悪化け
あつかち
悪化け
僕の村には、化け物がいる。
村の端にある神社に住む一人の女の子。普段は人間として暮らしている。けど、その正体は化け物だ。
僕がそれを知ったのは小6の春休みだった。
中学生になるというわくわくと、どきどきを当時は抱えていた。
「お母さん。僕、友達と遊んでくるね」
「わかったわ。早く帰ってくるのよ」
「はーい。いってきまーす!」
僕はそう言って勢いよく家を飛び出した。
この小さな村で友達と遊べる場所は一か所しかない。村の端の神社の奥にある、竹林だ。ここには一か所だけ開けた場所があるので、いつもそこで遊んでいる。
僕が着いた時にはすでに、友達二人がいた。
「純人、遅いぞ」
「ごめん。じゃあ、早速あそぼ」
「ああ、じゃあ久しぶりにかくれんぼでもしないか?」
「いいね。じゃあ純人鬼な」
「え?」
「じゃあ、10分たったら探してくれ。じゃ」
「あ、ちょっと…」
僕は急いで呼び止めたが、二人は僕の声を気にせずどこかに行ってしまった。仕方なく僕はその場で十分間待つことにした。
そうして十分の時が過ぎた。僕はそれを腕時計で確認したのち、二人を探し始めた。
「もういいかい?」なんて聞いても多分帰ってこないだろし。
ここの竹林は広い。村を出たことはないが、多分日本全体で見ても広い方に入ると思う。そんな広いところ小学生一人でうろうろするだなんて、危険だなと思う人もいるだろう。しかし僕、というよりこの村の子供たちはここで何度も遊んでいるので、迷子になることなんて滅多にない。
「それにしても二人ともどこ行ったんだろう?」
日もだんだんと落ちてきて、空は青から赤へ変わっていった。暗くなると子供はもちろん、大人でも迷子になってしまう。早く帰らないと。でも、まだ二人を見つけてないし…
疲れた。もうまっすぐ歩くことさえできない。視界がだんだんとぼやけてきた。
ああ、これ僕死ぬのかな?
まだ痛みや辛さに耐性がそんなについていない小学生だ。多分、大人が同じ状況に陥った時以上にそう感じた。
ざっ
足が滑った。そして、そのままどこかに落ちていく。
崖だ。崖に落ちた。視界がぼやけてて気づかなかった。どこの崖に落ちたのかはわからないが、ここら辺の崖はどこも高い。おまけに全部山の奥の方だ。詰んだな。
僕は生きるのをあきらめた。過去の思い出が脳内にあふれ出す。これが走馬灯ってやつか。初めて見た。まさか、こんな若さで見ることになるとはな。
小学校の入学式、初めて村雨と吉光と話した時のこと、運動会のリレーで一位になった時のこと。特に変わったことはない。平凡で、ありきたり。でも、それなりには満足できた人生だったな。
どさっ
そして、背中に何かが触れた。地面だな。
最初は思った。しかし、違う。やわらかい。ふさふさとしてる。整った毛並みの感触だ。
僕は不思議に思い下を見た。すると、そこには地面の、湿った土の黒っぽい茶色ではなく、明るく、暖かそうな白っぽい茶色が見えた。
なんだろこれは?そんな疑問を解決する間もなく、僕は気を失ってしまった。
ゆさゆさ…
何者かに肩を揺さぶられて、僕は目を覚ました。目の前には日が落ちて真っ暗になった空と、僕が落ちたと思われる崖が写っている。体には痛みこそあるものの、あの高さから落ちたと考えるとありえないくらいの軽傷だ。
僕が体を起こすと、横からの視線を感じた。
横を向くと、そこには大きな狐がいた。
大きな。これは狐の中では大きい方という意味ではない。僕の体の何倍もある。
そして、僕はある一つの、村に伝わるお話を思い出した。
まだ日本が江戸時代のころ、この村には九尾がいた。
九尾は人の魂を食らい、それを炎として操ることができる。
村の人々は九尾に逆らえず、年に一度村から三人のいけにえを捧げていたそうだ。
しかしある日、村の偉い人たちが集まって今年のいけにえを決めているとき、ある侍が村を訪れた。
その侍は村の事情を聴くと、九尾が住むとされる神社に行き、九尾を斬り倒したそうだ。
そして村の人たちは九尾の恐怖から解放され平和に暮らしましたという、村に伝わる伝説だ。
僕がまだ小学生になる前に、おばあちゃんがこの話をよくしてくれた。その影響もあり、僕は妖怪について興味を持つようになった。多分、世間一般的にはオタクと言われるところまで来ている。だからこそ、僕にはわかる。
「九…尾?」
すると、狐はゆっくりとうなずいた。
九尾だ。斬られて死んでなかったんだ。僕は興奮と驚きでいっぱいになった。
自分の魂が盗られてないか不安になって胸に手を当ててみたが、しっかりと心臓が動くのを感じる。
すると、九尾はそんな僕の行動を見て、「心臓は盗らないよ」と伝えるかのようにほほ笑んだ。
九尾の目はその時初めて見た。青く、透き通っててきれいだ。
ふと、この目に見覚えを感じた。僕の知り合いで目が青い人は、一人しかいない。その人の目の青も、九尾のように透き通っていた。
