異能警察『アストラ』

蒼く葵

プロローグ

私の人生は孤独と退屈に満ちている。


朝日結星あさひゆら。16歳。高校2年生。

文武両道。才色兼備。全てを持ち合わせた高校生。


これが私。

いや、正確には周りが私に抱くイメージだ。


勿論、全てが間違っている訳ではない。

名前は朝日結星で間違いないし、まだ誕生日を迎えていない私は高校2年生の16歳だ。

しかし、全てを持ち合わせたというのは大きな間違いであり、

私を見た周りが勝手に作り出した幻想に過ぎない。


たしかに容姿には恵まれた。

女子でありながら170に届く身長。

おそらく母が残したものであろう艶のある綺麗な赤髪。

そして、街ゆく人の目を奪う美貌。


幾度となく男子に告白され、芸能界からスカウトも

受けたことのある私は間違いなく恵まれた容姿を持っていると言える。

けど、少なくとも私は自分が才能なんてものを

持っているとは思えないし、恵まれているとも思えない。

勉強も運動も睡眠時間を削り、血が滲むような努力してようやく得た結果だし、

既に両親のいない私にとって、持ち合わせているものの方が少ないだろう。


朝は風が吹き抜けるボロボロのアパートの一室で、1人寂しく冷めた晩御飯の残りを食べ、

学校では本来の私を悟られないように、常に気を遣い、

学校から帰れば遊ぶ暇なくバイトに直行し、忙しい暇を縫って勉強をする。


これが私の人生。

日々を生きるという感覚はなく、どちらかというと日々をこなすという感覚に近い。



…………孤独と退屈を感じる度に思う。

もういっそ死んでしまった方が楽になれるのではないかと。



◇◆◇◆



「へー。あれが今、ボスが熱を上げているという少女ですか」


「そっ、朝日結星ちゃん。まっ、熱を上げてるって言うと語弊があるけどね〜」


学校から帰宅する結星の斜め後ろ上方に影が2つ。

1つは男、もう1つは女のものだ。


「…………それで、彼女を実際に見てみた感想はどう?」


「そうですね……、はっきり言って、容姿がいいということ以外、特には。

しかし、あのボスが容姿なんかで興味を惹かれるとは考え難い。

実際見てみれば何か分かると思ったのですが、謎は深まるばかりです」


男はそう言うと眉を顰めた。

そんな男に対し、女は納得できない顔を浮かべる。


「えぇー、そう?個人的にはかなり見所があると思うんだけどなぁー」


「あなたのそれは“個人的には”ではなく“教育者としては”でしょう?」


「いやいや、それはどうでしょう」


「…………なんですか、その反応」


「ふふふっ」


意味深に笑う女。

それを男は呆れた顔で見ていた。


「はぁ…………、本当にあなたは内心を隠すのがお好きなようですね。

ですが、仲間の私にまで本性を隠すことはないのではないですか?」


「いやいやいや、そんなつもりはないよー。

ただ黒くんには分からないんだー、と思って」


「っ………。」


揶揄うような口調でそう告げる女にイライラを募らせる黒と呼ばれた男。

彼女が男であれば間違いなく手が出ていただろう。

しかし、彼女が女で仲間である以上、男は手を出せない。

よって男はギリギリのところで踏み止まった。

だが、女はそんな男の気持ちも知らずに揶揄いを続ける。


「やれやれ。黒くんには見る目がないなー」


ため息をついて、首を横に振りながら男を煽る女。

そんな女の姿を見てとうとう男の堪忍袋の緒が切れる。


「…………あなた、いいんですか?そんな口を私に利いて」


そう言うと黒と呼ばれた男はポケットから手帳のような物を取り出し、

それを開いてパラパラとページを捲っていく。


「ん?」


「今日のあなたが犯した失態」


「…………………。」


「あなたが作った朝ごはんを食べて、オペレーターが2人気絶。

それにより、情報担当チームは混乱」


「……………………………。」


「先ほどの任務中、護衛対象をターゲットと間違えて攻撃。

護衛対象は気絶。任務の作戦は変更を余儀なくされた」


「…………………………………………。」


「そして、極め付けは今。まだ任務中にも関わらず、寄り道。

これら全てを私の口からボスに報告してもいいんですよ?」


言いたいことを全て言い終えると、黒と言われる男は

『失態メモ』と表紙に書かれた手帳を閉じる。


「いやいやいや!あの子見たいって言ったのは黒くんじゃん!」


「えぇ。ですが、普段忠実に任務をこなす人間の言葉と任務の度、

問題を起こす人間の言葉。ボスはどっちを信じるでしょうね」


「う、うわーっ!で、出たよ、最低発言!

お、お巡りさーん、こ、ここに最低な人間がいますよー!」


女はなんとか話を誤魔化そうと茶化して話をなかったことにしようとする。

しかし、本気でキレていた男はそんな女を相手にしない。


「それじゃあ、私はこの人を交番に連れて行くついでに出頭してみるとしますか。

帰りは遅くなると思うので、あなたは任務達成の報告をお願いします」


「えっ!?ちょ、ちょっと、待って!」


「チクられたくなったらちゃんとお願いしますよ」


「や、やったら内緒にしといてくれるのね!?」


「それは…………考えておきます」


男は女に対し、そう告げると手に持った罪人を連れてその場から姿を消した。


「えー。それ、絶対にチクるやつじゃん…………」


残った女はそう悪態をつくと、もう一度、結星に視線を戻す。


「それじゃあね、結星ちゃん。また明日」



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また、他の作品も投稿してるので良ければそちらも見てみてください。

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