第4話 一興にもならない
ディシュタルト公爵は窓辺に向かい、亡き公爵夫人ロザリンダが愛した庭園を眺める。そして、一言。
「ならぬ」
クローディアの頼みを
「父上……! クローディアも父上の愛する孫娘でしょう!? 昔からベネデッタばかりを
フィンセントの言う通り、ディシュタルト公爵は常にベネデッタを気にかけていた。彼の目には、彼女が
ディシュタルト公爵は執務机に戻り、眼鏡をかけ、仕事を再開させる。
「お言葉ですが父上! マティルダ公爵家は、歴史が浅い貴族です。公爵位を
「黙れ!」
ディシュタルト公爵は声を張り上げ、フィンセントを制圧する。
「政治的な敵であれど、
ディシュタルト公爵の怒りを前に、フィンセントは完全に尻込みしてしまう。早々に白旗を上げた父に、クローディアはギリッと歯噛みする。
「もう貴様らと話すことはない! 出ていけ!」
ディシュタルト公爵は、フィンセントとクローディアを追い払う。これ以上公爵の怒りを買ってはならないと判断したふたりは、大人しく引き下がったのであった。
ひとりになった執務室で、ディシュタルト公爵は眉間を押さえて天井を
(我が孫ながら末恐ろしい)
脳内で、意味ありげな笑みを浮かべるベネデッタに、さすがのディシュタルト公爵も小さな恐れを抱いたのであった。
「くしゅん……」
庭園に面した開放的な廊下を歩いているベネデッタは、
ズンズンズン。どこからか
ベネデッタの口端が上がる。
「ごきげんよう。クローディア」
ベネデッタが挨拶すると、クローディアは
「どこから地響きが聞こえてくると思ったのだけど、あなただったのね。納得だわ」
「なんですって!?」
ディシュタルト公爵に追い出されたこと、父であるフィンセントがなんの役にも立たなかったことに怒りを
「昔から、何か気に入らないことがあるとわざと足音を大きく立てて歩くから。気を悪くさせたらごめんなさい」
ベネデッタの上辺の謝罪に、クローディアは拳を握る。彼女を刺激して遊ぶのも楽しいが、気分的にやめておこうと判断したベネデッタは、彼女の横を通り過ぎようとする。
「待ちなさいよ」
ベネデッタは立ち止まらない。
「あんた本気で、マティルダ公爵家の次男と結婚する気なの?」
その問いかけで、ようやく立ち止まる。
「マティルダ公爵令息は、あんたになんかふさわしくないわ。男好きのあんたらしく、ほかの男を狙いなさい」
「遊び相手と結婚相手は違うでしょう?」
振り返り、微笑する。
「マティルダ公爵令息が気の毒だわ! あんたみたいな
「そうね、可哀想で仕方がないわ」
「でも、クローディアに捕まるよりはマシではないかしら」
「……は?」
クローディアは顔を引き
「ディシュタルト公爵家を継ぐ器量もない。
ベネデッタはそう言って、
「あらやだわ。突然肩を掴まないでいただける? 暗殺者だと誤解して殺しかねないわ」
ベネデッタはクローディアの腕を放し、その場から立ち去った。クローディアは
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