「もしかして、綾香?」
すると、九尾が初めて口を開いた。
「まさか、こんなすぐばれるなんて」
そして、九尾の体がどんどんと小さくなりつつ、変形していった。僕と同じ身長になったあたりで縮小はとまり、その時には人型になっていた。そして、顔の作りがはっきりした。
九十九綾香。僕の同級生だ。小4の時に初めて会って、その時から仲がいい。よく学校を休みがちで、本人曰く、家の神社の仕事を手伝ってるらしい。
「やっぱり純人にはバレちゃうか」
「うん、特徴的な目だったしわかりやすかったよ」
「でも、もう少し驚くかなって思ったけどね」
確かに、目の前に九尾が現れて、その正体が友達だという状況を目の当たりにした割には落ち着いている。
「確かに、何でだろうね」
長い黒髪に、インナーカラーでクリーム色が入っている。小学生ではもちろん、美容室のないこの村では珍しい髪色だ。
「あ、助けてくれてありがとね」
「いや、たまたま近くを通りかかっただけだから。間に合ってよかった」
なるほど、崖から落ちたときに見えたのは綾香の背中だったのか。
僕は、ようやくその事実に気が付いた。
「じゃあ、僕そろそろ帰らないとお母さんに怒られるし帰るね」
僕はそう言って歩き出した。すると
「まって」
と、後ろから綾香が言いながらこっちに来た。
「この暗い中、純人迷わず帰れるの?」
あ、無理だ。
僕はすぐに理解した。ただでさえ地元のものじゃないと迷子になるようなところだ。こんなに暗かったら大人でも迷うのを僕は知っている。すっかり忘れてた。
「私、神社までなら道知ってるから。ついてきて」
そういうと、綾香は僕の前を歩きだした。僕も慌ててそれについて行った。
「ねぇ、純人」
途中、綾香が話しかけてきた。
「ん?どうしたの?」
「私が九尾だってこと、村のみんなには言わないでほしいんだけどいいかな?」
「え?まぁ、別にいいけどなんで?」
「この村の九尾の印象ってそんなに良くないから…」
「ああ、そうか。そうだね」
言われてみれば確かにその通りだが、小学生の脳ではそれを自力で考えることができなかった。
「うん、いいよ」
「ほんとに?ありがとう」
そうして僕と綾香は神社についた。
「じゃあ、ここまで来たら僕一人で変えれるから。じゃあね」
「うん、ばいばい」
そうして僕は急いで家まで走って帰った。
あれから二年後、中三の夏になった。
「純人、あんた中学卒業したらどうするの?」
家で扇風機の前でアイスを食べていると、母さんが聞いてきた。
「そうかそろそろ決めないと…」
「別に無理に都会出て高校行かなくても、村に残ってうちの農業の手伝いしてもいいんだよ」
この村は高校のある都会からかなり遠い。おまけに電車はおろか、バスすらない。なので高校に行くとなるとこの村を出て都会で過ごすことになるのだが、この村に残って家の仕事の手伝いをするものも多い。
「あんたの友達の村雨君と吉光君も村に残って家の仕事手伝うらしいよ?」
「そうなんだ…まぁ、八月になるまでには決めとくね」
「あんた八月ってあと一週間よ。早く決めなさいね」
そういって母さんはどっかに言った。
俺の将来か…
別に将来の夢なんかない。今までこの先のことなんて考えてこなかった。だから三年生になって決めろと言われてもよくわかってない。
けど、夢がないからこそかもしれないが別に高校には興味がない。じゃあ村に残ればいいのかもしれない。でも、俺には夢とまではいかなくても一つ望みがある。
村の外を見てみたい。
この村にはインターネット自体は通っているが、スマホやパソコンなんて親の仕事用くらいしかないので、村の外のことは新聞でしか知ることができない。その新聞に移る白黒の、村とは何もかもが違う景色に俺はずっとあこがれを持っていた。
けど、そのためだけに高校行くのも違うだろうしな…
ピンポーン
俺が悩んでいるとチャイムが鳴った。
「はーい」
俺がそう言って扉を開けると、そこには村雨と吉光がいた。
「あれ?二人ともどうしたんだ?」
「どうしたって、今日は夏祭りだぞ」
「さっさと行くぞ」
そういえばそうだった。
この村では年に一度、七月の後半に神社で夏祭りが行われる。これがこの村では一年のうち一番盛り上がるイベントだ。かき氷に焼きそばわたあめ、くじに射的。いろんな屋台が出ている。そして最後には打ち上げ花火を上げる。
俺は時計を見た。もう17時だ。
「わかった。行こう!」
俺はそう言って家を飛び出した。
一応主催は神社だが、村全体がこの祭りに協力している。ありとあらゆるところに提灯がかかっている。毎日通って見慣れた道も、この日だけは一味違う。
「そういやさ」
神社に向かう途中で、吉光が口を開いた。
「二人はさ、中学卒業したらどうすんの?」
時期が時期だ。友達の将来も知りたくなるだろう。
