村人ですが魔法少女でもあります!

和泉歌夜(いづみ かや)

第1話 えぇ?! 私でも魔法少女になれるの?!

 ここは世界のどこかにある村、ポポポポー村。

 穏やかな気候と自然に恵まれた村は今日ものんびりと時間が流れていた。

「テーラおばさん、またね〜!」

 私はいつもの日課であるチーズの配達を届け終えると、鼻歌を歌いながら何の変哲もない道を歩いた。

 見慣れた家、見慣れた草花、見慣れた鳥――どこもかしこもこの14年で何回見たかなと思うくらいお馴染みの光景に思わずアクビが出た。

「モプミちゃ〜ん!」

 私の名前を呼ぶ声がしたので振り返ると、この村の中で一番の親友が駆け寄ってきた。

 サラサラで青い長髪をたなびかせて走っている姿はまるで川のせせらぎみたい。

「シャーナ!」

 私も手を振って呼びかけると、シャーナは嬉しそうに振り返した。

「今日の配達終わり?」

「うん! シャーナも洗濯屋の仕事終わり?」

「そうだよ! 一緒に帰ろう!」

 私とシャーナは隣同士の家に住んでいる。

 だから、こうしてお互いの仕事が終わったら、いつも通り帰るのが日課だ。

「今日も晩ごはん、何だろうね〜!」

「またニンジンのシチューじゃない?」

「シチューかー。今日で三日連続かー。やだなー! シャーナは?」

「私はパンと麦のお粥」

「そうなんだ。美味しそうだね!」

「でしょー!」

 中身のない薄味な会話を親友とするのが何よりの幸せだった。

 けど――そんな日常は突然壊れてしまった。

――ズシィィィィィィン!!!

 いきなり地響きがして砂埃が襲い掛かってきたのだ。

「きゃあ!」

「うわっ!」

 私とシャーナは目をつむった。

 急にどうしたのかと思って目を開けると、そこには、この村にはいるはずのない魔物がいた。

「グハハハハハハハハ!!!」

 突然目の前に巨大なオークが現れた。

「ま、魔物だーーー!!!」

「な、なんで、この村に?!」

「逃げろーー!!」

 背後から村人達の悲鳴が聞こえてきた。

「も、モプミちゃん!」

 当然怯えるシャーナ。

 オークは真っ先に親友を狙い、巨大な手で彼女を掴んだ。

「シャーナ!」

「ハハハハハ!!! この村はいただくぜ! だから、手始めに……この女を喰ってやる!」

 オークはそう言うと、大口を開けて親友を飲み込もうとした。

「いやああああああ!!!」

 泣きながらオークの手をペシペシ叩くが、全く効いていないようで、着実に奴の口へと運ばれる。

 私は膝から崩れ落ちてしまった。

 絶体絶命。

 このまま何もできずに親友がオークに食べられている所を見ないといけないの?

 私の脳内に彼女との何てことない日常の光景がフラッシュバックされた。

 けど、それはヒビが割れてバラバラに崩れ去ってしまった。

 もうおしまいだ。

 このまま私の村はこのオークに絶滅させられるんだ。

 ポポポポー村に魔物と戦える人なんていないし……終わりだ。

 さようなら、私の日常。

 たった14年の生涯だったけど、それなりに楽しかったよ。

 死の運命を悟った――その時だった。

「まだ終りじゃない!」

 いきなり茂みから白猫が飛び出してきた。

 え? なんでこの猫、人の言葉が喋れるの?

