何光年先の世界で君とまた出会えたなら。

功琉偉 つばさ

プロローグ


 昔むかし、天の川の東の宮殿に、とても美しい娘が住んでいました。名前を織姫と言いました。織姫は天を司る神様、天帝の娘で、天の仕事として毎日、布を織っていました。織女の織る布は、雲錦といって神様の世界では最高級な布でした。

 

 天の川の西に、彦星という働き者の若者が住んでいました。彦星は毎日、牛の世話をしながら畑を耕していました。彦星は神様のためにおいしい食べ物を作っていました。


 ある日。

「うちの娘も、そろそろお嫁に行く先を考えてやらねばならんようだ。だれか、よい婿はおらんものかな。そうだ、働き者の彦星に会わせてみよう。」


と天帝は考えました。


「彦星よ。おまえは、たいそう働き者で感心な若者じゃ。どうじゃろう、うちの織姫と会ってみないか。」


「はい、天帝様。ぜひ、お会いさせて下さい。」


 こうして出会った織姫と彦星は、すぐにお互いを気に入りました。そして二人は、天の川の西に、新しい家を建てて暮らし始めました。

 

 ところが、二人は一緒にいることがあまりに楽しくて、仕事もせずに遊んでばかりいるようになったのです。織り機には蜘蛛の巣がはり、牛はお腹をすかせてぐったりしています。新しい布も、新鮮な食材も足りなくなってきたのを不思議に思った天帝は様子を見にいくことにしました。


「これはどうした。なぜ、そのようにやせてしまったのじゃ。」


様子を見に行った天帝はぐったりとしている牛を見て驚きました。


「はい、天帝様。二人は結婚して以来、毎日、毎日、遊んでくらしておりまして、織り機には蜘蛛の巣がはり、私は雑草を食べてやっと飢えをしのいでいるのでございます。」


「何という、情けないことじゃ。もう許せん。」


二人の行動に怒った天帝はすぐに織姫と彦星のもとに向かいました。


「ええい。お前らは、結婚して以来、毎日、毎日、遊んでくらしているそうじゃが、働くことをさぼるようでは許し難い。織女は宮殿に連れ戻す。」


そう言って、織女を連れ帰ってしまったのです。


 一人になった彦星は


「あぁ、織姫は今頃どうしているんだろう。会いたいな。」


と嘆いてばかりで仕事も手につきません。その頃織姫も


「彦星様は今頃どうされているのかしら。一目でよいからお会いしたい。」


そう言って毎日毎日、泣いてばかり。これには、天帝も困ってしまいました。


仕方がなく天帝は二人に


「よいか、一生懸命働いたなら、年に一度7月7日の夜、二人が会うのを許すことにしよう。この日は仕事をせず二人仲良く過ごすとよい。」


と言いました。


 しかし7月7日に雨が降ると天の川の水かさが増し、渡れなくなってしまうのです。


「どうしよう。こんなに、流れが速くては、向こう岸に渡れないぞ。」


彦星が困っていると、


「彦星さん、彦星さん。天帝様の命でやってまいりました。私たちを橋にしてを渡ってお行きなさい。」


 7月7日の夜が雨だったら、『かささぎ』が、天の川に翼を並べて橋となってくれるのです。こうして二人は年に一度、七夕の夜に会うことができるようになりました。

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