「俺は家の農業の手伝いする」
「まじ?俺もそうすんだよ」
「お、じゃあここは卒業しても村に残るのか」
二人は嬉しそうに言いあった。
「で、神代はどうすんだ?」
村雨は俺に聞いてきた。まぁ、そりゃ聞いてくるか。
「俺、まだ決めてないんよな」
すると、二人は驚いた顔をした。
「マジ?もう夏だぞ?」
「今決まってないって結構まずくないか?」
「うん、俺もそう思う」
「じゃあ早く決めろよ!」
「そうするべきなんだけど、別にやりたいことないし…」
「でも、昔から村の外に出たいって言ってただろ?高校行けば?」
そういえば二人にも言ってたんだったな。別に隠してはなかったし。
「そうだけど、そのためだけに高校行くのもな…」
すると、遠くから笛の音が聞こえてきた。太鼓の音も聞こえる。
神社に近づいてきた。
「お?そろそろだな」
「じゃあ、誰が最初につくか競走な」
「オッケー。位置について、よーい…」
「え?ちょっと待っ…」
「ドーン‼」
俺が喋り終わるのを待たず、二人は走り出してしまった。
「あー、おいちょっと待て!」
俺は少しあきれながらも、急いであとを追いかけた。
いくら田舎とは言え村中が夢中になる夏祭りだ。人は多い。二人は人ごみの中に消え、見失ってしまった。
「ったく二人ともどこだよ。神社のどこ集合なんだ?聞いとけばよかった」
神社の入り口についたが二人はいなかった。こりゃしばらく見つからないな。
今までの経験から俺はそう思った。二人が俺を置いてどっか行って、俺を待たずまたどっかへ行く。本当にやめてほしい。
俺は諦めて一人で祭りを楽しむことにした。
しかし周りの人たちはみんな誰かしらと周っている。そんな中一人だと少し寂しい。
俺は目立たないように道の端っこを歩きながら賽銭箱のところまで来た。
元々祭りに来てもお賽銭なんてしてなかったが、九十九さんとの件があってから祭りの時に限らず、神社に寄ったたびにお賽銭をしている。
しかし所詮おそらく0だったものが1になっただけ。俺以外には誰もいない。さっきとは違う寂しさを感じる。
「あれ?神代君?」
すぐそこにある竹林から声が聞こえた。そっちを見てみると、着物を着た九十九さんがいた。
「あ、九十九さん。久しぶり」
小学生の時は結構話していたが、みんな中学生になると仲が良くてもみんな異性とは話さなくなってしまう。それは俺と九十九さんも例外ではなく、クラスが違うということもありほとんど話さなくなった。
「もしかして、お賽銭しに来たの?」
五円玉を持った俺の片手を見て九十九さんは言った。
「うん、神社に来たときはいつもしてる」
「そうなんだ。いつもありがとう」
そういえばこの神社、九十九さんの家でもあるんだった。
「あれ?今日一人で来たの?」
「いや、村雨と吉光も一緒に来たんだけどはぐれちゃって…」
「あ、あの二人か…」
九十九さんは何かを察したような反応をした。小学生の時から俺たちを見てたら、あの二人に振り回される俺には見慣れてるだろう。
「じゃあさ、二人見つかるまで一緒にお祭りまわっていい?」
「え?あ、うん、はい」
突然のことで俺は驚き、混乱してよく理解する前に返事をしてしまった。
「ねぇ、かき氷買ってきていい?」
「あ、うん。いいよ」
―――やってしまった
中学生入学あたりから人は思春期というものに入る。思春期がどのようなものか、俺には一言で言い表せる語彙力はあいにく持ち合わせてはいない。ただ、一つ思春期真っ最中の俺が一番思春期の影響を感じることがある。
異性との会話で緊張することだ。まだお姉さんや妹さんがいる人なら話す機会は減っても緊張はしないかもしれない。しかし、残念なことに俺は一人っ子だ。異性と話すのに慣れていない。
なのでいくら昔仲が良かったとはいえ、すぐ隣で話されると緊張してしまう。
おまけに時々他の人たちが「あ、こいつら付き合ってんのかな~?」っていう目で見てくる。もう緊張で心臓がバクバクしてる。
「それにしても、九十九さん遅いな…」
それなりにかき氷の屋台に人が並んでるとはいえあまりにも遅い。俺は、屋台の周りを軽く探してみた。
「それにしても村雨と吉光に続いて九十九さんもどっか行くって…いやでも九十九さんあの二人とは違って誰かを置いていくような人じゃないと思うけど…」
俺がそんなことをぶつぶつつぶやきながら屋台裏の人気が少ないところをのぞいてみた。
「あ、いた」
暗闇の中で赤い着物は目立つ。のぞいた瞬間に分かった。俺はすぐに声をかけようとしたが、直前で声を出すのをやめた。よく見ると、九十九さん以外にも誰かがいる。黒い服を着ていて背が高く、髪を茶色に染めた男が二人いた。この村に茶髪で背の高い男なんていない。おそらく村の外から来たのだろう。この祭りには村から町に出て行った人たちも何人か来るのでそんな珍しいことではない。しかしなんで九十九さんと話してるんだろう?
