)は彼女を観るうち催し始めて、彼女が通(とお)った奇跡を辿って懊悩(なやみ)を知りつつ、自分へ課された無味の真逆(まさか)に逆転して活き彼女を愛せた。司春の表情(かお)には如何(どう)にも解(と)けない無意識が在り、黄色く廃れた初春(はる)の息吹が共鳴(な)いて在ったが、俺から離れた女性(おんな)の色香が如何(どう)にも肥え生き艶めかしい儘、自分で独歩(ある)けた宙(そら)への帰路には黄金(きいろ)に輝く純心(こころ)が騒いだ虚しさが在る。俺から飛び出た微かな純心(こころ)が騒いだ虚しさが在る。俺から飛び出た微かな乱心(こころ)に煮え切らない儘、〝司春〟の情(こころ)は現行(いま)へと行き着く脚力(ちから)が漲り褐色を知る。俺へ敷かれた無欲の〝幻夢(ゲーム)〟は「明日(あす)」を知る内ほとほと弱り、解体され行く無限の〝帰路〟へと彼女を連れ添い「世界」を知った。「世界」の出所(でどこ)は終りの成らない無機に転じた躍動から成り、孤独を見知らぬ男女の迷惑(まよい)は儚くさえ成り一本道(みち)を敷き遣る。司春の情(こころ)は俺の思惑(こころ)へ近付けなくとも、両翼(つばさ)を散らせた虚空(そら)へ転じで寝床を見付けて、淡く呟く死闘の行方は俺の思惑(こころ)へ同化を始めた。こうした経過の〝終り〟の最中(さなか)へ俺と彼女は隠れて在ったが、涼風(かぜ)の吹き着く黄色の原野(げんや)に二人で降り立ち、二人の孤独は〝宙(そら)〟へ返らず現行(いま)を観ている。仲の切れない、連鎖して行く二人の感覚(いしき)は、孤独顔した虚空を忘れて幻夢(ゲーム)に花咲き初春(はる)へと付き添い、現行(いま)に見えない男女の理想(ゆめ)など掌(て)から零れて白砂へ根付き、白い根からは夢見顔した〝二人の記憶〟が不断に脚色(いろ)付き頼もしかった。司春の瞳に初春(はる)に唄える鼻歌交じりの柔いポエムが直立していて、俗世の人渦(じんか)へ姑息顔して巣作り始める〝生身〟の女性(おんな)は寄り付かない儘、淋しい荒野にぽつんと置かれてか弱い白光(ひかり)を放って在ったが、俗世の全てを容易く捨て得た俺の背後は人気(ひとけ)を忘れて彼女を座らせ、俺の幻想(ゆめ)からぽんと浮き出た司春(かのじょ)の記憶は、現世に象(と)られぬ俺の理想(ゆめ)まで賄い始める。現世の俗女(おんな)に絶望して居た俺の所へ誰にも知られずこっそり生き得た司春(かのじょ)の残香(かおり)は情(こころ)を謳い、俺を連れ行く新たな脚力(ちから)に生命(いのち)を傾け微笑んで居る。俺の乱心(こころ)は唯々司春(かのじょ)を想って衰退して生き、日暮れの始まる遥かな原野を封印した儘、彼女の辿った奇跡の経過を逆行するまま温度を上げた。司春(かのじょ)からでもくっきり知れ得る体温を保(も)ち、全てを見下し馬鹿にして生(ゆ)く同期を見捨てて幾分揚々、俺の心身(からだ)は現世を終らせ、底に根付いた全ての他人を葬り去った。有形(かたち)に成らない他人の主観(すがた)は確立され得た許容(へや)の内(なか)でも当てを見付けて騒いで在ったが、土着して行く生来(もと)の煩悩(しげみ)が彼等を覆って見得なくしたので、彼等の独気(オーラ)は嗣業を忘れて人間(ひと)をも忘れ、理想(ゆめ)も現(うつつ)も炎に巻かれる〝絵巻〟に呑まれて滅殺(めっさつ)され得た。彼等の生れた吉日なんかは〝絵巻〟に描(か)かれた素描と一緒に消滅して行き、彼等の主体(からだ)は何処(どこ)から来たのか、何にも知られぬ謎だけ残して遠方に在る。許容(かぎり)の敷かれた人間(ひと)への絆に、〝他人〟を称した屍(かばね)は呑まれて脚色(いろ)さえ焼かれ、模範が無くては何にも成らない自分の主観(あるじ)に幻滅して行き、やがては失(き)え行く人間(ひと)の運命(すがた)に、独りで悶々苦情を吐きつつ神秘(ベール)を蹴破る。蹴破る果(さ)きには以て生れた〝予測調和〟が如何(どう)にも組まれず虚空(そら)と宙(そら)とが繋がり得たので、他人を言動(うご)かす哀れな余裕(ゆとり)は記憶に寄り付き無意味を識(し)った。現行(いま)に息衝く老若男女の若い者から殺され始めて、果ての観得ない無心に捕われ欠伸をする儘、〝無意味〟を識(し)り得た気色に生れて再生して生(ゆ)く。円らな瞳は人間(ひと)が保(も)ち得た私産に在れども、虚空に呑まれる世界の内には発揮を知らずに衰退して活き、自分と違った他人(ひと)を見遣れば、忽ち殺意を覚えて群がり始めて、多勢で無勢を滅殺(めっさつ)して行く飢餓の門へと自己(おのれ)を押し込む。押し込む儘にて経過(とき)に沿い行く知識に溺れて波紋を観る儘、家畜や鬼畜の生れた場所さえ把握出来ない無能を知らされ四肢(てあし)が捥(も)げた。捕まえないまま歩けない儘、人間(ひと)の許容(かぎり)は我欲に操(と)られる輝彩(きさい)を識(し)りつつ、男女に生れた生来(もと)の愛まで利損を算(さん)する醜さを識(し)り、こうした醜態(すがた)を正しく認(みと)めて謳う人間(ひと)には、消された未来が約束され得て、如何(どう)にも解(と)けない幻想(ゆめ)へ対する期待が活きつつ無頼が灯され、「明日(あす)」をも知れない我欲が吠え行く綻びが在る。〝二分(にぶん)〟に溺れた他人(ひと)の両脚(あし)には、黒い無形(かたち)が土台と成りつつ虚空が配され、宙(そら)を示した幾多の星光(ひかり)が人間(ひと)を呼び込み鼻唄(うた)を歌った。