 突然の乱入に私も親友もオークも目を見張っていた。

 白猫は私を見ると「これを!」と言ってボールを渡してきた。

 なるほど、そういう事ね。

 私はそれを受け取ると、すぐにオークに向かって投げた。

「ちがーーーーーう!!!」

 しかし、白猫は意図していた行動じゃなかったらしく、慌てて取りに行こうとした。

 幸運にもボールはオークの体に弾かれて私の所に戻っていった。

 これに白猫は安心したような顔をしていた。

「はぁ……もう二度と投げないで」

 白猫に睨まれたので、私は「ごめんなさい」と謝った。

 いや、ボールを投げられたら誰だってぶつけると思うでしょ。

 そう不満があったが、グッと堪えた。

「それを持って叫ぶのよ! メチャラモートって!」

 白猫はそう言ってまた投げてきた。

 私はキャッチしようとしたが、指先をかすめて地面に転がってしまった。

 小走りで取りに戻り、白猫が言っていた事を思い出す。

「えーと……メチャラモート?」

 そう叫ぶと、突然白猫が光りだし、ボールに吸い込まれていった。

 その光は私とオーク、親友まで巻き込むほどの巨大なものとなった。

「きゃああああああ!!!」

「ぬあああああああ!!!」

「なにこれぇええええ!!!」

 あまりの眩しさに私達は目をつむった。

 すると、私の身体にある変化が起きた。

 今まで身につけてきたものが取っ払って生まれたままの感覚になったかと思えば、再び何かが装着されていった。

 眩しい光が収まったみたいで、恐る恐る目を開けると、オークと親友が目を大きくしていた。

「な、なんだ、その姿は?!」

「モプミちゃん?! どうしたの?!」

 二人が私に驚いていたので確認してみると、自分の格好が変わっている事に気づいた。

 白い靴に丈の短いスカート、真っ白な服に腕まで覆うほどの純白の手袋が付いていた。

 さっきまでの平凡な格好はどこに消えたの?

 私が困惑していると、『君の新しい姿よ』と脳内に響くかのように声が聞こえた。

「なに?! どこから言っているの? 怖い怖い怖い怖い怖い!!!」

『ちょっ、ちょっ、ちょっと、ちょっ……落ち着きなさい!』

 声にそう言われたので大人しくした。

『はぁ、さっきの白猫よ』

「あぁ……っていうか、なんで人間の言葉が喋れるの?」

『それは……今じゃなくてもいいんじゃない? つべこべ言わずに目の前の敵に集中しなさい』

 白猫の言葉に私はハッとなった。

 そうだった。今はオークを倒さないと。

「けど、倒せるかなぁ?」

『大丈夫よ。呪文を唱えば攻撃できるから』

「呪文……?」

 つまり、私は魔法使いになったってこと?

 だけど、そんなの勉強した事ないし。

「呪文なんて全然分からないけど……大丈夫なの?」

 私がそう聞くと、白猫は『大丈夫! 雰囲気で言ってくれれば大丈夫だから!』と軽い感じで答えた。

 雰囲気でって……呪文がそんな雑な感じでいいのかな。

 まぁ、いいや。

「えーと……なんか出ろーー!!!」

 私は手のひらをオークに向けたが、何も起きなかった。

 すると、白猫が脳内で溜め息をついた。

『あなたね……もうちょっと捻りなさいよ。なんか出ろって……そんなんで出たら世界中の人達が魔法使いになれるわよ』

 いや、あなたが雰囲気で言って任せたからいけないんでしょうが。

 ブゥと頬を膨らませながら私は呪文を考えた。

 うーん、この村の名前でいいか。

「ポポポポーーー!!!」

 すると、私の手のひらから稲妻が出てきた。

「グアアアアアアア!!!!」

 オークは見事命中し、あっという間に黒焦げになってしまった。

 不思議な事にシャーナは無傷だった。

 しかし、気絶したオークの手から離れ、彼女はみるみるうちに落ちていく。

「きゃああああああ!!」

「シャーナ!」

 私はジャンプした。

 いつもより高く飛び、見事に受け止めることができた。

 スタッと着地し彼女を降ろした。

「モプミちゃん、それ……」

 シャーナは改めて私の格好が変わっている事に驚いていた。

「アハハ……なんか倒しちゃった」

 私は予想外の連続で情報処理が追いついていないからか、笑う事しかできなかった。

 すると、私の身体から白猫が飛び出してきた。

 たちまち元の格好に戻った。

 手にあのボールを持っていた。

「はぁ……何とか倒せた」

 白猫はホッと安堵の溜め息を漏らしていた。

「ねぇ、あなたは何者なの?」

 私がそう聞くと、白猫は「そういえば自己紹介してなかったわね」とこっちを見て言った。

「私はチュプリン。妖精の国からやってきたの。あなた……えっと、名前は?」

「モプミ。で、こっちはシャーナ」

「シャーナです! よろしくね! ところで、なんで私達の言葉が話せるの?」

「あ、うん、えーと……モプミ、あなたには魔法少女となって魔王を倒してほしいの!」

「……え?」

 私は一瞬フリーズした。

 それはシャーナも同じで、無言でまばたきしていた。

「えぇ〜〜?! 私が勇者〜〜?!」

「えぇええええ?! 私は入ってないの〜〜〜?!」

 言っている事は微妙に違ったが、驚いたことには変わらなかった。

 これは……良い意味で平穏な日常が変わるような予感がする。


↓次回予告

モプミ、他国の王子様を救う?!

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