俺は、こっそりと話の内容を聞いてみた。
「姉ちゃん、かわいいねぇ?」
「あ、はい。どうも…」
九十九さんは困ったような顔をしながら言っている。
「ねぇ、こんなちっぽけな村なんて出て行って俺たちと一緒に都会行こうぜ」
「いや、遠慮しときます」
ああ、これ知ってる。町の若者がよくするって聞く、ナンパってやつじゃないか?まさかこの村でお目にかかれるとは思ってもなかったな。
「それじゃあ、私そろそろ行かないといけないので」
そう言って九十九さんがその場を後にしようとしたとき。
「おい、待てよ」
そう言って男の一人が九十九さんの襟をつかんで後ろに引っ張った。
「村出たこともないような奴が調子乗ってんじゃねぇぞ?」
少し離れた位置からでも圧を感じる。それを至近距離でくらってる九十九さんの目に、涙が見える。恐怖に怯えて泣くことしかできていない。
男たちは、そんなのを気にも留めず、そのままどっかに連れて行こうとした。
―――助けないと
俺はとっさに走って近づいた。
「あ?なんだあのガキ」
男の片方が近づいてくる俺に気づいて、もう片方に言った。
「あの、九十九さんに何してるんですか」
ああ、めっちゃ怖い。平和な村の中でずっと生きてきた俺にとって、目の前の二人は実際の何倍も大きく見える。今すぐにでも逃げ出したい。けど、ここで逃げたらだれが九十九さんを助けるんだよ。俺がやるしかない。
「何って、こんなちっぽけな田舎からこいつ連れ出して都会の景色見せてやろうとしただけだよ」
「でも、九十九さんは嫌がってるじゃないですか」
「なんだよ、別にお前関係ないだろ。俺たちとこいつの話なんだからガキは口出してくんな」
「そこに俺が土足でずかずかと入ってきちゃったんでもう俺も無関係じゃないんですよ」
「あ?てめぇガキのくせに大人しくしてたら調子乗りやがって!」
そう言って男の片方が俺に殴りかかってきた。
「っぶね…」
俺はギリギリのところでそれを避けた。
「なによけてんだてめぇ!」
もう片方の男が殴りかかってきた。これもまた避けようとした。けど、さっきのやつよりも早い。奴の拳は、俺の頬を擦った。
「痛っ…」
少し擦っただけでもかなり痛い。今回はうまく避けられたけど、次はないだろうな。しょうがない。少し卑怯かもしれないが、安全第一で行くか。
「九十九さん、逃げるよ」
「え?ちょ…」
俺は九十九さんが何かを言い終わるのを待たず、手を引いて逃げ出した。男たちも追いかけてくるが、祭りの人ごみに入れば見つけるのは困難だろう。俺は人ごみの中に入り、遠くに逃げることだけ考えた。
「はぁ…はぁ…」
俺は賽銭箱のところまできて、足を止めた。正直、どのルートでここまできて、どんな人とすれ違ったのかすら覚えてない。ただ必死に走ってた。走った距離は神社内だしそんなに長くはないだろう。でも、持久走の後よりも疲れてる。
「九十九さん、大丈夫だった?」
「あ、うん。ありがとう…」
九十九さんは、たどたどしく答えた。
「ごめんね。助けるの遅れちゃって」
「いや、神代君は悪くないよ。むしろありがとう。助けてくれて」
ふと、左手で包んでる何かが熱くなったのを感じた。見てみると、九十九さんの手だった。
「あ、ごめん…」
俺は慌てて手を離した。
「いや、大丈夫」
九十九さんにそう言われたが、俺は固まってしまった。思春期真っ盛りで女子の手を握ってしまったのもあると思うが、それ以上にあの手の熱さが不思議だった。
正直、人の出していい温度ではなかった。もちろん、九十九さんは人間ではないのは知っている。九尾は炎を操ることができるし、別に熱いこと自体には違和感はない。でも、今九十九さんは九尾の状態ではない。人間の形をしている。人間の状態でもある程度は九尾の力を使えるのか?
俺は、九十九さんが右手に持ってる溶けたかき氷を見ながら考えた。
「ねぇ、神代君」
「ん?どうした?」
「もし私が九尾だってことが村の人たちにばれて虐げられた時、神代君はどうする?」
「は?」
あまりにも突然すぎて、少し大きな声が出てしまった。
「どうするって、別に今と変わらんよ」
「本当?」
「ああ、俺が虐げる側の人間なら小6の時からやってるわ」
「そうだね。この姿なら」
九十九さんは、少し寂しそうな顔をしながらそう言った。
「それって、どういう意味?」
俺は聞かずには入れなかった。
「私、この姿でいられるのもそう長くないみたい」
―――え?