 沢山の〝異物〟が離れた虚空に佇み俺の思惑(こころ)は彼女を欲しがり独歩(ある)いて在ったが、初春(はる)に逆行(もど)れた灯(あか)りを観る儘、心中(うち)に含めた彼女に対する感覚(いしき)は遠く和らぎ、俺が目指した〝初春(はる)の園〟からふらりと立ち得た孤独を知りつつ俺の心身(からだ)は司春(かのじょ)の元から一旦退(の)いた。坂の上から平らの舗道(みち)まで揚々輝(ひか)った虚空(そら)の陽光(あかり)は、俺と司春(かのじょ)を一瞬照らして空気に揺らめき、日本に佇む四季に揺らした微弱(よわ)い輝体(からだ)を行く行く清閑(しずか)に弛ませ遠退きながらも暗(やみ)の内(なか)では密かに進めた経過(じかん)を睨(ね)めつつほっそりして生(ゆ)く。二人の目前(まえ)から輝彩(あかり)が失(き)えた。段々日暮れる〝土台〟を講じてぽっちゃり落ち込む〝一連(ひとつら)なり〟には陽(よう)の気色がすっかり見取れる。薄い日暮れは二人の頭上(うえ)から虚空(そら)へと遠退き、虚空(そら)の向うに銀河(かわ)が流行(なが)れる記憶を知った。俺の心身(からだ)は銀河(かわ)に埋れた司春(かのじょ)の肢体(からだ)をそっと追い駆け徘徊した儘、虚空(そら)を土台(たいち)の狭間に紛れて宙(そら)を仰いだ。彼女の身(からだ)は初春(はる)の輝彩(あかり)に揚々化け生き、ひっそり灯った司春(はる)の稼働(うたげ)を大事に看取って喝采している。俺の四肢(てあし)はそれから暫く司春(かのじょ)を忘れて陽光(あかり)から漏れ、司春(かのじょ)と観ていた土手を越え行き目的を付け、昼から暮れ行く四季に相(あい)した流行(ながれ)に沿いつつ夜の町へと遁々(とんとん)独歩(ある)いて人間(ひと)を観て居た。

 着いた町からこれまで通(とお)った経過を見遣ると、今居る〝土台(どだい)〟を呈せた身寒い町とは如何(いか)に果て無く暗いものかと、遣り切れない儘、彼女に相(あい)せた暮れる前など早くも惜しんで懐かしみつつ、司春(かのじょ)に預けた俺の温身(ぬくみ)を取り戻しに行く。既に銀河(ぎんが)を歩いた彼女の身(からだ)は一瞥俺から遠く退(の)き生き、幻想(ゆめ)の許容(うち)でも逢えるか否かを握(つか)めなかったが、そんな俺へと相対(あいたい)するのか、司春(かのじょ)の肢体(からだ)は細く和らぐ虚空(そら)の寒気を纏う儘にて、俺の傍(そば)へとひっそり降り立ち微笑(わら)って在って、俺の温身(からだ)は彼女から出た吐息に彩(と)られて妖しく成り得た。〝妖しさ〟から退(ひ)く俺の感覚(いしき)が人間(ひと)に象(と)られた常識(かたち)を採り活き目的(あて)を見付けて、俺の独歩は暗道(みち)へ落ちても休まなかった。休む間も無くどんどん進んで下町へと着き、人間(ひと)の視界(うち)から程好い灯(あか)りが漏れて在るのを姑々(こそこそ)見付けて、下町(そこ)に居着いて暮らす者等が繁く通(かよ)ったコンビニ店など灯りに彩(と)られて俺へと表れ、俺の心身(からだ)は目的(あて)を見る儘、周囲(まわり)に流行(なが)れる温度に透って算段した後、すうっと解け入る〝浮遊〟を感じてコンビニ店へと容易(やす)く這入れる気配を取った。彼女から観た俺を象る温身(ぬくみ)はその時、下町(そこ)に根付いた人間(ひと)に塗れて仄(ぼ)んやり浮き立ち、下町(そこ)に在っても目立たないうち身分を飾れる町着(まちぎ)を装い立脚して在る。転々(ころころ)空転(ころ)がる他人(ひと)への憂いは生きる俺には邪魔になり出し、人間(ひと)へ解(と)け生(ゆ)く情緒に縋って共鳴(ともな)りして居た。妖しい儘でも滅(めっき)り透った空気を擁したコンビニ店では、それまで独歩(ある)いた〝身分〟の倦怠(つかれ)を癒して遣ろうと、種々の食い物・飲み物なんかを人工照(あかり)に染まらせ美色(びしょく)に呈させ、俺の前方(まえ)では雑多に並んだ陳列台など華やかにした。俺の速める歩から遠退き、横や目前(まえ)など俄かに通(とお)った他人(ひと)の涼風(かぜ)には、下町(そこ)で生ませた生活臭など取り取り溢れて人工照(ライト)を浴び生(ゆ)く。店の周囲(まわり)は薄ら暮れ行く暗路(あんろ)を呈させ寒い風など、人間(ひと)の熱気に程好く紛れる緻密な活動(うごき)が好く好く光り、とっぷり撓(しな)んだ他人(ひと)の吐息(いき)には、萎(しな)びた安堵の四肢(てあし)が捥がれて転がり始めた。とっぷり暮れ行く夜の町から下町(したまち)迄への暗路の最中(さなか)は、昼に透った空気(もぬけ)の気配は彷徨する儘、苦しさ紛れの人間(ひと)の言動(うごき)が好く好く闊歩(ある)いた残光など観(み)せ気丈を張り詰め、俺の前方(まえ)では苦労を知らない女性(おんな)の息吹に懐き始める。黄金(きいろ)い陽炎(ほのお)が薄ら萎(しな)んだ空虚の解(ほつ)れは「明日(あす)」に紛れて冒険して活き、店の周辺(あたり)にちらほら散らばる人間(ひと)の向きには、堂々巡りに端正(きれい)に華やぐ孤高を伸ばした夜が仕上がる。そうした〝音頭〟を遠くへ開(あ)きつつ、俺の心身(からだ)は人工照(ライト)に塗れて算段して在る。

〝何か食い物に成るような美味い物はないか?それ等に付け添う飲み物なんかも必要になる…何かないか?俺の好きな食い物や飲み物なんかは何処(どこ)に行ったかいなぁ…?〟

