第2話 『聖女』の立ち位置
『
「『媒体』にしては力がありすぎた気はします」
「例えば『魔女』殿がお使いの雷杖のように、『媒体』の中にも百魔剣に匹敵するような……兵器としか形容できない品もあります」
「つまりわたしが見たものは兵器としての『媒体』だった」
「想像の域を出ません。『魔女』殿のご意見を待ちましょう」
あの日、シホが爆発の直前に見たのは、飛来する物体の金属的な煌めきだった。爆発の原因が分からず、複数の『
「そうですね。フィッフスさんならきっと解明してくれると思います。それで……クラウス、わたしの処遇は、いまどうなっていますか?」
シホは療養中から聞いてきた、もうひとつの大きな懸念について、クラウスに確認することにした。
クラウスの表情は動かなかったが、もし視線があれば、真っ直ぐに見つめ直したのであろう気配を感じた。
「教会側に告げることなく学生としてエバンスへ潜入していたことを問題視する声はありました。その目的についても、開示を求められていますが……こう言っては何ですが、お怪我をされたことがよい方向に影響しています」
エオリアを救うため、エバンス王国へ潜入したのは、シホの独断であった。しかし、天空神教会の最高位にあるシホが独断で潜入など、本来許されることではない。政治的な影響力を否定しようとも、『お忍び』で済む領域ではないことは、誰よりもシホが一番理解していた。そこに来て、エバンスの重要機関である王立魔導学院の学院長が爆死した場に居合わせた、しかも学院長はシホの『協力要請』に応じてカレリアへ向かう最中であった、となれば、そこへ至った経緯の説明を求められることは必然で、天空神教会最高位にある八人の意見交換による意思決定が国家運営に関わる神聖王国カレリアの腹案を勘繰る声が上がることも、この戦乱続きの世の中では必然であった。
即ち、カレリアはエバンスへの侵攻を計画していたのではないか。
若しくは、カレリアはエバンスと結託し、新たな他国への侵攻を計画しようとしていたのではないか。
各々の立場が変われば、疑う内容は変わる。だが、そのどれもが非常に政治的影響力を持つ。カレリアとしては公式な声明を出さなければならなくなる。
「……つまり、わたしが戻るまで、公式な声明は保留された、ということでしょうか?」
「はい。『聖女』の負傷に、世論は同情的です。疑いの払拭は可能と思います。ただ……」
クラウスが続く言葉を止めた。武人であり、芯の通った心の強さを持つクラウスにしては、珍しい言い淀みだった。
「ただ?」
「気になることもございます」
シホが促すと、クラウスはすぐさま判断し、はっきりとした口調で言った。シホに対して何事も、隠すことはしない、と思い直した強さを感じた。
「異端審問局が動き出している、という話がありました。シホ様を審問にかけるつもりのようです」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます