最強すぎてギルドから追放されたが、スキル『調香師』を買われて王女に雇われたので万事解決です!
オニイトマキエイ
第1話 最強、故に追放。
「フォルテ、お前をギルドから追放する」
ギルド長である老齢の男性から言い渡された非常なひと言に、青年フォルテは言葉を失った。
なにかの冗談だと思った。まさか自分が不要の烙印を押されることになろうとは。
なぜなら、フォルテはギルドで唯一の『等級Sランク』の冒険者。
今まで幾度、彼がギルドに貢献してきたかは数え切れない。
「ギルド長……どうして俺が」
「まだシラを切るか。証拠は出揃ってある、ほれ出してこい!」
ギルド長に命じられて奥から何人かの冒険者が出てきた。彼らが手にしていたのは、『他の冒険者の手柄をフォルテが自分のモノとしていた証拠』だった。
それは様々な冒険者の証言や、証拠としてはあまりに不充分と思われるような物まで。捏造された写真など、明らかに裏で何者かが手引きしているのは明らかだった。
身に覚えのない濡れ衣を着せられたことで、もちろんフォルテは反発する。
「これは事実じゃない!手柄を横取りして自分の成果として申請するなんて、俺はそんなこと……」
「フォルテよ、ギルド長はワシじゃ。ワシが追放と言えば、お前はもうこのギルドには必要ない」
こうして、ギルド内で最強の冒険者として君臨していたフォルテは理不尽に陥落し、地位も信頼も失ってしまうのだった。ギルド内に凄まじい速さで噂は伝播する。
「ねぇ、聞いた?序列1位のフォルテ、他の人が達成した依頼を自分が達成したって報告してたんだって!最悪じゃない?」
「聞いた聞いた。それって偽りの1位だったってことでしょ?まあ元から怪しい雰囲気あったけどね、アタシ喋ったことないし」
真実と異なる内容の話がギルドの中で飛び交う。
誰もフォルテを庇おうとする者はいない。
皆からの冷たい視線を浴びながら、彼はやむを得ずギルドを後にするのだった。
肩を落としてギルドを出た時、道を阻む1人の男がいた。
男は偉くご機嫌な表情で近寄ると、明らかに挑発するような口調で絡み始めた。
「やぁ、これはこれは!元序列1位のフォルテ君じゃないか。無念だねぇ、でも不正がバレてしまってギルドを追放されたんじゃ、擁護はできないかなァ」
「お前と話すことなどない。邪魔だ、そこを退け」
「おいおい、そんなに不愛想だから誰も味方してくれなかったって気づけよ。まぁ、君が自滅してくれたおかげで、僕がギルドの序列1位に躍り出た訳だけど」
ランセを馬鹿にして笑う男は、ギルド序列2位の『ダーディ』だ。
遊ばせた金髪に金属の丸眼鏡。武器や防具も派手なモノを選び、いかにも目立ちたがりという性格が透けて見える。ダーディは明るく社交的な男だ。他者からの人望も厚い。表向きは、ギルド内の頼れるリーダーというところだろう。
対して、フォルテは純粋なコミュ障故に他者との交流を極力避け続けてきた。
せいぜい依頼の受注と完了の報告に顔を出すくらいで、仲の良い人物なども存在しない。外見も特徴のない黒髪で、幸の薄そうな顔ときた。顔だけの判断で彼が序列1位だと気づける者はいないだろう。
それ故ギルド内ではダーディが人気で、彼が事実上の序列1位のような扱いを受けることが多かった。
ただ、フォルテは彼の邪悪な部分を見抜いていた。
「お前か?今回の件、裏で糸を引いていたのは」
「ご名答。まあ今さら君の主張を信じてくれる人なんていないか」
「俺もギルドに戻る気なんてない。理由を知りたいだけだ」
「理由?そんなの簡単さ。君がいる限り、僕はいつまで経っても1位になれない。それは僕のプライドが許さないんだよ。だからギルド長に、『辞めさせなければ僕が辞めるよ』と持ち掛けたらこうなったんだよね」
高笑いしながら語るダーディ。
予想通りの浅い理由だったことにフォルテは安堵さえした。
勝ち誇った表情をしている彼に対して、フォルテは哀れみながら告げる。
「……そうか。順位の称号などくれてやる。だが、最後までお前は俺を超えられなかったということだけは忘れるな」
「こッ、この期に及んでお前は未だ僕のことを侮辱するのか!僕の方がスキルは派手だし、1位に相応しいんだ!君のような地味なスキルの人間に、この僕が負けているハズがないんだッ!」
激昂したダーディは『スキル』を発動した。
この世に生まれ落ちた人間は皆、神よりスキルを授かるのだ。
スキルを通じて、魔獣を討伐したり地下迷宮を攻略したりする職業が『冒険者』であり、冒険者が集まる言わば事務所のような存在が『ギルド』だ。
ダーディのスキルは『火炎師』。
両手に触れた箇所から発火し、燃え盛る。シンプルだが使い勝手がよく、見た目も華やかで憧れの的となりやすい。
ダーディが鞘から剣を抜く。柄の部分から一瞬で炎が広がっていき、あっという間に刀身を覆い尽くすように紅蓮が躍る。
「君を追い出さなくともッ!初めから僕の方が実力は上だ!」
唆されてすっかり臨戦態勢のダーディ。
プライドの高い彼は完全に頭に血が昇ってしまっており、もう誰の制止も耳には入らないだろう。業火を纏った剣を構えながら、真っ直ぐ駆けていく。目指すは勿論、憎きフォルテの首だ。
渾身の一振りは空振りに終わった。熱波が空を切り、勢い余ってダーディは体勢を崩す。視界から標的の姿を見失った。ダーディが焦って周りを見渡した時、背後から強烈な痛みが襲った。
「痛ッ……いつの間に……後ろにッ」
「別になにも特別なことはしていない。せいぜい、早く動いただけだ」
悟られない速度で背後に回ったフォルテの前蹴りで、重厚な鎧に身を包んだダーディは地べたをゴロゴロと転げ回った。突然の出来事に観衆は騒然となる。
大勢の面前で派手に転んだが、彼の自尊心を最も傷つけた点は別にあった。
「フォルテ、貴様……この僕を相手にスキルすら使わない気か!」
「お前如きをいなすのに、使う必要がない。それに俺のスキルは地味だからな、戦闘映えしないだろ?」
地面を芋虫のように這いずり回るダーディに対してそう吐き捨てると、フォルテは颯爽と歩いて何処かへ消えていく。その背中を、唇を噛み締めながら見ているしかできないことに、この上ない屈辱を味わった。
「覚えていろフォルテ!僕は必ず君を殺す!必ずだ!」
必死に叫ぶも虚しく、彼の背中が振り返ることはなかった。
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