旧世代オーパーツロボ搭乗お嬢様

サイリウム

第1話 甦れ、金剛零型(前編)


西崎。それは世界を守る巨大ロボットを建造する企業。『HBO』を経営する一族の名。


そんな誉ある家に生まれたのがこのわたくし、西崎葵です。


世界で初めて巨大ロボットを建造し、国家を怪獣から守り続けたのが私のひいお爺様。その業績を持って陛下から男爵位を頂き、この日ノ本を守護する貴族の末席に位置するのが私達です。ま、貴族としては歴史が浅いですし、爵位も男爵。一応男爵令嬢というモノですが、それほど良いものではありません。



(ひいお爺様が開いた企業もお兄様が継ぎますし、私もどこかに嫁に出されるのは決まっていましたからね。)



他貴族家との関係性を深めるため、もしくは優秀な人材を囲い込むための餌として。21世紀にもなって何を言っているんだ? と思われそうなものですが、貴族社会ってそういうものですので。自由恋愛などに興味がないわけではありませんが、これまで良い生活をさせてもらった一族への恩返し。またわたくしの貴族として矜持が、それが正しい道であると言っているのも理由ですね。


我が家の当主であるお兄様や、すでに当主から引退為されたお父様でしたらそう間違った使い方はなさらないだろう。そう考えていたこともあり、安心しきっていた私は『社会勉強として大学くらいは好きなとこ行かせてくれませんか?』と頼んだのです。家から離れ、庶民の方の生活を知る。これも貴族の役目ですから。



(ということで一般の方と同じように大学に進み、実家から出て一人暮らし。私よりも何倍も優秀な兄がすでに家も企業を継いでいましたし、何も問題もないだろうと4年間自由に大学生活を楽しませていただきました。)



そして先月卒業し、荷物を纏めて久しぶりの実家へと帰って来たのですが……。


待っていたのは、謎の役人たち。


そして申し訳なさそうにする我が家の執事にして、じいや。



「あ、あの。嘘ですわよね!?」


「事実です。葵様のお兄様が経営されていた『HBO』ですが、先日そのすべてをお国に売却なされています。ですのでこちらの“特機建造所”も国営になりました。と言っても施設の老朽化などありましたため解体が決まり、現在内部の品々を運び出しているところです。」


「じ、じ、じ、じいや! お兄様は! 兄は! どこ行ったのです!?」


「そ、それが現在行方不明でございます。しかも売却時に得た資金を全てお持ちになったまま、お隠れになったようで……。」


「お、お父様は!? お母様は!?」


「お、お二人はお屋敷を売り払った後。その資金でハワイ旅行に向かってからそのまま消息がつかめず……。」


「い、い、意味わかりませんわ~~~ッッッ!!!」



わたくし、西崎葵。令嬢なのに金も家もありませんわ。


終わりですわ~~!!!





 ◇◆◇◆◇





1941年、本来“第二次世界大戦”と呼ばれるはずの戦争が、突如として終わりを告げる。



人類の敵、『怪獣』の出現である。



全世界に多数出現したその存在は、同種で殺し合いを続ける人々を罰するようにすべてを破壊していった。


その被害は甚大であり、また平等だった。大日本帝国を始めとした列強国はもちろん、吹けば飛ぶような小国にすら現れた怪獣たちは、破壊の限りを尽くす。人類も必死に抵抗したが、怪獣たちは海中、大空、地中と場所を問わず現れ、完全に対応することは難しかった。


もちろん、当時の列強国がその強大な軍事力をもって怪獣を撃破することは不可能ではなかった。


西崎葵の過ごす2024年では50m級が一般的な怪獣の大きさであったが、1940年代に出現した『第1世代』と呼ばれる怪獣たちの体高は最大でも20m。異様な体皮の固さから戦車程度での撃破は困難だったが、艦砲や列車砲を使用すればその生命活動を終わらせることはできた。


