第6話 パンを食べるよぉ〜!
「モプミちゃん、ズルいよ!」
朝ベッドから目を覚ましたら、いきなりシャーナに怒られてしまった。
というか、いつからそこにいたの?
私が起きるまで待機していたの?
お母さんの了承を得たの?
頭の中で色んな疑問が浮かんだが、まだ起きて間もないせいで、喋る気力がなかった。
「とりあえず……お腹空いたからフレッセーナのお店でパンを食べに行かない?」
私がそう言うと、シャーナは「もちろん! ついでに牛乳も飲んじゃおう!」と快く承諾してくれた。
私とシャーナはパン屋を営んでいるフレッセーナのお店に向かった。
カランコロンと可愛らしい音を立てながら入ると、早速焼きたての生地の良い香りがした。
私とシャーナも思わず深呼吸した。
「あら、モプミちゃん! シャーナちゃん! いらっしゃい!」
フレッセーナは慌ただしく焼きたてのパンを陳列していた。
私とシャーナはガラスケースに入れられたパンの行列を見ながら話した。
「シャーナ、どうする? なに食べる?」
「うーん……チーズパンかな? モプミちゃんは?」
「じゃあ、私は揚げパンにしよう!」
「すみませーーん! チーズパンと揚げパーーン!」
「あと、牛乳二瓶お願いしまーす!」
それぞれ食べる物が決まり注文した。
「あいよーー! ちょっと待っててね〜!」
フレッセーナはそう言ってガラスケースからパンを二つ取り出して紙袋に入れた。
そして、彼女は地面に付いてある取っ手を開けた。
そこには地下の洞窟まで続く穴が掘られていて、底まで垂れ下がったロープを一生懸命引っ張った。
ヒュルヒュルと音を立てて出てきたのは、ロープに括り付けられた四角い箱だった。
フレッセーナは縄を解いて開けると、みっちり埋まった瓶の中から二本取り出した。
「はい、どうぞ!」
「ありがとう!」
彼女から牛乳を受け取った私とシャーナは彼女にお礼を言った。
「また配達してほしいものがあったら言ってください!」
「あーい!」
フレッセーナに別れを告げて、店を出た。
右手にパン、左手に牛乳瓶を持ちながら食べ歩く事にした。
「モグモグ……ところで、ズルいってどういうこと?……ゴクッ」
「はむはむ……えっとね……はむ……モプミちゃんが魔法少女になったことが……はむ」
「モグモグ……うーん、そうなのかな?……モグ」
「はむ……だって、かっこいいじゃん……はむ」
「別に特別な力を手に入れたからといって、生活が変わっていないよ……ゴクッ、もしそうだったらシャーナと一緒にこうして食べ歩きなんかしてないもん」
「ゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴク……プハーーー!!……そうだね」
ほぼ完食しそうな時に大通りから少し離れた広場で作業をしているのが目に入った。
近くでみると、卵の殻みたいな所に小さな球を入れている男達がいた。
「おはようございまーす!」
私が挨拶すると、作業をしていた男達は「おはよう!」と返してくれた。
そこへ村長がやってきた。
「モプミ、シャーナ、おはよう」
「おはようございます! 村長さん! もしかして花火大会の準備ですか?」
「あぁ、そうじゃ! 今日は特大のを打ち上げようと思っておる!」
「へー! 楽しみー!」
少しの間、村長と話した後、再び歩き出した。
牛乳瓶が空になったので、私の家に寄った。
後日、綺麗に洗って再利用するためだ。
「それにしても花火大会楽しみだね!」
シャーナは待ち遠しくてたまらないといった様子だった。
「だねー! 村長も村の人達も張り切ってたねー!」
私がそう言って、牛乳瓶を置いた時だった。
――ドォゴオオオオオン!!
