第39話 マッド・サイエンティスト

 与一とスーホが送り込まれた先は、研究室のような部屋だった。怪しげな機械や実験器具がいくつも並べられていて、普段からここで様々な実験を行っている事が伺える。


「なんだこの薄気味悪い部屋は…………」

「何かの研究室のようですね。」


 得体の知れない液体や鉱物が部屋中に散らかっている。部屋の奥には動物が入れられたケージがいくつも置かれており、与一とスーホの足音に気付くと激しく鳴き声を上げて威嚇する。


「怯えているのか? この研究室の主は一体何をしているのんだ……。」


 すると突然、部屋をうろついていた二人の背後から何者かの声が響いた。


「おやおや、ワシの研究室にお客さんとは珍しいねぇ。」


 二人が振り向くと背後には、ボロボロで薄汚れた白衣を羽織り、角帽を被った白髪の老人の姿が在った。


「ここじゃあ見ない顔だねぇ。一体誰なんだいキミ達はぁ?」 


 老人はよく伸びた白い髭を弄りながら与一とスーホにゆっくりと歩み寄って来る。老人に対して与一は警戒しつつ、問いかけた。


「俺は兵十の居場所を居場所知っているか………?」

「兵十? 誰の事だか知らないねぇ。ワシはこの研究室に籠もりっぱなしで外の様子はあんまり知らないんだよぉ。あ、でもさっきボスから通達があったねぇ。『侵入者が入り込んだ』って。ひょっとしてキミ達がその侵入者なのぉ?」


 老人は微笑を浮かべながら与一とスーホに問い返した。


「俺達は突然、謎の手に掴まれてここに連れてこられた。だからお前に用があって来た訳ではない。もしお前の邪魔をしてしまったなら申し訳ない。それでは俺達は失礼はする、行くぞ与一。」


 そう言ってスーホは与一の腕を掴んで早々に研究室から立ち去ろうとした。しかし老人は逃げるようにドアの方へと向かう二人の肩を強く掴んで捕まえた。


「ちょっと待ってよ。キミさぁ、どこかで見覚えあるんだよねぇ。もしかして萬部のスーホ君じゃない?」


 身の危険を感じたスーホは老人の腕を振り払い、与一を連れて走り出した。ドアの目の前に辿り着いたスーホはドアノブを何度も捻る。しかしドアには鍵がかかっており、二人の脱出を阻む。二人の背後から老人が迫ってくる。


「ちょうどいい!今、ワシの発明の実験に使う実験台モルモットを探してたんだよねぇ。能力者なら尚更実験が捗るなぁ。キミ達ホントにいいところに来てくれたねぇ。ワシの実験に付き合ってもらおうかあぁ!?」


 老人の高ぶった声に反応するように、研究室の奥から人間の背丈程の大きさの衣服を着たカエルが二匹、床を這いつくばってやって来た。二匹のカエルは壁を支えにしながら立ち上がり、老人の後ろで滝のようなよだれを垂らしながら与一とスーホを凝視している。


「ヒッヒッヒッヒッヒッヒ!!この二匹はワシ、天才か科学者『カンジー博士』が試行錯誤を繰り返して作り上げた傑作中の傑作!『がまくん』と『かえるくん』さあああ!!!!」


 カンジーは両腕を左右に大きく開き、天井を仰ぎながら叫んだ。そして与一とスーホを指差して、小声でがまくんとかえるくんに言い聞かせた。


「そっちの背が高い方はスーホといってねぇ、触れた生き物を道具に変える能力を持っているんだ。そっちの弓を持っている方も警戒してねぇ。それで両方とも廃除しちゃえ。」


 カンジーに言われると、がまくんとかえるくんはコクリと頷いた。そして長い舌を出しながら二人に迫る。


 与一は矢を放った。がまくんが矢を舌でキャッチし、かえるくんが与一にできた一瞬の隙を見逃さずに舌で縛った。


「ぐっ……!」


 舌で縛られた与一を見て、スーホはポケットに手を突っ込んだ。


「すまない。その命、使わせて貰う。『金魚短刀』」


 スーホは鞄から、夏祭りで貰えるような、何匹か金魚の入った袋を取り出した。そして金魚を一匹、掌の上に乗せた。すると金魚は光を放ちながら、小刀に形を変えた。


 スーホの能力は自身の掌で触れた生物を任意の道具に変換する能力。変換された道具の強度や質量は、スーホが認識する命の重さで決まる。また、文獣や能力者を道具に変える事で能力が付与された文具の生成も可能である。


 スーホは与一を掴む舌を切断しようとする。しかし凄まじい弾力で刃が通らない。


「クソッ……この舌、斬れない!」


 スーホがかえるくんの舌に気を取られていると、がまくんがスーホの脚に舌を絡めて転倒させた。そして大きな口を開いて詰め寄ってくる。

 スーホが空いている左手をがまくんに当てようと、振りかぶった。しかしその時、カンジーがとある告白をした。


「どうだい?いい連携だろぉ?なにせ人間とのキメラだからねぇ。」

「人間だと……?」


「がまくんとかえるくんの能力は互いに思考を共有する能力。二匹で一つの能力を持つ珍しいタイプの文獣だ。しかし、カエルの知能ではその能力を活かせなかったんだよ。でも人間の脳味噌と結合すればねぇ、最高の知能と最高の能力を持ち合わせた最強の兵器の出来上がりって訳だああぁぁ!」


「そんな……馬鹿な……!?」


 スーホはがまくんと目が合った。がまくんはその視線で何かを訴えかけているようだ。


「シイ……クルシイ……イ……タイ……タスケ……テ」

「まさか本当に……」

「資金調達係のお婆さんが言ってたよぉ? キミ達の信条は人を殺さない事だって。いいのかい? その二匹の一部には人間が使われてるんだよぉ? 能力を使えば殺すことになるよねぇ。そう、キミ自身の手でぇ。」


 身動きが取れずにいる与一と、衝撃の事実に驚愕しているスーホをカンジーは嘲笑う。


「ヒッヒッヒッヒッヒッヒッ……愚かだねぇキミ達ぃ。」

「スーホさん……!」

「駄目だ……人は……殺せない……」


 俺が今、能力を使わないと俺も与一も殺られる。分かっている。俺がやらずに誰がやる!? だがこの文獣は間違いなく人間だ……!


『何かを成し遂げるには犠牲が付き物だ。そんな綺麗事ばかりでは救える命も救えなくなる。』


 津田の言葉がスーホの頭を駆け巡る。


「シテ……コロシテ……クル……シイ」


 がまくんはうめき声を上げながらスーホの顔面の前で大きく口を開く。


「おやおや、自我を保てなくなってるねぇ。知能は人間のままで生物としての本能に毒されているみたいだぁ。いいデータが採れたねぇ。」


 津田、カンジー、がまくんの言葉がスーホの中で渦巻く。


 ぐうちゃん……俺はどうすればいい……!


「スーホさん聞いてください……!」


 to be continued

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