怪獣を最初に撃破したのは、アメリカ。


首都であるワシントンの地下から急遽出現したその怪物によって数多くの人的、物的被害が出てしまったが、戦車部隊による海岸線までの誘導と、戦艦による艦砲射撃による撃破。この一報は世界中の人々に希望をもたらしたのだ。



しかし、そんなちっぽけな希望は即座に破壊されてしまう。



日本を例に挙げると、1月で11件。この小さな島国でも、ほぼ3日に1度のスパンで怪獣被害が起きていたのが1940年代である。より大きな領土を持つ国家程その対応は難しく、場所を問わず出現する怪獣たちに組織的な抵抗が出来ぬほどに追い込まれてしまう。



もはや人類に、同種で殺し合いをしている暇などなかったのである。



各国はそれまでの戦争や、緊張状態が嘘であったかのように協調の道を進み始めた。


対怪獣のための兵器開発が進み、いくつもの成功と失敗を重ね続ける人類。西洋の雄となった第三帝国と、新世界の王者であるアメリカが共同で完成させた原子爆弾も、その一つである。……もちろん、“失敗”の一つだが。


もし怪獣がいなければ多くの悲劇と引き換えに戦争を終わりへと導き、その後の冷戦と呼ばれる状態を作る驚異的な兵器ではあったのだが……。急速に行われる核分裂を兵器としたそれは、怪獣にとっての“進化”に必要なピースでもあった。



1945年4月、確かにその新兵器は怪獣の撃破に成功した。



しかしその次の日、復活したその個体は口部から戦艦すら溶かす様な火を吐くようになり、周辺都市を文字通り火の海に変えた。この日から“怪獣たち”は次のステージ、『第2世代』へと進む。徐々に体高も大きくなっていき、艦砲射撃にすら耐える肉体を持つ怪獣すら出現し始めた。勿論第1世代の存在もこれまで通り出現していたのだが、1950年代にはすべての怪獣が第2世代へと移り変わることになる。



このままでは真に人類は滅亡してしまう。その危機感が、一つの“特効薬”を産み出す。



大日本帝国にで兵器開発を担っていた男、“西崎幸太郎”という一人の科学者によって提案されたプロジェクト。怪獣と同じ大きさの鉄の巨神を作成し、それをもって撃破するという策。



後の、『特機計画』である。



大日本帝国が総力を挙げて作り上げた鉄の巨人。


先の怪獣との戦いに於いて修復不可能と判断された戦艦金剛。これをを素体としたことから名付けられた『特機“金剛”』は、瞬く間に怪獣たちを撃破していった。西崎博士によって開発された特機専用の新型蒸気タービンエンジン。これは現代の基準に当てはめても驚異的と言える出力を記録しており、初号機の体高が30mほどだったのに対して、その最大出力は100万馬力。


現代に生まれたオーパーツと称されたそのエンジンはそれまでの常識を置き去りにし、人類の守護者を搭乗者の思うままに動かし続けた。繰り出される鉄の拳は第1世代の怪獣を粉砕し、第2世代の肉体を簡単に貫き破壊する。


まさに守護神がごとき働きをし続けたのだ。


そしてその圧倒的な成果と、西崎博士がその製法を秘匿せず全世界に発信したことで各国でも特機開発が開始。これにより世界中で鉄の巨神が人類のために戦い始めたのだ。



そして時代は2024年、西崎葵の時代へ。



互いに進化し続けた両者。怪獣が『第7世代』、特機が『第五世代』に到達した時代へと続いていく。







 ◇◆◇◆◇






「ま、マジでこれからどうしましょう。」



近くに置いてあった段ボールに腰かけながら、頭を抱える。


今私がいるのは、解体が決まってしまった元我が社『HBO』の特機建造所。始まりは1945年、約80年もの長い時間、ここから世界を守る特機たちが送り出されていた素晴らしき場所です。しかしお役人様のお話を聞く限り、一部施設の老朽化が激しく、このままの使用は困難とのこと。


そのため残されていた資料などの歴史的価値のあるものは付近の博物館などに寄贈し、建物自体は解体。新しく国営の特機関連施設が建設されるとのことです。



「それは、いいのです。わたくしたちの誇るべき場所が、まだ皆さまのお役に立てるのですから。駐車場とかにならずに済んだのは、本当に胸を撫で下ろしましたわ。けれど……。」



住む場所も金もねぇですわ! わたくし貴族令嬢なのに!


