国語教本
家内ツマ
プロローグ
第1話 ようこそ萬部へ
「お前は俺を意外とハンサムだと思ったことが──あたかもしれない。」
あの言葉を放ってから三年が経った。俺は戸部、高校一年生だ。あの言葉を放った幼馴染とは別の高校に進学して、半年程経つ。丁度今は校庭に銀木犀の花が咲き始める時期だ。銀木犀を見ると幼馴染との思い出が淡く蘇る。
俺は今、帰宅部だ。俺は中学生の頃はサッカー部に所属していた。しかし中三の春に大怪我をしてしまったのだ。そして俺は高校受験を控えていた事もあり、サッカーを引退した。高校に入学した後も特にやりたい事はなかったため、今は帰宅部なのだ。でも、部活をやっている方が大学受験や就職で有利らしいから、何かしらの部活に入ろうと考えていた。
そして今、どの部活に入る迷っているところだ。しばらく部活の勧誘が書かれた掲示板を眺めていた。するとその時、一つの部活のポスターが目に留まった。そこには「
萬部とは何だろう。そう思い、ポスターの下のほうに書かれている説明書きに目を通そうとした。すると突然、誰かに声をかけられた。
「君、萬部に興味があるのかい?」
声がした方に目を向けると、一人の生徒が立っていた。その生徒は背が高く、綺麗な顔をしていた。どうやら三年生の先輩のようだ。
「えっと、まぁそうですね。」
「それなら僕に付いてくるといい。」
その人は微笑みなから俺に言った。断るのも申し訳ないので、とりあえず付いて行く事にした。
掲示板のある二階から階段で四階に移動した。四階は上級生の教室しかないため、あまり立ち入った事がない。少し新鮮な気分だ。
「僕はエーミール、君は?」
「戸部です。」
「戸部君ってさ、スポーツの経験はある?」
「中学までサッカーをやっていました。最近は全然やってないですが。」
「そうか、じゃあ大して心配はいらないね。」
心配はいらない?どうゆうことだろうか。エーミール先輩の言葉の意味もよくわからないまま、俺達は四階の廊下の奥にある、小さな部屋に辿り着いた。
「ここが部室だよ。さ、入って。」
エーミール先輩はドアを開けてくれた。俺は扉を潜り中に入ると、そこには三人の生徒が腰掛けていた。
「あ、部長。お疲れ様です。」
「よっ、エーミール。」
「うっす。」
そこに居た三人はそれぞれエーミールに挨拶をした。
「この子、萬部に興味があるみたいだよ。」
「本当ですか⁉人手が足りなくて困ってたから助かります〜!」
「そうだな。」
「お手柄だなエーミール。」
三人がこちらに寄って来た。3人はそれぞれ違った反応をしていて、一人は嬉しそうな反応。また一人は不思議そうに。もう一人は無反応だった。
「萬部へようこそ!歓迎するよ!」
「どうして来てくれたんだ?」
「珍しいな。」
3人が俺を見ながら
「あの俺…まだ入部を決めたわけじゃ…」
「え、そうなのかい?」
「俺そもそも活動内容も知らないですし……」
そう、俺は何も説明されていないのだ。
「エーミール、この子に何の説明もせずに連れてきたのか?」
ローマ人のようなパーマのかかった髪型の男がそう言う。
「そうだね、まずはいろいろ説明しないと。」
エーミール先輩は部室の中を見回してから、ゆっくりと口を開いた。
「萬部ではいわゆる『何でも屋』をしているんだ。依頼を受ければ迷子の猫探しから害獣駆除まで、いろいろやってるよ。」
「なるほど。」
「それから部員の紹介もしよう、僕が部長のエーミ
ール。」
「俺はメロス、エーミールと同じ三年生だ。」
メロス先輩が
「兵十。二年だ。」
兵十先輩はボソッと自己紹介した。この兵十という人は狐のお面を付けていて、素顔が見えない。何でこんなお面を着けているのだろうか。
「シュンタです。君とは同じクラスだね。」
確かにシュンタはクラスメイトだが、喋ったのは今が初めてだ。彼は普段誰とも話していない。いや、誰とも話していないというより、何もない所に一人でブツブツと喋りかけているのだ。それ故、クラス内では近づき難い存在であった。
「一年生の戸部です、よろしくお願いします。」
「部員はこれで全員。他に気になることはあるかな?」
「そうですね…顧問の先生はいるんですか?」
「あぁ…実は───」
to be continued
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます