女になったら妹との距離がバグった件
トレン
第1話 プロローグ
日本で上位に入る名門校ーー
ここを出た人の中には有名企業の社長になった人や社会的地位が高い役職に就く人が多くおり今でも人気が絶えない高校で、ここに入れば将来が安泰と言われているぐらいには入るのが難しく、文武両道を目指しているこの学校では、部活動にも力が入っている。
いくら名門で理性的な人達が集まっているとはいえ、高校生の彼らには当然のごとくスクールカーストが存在しており、この学院の生徒会の人達に至ってはどこか神聖視されている部分もある。
そこに、この学校のために特別に設けられた入試を満点で合格し今年の新入生代表として演説を完ぺきにこなした容姿端麗な一年が入ってきたと噂になっていた。
「はぁ...めんどくさい...」
そう不満の声を漏らす男は噂になっている一年の兄、
◇
突然だが俺の一個下には
天才で成績優秀、容姿端麗、おまけに運動神経も抜群であり、コミュ力も高い。
正直言うと...意味が分からん。ていうか羨ましい、「天は二物を与えず」という言葉があるがそれを無視しているではないか!
前世で世界でも救ったのか?と聞きたいところである。
と...窓側の一番後ろ、いわゆる主人公席で寝たふりをしながら考えていた。
二年生になってからすでに1カ月が過ぎているが、一年の時にほとんど誰とも仲良くしなかった(できなかった)せいで新しいクラスでなじめるわけもなく順調にぼっち街道を歩んでいる。
葵が入学してからすぐ話題の中心となったことで初めの方は人が話しかけてきたのだが、俺の成績は平均以下だし...運動はできないし...コミュ力があるわけでもない。
結論、何もない。
初めて話しかけてくる相手には勝手に期待した目で見られるし...
「自称、兄を名乗ってる人?(笑)」
という目線を感じる...感じるんだぁぁぁ!
完璧超人と比べられる人の気持ちを考えたことがあるのだろうか...?
はぁ...全然楽しくない、できるなら一年生に戻ってやり直したい...
そしたら今度は友達を作ることに全力になるのに...
と、あり得ないことを想像して現実逃避している間に帰りのショートホームルームが終わりそうである。席の前の女子たちが楽しそうに会話をしているのを聞きふと思う、女子だったら...いや葵のように美人で可愛ければこんな俺の性格でもコミュ力が上がり楽しい学園を満喫できたんじゃないだろうか...?
◇
誰とも会話することなく一人クラスを出て、即帰宅。
水の入ったコップを机に置きスマホを見ながらリビングの椅子でだらけていると玄関が開く音がする。
座っている俺の前を、ツヤのある黒髪で少しの乱れもないストレート、ザ清楚系美少女と言わんばかりの葵が弁当を片付けるためキッチンへ移動する。
「おかえりー」
「...ただいま」
俺が声をかけると少し間が開いて素っ気ない返事が返ってくる。
返事を返してくれるだけましだと思った方が良いのだろうか?
というか、久しぶりに妹に話しかけたかもしれない。
自分の中に誰かと喋らないと...という焦りを感じたからだろうか。
「兄さんは最近...どう?」
(は...話しかけてくるだと!?)
「...普通だよ」
動揺を隠すため感情を押し殺した俺は素っ気ない返事をする。
その後は特に何の会話もなく、葵はリビングを出て自分の部屋に向かって行った。
「そうか...俺が避けてただけだったな」
何でもできる妹が近くにいることで他人から比較され続け、それが嫌になった俺が、一方的に葵を拒絶していたことを思い出し小さく呟く。
『返事を返してくれるだけましだと思った方が良いのだろうか?』
などと言っていたが、自分の都合が悪い記憶はすぐに消し改ざんしていただけだった。
葵は何も悪くない、ただ俺に、周りの評価を変えようとする向上心と努力が足りなかっただけ...そう思えるほどに、俺のメンタルはだらけきった生活の中で回復していた。
◇
部屋に戻った俺は最低限の勉強だけをこなし、漫画を見ていたが電子時計が0時を表示していることに気づき漫画を棚にしまってもう一度ベッドにダイブする。
特にやることもなく、というか何かをやる気もなくただ毎日最低限のことをしてだらだらと生きている自分に毎回焦りを感じるが、焦りを感じるだけで何も行動しない。
焦りを感じることで『自分はそのことを自覚している、いざとなったらどうにかなる。』という現実逃避のループから抜け出せない。
そして今日も、そんなことを思いながら意識を手放すのだった...
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