というか当主であるお兄様が消えて、お父様もお母様も消息不明ってことは……。実質的に私が男爵? 西崎家そのもの? はー! こんな爵位じゃ腹も膨れませんわ! クソッタレですわ! 名前だけの貴族程みっともないものはありませんわ! もう腹切って死んでやろうかしら?



「というかお兄様もお父様もお母様も。なんで何も言わずに消えるんですの。売るなら売るで一言ぐらい声をかけてくれても良いではありませんか。」


「お、お嬢様。わたくし何といえばいいのか……。」


「じいや! なんで教えて! って、そういえばもう隠居してましたわね。何もないのにわざわざ戻ってきてくれて、感謝しかありませんわ。」



この私の横で心配そうにしてくれている男性は、じいや。


もともと我が家の執事をしていたのですが、高齢を理由に退職なされた方です。確か私が大学在学中に退職なされて、そのまま奥様と世界一周旅行にも行ってらしたんでしたっけ? 80過ぎまで我が家に使えてくださった方です。そんな方がもう一度老骨に鞭打ち来てくださったのですから……、本当に感謝しかありませんわ。



「あとを任せた者から『先代様と奥方様がお屋敷を売りに出され、私共は退職することになった』と聞き、すわ何事かと途中で帰って来たのですが……。こんなことになっているとは。」


「ほんとにびっくりですわよね……。あぁそれと、使用人の皆様は今どこに? 職の方は大丈夫なのですか?」


「それが、先代様から再就職先をご紹介頂いたようで……。お嬢様に連絡しようとした者もいたようですが、先代様が『すでに連絡済みだ』と仰っていたようです。」


「聞いてませんわよお父様……。まぁ職に困った方がいらっしゃらないようで一安心ですわ。私は安心できませんが。」



流石我が家の執事をしていたというべきか、すでにかなりの情報を集めてくださっていたじいや。しかしそんな彼でも行方の知らない家族たち。貴族向けの詐欺とかに引っかかったとは考えずらいですし、もしそうなら使用人の誰かが声を上げていたはず。


けれどそういうことはなかった、という感じですから……。


まぁつまり、自分の意思で消えたってことですよね?



「そこまで薄情というか、この“西崎”という名に恥じるような行いはしない方々だと思っていたのですが……。マジで意味わかりませんわ。確かに一時期『HBO』は赤字だったみたいですけど、今は黒字で夜逃げするような借金もないのに……。」


「お労しやお嬢様……。」


「ちょっとスマホでさっき見ましたけど、家の口座すっからかんでしたし、マジでわたくし何かやらかしました? 貴族のではなく一般の大学に進んだだけでこんな仕打ちあります?」



あ、あの。それでじいや? とっても申し上げにくいのですけれど……、マジで家無し金なしなんでお家に泊めてくださる? もちろん家事洗濯料理なんでもやらせていただきますし、すぐにバイトでも見つけて出ていきますわ! まぁ手元にそんな金ねぇですし、基盤が固まるまでちょっと時間かかりそうですけど……。



「お、お嬢様……! そんなすぐと言わず、いつまでもいらっしゃってください! 家内も喜びます故!」


「そう? でもお二人の愛の巣なのでしょう? お言葉に甘えさせてはいただきますが、いずれちゃんと出ていくのでご安心を。」



っと! まぁとりあえずの宿の心配はなくなったことですし。落ち込むのはやめにいたしますか!