 陳列している飲み物台には黒々輝(ひか)ったコーラは在ったがぎんぎん冷え行くコーラの容器は瓶で在らずにコップであって、グラス・コップに揚々詰まれた冷汗(あせ)を輝(ひか)らす黒いコーラが、俺の表情(かお)見てにやりと微笑(わら)い、店員達からちやほやされつつ、暗い闇へと逃走して行く脆(よわ)い気迫を被(かぶ)って在った。グラスに敷かれたコーラの模様は黒い体を背景にして黄色い絵柄がはっきり浮き出る美色(びしょく)を放(はな)って屹立と立ち、俄かに覚えた下町(そこ)での人間模様(もよう)を未だに温(ぬく)めず放(ほう)ってあった俺の心中(こころ)はくっきり棄(な)げられ、そうした跡からこっそり浮んだ〝奇跡〟の形成(かたち)は俺から遠退きにんまり冷笑(わら)って、〝解け入る〟迄には可なりを要する自然の表情(かお)などはっきり浮ばせ、俺の心身(からだ)は〝コーラ〟を観た際闇に隠れる〝分身(かわり)を見ながら堂々切り立つ経過(じかん)の狭間に逡巡していた。グラスを捩ったコーラの容器は経過(じかん)の許した両腕(かいな)の懐(うち)にて俺をも擁せる堅い土台を構造した儘、次第次第に脚色され行く物の形成(かたち)は経過(とき)に移ろい揺蕩く成りつつ、柔らを講じた基調に紛れて、俺の目前(まえ)では紙の容器へ成り果てていた。何時(いつ)の間にかに成立していた。そうした見慣れぬ〝コーラの形容(もよう)〟と、〝黄色を伸ばした紋様仕立ての旧い絵柄〟と、〝「明日(あす)」をも報せぬ暗路(あんろ)に仕立てた旧い闇〟とにすっかり目を張り仰天した儘、透り縋りの他人(ひと)の涼風(かぜ)さえ奇妙に感じた俺の感覚(いしき)は、〝堂々巡り〟に華やぐ下町(まち)の情緒を一掃した儘、「自分の庭」から遠く離れた余所着(よそぎ)を見て取り下町(そこ)から離れ、

「美味い物を探し当てるのは『自分の庭』に還って来てからでいいや。」

とさっぱり諦め未練を居残し、自分の心身(からだ)は早々(さっさ)と逃げ去り、人工照(あかり)の煌めくコンビニ店から出て行き失(き)えた。その際、買う心算で居た〝コーラ〟から観た変った気色を店主(ひと)へと伝え、白々輝(ひか)った無機を意味するカウンターへと上々乗り出し微笑を携え、〝変ったコーラ〟を誰にも譲らず取り置きするようしっかり頼んで〝予約〟を取り付け、眩しいくらいに妙に華やぐ人工照(ライト)を潜(くぐ)ってつかつか歩き、他人(ひと)の輪を見て疲れた後(あと)にて退店していた。〝変ったコーラ〟は闇に隠れて細々(ほそぼそ)根付き、寝かせた輝体(からだ)を何時(いつ)起すか等とは、誰にも知られず冷汗(あせ)を掻き掻き、見慣れぬ容器(ケース)に濃汁(こく)を携え、誰の意識も感じぬ儘にて、苦境を呈せる孤独の内にて安眠している。俺が対した〝店主〟と思えた人の様子を、も一度探ってじっくり見遣ると、白い壁から自然に出て来た端正(きれい)な身体(からだ)の女性(おんな)であって、柔さを呈して人工照(ライト)に晒され、熟した女肉は真っ赤に輝き冷(ひ)んやり輝き、〝怜悧〟に独歩(ある)ける女性(おんな)の強靭(つよさ)を俺にまで向け暗い夜路にぽっと咲かせる日の輪を射止めて逡巡していた。俺が想える理想の〝型〟へは中々這入らず、一緒に働く他の女性(おんな)と愚図々々して在り、衝動(うご)かないのが常で在るのに、俺の精神(こころ)は如何(どう)やらその娘(こ)に仄(ほ)んのり灯った分身(じぶん)の理想(ゆめ)など高く掲げて、早々足る儘、自分にとっての母性と成るのを独歩(ある)きながらに願って居たのだ。可愛らしいのは娘に灯った生身の魅力で、彼女は如何(どう)やら心変りを胸中(うち)へ秘めては、男性(おとこ)の影からこそこそ素早く逃げてたようで、素肌を晒さぬ根強い気丈が夜に止(と)まって覗けて在った。日の輪も無いのに、女性(おんな)の陰にて衝動(うご)いた主観(あるじ)は滅(めっき)り刺激(かて)を得徒党を組み活き、自分の口から拡げる言葉へ〝分身(じぶん)〟を載せては満喫していて、俺に対する男性(おとこ)の危険を具に伝(おし)えて逡巡する儘、自分に課せ行く端正(きれい)な仕草は仕事へ落ち着き礼儀を取り上げ、口笛吹きつつ独歩(ある)いた俺には、彼女が滅入って〝情(なさけ)〟を乞うのが相当に弱い女芯(にょしん)の疼きに対せる疼痛(もの)など、俺にとっては暫く忘れぬ、小娘程度の器量の〝火の粉〟がぱちぱち飛び付き冷めない迷いも、彼女を呈したコンビニ店(そこ)に在るのがはっきり分って嬉しく成った。俺はその時、何か自分のするべき所業を携え〝コーラ〟を取り置き退店して居り、コンビニ店(そこ)へ居座る彼女の人工照(あかり)が自棄に眩しい疼きを放(はな)って共鳴(な)いて居たのが出て行く最中(さなか)におっとり伝わる震動と知り、他人(ひと)へ紛れて暗い夜路を独歩(ある)いて在っても、到底取れない未練を残して活き活きしていた。故に、他人(ひと)に紛れて人工照(ライト)に紛れて、到底届かぬ〝高値の蕾〟に彼女が観得ても俺の心身(からだ)はずっと寄り付く〝彼女の母性〟を暫く睨(ね)め付け算段して在り、彼女の真心(こころ)を如何(どう)して近付き奪えば好いかと、暗がり外れてコンビニ店(そこ)を見た儘、彼女の麓へ辿った夢想(ゆめ)など何度も観ていて可笑しくなった。彼女の身体(からだ)は〝母性〟を離れて他人(ひと)へと寄り付き、フォッサマグナと震度みたいに、身体(からだ)の寄り付く立場を講ぜず己の〝身分〟は懐(うち)へと光らせ真顔に在って、俺と他人(ひと)とへ飛ばした〝震え〟は、動揺紛いの女性(おんな)の〝震え〟とそうそう変らぬ強靭(つよ)い感覚(いしき)を四方(しほう)へ延ばして散乱している。俺の感覚(いしき)は彼女が呈せた〝それ〟へと近付き、他人(ひと)の見ぬ間(ま)にこっそり解け入り〝彼女〟を浴びて、浴びた矢先に〝彼女〟の姿態(かたち)が〝震度〟に化(か)わって相談して活き、俺の幻夢(ゲーム)を揺るがせ得るのは、そうそう離れた果(さ)きに在らずに弓なりに反る。彼女と俺とに真っ直ぐ延び得た〝人間(ひと)との絆〟は、闇夜に紛れてひゅんひゅん唸(な)っては騒音(おと)が静かに解け入る先など微塵も講ぜず嫋やかであり、識(し)れずに解け入る人間(ひと)の温度は矢庭に語った物理を識(し)る内、自然に仰け反る悪魔の姿勢(すがた)を具に捉えて仄(ぼ)んやりしている。俺の心身(からだ)は無用の郷愁(ドグマ)に故習を見て取り、彼女を離れた夢想(ゆめ)の形成(かたち)を変形したのか、〝坂〟で観て来た〝過程〟で観ていた、実物大程はっきり浮き立つ嗣業の周辺(あたり)を生産し始め孤独を謳った俺の元から天へ延び得た〝孤島の景色〟を雲散させ得た。学校絡みか〝彼等〟と観て来た霊祭(れいさい)絡みか好く好く知らぬが、何処(どこ)で識(し)り得た行事の類(たぐい)か揚々知らずに、俺と〝彼女〟に懐いた〝行事〟は天まで果て無く延びて行くのを俺の心身(からだ)はしっかり見取って対峙して居る。〝闇〟に潜んだ彼女の姿勢(すがた)を如何(どう)にか斯うにか模索して行き、辿り着いたら自分に課せ得る褒美を奪(と)るなど、矢庭に感じた〝白い妖気〟がほとほと浮び、彼女が居着いた小さな温床(ねどこ)を、自分の物へと落して行くのは俺から透った悪魔の姿勢(すがた)がゆっくり仕上がる矢先であって、コンビニ店(ここ)から離れて何処(どこ)へ行くのか全く識(し)らない俺にとっては、彼女の小体(からだ)が和(やん)わり浮んだ闇の主観(あるじ)と対話をして行く稀有な調子の延長でもある。当面、暫く、彼女の元から離れられない密かな体温(おんど)を講じて居るが、端(はな)から育った〝白紙の無頼〟は何もかもをも躊躇して活き、彼女が生育(そだ)てた自分の気色も、闇の主観(あるじ)にすっかり解け得て俺の下(もと)から羽ばたく態(てい)して失(き)去り活きて、返りを見知らぬ小粒の〝景色〟が、如何(どう)して此処(ここ)まで生育(そだ)と得たのかコンビニ店(そこ)に集えた誰にも知られず、俺と彼女は自棄(じき)を呈して降参している。彼女から出る白い台には無量に達する小銭が積まれて、俺に対した輝彩(きさい)の一途(いちず)は如何(どう)にも曲がらず垂直に在り、屈曲して行く彼女の後光(ひかり)は俺が与えた感覚(いしき)にてふらりと生れた人間(ひと)に纏わる孤独でもある。彼女の文句(ことば)は俺の背を越え闇へと積り、陽(よう)の対せる陰(いん)の限界(かぎり)は唐突から成る後光(ひかり)の上にて歪曲して在る。俺の言葉は言語を発さぬ〝輝彩(ひかり)〟を手に取り輪に成り始めて、日の輪に呑まれた競争社会は、如何(どう)とも出来ない夢幻(むげん)を呈して立脚して在る。俺の心身(からだ)は〝身(からだ)〟を間違え精神(こころ)だけ採り、一線に渡る夢遊病者に変って行った。地上で生れるあらゆる事象が俺の前方(まえ)にて一塊となり、人間(ひと)を透した〝経験(かたち)〟を直して、茶器にも劣った〝稚拙〟を見て採り〝緻密〟を知り得る。彼女に根付いた俺の気配(かたち)は、堂々巡りの暗闇(やみ)へ紛れて割烹着を着て、白い〝悪魔〟にすっかり化(か)わった人間(ひと)の活歩(かつほ)は黙って行った。「明日(あした)」伝える、彼女に対する柔い記憶は、お互い事実にすんなり呑まれて脚色(いろ)を付けられぐったりとして、女性(おんな)の尽きない妄想なんかがふらりと挙がって〝砂〟を見て取り、感覚(いしき)の鬱(うっ)する苦労を識(し)らずに、孤独へ疾走(はし)った鼓動の音頭を根絶やしにして、過去から離れる〝生きる覚悟〟に呆(ぼう)っとする内、彼女に放(ほう)った気熱(ねつ)の在所(ありか)は仄(ほ)んのり崩れる〝水の牙城(みやこ)〟に埋葬され生(ゆ)く。

