四時ばばあのいないトイレ

伴美砂都

2018/12/1 23:59:05

 「四時ばばあ」の怪談を、わたしに教えたのが誰だったか忘れてしまった。いや、誰にも教えてもらわなかった。クラスで怪談がはやった小学生のころ、わたしは「金田一少年の事件簿」すら見られないほどの怖がりだったし、休み時間に「こわいはなし」をしてキャアキャアさわぐようなお友達は、ひとりもいなかった。隣の席の子のところで楽しそうにしていたクラスメイトたちの話を、ぬすみ聞きしたのだろう。

 四時ばばあは、午前四時から五時のあいだにトイレに行くと出る妖怪だ。姿を見たことはないけど、たぶん怖い容貌をしている。はだけた胸もとはがりがりに痩せた着物姿で、髪はざんばらで、目はぎょろり。なんなら血も出ているかもしれない。その存在を知ってから、夜明けに目が覚めておしっこに行きたくなっても、五時になるまでは必死でがまんした。大人になった今も、実はそうだ。トイレに行きたくて目覚めても、時計が五時を指すまではベッドの中で丸まって待つ。そのうちに、また眠ってしまうことも多い。


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