第2話 うーん、攻撃って難しいね

 翌朝、私は村長に牛乳を届ければならなかったので、いつも通り午前四時に出かけた。


 なぜこんなに早い時間帯に届けなけれならないのかというと、答えは物凄く単純。


 五時までに枕元に置いてないと、村長が泣くからだ。


 前に一回寝坊して配達し忘れたことがあったが、その時は「ミルク〜〜! ワシのミルクは〜〜?」と大泣きして大変だったらしい。


 それ以来、私は二度と配達には遅刻しない事を誓い、今もこうして頑張って早起きしている。


 だけど、死ぬほど眠い。


 自然とアクビが……ふわぁ。


 カゴの中に一瓶しか入っていないのに、こんなに重たく感じるのは身体がまだ起きていない証拠だな。


 この村はまだ寝ている人が多いからか、とても静かだ。


「今日も〜♫ 眠いな〜♫ だけど〜♫ 配達〜♫ が〜ん〜ば〜ろ〜うぉ〜〜♫」


 一人で歩くのは寂しいので歌を歌いながら向かうのが私のお決まりだ。


 私の美声を聞きたいのか、村の人達が次々と起きてきた。


 皆窓を開けて、私に挨拶をしてきた。


「やぁ! モプミちゃん! 今日もいい歌声だね! 今日はチーズパンが食べたい気分だから持ってきてくれないか?」

「シャートルおじさん、ありがとう! 村長の配達が終わったらフレッセーナさんのお店に寄るね!」

「あいよ! 頑張って!」

「モプミちゃん、おはよう! 卵を切らしているから後で持ってきてくれない?」

「ヘーラお姉さん、おはよう! 村長のとシャートルおじさんの配達が終わったらすぐに向かうね!」


 ふひぃー、いきなり二件も配達依頼がきちゃった。


 これは急がないといけないな。


「よーし、今日も一日頑張るぞー!」


 私は小走りで村長の家に向かった。



 村長の家は普通のレンガで作られている。


 両隣が全く同じかつ午前四時では真っ暗なので、他の家と見分けがつかない。


 そこで私は三つの家のドアを叩いて「村長ですか?」と尋ねるのがルーティンになっている。


 違うと返ってくればその隣の戸を叩く。


 同じ返事が来たら最後の一軒がそれだ。


 今日も『村長の家どれだチャレンジ』をした結果、見事一発で当てる事ができた。


 まぁ、村長の家くらい覚えとけって話なんだけど……どうでもいい事は忘れちゃう性格だからしょうがないね。


 ドアを開け中に入ると、若くて綺麗なお手伝いさん達が村長の身支度の世話をしていた。


 村長は満足そうにヨダレを垂らしていた。


「村長さーん、おはようございまーす!」


 私が挨拶すると、村長は「おう! モプミ! おはよう!」と一本しかない歯を見せてきた。


 周りのお手伝いさんも次々と「おはようございます! モプミさん!」と挨拶してきたので、私も丁寧に笑顔で返した。


「はい、これ! いつもの!」


 私が牛乳瓶を渡すと、村長は「ふぉ〜! これよこれ!」と嬉しそうな顔をしていた。


「じゃあ、私は次の配達に行かないといけないから……バーイ!」


 私は村長達に別れを告げて外に出た。


 

