第2話 審問院異端審問局

「古都ミルズ・ベラに向かった二個分隊からの定時連絡が途切れてから、二日が経過いたしました。依然として連絡はありません」


 毛足の長い真紅の絨毯に重厚な木製調度品が並ぶ広間は、贅の限りを尽くした、というよりは、実用性に即した富の使い方、といった印象であり、その中央に置かれた長机を囲む白い法衣の男女も、その部屋の印象と同じ人物だった。一様に眉間に皺を寄せ、手元の書類に目を落としながら、ひとり立ったまま話す報告者の言葉を聞いていた。


「ご苦労だった。下がっていい」


 はっ、と応じて胸の紋章に手を当てる仕草の後、軽装の鎧を纏った報告者は踵を返して退室していった。胸には天空神教会の紋章と、もうひとつ、別の紋章が並んでいた。


「……追加の調査隊を派遣いたしますか?」


 兵士に退室を促したのとは別の声が言った。机を囲む全ての男女の視線が、自然と上座に座る男に集まる。


「何を言っている、メイディメス卿」


 上座に座る男の、低く野太い声が広間を揺らした。同室にいる全てのものが居住まいを正す。男にはそうした力があった。


「交戦報告から音信不通、そして二日が経った。それが意味するところをわからぬわけではあるまい」


 右眼を覆う眼帯。後ろへ撫で付けた白髪には艶があり、エラの張った四角い顔には、堀の深い目鼻と口髭が並ぶ。机を囲んだ男女の中では若い部類に入るが、壮年の全身から発せられる生気と、ひとり法衣ではなく銀の鎧を身に付けていることもあってか、法衣の示すところの僧職ではなく武人、軍人、あるいは大軍団の将を想起させる威厳、威圧が広間を支配していた。現実に、彼はそのような立場にあった。


「バリャドリッドを呼べ」

「……局長を、ですか?」


 広間の男女が明らかに動揺する。しかし武人の威圧感を増した男の声はさらに力強く、動揺の空気は男が机に叩き付けた拳の音で霧散した。


「これは戦争である。いまより古都に巣くうは『魔女』。即ち異端の徒である。その異端の徒と、我々天空神教会審問院異端審問局の戦争であると心得よ」


 長机を囲んだ男女が、反射的に胸に手を当てる仕草を取った。天空神教会内で最高の位置にある八人の最高司祭のひとり、つまり世界最高の権力者のひとりである天空神教会審問院長フランシスコ・ヒメネス・デ・シルベストレは、審問院評議会の面々の同意を示す天空神教会と異端審問局の紋章に手を当てる、審問院式の敬礼に同じ敬礼を返した。


「シルベストレ閣下」


 その手が下ろされるのを待って、末席に座る男から声が上がった。評議会員の中ではおそらく一番若いであろう、まだ二十代と思われる青年は、シルベストレが目で発言を許す間を置いてから、言葉を紡いだ。


「『聖女』の件ですが」


 再び、審問局評議会の広間に、緊張感のある空気が流れた。

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