第15.5話 傷心気味の魔王と王子様

◎魔王sideストーリー

「私には父親がいたんだ」

 魔王バレーシアはサイドテーブルに置かれた優勝カップで弄びながら答えた。

「さ、左様でございますか?」

 オムレツ大臣ことバトーナは困惑しながらひざまずいていた。

 彼はてっきり優勝を褒め立ててくれると思っていた。

 しかし、魔王は一切喜ぶ事なく静かに置いたあと、急に話し始めたのだ。

 バトーナは内心もっと褒めてほしいと思っていたが、もし口出ししようものなら雷撃の一撃を食らわされてしまう可能性があったので、頭を下げたまま大人しくしていた。

 魔王はカップをクルクル回しながら話を続けた。

「とはいっても、本当の父親ではないんだがな。

 そいつは突然やってきたんだ。最初は母……前魔王を殺しに来たのだろう。だが、母が彼を気に入ってこの城で暮らすように命じたんだ。

 彼は母の美貌に惹かれて、同居を許した。私は最初は抵抗があったが、徐々に馴染んでいった。

 私は彼を本当の父親として見ていた。

 それくらい私も母も愛していた。

 けれど、奴らが来て、母を殺した時……私は憎んだ。

 彼を追い出した。彼は違うと言っていた。

 けど、私は聞く耳を持たなかった。

 母の殺害に協力した罪として永久追放にした。

 その後、彼はどうなったかは知らない……」

 バレーシアはカップを置くと、退場するように命じた。

 バトーナは何か言葉を言いかけたが、すぐに飲み込んで素直に立ち去った。

 一人になったバレーシアはベッドの下からあるものを取り出した。

 小さな四角い箱。

 開けてみると、すぐに音色が流れてきた。

 お眠り大臣がよく子守唄を聞かせてくれる音色と同じ。

 彼女はそれを一音でも聞き漏らすまいと耳にあてた。

 そして、ゆっくりと目をつむった。

 思い浮かぶのは、幼少期の自分と母との思い出。

 隣に彼がいなかった頃。

 あの頃は母も生きていて幸せだったなと思いながら、バレーシアはベッドに横になった。

 

 しかし、それからしばらくして、魔王は突然悲鳴を上げて起き上がった。

 彼女の脳内に再びトラウマが呼び起こされた。

 彼女は何度も母親の名前を呼んだ。

 そこら中に置いてあったものはみんな彼女の魔力によって消し炭にされてしまった。

 バレーシアはカーテンが動いているのを不審に思った。

 ゆっくり近づいてシャーと開けてみると、誰もいなかった。

 魔王は腹が立って、そのカーテンを魔法で燃やしてしまった。

 すると、その炎が別のものに燃え移り、それが徐々に侵攻していって、気がつけば部屋中に炎で覆われていた。

 魔王は何度も咳き込み、助けを呼ぼうとしたが、なぜかうまく言葉が出てこなかった。

 バレーシアは魔法で鎮火させようとしたが、声が出せないせいで魔法が発動しなかった。

 すると、ドタドタと足音が聞こえたかと思うと、大臣や衛兵達が駆けつけてくれた。

 この悲惨な状況を見た彼らは慌てて消火作業に入り、どうにか大火事にならずにすんだ。

 負傷した魔王はすぐに魔法で傷を癒やしたが、心の傷まではそう簡単に治せなかった。

 バレーシアはひたすら部下達に謝って、焦げ部屋で寝てしまった。

 これはまずいと思った大臣達は急いでお眠り大臣を呼んで彼女の側につくように命じた。

 そして、魔王の心の傷を癒やすため、『ドンチャカホイホイ祭り』を開催した。

 ルールは簡単。

 ひたすら『ドンチャカホイホイ』と唱えるだけだ。


 ドンチャカホイホイ

 ドンチャカホイホイ

 うぉおおおおおお!!!

 ドンチャカホイホイ

 ドンチャカホイホイ

 はぁあああああああ!!!

 魔物よ、踊れ! みんな、踊れ!


 ドンチャカホイホイ

 ドンチャカホイホイ

 うぉおおおおおおお!!!!

 ドンチャカホイホイ

 ドンチャカホイホイ

 はぉおおおおおお!!!!

 ハッ! ハッ! ハッ! ハッ!

 パパパパパパぁああああ!!!


