第38話 大きなかぶ

 イレイザーアジトの屋上に降り立った一同は、そこら中に転がる大量の死体を横目に屋上から続く階段を下り始めた。


 津田を先頭に一同は薄暗い階段を一段一段、慎重に下ってゆく。エーミールの幻影によって互いの姿が見えない中、一歩ずつ進む6人の足音が鳴り響く。


 一同はの最上階の廊下に辿り着いた。右から左へと続く廊下の先には、エレベーターと立派な両開きの扉。一同は辺りに警戒しながら下の階層へ降りるための階段を探し始めた。


 その廊下の床は異様だった。隅から隅まで真っ黒に染まっているのだ。吸い込まれるような純黒は、照明からの光を一切反射しない。戸部はこの黒色に見覚えがあった。そう、過去に二度出くわしている。あの少女の能力かげだ。


「この黒い床……あの子だ!!」


 戸部がそう叫んだのと同時に、床から無数の黒い影の手が出現した。影の手は全員の手足を鷲掴みにし、影の中へと引きずり込もうとする。


「兵十を攫った少女の能力……!」


 津田が凍結させようと能力を用いて抵抗する。しかし影は凍結する事など無く、力が弱まる事を知らない。


 一同の抵抗も虚しく、六人全員が影の中に引きずり込まれてしまった。影の中で全員がエーミールの視界から外れ、幻影の効果が消える。


 影の手に強く引っ張られてた一同は、影の中で分断された。そして、それぞれ違う階層まで引きずり落とされてしまった。


 エーミールと律はビルの中層部よりやや上の階層まで落下していた。冷たい床に転がり落ちた二人は自身の身に何が起きたのかを暫くの間、理解できずに混乱していた。


「エーミール……無事か…………?」


「うん、大丈夫だよ、律。」


 エーミールと律は立ち上がり、薄暗い廊下を見回した。そして大まかな状況を察した。


 二人とも身体を強く打ったせいで足取りがおぼつかない。そんか肩を組みながらフラフラと二人の前に、何者かが廊下の奥から姿を現した。


「おや。お久しぶりですね、萬部の部長さん。」


「お婆さん…………!」


 二人の前に現れたのは、以前に萬部に依頼人として訪れたお婆さんだった。お婆さんは以前と変わらずブランド物の装いで身を包んでいる。お婆さんは微笑みを浮かべながら律の方を見た。


「お隣の貴方は初めましてですね。萬部の新しいお仲間ですか?」


 萬部の仲間。その言葉を聞いた律は少し渋い顔になった。


 僕は戦うことが怖くなって逃げ出した臆病者だ。生徒会長になったのも、危ない事ばかりしている萬部を解散させるための権力が欲しかったからだ。一人で逃げた上に萬部を壊そうとした。そんな僕に今更萬部を名乗る資格なんて……

 

「ああ。3年前からの大事な仲間だ。そうだろ? 律。」


 エーミールは律の肩を叩いて言った。律は思わぬエーミールの言葉にキョトンとしていた。


「今こうやって、僕達の仲間を助けようと頑張ってくれてるよ。」


「仲間………十番の事ですね。彼に萬部に戻る意志はもうありませんよ。あの結界をご覧になられたでしょう?この下の階層に行けば貴方達は結界に阻まれます。ですから早急にお引き取り願います。」


 律は懐から水鉄砲を取り出し、その銃口をお婆さんに向けた。


「ボスから侵入者を足止めしろと指示を受けていますので、貴方達を通す事は出来かねます。」


 そう言うとお婆さんは左腕に下げているバッグから黄緑色の鎌のような武器を二つ取り出して、両手で握った。


「律……やるしかないみたいだね。」


「そうだね。行こうエーミール…………!」


 エーミールはお婆さんの周りに幻影を投影し、律は血流を高め、水鉄砲を連射しながらお婆さんに向かって突っ込む。


 一方でお婆さんは鎌のような武器で水流を切り刻んで応戦する。その複雑ながら繊細な太刀筋は、カマキリのような気迫を感じさせる。


「また目眩ましですか。そのような小細工を施したところで無駄ですよ。」


 律はお婆さんの死角から幻影の中に突っ込みお婆さんに渾身の蹴りを入れようとした。しかしお婆さんは律の動きに気付き、最小限の身のこなしで蹴りを躱す。


「後ろから狙ったはずなのにどうして……!?」


「これならどうだ!」


 エーミールは幻影で律の分身を複数投影した。分身はそれぞれ違う動きをしながら本物の律と共にお婆さんを取り囲む。分身達は代わる代わるお婆さんに近づき、 お婆さんお婆さんは翻弄される事無く、いとも簡単に本物の律を探し当てた。


 その後もエーミールの幻影と律の攻撃でお婆さんを攻め続ける。しかし律がとどめを刺そうとすると、お婆さんは攻撃を軽々と躱してしまう。


 おかしい……。僕達の攻撃が一切決定打にならない。どれだけ攻めても最後の一撃だけが何故か決まらない。


「律、多分これは能力の効果だ……!」


 エーミールが叫ぶとお婆さんは笑いながら言った。


「そう、わたくしの能力は『豪運』です。この世の全てが私にとって都合良く動くのですよ。運命は常に私の味方なんですよ。」


「そうゆうことか……」


「私はこの豪運で大きな株の勝負に幾度も勝利し、組織の資金を調達してきました。」


 そのブランド物の装いは投資で稼いだ金で揃えたって訳か。


「さて、どうします? 大人しくお帰りいただくか、私に斬り刻まれるか。」


「その能力は強い。だけど所詮は不確定な力。どれだけ運が良くても必ず穴はある。だったら勝つまで攻めればいいだけだ! いけるかエーミール!?」


「付き合うよ、律! 後方支援なら任せて!」


「意外ですね、貴方達が脳筋のような戦い方をするなんて。まるで私の旦那のようです。いいでしょう。私の『運』と貴方達の『力』どちらが先に倒れるか見ものです。」


 to be continued

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