マージナルマン〜死にかけたので閻魔大王の補佐になります〜

海原珊瑚

第1話 事故

 僕は夢河聡真むかわそうま、近所の人大学に通う普通の大学生。年齢は18で一応文学系。

 見た目は所謂ド陰キャ。少し長めの黒髪に黒縁の眼鏡をかけている。珍しいオッドアイで黒と黄色だ。


 オッドアイは特別なものかもしれないがそれ以外は普通オブ普通、所謂モブの立ち位置だ。


 そんな僕は今、困惑している。


 銀髪の美しい女性に見下ろされているからだ。


 事の経緯はこうである………



 ♦



 いつもの昼下がり、学校帰りの交差点。

 ぼーっと信号待ちをしていた。


 早くも季節は夏で蝉が鳴き始めていた。


 春に大学入学してから慌ただしく過ぎ去っていたものだからもう夏なのか、という感じ。梅雨らしい梅雨は言われればあったなと言う程度の認識。


「(今日も疲れたなぁ…帰りになにか本でも買っていこうかなぁ…)」


 特別な日という訳でもない普通の日。信号が青に変わるのを待っていた。


 しかしその普通が変わった。



 信号が赤から青に変わり待っていた自分を含め周囲の人は歩き出す。

 これから買い物にでも行くであろう女性に散歩中の老人、営業サラリーマン、自分と同じだが住む世界が違う大学生…そして勢いよく飛び出す子供。


「(幼稚園……いや小学生かな…)」


 そういえば今日は土曜日、平日では無いので居てもおかしくない。

 ま、今の時代平日に居てもおかしくない。人には色んな事情がある。


「あ、ちょっと!ケンくん!」


 勢いよく飛び出した子供はケンと言うらしい。愛称的なものだろうか。


「おかーさん!はやくはやく!」


 どこかにお出かけでもするのだろう、見るからにはしゃいでいる。誰もそれを咎める事はしない、平和な時間。


 その平和な時間を1台のトラックが壊しにかかろうとしていた。


「(あ)」


 別段その子供と知り合いな訳でもない、特別な感情モノなど持ち合わせていない。でも…


 助けなきゃ


 とか、思った。


 何か運動的なものをやっている訳では無いからタダでは済まないことは明白、しかも相手はトラック…死に自ら突っ込んでいくのと同じようなものだ。


 けど勝手に体が動いてしまったのだ。頭で考えるよりも早く手が、足が、子供に向いていた。


 周囲の悲鳴、子供の母親の驚きの声、甲高いブレーキ音、やけに静かな蝉の声。


 その音達はドスンッという音が全て掻っ攫っていった。



 あー死んだなー、そういえば近頃話題…というか話題になりやすい異世界転生とかしちゃうんだろうか、始まりって大体こんなもんだよね?テンプレってやつ。


 …母さんと父さんに親孝行しなきゃいけないのになぁ、友達…はあんまり居ないからいいや。



 真っ黒の視界のなかでそんな事をぼんやり考えていた気がする。

 我ながら呑気。絶対的な死に飛び込んだものだから受け入れてしまったんだろう。


 黒い黒い視界がふとぼんやりと明るくなり目を開けてみる。


 ん?目を開ける?もしかして奇跡的な生還とか果たしちゃった?九死に一生を得た感じ?


 そして視界に飛び込んで来たのが銀髪の女性だった。


 これが一応の経緯である。

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