なぜあのお兄様が我が社を、一族が守り育んできたはずのHBOを売っちまったかのかは理解できませんが、もうお国のものに成ってしまったのは確か。ならば元持ち主として、一族の者として。私たちが築いたものを最後まで見届けるというものが、筋でしょう?


少し見させていただいた感じ、まだ作業も途中。何かお手伝いできることぐらいあるはずです。荷物運びぐらい手伝わせていただきましょうか。あ、じいやは年ですから重いもの厳禁ですわよ?



「というわけでそこの方! 少しよろしいかしら!」



段ボール箱を持った青い作業服を着た女性に、声を掛けます。確かその作業服、我がHBOが建造所勤務の方にお渡ししていた青い制服だったはず。すでに何の価値もない服ではありますが、それを着ていらっしゃるということは元々ここに勤めていた方でしょう。


勝手に動けば邪魔になりますからね、指示を仰ぐべきです。



「服から見て元ウチの社員ですわよね? 少し作業を手伝いたいのですが大丈夫ですか?」


「あ、はい大丈夫……。」





その瞬間、世界が、揺れる。





(これは……、地震? いやこの不規則な感じ、“生き物”ですわね。しかもかなり近い。)



全員が揺れを感じ、口を閉ざした直後。ポケットに入れていたスマホが振動を始め、建造所にある少し錆びた白いサイレンが特機の出動を求める音を鳴り響かせます。


どこにいても聞くようになってしまった、“怪獣警報”ですわね。


ぱっとスマホを開いてみてみれば、表示されているのはここから1kmもない様な場所で異様な地殻変動。地中型怪獣のお出まし、とのことです。かなり近いというか、マジで踏み潰されそうなレベルで近いですわね。地中型怪獣が地表のどこに出るかは予想しずらいですし、最近の怪獣は50m級が基本です。ものの数分足らずでここまで来てもおかしくないでしょう。



「わぁお、タイミング最悪ですわ。」


「お嬢様、避難を。」


「えぇ、もちろん。そこの方? お手数ですが案内を頼んでも?」


「もちろんです! こちらへ!!!」



持っていた段ボールを置き、こちらを誘導してくださる彼女。


怪獣の前に人は無力ですが、避難を勝手に諦め特機の行動を邪魔してしまうのはいただけません。この場への理解が一番高いであろう彼女に先導を任せ、付いて行くのがベストですわ。こういった特機建造所には基本、防衛用の特機や、従業員のための地下シェルターがあるはずです。まぁ地中型の怪獣なのでシェルターを掘られたら死にますが、踏み潰される可能性が減りますからね。



「それに、怪獣など我が社の特機に掛かれば一ひねりですわ。でしょう?」


「あ、あの。どなた……?」


「あぁ、これは失礼。“西崎葵”ですわ。HBOの社長の妹、って言った方が解り易いかしら?」


「え! え! お、お嬢様!?」



あら、この反応。どこかでお会いしてたのかしら?


でも今ここで立ち止まって思い出話に花を咲かせる時間じゃないですわね。お話はシェルターの中で、普段なら爺やに紅茶でもお願いするところですが、金欠ですから水で手を打ちましょう。優雅に水分補給でもしながら、我が社の特機の活躍を眺めるといたしましょう。


さ、そのためには生き残りますわよ!



「そ、そうでした! こちらですお嬢様!」


「感謝を。……ちなみになのですが、今ここには何が残っているので? 距離的に我が社、いえこの建造所が対応すべき案件でしょう?」



怪獣対応は、怪獣が発生した地点から一番近い基地から特機が送られる仕組みになっています。この建造所もその一つのはずで、特機の製造という国家のライフラインを絶たせぬために、本来全て国有なはずの特機を企業で保有し、テストパイロットも務める搭乗者の方が迎撃に出るはずなのですが……。どの子が出るのかしら?


