悪友と生徒会長

 ――GWゴールデンウィークを週末に控えた平日。


「――ふぁ、おはようお二人さん」


「おっす」


「おはようナオちゃん」


 手で口を覆いながら、小さな欠伸交じりに言う奈央なおと俺達は朝の挨拶を交わす。


店主マスターの腰は大丈夫? ……て、ギックリ腰なんだから大丈夫なわけないよね」


「しばらく安静、お店もしばらくお休み。GWはさすがに営業するけどね」


「まじか……」


「大まじ」


 私立浅倉あさくら学園が見える横断歩道を渡り終えたところで、奈央はクラスメイト達に声を掛けられ、次第に後方へと流される。


 校門前では、生徒会が並んで挨拶をしていた。

 生徒会が定期的に行っている挨拶活動というやつだ。


『目指せ! 挨拶日本一』と書かれた旗を掲げながら校門をくぐる生徒達に、おはようございます――と、生徒会一同挨拶を口にする。


 校門前まで足を進めて、俺と千尋ちひろも会釈交じりに軽く挨拶を返そうとしたのだが、


「――止まりなさい2年C組北崎きたざきかすみ


「――へ?」


 不意に、俺は私立浅倉学園生徒会長である九条くじょう先輩に名指しで呼び止められた。


 思わず千尋と顔を見合わせる。


 千尋は口を開くことなく笑みを浮かべて、


 ――にいさん、一体何したの?


 と、目だけで問うた。いやいや、お兄ちゃん生徒会に目を付けられるようなことなんて、何もしてないよ!


 後方からクラスメイト達と校門をくぐり抜けていく奈央。通り過ぎていく間際、一瞬、此方に訝しげな視線を向けていた。


 いやいやいや、本当に何もしてないって! 心当たりが全くない。


 かつん、かつん、と生徒会長は距離を詰めて鋭い剣幕と共に言う。


「先週の昼休み、体育館内で乱闘騒ぎがあったと報告を受けた」


「あっ……」


「その反応だと思い当たる節があるみたいだね? 後程、君を含め詳しい話を聞きたいから――昼休み生徒会室に来てくれるかな?」


「……はい、わかりました」


 ……思いっきりあったわ心当たり。


「兄さん?」


 千尋はゴミを見るような目で俺を見た。やめてやめてそんな目で俺を見ないで!


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 ――九条くじょうアキラ。


 私立浅倉学園に通う高校三年生。生徒会執行部所属。役職は会長。


 黒髪、ショートウルフカット。誰もが目を惹く美しい顔立ち。きめ細やかな肌、思わず吸い込まれる程魅入ってしまう淡い瞳。読者モデル顔負けのルックス。


 右目の泣きぼくろと八重歯に交じった笑みが印象的な可愛いというより格好良いと言われる方が多い美少女。


 ――昼休み。


 昼食を終えた俺は、生徒会室の室名札が掛かった扉前に来ていた。


 扉をノックしたのち、会長に「どうぞ」と言われるがまま、俺は生徒会室へと足を踏み入れる。


「失礼します」


「よっ!」


「あァ?」


 開口一番に耳にした葛原クズの声音と飄々とした表情に思わず顔を顰める俺。


表情かおが怖いぞ親友★」


「……うるせぇ黙れ」


きみは彼の友人じゃないのか?」


「違います」


「友達どころか大親友です」


「いや、葛原くずはらくんの言葉と彼の表情が全く一致してないんだが……まあ、いい。とりあえず北崎きたざき君は葛原君の隣に座りたまえ。話はそれからだ」


「わかりました」


 会長――九条くじょう先輩に促されるがまま、彼女と対面で向き合う形でソファに腰掛けた。


「生徒会室ってソファが置いてあるんですね」


「羨ましいか?」


 と、苦笑交じりに言う九条先輩。


「では、始めよう」


 こほんっと咳払いを一つした後、九条先輩の事情聴取が始まった。


「まず初めに、体育館で乱闘を引き起こした原因に――――」


「「――こいつです」」


 九条先輩の声音を遮る形で、俺と葛原は口を揃えてお互い人差指を指しながら言う。


 九条先輩は瞑目交じりに、こめかみを押さえてそうか――と、小さく呟いた。

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