俺は驚きのあまり、声が出なかった。
「そうだよね。いきなりこんなこと言っても分からないよね」
「そうか。じゃあ、手が人とは思えないくらい熱かったとは…」
「うん、形まで九尾に近づいてることの予兆だと思う」
「そうか…」
「で、それでも受け入れてくれる?」
俺は黙り込んでしまった。「もちろん」とでもいうのが模範解答なんだろう。でも、それが言えなかった。完全に人じゃなくなった九十九さんを俺は素直に受け入れられるのだろうか。俺には、わからなかった。
「そうだよね。急にこんなこと言っても返答できないよね。ごめんね」
九十九さんは少し寂しそうに答えた。俺は、なんていえばいいのだろうか。まったくわからない。
俺が、かける言葉を考えてると…
ズドーン‼
遠くから、大きな音がした。音のした方を見てみると、神社の入り口あたりから土煙が出ている。そして、いつもなら見えるはずの鳥居が見えなくなっている。
「え?何事?」
後ろでしゃがんでいた九十九さんが立ち上がり、走って土煙のほうまで行った。
「あ、ちょっと」
俺は急いで九十九さんの後を追った。
土煙のところには、俺と九十九さんはほぼ同時についた。いつもならここには鳥居があり、今時期は祭りに来た人たちであふれかえっている。活気はものすごく、人の話し声と祭囃子が響き渡るとても明るい場所だ。でも、そんな明るい様子とは全く違った。
地面は壊れ、人は倒れ、話し声と祭囃子ではなく悲鳴が響いて、あたりは荒廃しきったかのように暗い。
「は?何があったんだよ…」
ここら一帯をいくら見渡しても、来た時の面影が見当たらない。
「ねぇ、神代君」
九十九さんが声をかけてきた。九十九さんもこの状況にやや困惑しているようだが、どことなく落ち着きも感じられる。
「九十九さん、どうした?」
「あれ見て」
そう言って九十九さんは遠くにある竹林の方を指さした。そこをよく見てみると、白い四足歩行の動物が人を引きずりながら竹林の中に入ろうとしているのが見えた。
「何だあれ?」
「行ってみよう」
「分かった。行こう」
そう言って俺と九十九さんは竹林の方に走っていった。
竹林の中は何度も入ってるとは言え今は夜だ。この時間帯の竹林の中にはあまりいい記憶はない。迷子にならないように俺は夜の竹林に慣れているという九十九さんの後ろを着いて行っている。正直、今どの辺を歩いているのかよくわからない。
「九十九さん、ここどのあたり?」
「竹しかないところをどうやって説明すればいいの?」
「無理だね。ごめん」
でも、それ考えると九十九さんよくわかるな…
突如、九十九さんが足を止めた。
「どうしたの?」
「静かに」
俺が言い終わるのを待たずに九十九さんは俺の口をふさいできた。
「あれ見て」
九十九さんは、小さな声でそう言いながら、遠くを指さした。
そこには、先ほどの白い四足歩行の動物が三匹、子供が一人いる。
「何だあれ?」
「もう少し近づいてみよう」
俺と九十九さんは竹に隠れながら近づいて行った。
近づいてみてわかった。白い四足歩行の動物は一匹は前足が木槌のような形をしていて、一匹は前足が刃のように鋭く、一匹は舌がものすごく長い。三匹とも目つきからも凶暴さを感じられる。
「かまいたちか…」
九十九さんがつぶやいた。
「かまいたち?まぁ九十九さんがいるから今更そこまで驚きはしないけど本当にいたんだ」
「うん、たしか三匹の群れを作って生活してたはず」
「確か前足が木槌みたいな奴が人を転ばせて、前足が刃のように鋭い奴が相手を斬る。そして舌の長い奴が薬を塗るんだっけな」
「え、なんで知ってんの?」
「妖怪とかそういう類は趣味で調べてんだよ。かまいたちに白いイメージあんま無かったから初見ではわからんかったが」
「そういえば神代君、そういうの好きだったね」
しばらく話していなかったから忘れていたのだろう。九十九さんは少し引きながら言った。
「で、これどうするの?多分荒らしたのあいつらだけど」
「そうだね。子供も助けないといけないし。でも…」
九十九さんは前に出るのをためらっている。多分、九尾の力が子供にばれるのが怖いのだろう。子供は怯えて言葉を発せないようだが意識はある。
「分かった。ここで待ってて」
俺は足元に落ちていた武器にするには程よいサイズの竹を拾った。
「ちょっと待って」
九十九さんが俺が出ようとするのを止めてきた。
「もしかして、それで戦うつもり?」
「ああ、当たり前じゃん」
「だめだよ。普通の人間じゃ勝てないよ」
「そうかもな。まぁでも見とけって」
俺はそう言って九十九さんの制止無視してかまいたちに向かって走り出した。
「シャァァァァ!」
かまいたち達は俺を見つけると、木槌みたいな奴が真っ先に襲い掛かってきた。
こいつは人を転ばせるのが仕事だ。下半身に攻撃してくるはずだ。攻撃してくる場所がある程度わかっていたら避けるのは難しいことではない。俺は、攻撃を飛びかわした。問題は次の刃みたいな奴だな。あいつがどこを斬ってくるか、正直分からない。勘で何とかするしかないか。
俺はかまいたちの攻撃に合わせて右に避けた。しかし…
ザシュ
かまいたちは右に避けたのに合わせて攻撃してきた。攻撃は俺の左腕を斬った。そこまで傷は深くないが、左腕が動かなくなった。幸いにも舌の長い奴が何もしてこないのでいったんは生きていられた。よく考えたら下の長い奴は何もしてこないのは当たり前か。せっかくの傷をわざわざ治したくないだろうし。
しかし、どちらにしろ絶体絶命なことには変わりない。1vs3の時点で圧倒的不利なことに気づいとけばよかったな。もっとも、1vs3ですら勝てるわけないだろうが。
