となりで
海星
第1話 母ふたり
「流星危ないよ。落ちちゃうよ。」
「いいの。落ちても」
「よくないから。こっちおいで。」
夏に入りかけの蒸し暑い日、ベランダでおばと夕涼みをしてた。4~5歳の僕はとても死に近かった。いつでもふわっと消えてしまいそうな子供だった。
「流星…大丈夫。あんたはひとりじゃないよ。」
「…僕、ママに嫌われてる。僕はママが大好きなのに。」
「そんな事ないから。ママだってあんたの事大好きだよ?」
「…ならいいや。」
僕はおばに微笑んだが、おばにはわかっていた。
無理をしていること。狂おしいほど母を求めていることを…。
「流星…あたしがママになる?」
「大丈夫!
「そうね。でもいつでもなるからね。」
「…僕は麗美がいい。痛い事も嬉しいの。。僕を見てしてくれるから。その時はちゃんと僕を見てくれるから。…ママ、本当は優しいんだよ?ちゃんと僕を見ててくれてるんだよ。」
おばは僕をぎゅっと抱き締めた。
「流星…。耐えられなくなったらちゃんとおいでよ。わかった?」
「大丈夫だよ。」
――――――――――――ある日の夜。
(……これなら)
―――呼び鈴が鳴る。
「誰??」
「流星?!……」
「ごめんね…」
小さな僕の目には悲しい物が写った。
「流星??」
「ごめんね。」
僕はふらふらと立ち上がってドアから出た。
直後、僕が消えて何かが落ちる音と衝撃音が夜のアパートに響いた。
「流星!!……」
僕は直ぐに救急車を呼ばれて病院へ運ばれた。
――――――母も麗子に呼ばれて慌ててきてくれた。
「流星は?!」
「……」
僕は緊急手術を受けていた。
「いつの間にあんたのとこ行ったの??」
「麗美こそ見てなかったの?」
「あたしはてっきり部屋で寝てるかと思ってて。まさか家から出てるなんて思わないし!」
「!!……。」
麗子は言いたいことがあったが押し殺した。
ここで言ったら僕が母と離ればなれになってまた孤独になる可能性があると思ったから。
「っていうかさ、あんたのとこにいったのに、あんたこそ見てなかったの?」
「…彼氏が来てたの。多分、靴が見えたんだと思う。それであいつ、帰ったんだと思う。。」
「…それ、あいつが持ってたの?」
「そう。」
「……。」
「……本当にあんたは。。」
おばが持っていたブランケットを見て泣き崩れる母をおばは優しく抱き寄せた。
土で汚れたそのブランケットは、
ある日3人で買い物に行った時に珍しく一言二言、『流星、これ可愛いよ。ね?似合うよ!』と双子が声を合わせて笑って僕だけに見せたその笑顔。
その時の物が僕の宝物になっていた。
「麗美、あんた大変ならあたし暫く預かるよ?」
「いい。あんたも男で手一杯でしょ?流星にも行かないように言い聞かせるから。」
「……そういえば。忘れてた。あいつ家に置いてきてたわ。」
「は?まじ?いいの?」
「あたし、流星の事であたまいっぱいになってた。」
―――――――――――――――。
「麗子。あの子は?」
「鍵。」
「あ、うん。」
「あのさ、こんなとこで悪いんだけど、別れよ。もういいわ。」
「え?どういうこと?え?」
「だから、もういいの。あたし、お姉ちゃんと流星以上に大切なものなんて作れないわ。ごめん。鍵ありがと!じゃあね!」
「本当にいいの?」
母が心配そうに聞く。
「だってそうでしょ。あたしが救急車呼んでる時に、『俺連れてくよ?』とかそんなのもなかったんだから。挙句『母親は何してんだ』とか言うし。だからもういい。終わり!」
その後はなんだかんだ言い合いしながらも2人で僕を育ててくれた。
基本、根は仲がいい。言い合いしてても笑ってるのを僕は子供ながらに見てた。
だから子供なりにあっちこっち転がって仲を持っていた。
でも大きくなるにつれて、麗子が気にかけていたことが増えて行った。
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