 こんな感じで踊り狂うのである。

 これが絶大な効果を発揮し、魔王はすぐに元気になって、一緒に踊り狂った。


◎王子様sideストーリー

 マルチーズ王子はベンチに座って独り言を呟いていた。

「うーん、このままどうしたらいいのだろう。

 僕は早くお姫様寝たいのにこのままダラダラと人形を出し続けたらいつまで経っても願いは成就しないどうしよう。

 どうしよう。どうしよう……そうだ! 一気に大量に出せばいいんじゃないだろうか!」

 王子様はそう言って、走り出した。

 まずは焼肉屋の道を曲がって、左に進むとパン屋が見えた。

 しかし、それでは国民に見つかってしまうので、ジャンプして左にかわす。

 そうかと思えば、左右から美女が現れたがいっさい無視して走った。

 とにかく走って、走って、走りまくったけど、一向にたどり着かなかった。

 けど、王子様はそれでよかった。

 近道よりも遠回りの方が何かいい事が起きると、人生経験の中で培ってきた知識だった。

 しかし、それだけではそう簡単にうまくいくはずがない。

 目の前に巨大な壁が現れた。

 いつも歩く道のはずなのに、いきなり王子様の前に現れた。

 マルチーズ王子はどうしようか悩んだ。

 王子って誰のことを指しているのかも分からなかった。

 自分は王子なのかも分からなかった。

 自分は王子なのだろうか。

 それとも赤の他人か。

 それはそうとお腹が空いたので、王子は散歩する事にした。

 目的は食べ物を得る事だった。

 でも、どうやって獲ればいいのか分からなかった。

 レストランの時みたいに金貨を払えればすむ話。

 しかし、今の王子は一銭も持っていなかった。

 もしその状態で飲食しようものなら、たちまち衛兵が飛んできて、あっという間に捕まってしまうだろう。

 そこで、王子は何か一芸をしてお金を集める事にした。

 しかし、手持ちがないので、話だけでオカネを集めた。

「どうも、どうも! 皆さん、私の話を聞いてください!

 私はただの王子です! しかし、ご覧の通りイケメンです。

 ですが、春先の出来事。僕は旅に出ると、後ろから幽霊が話しかけてきました。

『おいおい、そんな顔をしてどこに行くんだい』と聞いてきたので、『決まっているだろ。三途の川を渡りに行くんだよ』と言いました。

 すると、幽霊は踊りだしました。

 僕も釣られて踊りました。

 しかし、背後から蛇が待ち構えていたんです。

『おいおい、蛇よ。そんなに舌を出してどうしたんだい』と聞くと、『三途の川を渡したいのさ』と蛇が言いました。

 僕と幽霊と蛇は踊りだしました。

 それはもう狂ったように踊りました。

 しかし、何かおかしいなと思いました。

 ふはっ、ふはっ、ふははははは!!!

 そうっ! とってもおかしいのです!

 このおかしさを何に例えたらいいのか、サッパリ分かりませんが、オニオングラタンを食べていた時にやけどをしていた時と思ってくだされば大丈夫でしょう!」

 王子の話が大変面白かったのか、お金が続々と集まってきた。

 これでようやく美味しいものが食べれる……そう思っていましたがゴロツキに絡まれてしまった。

「おいおい、大変裕福な暮らしをしているじゃねぇか! とっととそこある金をよこせ!」

 どうやら王子の金目当てみたいで、豪腕なゴロツキは王子の金を奪ってしまった。

 これに怒り狂ったマルチーズ王子はゴロツキに殴りかかった。

 それはもう激しい喧嘩だった。

 王子はまるで狼みたいに足にかぶりついていた。

 ゴロツキはたちまちこの王子が怖くなり、スタコラと逃げてしまった。

 しかし、しっかりとお金を持ったまま行ってしまったので、結局王子は一文無しになった。

「まぁっ、いいさ! ハハハハハ!!!」

 王子の高笑いが虚しく響き渡った。

 そして、再び城へ足を進めた。

 ところが、そこへ以外な人物が現れた。

 マルガリータ国王だった。

「父上!」

 マルチーズ王子はひざまずくと、国王は「顔を上げなさい。息子よ」と言った。

「俺がここに来たのは話がある」

「何でしょうか?」

「早く村を攻め落とせ。欲求不満で夜も眠れないのだ」

「はいっ! ただいま!」

 王子は深々と頭を下げると、国王は早歩きで向かった。

 王子は歌を歌いながら城に帰る事にした。


 エッタラポッタラ

 春先の夢

 エッタラポッタラ

 轟の朝

 エッタラポッタラ

 朝顔のつゆ

 エッタラポッタラ

 夕焼けの空

 エッタラポッタラ

 春の夢

 エッタラポッタラ

 梅雨明けの空


 春運びて夢に語り悲しき夢を知る

 しかれど、猿は踊り狂う

 我はただ悲しくなる

 アーーオエテンシャン

 シャンデリア シャンデリア

 シャンシャンシャンシャン

 シャンシャンシャンシャン……。


 そんな事を呟きながら無事に城に辿りつく王子だった。


↓次回予告

 モプミ、かなり遠い配達をする。


  

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