 〝聖書〟を識(し)り得ぬ人間(ひと)への孤独は〝説教〟紛いのエッセイを吐き、何時(いつ)しか果て得ぬ人間(ひと)の〝経験(かたち)〟が物を言わずにしいんとして在る。とっぷり創れた人間(ひと)の常識(かたち)は〝自然〟と解け合い、発声(こえ)を制する清閑(しずか)な〝音頭〟が波打ち始め、波紋に跨る波紋が創られ、〝土台〟を呈せる地球の〝土台(アジト)〟は〝紅(くれない)〟まえ観る〝陽(よう)〟の輝彩(ひかり)が人間(ひと)へと呈せる常識(かたち)を含めて終って在った。〝終った〟頃からふらりと始めた個人(ひと)への境地が〝気熱〟を帯び出し許容(かこい)を挙げて、他人に対して何も話せぬ虚空の無意識(いしき)を拝して在った。そうした背景(ぞうり)が俺と彼女に恐らく対して〝砂〟を引き寄せ、ぐうたらしかない他人(ひと)への暗(やみ)へとぽんと疾走(はし)って硝子が飛び活き、「昨日」を放(ほう)って両親(おや)をも忘れる恍惚(オルガ)を愛して黙って在るのだ。紫煙(けむり)に巻かれる白煙(けむり)の群れなど、彼女の吐息に揚々解け得て俺へと棚引き、昔(かこ)から生れた脚色(しきそ)を持ち得(え)る白紙に埋れて地団太踏みつつ、人間(ひと)と共存・華(あせ)と共存・輝彩(ひかり)と共存・両親(おや)と共存・景色(気色)と共存・温身(ぬくみ)と共存・孤独と共存・壁と共存・日の輪と共存・陽(よう)と共存・陰(いん)と共存・夢幻(むげん)と共存・常識(かたち)と共存・吐息と共存・地理と共存・気候と共存・孤独と共存・白紙と共存・経過(ながれ)と共存・流行(ながれ)と共存・視点と共存・暗(やみ)と共存・闇と共存・支点と共存・酔いとの共存・志気と共存・覇気との共存・無機との共存・無智と共存・〝意味〟との共存…、沢山沢山沢山沢山無数に有り付き文句(ことば)が漏れ得て、涙が大粒(つぶ)で零れて〝孤独〟を問う程、俺の背中は汗で溢れて彼女を紐解く。〝彼女〟の灯(あか)りは俺の白紙に上手に載れ得る〝流行(はや)り〟を訓(おし)えて屈折して行き、過去から憶えた無数の和式が洋服(ふく)に着替えて落ち着き払う。