第三世代ながら未だ前線で十分戦える『信貴』とか。我が社の最新鋭にして第五世代の『生駒』とかですかね。もしくは開発中のテスト機とか。そういうアニメみたいな展開ですと熱いですわよね。



「そ、それが……。」



非常事態というのに、結構ワクワクしながら問いかけたのですが、帰って来たのは非常に申し訳なさそうな声。


何事かと思いながら避難所に向けて避難していると、見えてくるのは特機専用のバンカー。建造に必要な設備などは一旦取り外されて外に運び出されているようですが、ここの設備はそのままのはずです。


おそらくうちの子がその雄姿を……。ほわぁ?



「あ、あの。HBOの特機は全部売れちゃって、試験機の子も防衛用の子も国が持って行っちゃって……。今あるのは代わりに支給してもらった『トヌ』だけなんです。」


「わー、自社の建物にライバル社の製品が置いてあるとか。めちゃ屈辱ですわねー。全く“四餅”様は手広くやっていらっしゃること。」



見えてきたのは、我が社「HBO」のライバル社の一つ。“四餅”が誇る『第五世代』特機トヌ。しかもそれが三機。……我が社が四餅に侵略されたみたいで気分悪いですわ。


大戦時の戦車開発から特機開発に移ったのが四餅重工株式会社です。戦車をそのまま人型に変えた重厚感が特徴の特機を扱うメーカーですわね。


単独で怪獣を撃破できるように限られたスペースの中でスペックを高め続けた私たちHBOとは違い、量産化に重きを置き数で制圧する方針を選んだ彼ら。第五世代が普及し始めた最近はよく見るようになったと思っていましたが、こんな場所でも見ることになるとは……。



「た、確かにHBOの『生駒』も名機ですけど、『トヌ』もすごいんですよ! なんて言ったって汎用性が凄いですし、整備がラクチンで沢山作れますし……!」


「あぁ、なるほど。貴女そういう口でしたのね。特機オタクとかそういう。……まぁ怪獣被害から人々を守るという点は、我々と同じです。少々気分を害しましたが、応援させていただくことにしましょうか。」



早口になりながら『トヌ』についての説明をしてくれる彼女の言葉を聞き流しながら、特機に飛び乗り怪獣退治に出向いていく勇士たちを見送る。パイロットのスーツを見るに、国家所属の方のようですね。


コックピットが閉まり、『トヌ』の節々から光が漏れ始める。そして聞こえてくるのは、第五世代特有の核融合炉の起動音。我が社の製品に比べれれば劣るでしょうが、わざわざ三機も特機を出動させるのです。数は力、流石の怪獣もすぐに撃滅されてしまうでしょう。


しかし、そう考えたことがフラグだったのか。古びた建造所のスピーカーから、悲鳴のような声が耳を刺す。




『怪獣反応確認! 距離200!』




そのすべてを言い終わる前に、甲高い金属音によってすべてが、かき消される。


音のする方を向いてみれば、地面から突き出る、二本の円錐状の螺旋。どこか金属を思わせる10mを優位に超える物体。怪獣だ。



「お嬢様ッ!」



じいやの声が聞こえた瞬間、轟音と共に地表へと姿を現す人類の敵、怪獣。50mを越えた化け物が、やって来た。


何処か土竜を思わせる毛皮に、両腕にはこれまでの怪獣ではありえない金属質のドリルが。そして腹部にはうろこの様なものが張り詰められており、怪獣がやはり私たちの常識では理解しえない存在だと教えてくれる。



『T‐1! まだ避難が完了していない! 時間を稼げ!』


『解ってる! これよりT‐1近接戦闘に入る! T‐2及び3は援護を頼む!』


『『了解ッ!』』



スピーカーから聞こえてくる、パイロットたちの声。指揮所の者が電源を切り忘れているのか、怪獣に対する混乱と、パイロットたちへの指示が漏れてしまっている。そしてT‐1と呼ばれた特機が、あの怪獣を抑えるために、動き始める。