突如鼓膜が破れるかと思うくらい
音の衝撃で牛乳瓶が転がり、ガシャーンと割れてしまった。
「も、モプミちゃん……」
この物音にシャーナも怖がっていた。
私は何の音だろうと考察した。
オークが空から降ってきたにしてはあまりにも威力が強すぎる。
うちの村でそういう音が出そうな場所は……。
「あった!」
私はシャーナの顔を見て言った。
親友はキョトンとした顔をしていた。
「あったって何が?」
「今年花火大会するって、村長達が言っていたよね」
「……あ、そういえばそうだね」
シャーナはそう言った後、自身の青髪と同じくらい顔を青ざめていった。
「まさかあの音はそこで……」
「たぶん。花火に使う火薬が爆発したんだと思う」
すると、シャーナが今にも泣き出しそうな顔をしていた。
「そんな……村長さん、村の人達が……」
私も考えたくはない。
作業場には村長も含め、花火玉を作る職人が何人かいたはず。
あそこには大量の火薬がしまわれている。
もし何かの原因で火が付いてしまったとしたら……悲惨な光景が広がっているのは言うまでもない。
「大変だーー!! 火事だーーー!!」
「火薬庫が燃えているぞーーー!!!」
突然この騒ぎに村の人達は大騒ぎしていた。
「モプミちゃん……」
シャーナがジッと私を見ていた。
もちろん、何を言いたいのかは分かる。
私は球体を取り出して、「メチャラモート!」と呪文を唱えた。
チュプリンは叫びながら吸い込まれていった。
そして、変身が完了した。
「行ってくる」
私はシャーナにそう言って天井を突き破って飛んだ。
ヒューンと天高くまで飛んでいく。
そういえば、私って空飛べたんだ。
まぁ、それはいいや。
とりあえず火災現場は……あった。
私の予想通り火薬庫が燃えていた。
村の人達が必死にバケツリレーをして消火作業に取り掛かっていたが、一向に収まる気配はなかった。
中には風船みたいに腹をパンパンに膨らませて一気に噴射して火を消そうと試みた村人がいたが、それでも消火できなかった。
「ポポポ!!」
私は両手で呪文を唱えた。
その小屋だけに集中豪雨を降らせた。
もうほんの少しでも火種を残してはいけないと、ありったけの水を降らせた。
そして、見事火は根絶した。
「うぉおおおおおおお!!!」
これに村人達は大歓喜した。
私は地上に降り立つと、すぐに村人達に囲まれた。
「ありがとう、モプミちゃん!」
「助かったよ!」
「ありがとう! ありがとう!」
村の人達から感謝のシャワーを浴びた。
うーん、魔法少女も悪くないかもね。
喜びを共有したかったが、村長達の様態が気になった。
「あの村長は……」
「おーい、モプミ〜!」
私が村の人達に聞こうとしたが、村長が姿を現した。
信じられない事に無傷だった。
「えぇっ?! あれ? 村長さん?! 大丈夫なんですか?!」
「……大丈夫って何が?」
村長はハテといった顔で髭を触っていた。
「いやいやいや! あの火薬庫で火災が……」
「あ、あーーあ! いや、収まってよかったねーー!!」
「いや、だから、そうじゃなくて……何ともないんですか? だって、近くで作業していましたよね?」
「ん? あぁ、実はのう……腹がへったから飯でも食いに行こうぜって職人達と食堂に向かったのよ。
で、ワシがハンバーグ爆盛り定食を食べていた時にあり得ないくらい音がして、なんだろうな……と思ったら火薬庫が燃えていてな」
はぁ、なんだ。
爆発が起きた時には村長達はその場にいなかったんだ。
でも、よかった。
本当に良かった。
誰も犠牲者が出なくて。
「でも、花火大会……できませんね」
村の恒例行事でもある大会――私も村の人達も楽しみにしている大会が開催できない。
みんな沈んだような顔をしていた。
しかし、村長は髭を触りながら「できないなら他のをやればいいんじゃろ」と真面目な顔で答えた。
少し沈黙が流れて、私と村の人達はほぼ同時に「確かに」と頷いた。
それから村長は花火大会に代わる祭りをどうしようか話し合うため、村の役人達を集めて会議をしに村長の家に向かった。
私は村の人達と強力して、火薬庫の掃除をする事になった。
ピンポイントで雨を降らしたからか、周囲はそんなに影響はなかった。
ただ木材がビシャビシャになっていたけど。
「それにしても本当にその力って凄いね」
お手伝いに来たシャーナは廃材を運びながら言った。
「それは当然よ! だって、妖精の国から持ってきているから!」
チュプリンはドヤ顔をしていた。
手伝えよと言いたいがその姿では無理か。
「ところで、妖精の国ってどんな所なの?」
その言葉にチュプリンは嬉しそうな顔をしていた。
「あ、聞いちゃう? それ、聞いちゃう? 本当にパラダイスなんだから! 果実も野菜も食べ放題! 毎日ゴロゴロできるし、ほんともう最高!」
ふーん、うちの村とあんまり変わらないな。
なんて思っていると、シャーナが「モプミちゃん」と呼んでいた。
「どうしたの?」
「なんか変なの見つけたんだけど……」
「へんなの?」
私はシャーナの所に行って見てみると、明らかに木材ではないシルエットがあった。
真っ黒焦げだが尻尾みたいなのが生えていた。
「これ、何だと思う?」
「うーん……余興に使う小道具だったんじゃない?」
私とシャーナが黒焦げの物体に話していると、チュプリンが「なになに?」と寄ってきた。
そして、黒焦げの物体を見た瞬間、「これサラマンダー族じゃん!」と叫んでいた。
「サラマンダー族って……えっと、確か……火を吐くトカゲだっけ?」
シャーナが思い出しながら話していた。
チュプリンは「正確には全身に炎をまとったトカゲ。たぶんあの爆発はコイツが元凶ね」と補足してくれた。
なるほど、コイツが空から降ってきて、火薬に引火して爆発が起きたんだ。
「でも、なんで?」
「たぶん……この村を襲撃したかったんじゃない?」
チュプリンの説明に私とシャーナは「あ〜!」と納得した顔をして頷いた。
↓次回予告
チュプリンのライバル登場?!
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