かまいたちは、木槌の奴と刃の奴両方が今度は同時に襲い掛かってきた。さっきは一匹ずつだったから何とかなったが、同時は無理だな。俺は死を覚悟した。短かったしまだやりたかったこともあるけど、しょうがないか…
ブウォッ
いきなり、目の前が燃え始めた。まるで、かまいたちから俺を守るかのように。これほどの規模の炎をすぐに出せる奴を俺は一人だけ知っている。
「クウォォォォン!」
九十九さんが、九尾の姿で吠えている。かまいたちの何倍も大きく、小学生の時よりもだいぶ大きくなった体から放たれる威圧感は凄まじい。
かまいたちはその威圧感に押されて逃げるようにどっかに行ってしまった。
「まじかよ…」
九十九さんが九尾の状態のところを見るのは今回で二回目だ。一回目は小学生の時。あの時の九十九さんはどこか優しさがにじみ出ていた。でも、今回の九十九さんは違った。かまいたちをなんとかすることだけしか考えてない、殺意にあふれた感じだった。
「神代君、大丈夫だった?」
九十九さんが人の形に戻りながら言った。
「あ、うん。ちょっと斬られたけど、こんぐらいなら大丈夫」
嘘。ほんとは今すぐ叫びたいぐらいいたい。
「そうか、ならよかった」
ううん、全然よくない。今なくの必死になってこらえてる。早くひとりになりたい。
「え?綾香お姉ちゃん?」
かまいたちにさらわれていた子供がようやく言葉を発した。村の人数が少ないので、村中の人の名前は幼い子供でも知っている。だからこの子供が九十九さんの名前を知ってるのは納得いく。いくけど…
「なんで俺無反応なんだろう?」
「知らない」
「ですよね…」
九十九さんの「知らない」、なんか刺さるな…
「あ、大丈夫だった?」
九十九さんがそう言って子供に近づこうとすると
「こ、来ないで!」
子供は大きな声でそう言って走って逃げて行った。なぜ逃げたか。それはすぐに分かった。
「これ、バレたか?」
「多分、そうだね」
あの子供は村のみんなにあったら九十九さんが九尾だということをすぐに言うだろう。そうなったら村での九十九さんに居場所が危ない。
九十九さんは表情こそ落ち着いているが、冷や汗をかいている。
「九十九さん…」
俺は小さな声でそう言った。それしか言えなかった。かけるべき言葉が出てこない。今九十九さんに何というべきか。俺にはわからなかった。
「神代君、逃げて」
九十九さんが口を開くなり、そういった。
「え?」
「早く村のみんなに会わないと神代君も変な疑い掛けられるよ」
「でも…」
「いいから早く!」
普段の九十九さんからは想像できないような大きな声で言ってきた。
「…わかった」
俺はそう言ってその場から走って去った。これが模範解答ではないのはあからさまだ。でも、これ以外の回答が俺には思いつかなかった。
あれから一週間がたった。子供の報告を受けた村の人々はその日から九十九さんをまるで指名手配犯かのように探し始めた。俺も少しだけ疑われたが、九尾だとは知らなかったとか嘘をついて何とかごまかせた。それにしても九十九さん、村の氷魚たちほぼ全員が探しているのによく見つからないな。もしかしたら村にはもういないのかもしれない。
「おーい、神代いるか~?」
俺が布団の中で寝ていると遠くから声が聞こえた。この声は多分吉光だな。そしてあいつがいるってことは村雨も一緒だろうな。
「ふぁ~い、なんだ~?」
寝ぼけた声で俺は返した。
「とりあえず起きて着替えて出てこい。話はそっからだ」
「あ、あとできれば動きやすい服装でな」
動きやすい服装?今まであの二人がそんなこと言ったことがなかったが…
俺は不思議に思いながらも眠い目をこすりながら着替えて外に出た。
「わりぃ、待たせた」
「いや、大丈夫だ」
「それよりお前、最近元気ないけど大丈夫か?」
「え?そんな元気ないか?」
「ああ、ここ数日毎朝二人で来てたけど、全然反応しなかったし」
「今日三時間来るの送らせてやっとだからな」
「そうか…」
確かにここ数日、朝起きられない。いや、それだけじゃない。何事においてもやる気が出ない。九十九さんがいなくなったあの日からずっとそうだ。
「なんかあったのか?」
「そうだな…多分夏バテだな」
「何だよ気をつけろよ」
「気を付けるわ。で、わざわざ起こしに来ただけじゃないだろ。何の用だ?」
「ああそうだった忘れるところだった」
「おいそれ一番大事なやつ」
こいつら、元気だな。お前らは俺ほど関わりなかったとはいえクラスメート一人いなくなったんだぞ。
「とりあえず神代、これ持て」
そう言いながら村雨が何か細長いものを投げ渡してきた。それを受け取って見て、俺は驚いた。
「え?これって…」
「見ての通り、猟銃だ」
「いやそれは見たらわかるけど、なんでこんなの持ってんだよ」
いくらここが山奥の田舎とは言え猟銃を持ってる家庭は少ない。しかも二人が今持っているのも含めて三本もある。
「俺の爺ちゃん、時々山でイノシシとか狩ってるんだけどこっそりパクってきた」
「それバレたらまずくね?」
「まぁ、怒られるで済んだらラッキーだな」
「そんなのに俺を巻き込むな…」
「よし、じゃあ行くぞ」
「いやちょっと待って」
俺はどこか行こうとする二人を止めた。
「猟銃なんか持ってどこで何しに行くんだよ」
「ああ、竹林に行くぞ」
「何しに?」
「九尾を捕まえに行く」
「は?」
いきなり言われて、俺は思わず大きな声で言ってしまった。
「もし俺たちが九尾捕まえることができたら俺たち村の英雄だぞ?」
「これはやるしかないだろ」
なんだよこの二人。何言ってるんだ?
