0156:構え

 始めて俺が「通常の」構え、正眼、現在の剣道に比べてちょっと脇に外した正眼で構えたので、向こうが少々距離を取った。


 ここに来てやっと判った様だ。


 とはいえ、この辺はさすが……なのかもしれない。真剣である以上、一発勝負が重大なポイントになるワケで、構えの奥深さを初手で感じ取ることができないと、生き残ることは難しい。


 探索者の素質の中で一番大事なことは、自分が叶わない相手からは即逃げる……というのがある。


 まあ、それにしても、その後に及んで、逃げに転じないのはバカなのだろうか? 追い掛ける手間がかからなくていいんだけどね。って逃げられないっていうのが判っているってことなのだろうか?


 まずは一つ。


 相変わらず、左右に振る剣から剣筋を斜め上に上げるヤツの動きに、ベクトルが加速する方向で、ほんの少し足してやる。踏み込んで。まずこれに対応出来てない時点で、自分の力が足りていないのを理解しているだろうに……認めなくないのかね。意地ってヤツか。


 西洋剣の振りは、体全体では無く、腕、手首を中心に繰り出すことも多く、流派の中には全体のバランスが取れていない部分も多い。


 というか、日本で西洋剣の流派が本格的に始まったのは迷宮以後だ。迷宮で発見される所謂「迷宮産」の武器は西洋系の武器が多いため、それを有効利用するために生まれて行ったワケで。何かと無理をしている流派が多いのは仕方ないだろう。


 なので、上位ランカーになると複数の流派を学んで、自分なりのやり方を創意工夫し、上半身と下半身を融合させる、馴染ませる……なんてやり方で強くなるそうだ。


 というか、それが出来ないと、西洋剣でランキング上位に位置することは難しいという。


 ヤツも当然そうしたのだろう。が。人間どうしても、力を入れて修行した結果に頼りがちになる。間宮はこの腕を柔軟に使った流派の修行を一番修めたのだと思う。結果、こうして俺の様な跳ね返し方をされてしまうと、鍛えていない下半身に負担が大きく掛かる。微妙にずれ始めている。

 

 だからかどうかは判らないが、コイツには、弾くよりも足す方が効果的だ。大きくバランスを崩す事が出来るわけだ。


メキっ!


 奴が身に付けているのは新式の金属鎧。超極細ハニカム形状うんちゃらで、薄くバカ軽いにも関わらず、アーマークラスは高いという破格の性能。破格の価格なのは御愛嬌ってヤツだ。確か、フルセットだと数億円を下らなかったハズ。しかもあれだ、ヨスヤと同じでフルオーダーの一点物だね。その上、試作とかじゃなくて、特注ってヤツだ。


 まあな〜ランキング1位なら余裕か。年収二百億(予想)とかそんなだったハズだし。

 

 超高級、多分売り物の中では日本最高クラスの硬さを誇る全身鎧の、さっきと同じ場所が大きくひしゃげた。


「ガッ!」


 偽勇者の口から、悲鳴の様な息吹が漏れる。


「バカな」


 ああ、その鎧をそんなに信用してたか。さっきまでの攻撃、俺が手加減していた事が全く判らないか。歪んだ成長してんなぁ。


 既に隙だらけだ。何故、俺から攻撃しないなんて考えられるのか。


ガッガキッ!


 そんな隙は逃さないよ? 今度は逆の腕、全く同じ場所に剣が食い込んだ。持っていた盾の端が引っかかったが、構わず押し込んだ。盾が落ちる。


「ぐぅ……」


 両腕が動かなくなる絶望感はいかほどだろうか。


「ま、まま、まて、いくら払えばいい。いくられ」


ゴガッ!


 左太ももを貫く、聖剣(なまくら)様。幾らボロボロでも、剣の形はしているのだ。「尖鋭」の呪文を魔力を入れてかければ、その体を普通に貫く位は出来る。


 ランキング、ナンバーワンとはいっても、コイツを含めて探索者全員、自らの魔力を変換させて、身体強化や魔術結界に結びつけて行使出来ている者はほぼいない。


ズズズズズズ……


 そして、敢えて……ゆっくりと、だが、どうにもならないスピードで引き抜く。ボロボロで凸凹のなまくらな金属剣である。


「ああああああああああぁぁぁぁあぁぁぁぁっ!」


 そりゃもう、そういう声も漏れよう。出ちゃうんだよね。こういうとき。


ゴズ!


 そして、再度。逆の足、右太ももの同じ辺りを貫く。完全に動きが止まってしまったので、非常に狙いやすい。両手から剣も盾も落ちちゃってるしね。痛さで握力もバカになっているようだ。


 まあ、アレだ、これは的場さんの分ね?


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