が。


トヌの何倍も早く動いた怪獣がその懐に。腕のドリルを高速回転させ……、狙うのは、腹部。先ほどパイロットたちが乗り込んでいたコックピットを、貫く。


瞬間、起こる爆発。ものの数秒で、特機が破壊されてしまった。



『隊長ッ!? このクソ野郎ッ!!!』


『おい待て修二ッ!』



親しい仲だったのか、T‐1を破壊されたことに激高した特機が怪獣に向かって突貫してしまう。肩部に装備されていた短距離ミサイル、そして胸部の主砲を一斉に撃ちながら怪獣との距離を詰めようとする彼。確かにその兵器たちは確実に怪獣へと命中し、黒煙が立ち上るが……。


耳を鳴らず、あのドリルの音。


煙を払う様に振るわれた怪獣の腕が特機胸部を貫き、胸部主砲が誘爆。そしてその鉄の巨人に人が乗っていることを理解しているかのように。もう片方のドリルを腹部へと突き立て、コックピット事パイロットを粉砕する。


これは、あまりにも……。



「お嬢様ッ! お嬢様ッ! しっかりなさってください!」


「……じいや。」


「今は逃げるべきです! 速く避難所へ!」



にげ、る?


あれほどの怪獣を前にして? いくら生産性を重視したとはいえ最新の『第五世代』特機をあれほど簡単に撃破してしまう怪獣から、逃げろと? この足で、ですか? どう考えても逃げられるわけがないではありませんか。それに相手は地中型、地下シェルターなど一発でおじゃんです。


このまま、我が社の建物ごと……、破壊されて……。







「ふんッ!!!!!」



思いっきり、自分の頬を叩く。



「いったッぁ!」


「お、お嬢様!?」


「申し訳ありませんわじいや、ちょっと思考がネガティブに行ってしまった故、再起動しましたわッ!」



でもちょっと気合入れ過ぎましたわ! クッソいってぇですわ! これ痕絶対残りますわ~!!!



「そこのッ!」


「あ、はい!」


「何か武器はありませんの!? このままじゃ我が社の建物が怪獣ごときにぶっ壊されてしまいますわ! 人の手ならまだしも、怪獣の手で解体されるなど言語道断! 建造所ですから何か残ってるでしょう! あの最後の特機を援護しますわよ!」


「そ、それがまだ最低限の武装しか持ってこれてないみたいで……。」


「はーっ! つっかえねぇですわね! あ、貴女ではなくてよ? 使えねぇのは四餅ですわ。あ、あとお名前聞いてませんでしたわね。」


「大宙ですぅ……。」



あら、いいお名前!


ちょっとテンションを上げすぎたのか、私に気圧されてしまった彼女を一旦放っておいて、周囲を見渡します。あの怪獣、攻撃手段は両手のドリルで、防御は固い鱗に任せてると見ましたわ! ですがその頭部は土竜さんの様な毛皮のみ! つまりヘッドショットし続ければ倒せそうではなくて!?


試験中の兵装やトヌの予備兵装とか残ってるかと思いましたが、この感じまだ準備中だったみたいですわね! まぁなければ仕方ありません! 今あるもので何とかして見せましょう!



「あの特機が撃破される前に動きますわよ! じいや! あなたもぼーっとしてないで何か探しなさい!」


「…………お嬢様。まだもう一つ、特機があったはずです。旧型で、運び出されているやもしれませんが。」



普段であれば私が何か言う前に動いてそうなものですが、なぜか立ち止まり何か考えていたような彼。そんなじいやから飛び出て来たのは、“特機”があるかもしれない、という言葉。



「本当ですか!? それは朗報! 褒めて遣わしますわ! 案内なさい!」


「はっ!」


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