 刹那が跳び行き、過去(むかし)が緩んで早退するのは、彼女と俺とがコンビニ店(そこ)に紛れた人間(ひと)の気配に落ち着き澄まして微笑(わら)ったからで、俺から見え行く彼女の輝彩(あかり)は、程好く纏わり小さく並び、この世で観て来た並の女性(おんな)を遥かに凌いで可愛く在った。「恐らくアルバイト店員」として在る彼女の内実(なかみ)は俺の歳より余程に若くて純情であり、男性(おとこ)の手数(かず)でもそれ程識(し)らない貴女(きじょ)であるのに違いの無い儘、彼女に触れ行く幾多の想いは、平凡(ふつう)を飛び越え煌めき続ける非凡を識(し)れつつ悦びを識(し)る。彼女が呈せる存在価値には、男性(おとこ)が認(みと)める全ての柔さを放逐され活き、女性(おんな)に対して男性(おとこ)が悦ぶ理性を転じた清潔さが在り、俺も男性(おとこ)で彼女に対せば、彼女の元からすやすや上(のぼ)った女性(おんな)の強靭(つよ)さを目の当たりとして恰好付け得ず、彼女に対した俺の記憶は、これまで識り得た女性(おんな)に対せる全ての理想(ゆめ)など即座に潰れて丸まり始める。それだけ彼女の吐き行く独気(オーラ)の彷徨(たどり)は、当ての見えない華奢であるのに間延びを伝(おし)えず、男性(おとこ)に対して凡庸ながらにひ弱を呈さず物憂さを魅せ、男性(おとこ)の気配をすっと惹き行く余程の脚力(ちから)が漲っていた。彼女の〝気配〟は男性(おとこ)に対して開放的にて、男性(おとこ)の魔の手は薄ら仕上がる〝彼女〟の定めに翻弄され活き、ちょいと刹那の場面に在っても、男性(おとこ)から成る煩悩(なやみ)の火の手は猛々(もうもう)猛って束ねられ得ず、まるで緩々解(ほぐ)れた彼女の体(たい)には幼女の媚薬が不意と仕上がり無敵を評し、男性(おとこ)から成る〝躊躇い勝ちにて為される試問〟は彼女の目前(まえ)では無力を呈して折り巻かれていた。

 俺の感覚(いしき)は彼女を観る内、自分に課された〝私事(しごと)〟の事への思いを馳せつつ空々(うろうろ)し始め、可愛い彼女の目前ながらに、彼女の美彩に陥る事無く金への欲へと疾走(はし)って行った。コンビニ店(そこ)に敷かれたカウンターから少し離れた出入り付近に、人気(ひとけ)が疎らの小さく拡がるスペースが在り、買い物し終えた買い物客らが、自然に流行(なが)れて溜って行け得る空間(すきま)が呈され微熱を灯す。人間(ひと)の活気はコンビニ店(そこ)に敷かれた〝メイン通り〟の活気に比べて自然に落ち着き、沢山歩いて戦果を成し得たソルジャー憩いの場所など小さく繕い小じんまりした儘、流行(なが)れて集まる人間(ひと)の記憶に具に建てられて沈黙して行く過去への熱気は分散して活き、ジュースを飲む者、菓子を食う者、アイスクリームを舐めている者、総じて身軽の体裁(かたち)を仄かに落した微笑の奴等が明るい表情(かお)して淀んで在った。そうした人間(ひと)の最中(さなか)の大きな空間(すきま)に、白く塗られて遠目に映え得る丸テーブルなど鈍(どん)と敷かれて立脚して在り、皆の肢体(からだ)はそれを避けたり利用したりとわいわい騒いで見詰めてあって、静かな騒音(ノイズ)に解け入る態(てい)して、荷物も置け得る空白(スペース)など観(み)せ個人(ひと)の注意を引き付けている。俺の心身(からだ)は彼女の目前(まえ)から急々(いそいそ)離れて独歩をする儘、彼女の目線に潤い知りつつ呆(ぼう)っとする内、それでも自分のするべき挙動を覚えて空白(スペース)へと行き、そこに積まれた小銭の山から自分が得(う)るべき分だけ貰う、と、つかつか力んで独歩(ある)いた姿勢(すがた)は何から見得ても可笑しさは無く、俺の鼓動(うごき)は人間(ひと)の活気に解け入る儘にて鼓動(うごき)を止(と)め得ぬ柔い空気に巻かれて行った。こうした〝小銭〟は何処(どこ)から来たのか揚々気取れず、俺の周囲(まわり)に空間(すきま)の周囲(まわり)に、ぐるりを呈して囲んだ白壁(かべ)からひょいと出て来た怪しさが在り、テーブル囲んで〝空間(すきま)〟へ根付いた俺にも人間(ひと)にも、そうした怪しい挙動(きょどう)の突起は、具(つぶさ)も燃え得ぬ経過(ながれ)の固さに呑まれたまま活き正体(すがた)を呈さず、柔い熱気にぽつんと置かれた俺の眼(まなこ)は、人間(ひと)を観てから小銭を観て活き、自分へ対した都合の全てをプラスに捉えて沈黙して居た。

 そう成り黙して、どんどん出て来る小銭を掴んで獲得する内、俺が持ち得た黒い財布の小銭入れには入り切らない過度が観得出し揚々気取れず、流石に細々(ほそぼそ)躊躇して行く節度を講じた理性の波紋が俺の良心(こころ)を揺るがし始めて俺は震えて、「こんな多かったかな…?」等と、疑問を持ち出し疑惑に駆られる自分の静寂(しじま)を監督して居た。自分の手が取る小銭を見遣れば一円、五円の軽い物から、百円、五百円もの少々重味(おもみ)を手堅く感じる用途を浮べた円い硬貨がしっかり掴まれ、何時(いつ)しか卓にて規則正しく積まれたそれ等(ら)は俺の燻(くす)ねた硬貨の順に、左から右、右から左へ、人間(ひと)に対して俺に対して取り好いようにときちんと組まれて整えられつつ、そうした景色が仄(ほ)んのり挙がった白さの内にて、俺から五歩ほど空間(すきま)を取り得て離れて在った別の空間(すきま)がほろほろ立って、そこには知らぬ内から佇み始めた若い男が静かに在って、如何(どう)も見てるとその男、空間(ここ)に拾われ雇われ始めた警備員へと変って行った。俺の感覚(いしき)は無感覚(いしき)に隠れて警戒し始め、自分がしている現行(いま)の行為が誰かに問われて〝公式〟足るのか、揚々知り得ぬ律儀な習癖(くせ)さえ矢庭に掲げて仄(ぼ)んやりして活き、〝白さ〟に透った人間(ひと)の感覚(いしき)へ、漸く拾った正義を見付けて雲散して行く黒い悪魔を一匹馴らして揚々飼いつつ、そうして立ち得た若い男の警備員へと、紅(あか)い眼(め)をした未熟な奇怪が自己(おのれ)を立たせて対峙をさせ得た。そうして立ち得た若い男は人間(ひと)の漂う空間(すきま)から出る管理者なんかの様装(ようそう)象(と)りつつ、しっかり白地(はくち)に土着して居る両脚(あし)の脚力(ちから)は俺から離れた未知の強靭(つよ)みを揚々見せつつ綽(しなや)かでもあり、俺が成し得る〝曖昧〟擁する小銭の算(さん)など、直ぐさま見抜ける眼力(ちから)と操(と)りつつ俺へと近付き、俺が為し得た細かな挙動(うごき)を根こそぎ奪える機敏を呈して熱気を買った。実際、俺が成し得た細かな挙動(うごき)は、この男により手早(てばや)に止められ、孤島に自生(そだ)ったジャッジメントに、俺の四肢(てあし)は恐怖し粛清され得て、立場を代え得ぬ俺と〝ジャッジ〟は、ほとぼり冷め得ぬ端正(きれい)な空間(すきま)に取り残されつつ、二人の感覚(いしき)は人間(ひと)の安(やす)める〝孤島〟の隅にて眠って行った。男の表情(かお)には〝若さ〟に立ち生(ゆ)く理屈の王者が立脚して居り固さを示し、俺の行為を俺の口から説明するのに、ほとほと細かい面倒極まる論理の両腕(かいな)が構築されつつ、安い自尊が彼の肢体(からだ)をやんわり包(くる)んだ主観(あるじ)の気配が見え隠れして、俺はそいつに一向変らぬ嫌悪を呈して動かなかった。