俺は、あまりの衝撃で言葉を失った。
「それ、本気で言ってる?」
俺はしばらくして、なんとかこの一言を発した。
「ああ、九尾なんて普通に戦ったら死ぬかもしれんからな。本気じゃなきゃこんなことしないわ」
「クラスメートだぞ?」
「前まではな。今はもう違う。あいつは九十九さんじゃなく、九尾だ」
二人とも、目が今まで見たことないくらい本気になっている。これ、何言っても無駄だな。でも…
「じゃあ、行くぞ」
「いや、俺はやめとく」
だからって、友達を捨てることはできない。
「お前、本気か?」
「ああ、本気だ」
俺は、猟銃を投げ返しながら言った。
「九尾の片持つのか?」
「かつてこの村をめちゃくちゃにしたあの化け物だぞ」
「そうだよ。俺は九十九さんを守りたい」
「そうか。残念だ」
そういうなり、二人は俺に銃口を向けてきた。
「これでも気は変わらんか?」
「ああ、当たり前だ」
銃口を向けられてるとは思えないくらい落ち着いている。自分でも不思議だった。
「そうか…」
そういうと二人は猟銃を下ろし、全身の力が一気に抜けたかのようにしゃがみこんだ。
「あー、やっぱ俺たち人脅すの向いてないな」
「だな、めっちゃ本気でやってたんだけどそれでも自分でわかるくらい下手だった」
そう言いながらまた俺に猟銃を投げ渡してきた。
「それもってけ。一発しか撃てないけど、ないよりはマシだろ」
「俺たちのこと、誰にも言うんじゃねぇぞ」
「…ああ、わかった。ありがとう」
俺はそう言いながら後ろを向いて走っていった。
「なぁ、本当にこれでいいのかな?」
吉光が、少し不安そうに村雨に聞いた。
「逆に聞くが、これをいいって言うやついるか?」
「ああ、いないな」
そして、二人はお互いの目を見ながらこう言った。
『相手が神代と九尾じゃなければな』
「はぁ…はぁ…」
俺は今、竹林の中を走っている。俺は九十九さんがどこにいるのかわからない。もしかしたらもうこの村にはいないのかもしれない。でも、多分九十九さんはまだこの村にいると思う。根拠はない。ただ、なんとなくそう思うだけだ。でも、もし村にいるとして、村中の人々が探しても見つからないとなると、迷路のようになっているこの竹林しか考えられない。九十九さんはあの道を完全に覚えてるようだし、あり得る話だ。
けど、別に俺は道を覚えてない。入ってまだ数分しかたってないが、あまり何も考えず走ったので、今ここがどこだかわからない。もう少し考えて走ればよかったと少し後悔してる。
パーン!