 小走りでフレッセーナが営んでいるパン屋へと向かう。


「モプミ!」


 すると、路地裏から白猫のチュプリンが飛び出してきた。


 そういえば猫がなんで人間の言葉を話せるのかというと……妖精だから他の猫とは違うらしい。


「チュプリン、おはよう!」

「おはよう、モプミ……いやいや、そうじゃなくて……昨日の話、考えてくれた?」

「昨日の話? なんだっけ?」

「忘れちゃったの?! 魔王を倒してほしいの!」

「えー、あー、うーん……なんで?」

「なんでって……昨日親友がオークに襲われたのを見たでしょ? あいつらを指揮しているのが魔王なのよ」

「そうだけど……私じゃなくてもよくない? だって、配達で忙しいし」

「一目見てピンと来たのよ! あなただったら魔王を倒せるって!」


 えー、私のどこにそんな魅力が……なるほど、分かったぞ。


「私の歌のうま……」

「いや、それは全然違うから。むしろ逆よ」


 なんか私の歌唱力をけなされてしまった。


 ムッとした私は「とにかく、配達で忙しいから無理! じゃあね!」と早歩きした。


 すると、背後ですすり泣く声がしたのだ。


 振り返るとチュプリンが涙目になっていた。


「そんな……ひどい……村人の配達の頼みは聞けて、なんで私のお願いは断るの……不公平よ……ふわーーーん!!!」


 この時、私はハッとした。


 確かにあの猫の言う通りだ。


 村人の配達はすんなり聞いているのに、あの猫だけ断るのはおかしいじゃないのか。


 慣れない事に背けているだけではないだろうか。


 というか、猫が泣く姿なんて見たくない。


 私はチュプリンの元へ駆け寄った。


「分かった! あなたの頼み聞いてあげるわ!」

「本当?! ありがとーー!!」


 私が承諾すると、白猫は嘘みたいに涙が乾いていた。


「じゃあ、早速あなたが魔法少女に変身するアイテムの説明をしたいんだけど……あのボールを見せてくれる?」

「ボール? あぁ、チュプリンからもらったやつね……あれ、ペットの猫ちゃん達のおもちゃにしたよ」

「あー、そうなんだ……って、うえええええええ?!」


 チュプリンは目をさらに大きくさせていた。


「え? おも、おもちゃ? あの球体を? 本当に?」

「うん。家に持って帰ったら物凄く喜んでいたよ」

「このバカーーーーー!!!」


 チュプリンは私にシャーと怒鳴った後、駆け出していった。


 もしかして取りに行ったのかな?


 けど、私の家分かるかな?


 案内したいけど……それよりも配達を急がないと。


 私は再びパン屋がある方へと小走りしていった。


 

 一通りの配達が終わり、私の家に向かった。


 私の家は卵と乳製品を作っていて、その材料になるミルクを出す牛やニワトリがいる牧場の隣に建っている。


 空が段々明るくなってきたので、木造の家が見えてきた。


 すると、勢い良く何かが飛び出してきて、こっちに向かって走ってきていた。


 ボールを口に咥えたチュプリンだった。


 後ろから大勢の猫達(私のペット)が追いかけてきた。


 どうやら無事にボールを取り返したらしい。


「こら〜〜! 猫ちゃんをイジメちゃ駄目でしょ〜〜!」


 私がそう叫ぶと、ペットの猫達は追いかけるのを止めて、慌てて家に戻っていった。


 チュプリンは私の足元まで近づくと、ポトッと落とした。


 それを拾ってみると、不思議な事に傷が付いていなかった。


 普通のボールだったら、すでにボロボロになっているのに……ただの球体じゃないんだね。


 なんて感心を抱いていると、チュプリンに「あれが……はぁはぁ……あなたのペット?」と聞いてきた。


「うん。そうだけど?」

「乱暴すぎない? あと、あんなに大勢いるなんて聞いてなんだけど?!」

「全部で12匹いるよ。みんなヤンチャだからね……私とお母さん以外は言う事聞かないの」

「はぁはぁ……そう……二度とあいつらのおもちゃにしないで」

「うん、分かった」


 私はチュプリンと約束を交わした――その時。


「助けてぇえええええええ!!!」


 誰かがSOSを出していた。


 辺りを見渡してみると、村の入り口から馬車が走ってきた。


 かなり鬼気迫っているのか、御者ぎょしゃの顔が恐怖で張り付いていて、馬も無我夢中で走っていた。


 その原因はすぐに判明した。


 馬車の後ろにミノタウロスが斧を持って走ってきていたからだ。


「あぁっ! 次から次へと!」


 チュプリンは舌打ちをすると、私の方を見た。


 すぐに変身の合図だと分かった私は球体を持って呪文を唱えた。


「プリンアラモード!」


 しかし、何も起きなかった。


 アレと首を傾げているとチュプリンが「違うわよ! メチャラモート!」と教えてくれた。


 なるほど、呪文が違ったのね。


 私は改めてボールを握り直した。


「メチャラモート!」


 そう叫ぶと、オークの時と同じように光に包まれ、真っ白な格好になった。


 さて、どうしよう。


 馬車はこっちに向かってきているから止められなさそうだから……ミノタウロスを倒せばいいのかな。


『何をしているの?! さっさと攻撃して!』


 チュプリンに脳内で言われてしまったので、私は両手を構えて唱えた。


「ポポポポーーーー!!!」


 私がそう叫ぶと、また稲妻みたいなのが飛び出してきた。


 稲妻が大きかったおかげか、走っているミノタウロスにあたった。


「グギャギャギャギャギャ!!!」


 牛の魔物はたちまちビリビリと感電していった。


「アババババババババ!!!」

「ヒヒヒヒヒヒヒーーン!!!」


 ついでに御者と馬も稲妻の餌食になってしまった。


「……あ」

『バカーーー!! 魔物以外の人も巻き込んでどうするのよ?!』

「だって、加減が分からないんだもん……」

『はぁ、なんでこんな子に変身アイテムを渡しちゃったんだろう……とにかく急いでお医者さんを……って、あれ?』


 突然チュプリンが驚いたような声を上げていた。


 見てみると御者と馬が黒焦げになっていたが、倒れた馬車を必死に起き上がらせようとしていた。


 私はすぐに駆け寄って手伝った。


 この姿だと力も上がっているみたいで、ものの数秒で元の状態に戻った。


 すると、御者が「王子! ご無事ですか?!」とドアを開けて中を確認していた。


「あぁ、無事だ……」


 爽やかな声が聞こえたかと思えば、中から青年が御者の手を借りながら出てきた。


 ビックリするぐらいイケメンだったが、大怪我をしていたので、私はすぐに医者を呼びに行った。


 ふぅ、やれやれ、朝から本当に忙しいなぁ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る