 それでも俺の精神(こころ)は人間(ひと)の熱気から吹く気流に紛れて自信を失くし、遠慮を覚えて、今、目の前に立つ暗い気配を放流している警備の男に辟易した儘、その場で仕上がる身軽を呈した言い訳なんかを即座に講じて敬遠して居り、暗い男の機嫌を取るのに必死と成った。警備の男が、暗雲漂う白い空間(すきま)に表情(かお)を見せつつ、小銭を掴んで自分の肥やしにそれでもして行く俺の動作を止(や)めさせた時、

「何か、可笑しいですよね、これ。…この小銭(おかね)の数…。」

と俺の口から堪らず流れ出て行く文句を見たのは男の衝動(うごき)と殆ど並んで平行だった。

      *

 男の暗雲漂う、物干し顔したお堅い調子に呑まれていながら、俺が採り得た小さな動作は彼から離れず〝空間(すきま)〟を離れず、彼女の呈した闇の純心(こころ)を蹂躙するほど小さな固執に絡まり続けて、コンビニ店(そこ)の周辺(あたり)で静かに漂う暗い露気(ろき)には、俺に宿った未熟の情(じょう)など一つも上がらぬ強靭(つよ)い暗流(ながれ)が見事に漂い、俺から生れた〝彼女〟へ対する純白(しろ)い上気は、誰にも何にも、当の彼女の俺へ対せた臨場呈せたもの物心にさえ知られず、気取れぬ儘にて、俺の姑息は微熱を発して奔走して活き、遂には失(き)え行く二つの独気(オーラ)へ活発と成る。彼女の精神(こころ)が純(すなお)に滅気(めげ)行く〝一目散〟から順に生れた離愁(りしゅう)の公共(ひびき)は、俺の精神(こころ)に順好く降り着く〝当てずっぽう〟へと無心(こころ)を呈して未熟に気構え、何でも彼(か)でもが非凡と成り得ぬ下らぬ詰らぬ人間(ひと)の流行(ながれ)にすうっと息巻き侵入して行き、俺と彼女は渡海(うみ)に野晒(のさば)る藻屑と失(き)え活(ゆ)き、人間(ひと)の熱気に巧く隠れて地団太踏むのだ。生きた心地は遠(とお)の以前(むかし)に沢山夢見た、気丈を図った若い向上心(こころ)に根付いて落ち着き、人間(ひと)から離れた二人の過去には、人間(ひと)に気取れぬ脆弱(よわ)い覚悟が散々(さんざ)活き行き頑なと成り、生き行く途次での所々で、二人に対せた淡い出来事(しうち)を遮二無二固辞して馬鹿にしながら、二人だけが行く別の場所へと空転(ころ)がり続けて、これまで相(あい)した下町(ここ)での活気を全て放(ほう)って宙(そら)へ仕舞った。彼女の性(せい)からほっそり立ち行く強靭(つよ)い芳香(におい)に、俺の心身(からだ)はほとぼり冷め行く〝宙(そら)〟の気色を遊泳(およ)いで居ながら、滅法引かれる〝人間(ひと)の内からすんなり上がった弱い好意の場末の興味〟に、ほとほと小躍(おど)れる小さな空間(すきま)を自分で仕上げて微笑(わら)って在るなど、彼女の純心(こころ)へふらと伝えぬ固い先見(め)などを高らか講じて、俺の調子は純白(しろ)さを纏った彼女の闇房(ふるす)へ両脚(あし)を気取らせ闊歩して行く。彼女は彼女で、俺の口元(くち)からふらりと挙がった初春(はる)の芳香(かおり)へその実(み)を委ねて、俺が来るのを素知らぬ表情(かお)して身を火照らせつつ、夜毎の酒宴(うたげ)に活気を滑らせ逡巡しながら、今か今かと、大童を採り期待を始めた。透った硝子は彼女の身内(うち)にてしっかり佇み、男性(おとこ)の来るのを自然に夢見てそれでも熱く、滞りの無い初春(はる)の破産に暫くうっとり情緒を重ねて身悶えしつつも、行くは冷め々々(さめざめ)、自分へ通せた成長過程(課程)を幼女(こども)の頃観た感覚(いしき)を象り憧憬を奪(と)り、〝自分の為に〟と頻りに謳った哀しい限りの幼春(はる)を見捨てて都会へ行き着き、俺の体裁(かたち)が自分へ対して愚直(すなお)である内、自分の身捨てた幼女(こども)の姿態(すがた)は腐敗して居た。彼女に観られる俺の体裁(かたち)は生気を灯せる人体(からだ)であるのに、少し離れて見方を変えれば〝堂々巡り〟の人渦(じんか)へ埋れて四肢(てあし)を隠して無形に落ち着き、彼女の姿態(すがた)が幼女(こども)を射止めて逆行(もど)って在ったら、忽ち初春(はる)が咲き着き二人に揃った余裕の涼風(かぜ)にも幼春(はる)が芽生えて朗笑(わら)うだろうなど、俺へ対した彼女の熱気は人間(ひと)の活気に解(と)けない程度に気丈を振舞い気迫さえ見せ、俺の歩先へすんなり止まった彼女の情(じょう)には、俺から知り得ぬ夢想の上手が頻りに上がって八倒していて、俺の興味を素早く取り終え、がやがや芽吹いた人間(ひと)の主観(あるじ)を亡き者とした。

