1話 サクラでお仕事 3
ジャパニーズ・JKの姿になった私は、2-Aと名付けられた30人の男集団の前に晒されることとなった。漫画や映画でよく見る、転校生の自己紹介シーンである。
「今日からこのクラスに入った、エルデ・キルコさんだ」
日本人に寄せた偽名である。白銀の長い髪、金色の瞳のために、日本人とは見られないかもしれないが、どうせ今日限りの名だからいいだろう。
「よろしく」
担任を含む31人の男たちが、私の神々しさにあてられた。たった一言で体中を熱くさせて硬直するなど、人間はなんと弱い生き物だろう。
さて、標的はどれか。呆然とするブ男たちをひとつひとつ眺める。
目が糸のように細いブ男。でかい鼻にでかい赤にきびをこしらえるブ男。前歯が全部出ているブ男。輪郭がニンジンのような形をしたブ男。顔がパンパンに腫れ上がったブ男……。
――なぜ。
なぜ、どれもこれももっさり黒髪メガネブ男なのだ!
高校といったら、ジャパニーズ・アオハルの舞台ではないのか!? 私の見た日本のアオハル映画にこんな光景はなかった!
私は美しいものをこよなく愛す。だからこそ、醜いものは殺したいほど嫌いなのだ!
たった少しの時間であってもこれだけのブ男に囲まれて息をしなければならない状況がつらい。体中が腐りそうだ!
鎌を手に取り、殺しつくしたい衝動にかられた。
だが、仕事以外で人間の命を狩るのは禁止事項。私の積み上げてきたキャリアと悠々自適な推し活生活が終わる。
私は堪えた。あこがれていたジャパニーズ・セーラー服に身を包んでいる喜びを思い出し、心を落ち着かせる。
もう一度、同じ見た目にしか見えない男たちを眺める。
――あれか。廊下側の前から3番目の席に座る、細身の男。
緋王様と同じ、下唇の右下にほくろがあった。
目の下まである前髪と太い黒縁のメガネのせいで顔がほとんど隠れており、表情はよくわからなかったが、知る必要もない。
東洋の死神たちが、10年かかっても魂を回収できなかったという男。
私がすぐに殺してくれる。
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