突然、どこかから銃声がした。俺は最初、イノシシでも狩ったのかと思ったが、すぐにそうではないと気付いた。この銃声は竹林の中からした。そして、イノシシは竹林とは逆の方向にある森の中にいる。竹林には猟銃で狩るような動物はいないはずだ。じゃあなぜ竹林で銃声がしたか。それは考えるまでもない。
俺は、走って銃声のした方に向かった。
走ること十分後。そろそろ体力が持たなくなってきた。
銃声はおそらくこの辺でなったはず。俺は、あたりを見渡してみた。
すると、地面に血が垂れた跡があった。これの後を追えば多分九十九さんがいるだろう。
俺は血の後をたどると、一つの小屋にたどり着いた。
俺は、そっと小屋の扉を開けた。
「やっと見つけた…」
小屋の中には、倒れてる九十九さんがいた。服は汚れ、左足からは血が流れてる。
「怪我、大丈夫?」
俺がそう言って近づこうとした。
「来ないで!」
ブウォ
九十九さんはそう叫んで火の玉を投げてきた。火の玉は俺の横を通り過ぎ、壁にぶつかる前に燃え尽きて消えてしまった。壁まで届かなかったことから、九十九さんがかなり消耗しきってるということが分かった。
「まぁ、そりゃそうか…」
村の人から追われて、銃で撃たれた状態で俺に敵意を持たない方がおかしい。冷静に考えたら当たり前だ。ここに来るまでに気づいとくんだった。
「大丈夫だ。俺は敵じゃない」
俺は、ゆっくりと猟銃を地面に置きながら言った。
「そう言って襲ってきた人が何人もいた。優しくしてくれた近所のおばさんも、仲良かったクラスメートも」
「それでも俺は…」
「もういい!もう誰も信じられない…」
九十九さんは、泣きながら言った。あの日から一週間、ずっと追われてきた。どんだっけ怖かったか。どんだけ辛かったか。俺では想像できない。でももし、一人だけでもそばで支えてくれる人がいたなら、少しは楽なのかもしれない。
俺は、ゆっくりと九十九さんに近づいた。
「来ないで!」
九十九さんはそう言いながら火の玉を投げてくる。何発も何発も投げてくる。時々、それは俺に当たるが、すぐに燃え尽きて消えてしまう。かなり熱いが耐えられないほどではない。
そして俺は九十九さんの目の前まできて、九十九さんと目線を合わせるようにしゃがんだ。そして…
がばっ
俺は、九十九さんを抱きしめた。
「神代…君…」
九十九さんはさっきまでのぐちゃっとした顔がいつもの顔に戻った。まだ泣いてるが。
「大丈夫。何があっても、俺は九十九さんの味方だから。九十九さんの正体を知った時から」
俺は、涙を流しながら言った。泣くつもりなんてなかったんだが、泣かずには入れなかった。
「神代君…ありがとう…」
そうしてしばらくして、俺と九十九さんが抱き合うのをやめた時
「おい、この辺いるぞ」
「この小屋怪しいぞ」
小屋の外から声が聞こえた。村のおじさん二人だ。
「来たか」
俺はそう言いながら猟銃を拾った。
「それ、何発入ってるの?」
「一発だけ。村雨と吉光がくれた」
「あの二人が…」
「九十九さん、一つ聞いておきたいことがあるんだけどいい?」
「うん、いいよ」
「九十九さんは、この村から出たいってことでいい?」
「うん。そうだよ」
「分かった。じゃあ、一緒に逃げよう」
俺は、そう言って九十九さんの手を引いて扉を開いた。
「あ、いたぞ。九尾だ」
「純人、お前もか」
「どうせお前らある程度察してただろ。証拠不十分だったからごまかせたけど」
「しょうがない。二人ともやるか」
「いくら俺が九十九さんの味方だからってやりすぎだろ」
「だまれ!」
ああ、こいつ完全に頭に血が上っちゃってんな。もう一人の方はまだ冷静みたいだけど。
パーン
俺は、猟銃を二人の方向に、でも二人には当たらないように撃った。猟銃なんて初めて撃つし、当てるのは難しい。でも、外すのは簡単だ。もっとも、当てられたとしても人殺したくないし外すが。
二人は、銃声に驚き一瞬だがひるんだ。この一瞬だけなら、猟銃を警戒しなくて済む。
「九十九さん!」
「分かった!」
そう言って九十九さんは手から火を出し、地面の草に着火した。この距離だったら今の九十九さんでも発火できる。
「よし、逃げるよ」
「うん」
そうして俺たちは走って逃げた。
「まて!」
二人は追おうとした。しかし
「だめだ。これじゃ通れない」
炎はあっという間に草から草へ、そして近くの小屋。さらには竹…にはなかなか燃え移らなかったが、道をふさぐには十分だった。
「いくら何でも燃えすぎだろ…」
「九尾の炎、普通の炎とは違うのかもな。逃げるぞ」
「そうだな。早く消火しないと大変なことになる」
「はぁ…はぁ…そろそろ山出れるか?」
「残念だけど、まだ山頂にすらついてないよ」
「まじかー」
「まぁ、村からは出れたとは思うけど」
「そうか」
「ねぇ、神代君」
九十九さんは、突然足を止めて聞いた
「ん?どうした?」
「神代君はよかったの?私の味方して、村出ちゃって」
「あー、まぁ心残りはあるにはあるよ。でも、十分村では過ごしたし外の世界見てみたかったしな」
「そう…」
「それに、それで九十九さん救えるんだったらそれでいいよ」
「神代君、ありがとう」
「さ、さっさと山から出るぞ」
「うん」
九十九さんと俺は、完全に村の悪者扱いになってしまった。でも、このまま何もしなかったら、九十九さんはどうなっていたのだろうか。想像したくもない。それを阻止することができたなら。九十九さんを救えたのなら、俺は悪に化けたことに後悔はない。
悪化け あつかち @atukati0808
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