 彼女の呈せた無暗に纏わる初春(はる)の檻から段々仕上がり俺をも擁せる幼春(はる)の行李へ成長する頃、俺がこれまで自分の独歩にほとほと寝付いた外界(そと)の晩春(はる)など認(みと)める際に、ふらりと上がった女性(おんな)の突起が陽(よう)を返して短く光り、俺の心身(からだ)を突き刺す程度の〝彼等〟から成る愚鈍の快感(オルガ)が無情を連れ添い俺へと流行(なが)れ、〝彼等〟の慧眼(まなこ)は地に足着かずの鼓舞を仕立ててしたり顔する、滑稽ながらに間然され得ぬ、微妙の快感(オルガ)を構築する儘、俺と彼女の居所(いどこ)を探して邁進して生(ゆ)く。きっと〝彼等〟は二人の居所(いどこ)を突き止め入(い)って、二人がその後に幼春(はる)に射止めた始終を掌(て)にして愉しみ行くのを、皆で邪魔して破壊するのに尽力して行く孤立の仕種を真似てもあるのだ。そうする〝彼等〟の寝息に、俺と、俺に寝付いた〝彼女の感覚(いしき)〟は具に気付けて耄碌する内、〝彼等〟の衝動(うごき)に空間(すきま)の無い程びっしり生き得る悪辣過酷の妄想(ゆめ)を観た儘、〝彼等〟に対した感覚(いしき)の総身(すべて)を淀んで流行(なが)れぬ人渦(じんか)に見取った気流の内へと放(ほう)って返せる、無為を覚悟を静かに定めて気色を見張り、〝彼等〟の嘆いた不運の活計(はかり)を夢見顔して眺めてあるのは、〝彼等〟の軌道が二人を過ぎ行く晩春(はる)の麓に相違無かった。しかしそうした〝彼等〟に対した排斥の努力も、闇の内にてこっそり活き得る彼女の労(ろう)など糧とするかは判然にはなくごろごろしており、自分の周辺(あたり)を具に見渡す俺の両眼(まなこ)は、一向経っても彼女を知り得ず、彼女の姿態(かたち)は暗(あん)に突躓(つのめ)り小首(くび)を傾げる。俺の尽力(ちから)は遠(とお)の昔に彼女が呈した寝床(とこ)の内から勝手に騒いで脱(ぬ)け出た体裁(まま)にて、彼女が発した微熱の類(たぐい)は掴め切れない理想の内にて燥いで居たのか、哀しい記憶がそれまで透った出来事(しうち)を立たせて俺へと懐いた彼女の体温(ぬくみ)を棚上げにして、完全同志の彼女と俺との理想(ゆめ)の間(うち)には誰にも知れ得ぬ滑稽(おかし)な交響(ひびき)が充満して居た。〝彼等〟どころではない、自分と彼女の絆の周辺(あたり)が無垢な交響(ひびき)に呑み込まれた儘、二人の生気(いのち)も助からない程、滑稽(おかし)な出来事(しうち)に苛まれて在る。記憶を失くした〝無為の覚悟〟が自体(かたち)を眺めて冷笑(わら)って在った。このまま彼女が何の事無く闇房(かこい)の内から自然に消え去り、俺との共鳴(ひびき)を失くし終えれば、この先自分へ対した〝彼等〟の足音(ノイズ)を排し切れずに、俺の元へと小さく生れた〝彼女から幼春(はる)の息吹〟も皆(みんな)目出度く潰れて仕舞う…。俺がこれまで誰にも何にも、薄ら気取れず進めた衝動(うごき)に遺漏とも成る闇夜の控除が悶々囁き、供に対した遠慮を知る儘、事を成し得ぬ未熟を掲げて放(ほう)っていたのか…。何にも判らず彼女の衝動(うごき)はコンビニ店(そこ)から拡がる稚行(ちこう)に紛れて暗路(あんろ)を辿り、純白(しろ)い装飾(かざり)を両肩(かた)に掲げた彼女の姿勢(すがた)は黒さに映え活き目立って在って、それ故余計に彼女を惜しく想える俺へ芽生えた憧憬(けしき)の限界(かぎり)は、〝彼女〟を識(し)るまま闇夜へ跨り、コンビニ店(そこ)から漏れ得る人工照(あかり)を観るうち暗路(あんろ)を辿って観得なくなって、彼女を千切った無造(むぞう)の形成(なり)には、確固足るうち自滅を図った見慣れぬ気色が満載して在り、情景さえ見ぬ彼女の情(こころ)は男性(おとこ)を繕い加減を定めぬ、〝無鉄砲〟へと自分を晒して、二度と掴めぬ幼春(はる)の心地に男性(おとこ)を気取らせ司春(ししゅん)を講じた。男性(おとこ)に対して、〝司春〟を講じた彼女の寝床は何処(どこ)に存(そん)して謳って在るのか?未熟を曇らす二つの許容(かこい)は人工照(ライト)と闇夜を端正(きれい)に織り成し人間(ひと)の行方を真っ直ぐ観たまま無造作に立つ幻想(ゆめ)を観ている。俺の精神(こころ)を素早く射止めた幻夢(ゲーム)の在り処は〝彼女〟の幼春(はる)にて散乱した儘、幼春(はる)と晩春(はる)とを共鳴(ひび)かせ留(と)め得る〝初春〟の愁いを葬り始めて、俺から生れる司春(かのじょ)の香(かおり)を気高く立たせて紅(べに)を講じた。紅(べに)の色には夕日へ懐いた大和の潤色(いろ)など硝子へ透らす脆弱(よわ)さを携え端正(きれい)に仕上げる人間(ひと)の色香(いろか)がきっちり仕上がり溜息を吐(つ)き、そうした〝司春(かのじょ)〟は人間(ひと)から発する気流(ながれ)の内にて、男性(おとこ)の興味を手軽に射止める香女(かじょ)と呼ばれて経過(とき)は久しい。柔らに蠢く女性(おんな)の序列は人間(ひと)へ紛れた空間(すきま)を見て取り、自身の両手に勝気を放った気力を呈して頃合いを識(し)り、人間(ひと)の流行(なが)れる〝次の時期〟など、手厚く看破り自身の華咲く路地へ生(ゆ)くのは俺から観得ても自然であった。そうした女花(めばな)は、誰から観得ても強靭(つよ)く気取れる、陽(よう)に塗れた脚色(いろ)を彩(と)りつつ滑稽でもあり、男性(おとこ)の前方(まえ)では決して消せない堅い悪戯(あくぎ)を説明するのは、遊戯と違(たが)えた女性(おんな)の気力(ちから)を一層大きく掲げて行きつつ女性(おんな)の感覚(いしき)に朗らに根付いた新鮮であり、遠(とお)に見得ない〝彼女〟の感覚(いしき)は人群(むれ)に塗れた白煙(けむり)の体(てい)して俺と〝男性(おとこ)〟を順に観た儘、〝俺〟と〝司春(かのじょ)〟を鋭く分け活き「明日(あす)」へと消えた。初春(はる)の日などがぽつんと失(き)え生(ゆ)く淋しさにも似て、〝彼女〟の吐息は人工照(あかり)と闇夜に小さく佇む矛盾の生気(いのち)も曖昧として、俺から生れた人間(ひと)の微熱を仄かに薄めて脚色する内、きっと何処(どこ)かで退屈(ひま)を幻想見(ゆめみ)て、自分の居場所を下町(ここ)から離した別天地へ迄、俺にも報せず仄(ぼ)んやりするまま移し得たのだ。彼女にとっては男性(おとこ)から成る威光の陰さえ滅多な事では輝彩(ひかり)を発せぬ円らな微光(びこう)へ散光(さんこう)する儘、自身を象る強さの吐息は闇房(かこい)の内でも活き活きして在り未熟を発せぬ俺の不問へ感覚(いしき)を透して呆(ぼう)っとした後(のち)、独歩(ある)く姿勢(すがた)は闇夜に呑まれて〝威光〟を発する男性(おとこ)の生気(いのち)を形成して行き、滞りの無い活路を拡げる女性(おんな)の気迫は俺の記憶へ充満した儘、その上巧みに独歩(ある)ける活力(ちから)を放流(なが)して独白を呑む。何でも彼(か)でもを吸収して活き、自分の環境(まわり)へ根付いた気色をいとも容易く解決する内、呆(ぼう)っとして行く感情(こころ)の許容(うち)では眠気を憶えて刺激を欲しがり、男性(おとこ)へ根付いた〝突起〟を観て識(し)り吐息に紛れて陶酔して活き、初めから在る〝愛〟を象る男性(おとこ)の相(そう)へは、頑ななど知り独歩(あゆ)み寄らない奇行を掌(て)にして呼吸(いき)をして居る。

 何処(どこ)まで行っても平行線での男女に敷かれた空気(もぬけ)の内には、純白(しろ)さを呈せる女性(おんな)の体裁(かたち)が浮き立ち始めて俺の逆行(もど)れぬ幼春(はる)を留(とど)めて雲散して活き、霞も食えない人間(ひと)の主観(あるじ)は、人間(ひと)の寝床を攻め立て入(い)っては俺へ連なる七つの罪など執拗(しつこ)く伝(おし)えてしいんとする儘、人間(ひと)の渦(うち)から離れる手順を揚々伝(おし)えて手際を象り、俺に生れた孤高の空気は熱気を連れ添い闇夜へ独歩(ある)き、〝彼女〟の姿態(かたち)を揚々捜せた虚空の主人公(あるじ)を象らせて居た。〝彼女〟の姿勢(すがた)が俺の姿勢(すがた)へ懐いて在っても、眼(め)で観た気色の許容(うち)では判然(はっき)り計れる算(さん)が立たずに足切りとも成り、未熟に咲き得た彼女から成る輝彩(ひばな)の様子は、俺から見取れぬ不要の要所に先行して生(ゆ)く。果して〝彼女〟は俺から見取れる許容(かこい)の内にて明るく輝く輝彩(ひばな)を散らして活き得るものか、如何(どう)にも臆して試算の付き得ぬ無聊顔した俺の主観(あるじ)が、〝彼女〟を愛せたいっときばかりに充分佇み、彼女へ敷き行く脚色(いろ)の記憶を小さく大きく施行する儘〝彼女〟の帰還を日に日に老け入(い)り待望して在る。司春(はる)から客冬(ふゆ)へと色付き始めた虚空の感覚(いしき)は、司春(かのじょ)を透して〝彼女〟と偽り、自分に際して最も明るい夢遊の喜楽を生き抜く道上(うえ)での要所へ振り付け朗笑(わら)って在って、当面沈まぬ太陽から成る生気(いのち)の厚みは、俺から始まる万象(すべて)のものへの気力を牛耳り尊く在って、人間(ひと)から生れた俺の軌跡(あと)には、過去が小躍(おど)れぬ微動が震えて呼吸して在り、俺が放(ほう)った感覚(いしき)の全てを〝彼女〟を囲った全ての許容に放散され得る美彩の両手が無表情にて立脚して在る虚空の水面(みなも)が散乱していた。

 「明日(あす)」の行方を仔細に固める道頓堀には、人間(ひと)への生き血が脚色(いろ)を変じて屯して行く無性(むしょう)の気配が拮抗していて、頓挫して行く哀れな〝末路〟は人の世に出る〝浮足立ち〟さえ魅惑に奮得(ふるえ)る美彩を画してあっさりして在り、人の世に住む渡航を忘れた虚無に堕ち行く人間(ひと)の寝息は、轟々渦巻く河川の畔(ほとり)で脱衣を就(と)られる小さな出来事(しうち)に震えて在るのだ。俺の感覚(いしき)は人間(ひと)の渦から小さく離れてまったりして在り、まったりついでに陽(よう)から仰げる灼熱(ねつ)の部類(たぐい)を静かに忍ばせ呼吸(いき)に透った快楽等へは、自分の呈せる孤高の無形(かたち)を象り始めて、雨の降り行く凪から成り得た孤高を脱せる行為の次第は、誰も彼もが人間(ひと)から貰えた温身(ぬくみ)を託せる行為の無形(かたち)と涙を流行(なが)して自然足る儘、鼾を掻き生(ゆ)く日々の生気(いのち)に対してもある。俺の下(もと)から静かに離れた〝彼女〟の肢体(からだ)は、四肢(てあし)を振りつつ闇へと細切れ、千鳥足でも音の発(た)たない〝やおら〟を熱して無意味を気取る。俺へ対せた〝無意味〟の寝息は初春(はる)の吐息とこっそり絡まり、客冬(ふゆ)へと根付ける去来の行為は俺と〝彼女〟に薄ら離れて項垂れ始め、都心へ囲った〝彼女〟の孤独は、男女を捨て得る気楼を呈してほとほと脆(よわ)り、俺の寝息がほとほと鳴るまで、蜻蛉(むし)の寝息(ねおと)とこっそり紛れて流動して生(ゆ)く向きの初春(はる)へと闊歩を始める。俺に灯った〝司春(かのじょ)〟の寝息は虚空の元から少し下(お)り得た宙(そら)を観たまま清閑(しずか)に在って、俺の元から隠れる生気(せいき)は順々活き生(ゆ)く彼女の元へと帰着を始めた。


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~司春(ししゅん)~(『夢時代』より) 天川裕司 @tenkawayuji

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