第28話 次世代ユニット

 握手会券の抽選の結果を見て絶句してしまった。


 1部7枚、2部2枚、3部1枚、4部0枚、5部12枚。


 ついに出てしまった、1枚も確保できなかった部が。


 終わったー。


 今まであれだけ応援してきたというのに、人気が出た瞬間切り捨てられたような気分だ。


 あまりにも理不尽すぎませんか?この世に神はいないのだろうか。


 他の会場も2〜4部は大惨敗。一番多いのが名古屋会場の4部5枚。保険に申し込んでおこうと思った、新メンバーのあの娘も握手券が全然取れていない。


 あの娘、人気ですぎだろ。


 まあ確かに新メンバーの中で一番ビジュアルが綺麗だと言われているが、ここまで握手券が取れないとは。もう推しと同じくらいの人気があるのではないだろうか。


 本当に困った。これでは本当にアイドルフェスで見つけたグループのことも、フォローしないといけないようだ。


 美女揃いのグループで所属会社も大手だったので、新しく結成したこれからのグループなのかと思っていたのだが、メジャーデビューしたのは3年前とのこと。


 これからの次世代を担うユニットとして活躍を期待されているとのことだが、イマイチ人気が伸び悩んでいるのだとか。


 ルックスもいいしスタイルも抜群、歌もダンスも申し分ないと思うが、アイドルは小柄な娘が好まれたりする。

 スタイル抜群で高身長のメンバーが多いようなので、そこが人気がイマイチ伸びない要因とかだったりするのだろうか。


 取り敢えず今度池袋の噴水広場でイベントを行うようなので、参加して今後の方針を決めようと思った。



 次世代ユニットのイベントが行われる当日、噴水広場に到着すると広場に柵で囲われたちょっとしたスペースが設けられていて、CDを買うと柵の中に入れる方式とのことだった。


 CD購入希望者の待機列ができてはいたが10名ほどしか並んでいない。


 こっちの全国握手会なんて2時間並んで入場しないといけない状態だというのに、なんという快適さだろうか。


 今並んだら最前列になってしまいそうだ。要領が全く分かっていないのにそれは流石に気が引けるなと思い、もう少し周辺を散策してから並ぼうと考えた。


 柵の外には3人ほど場所取りをしている人達がいる。この人達もユニットのファンの方々なのだろうか。


 池袋の噴水広場は屋内にあり吹き抜けになっていて、上の階からもステージが覗ける構造になっている。上の階に登ってみると縁に身を委ね下を覗き込んでいる人達がチラホラ。


 この人達もユニットのファンの方なのだろうか。


 しばらくそのまま周辺をウロウロし、開演10分前になったので、噴水広場に戻ると列は無くなっていた。

 代わりに柵の中には数十名の人の塊ができていたので、その塊の後ろで見学すれば目立たなくて済むだろうと思い、入場することに。


 柵の外からでも全然見える距離だとは思うが、無料で見るのもなんだか気が引けたのでCDを買って柵の中に入ることにする。

 CDを買うと入場券兼イベント参加券なる紙が渡された。イベント参加券とは?と思っていると、説明書きがされているようなボードを発見。


 読んでみると1、メンバーと2ショット、2、複数メンバーとの握手会、3、メンバー全員とのハイタッチ会となっていた。

 参加券1枚でどれか一つに参加できるらしい。全てに参加したいのならCDを3枚購入すればいいシステムのようだ。


 取り敢えず僕は1枚でいいやと思い、そのまま柵内へ進んで行った。前には詰めず、後ろの空いているスペースに陣取って開演を待つことに。


 メンバーが登場し曲が始まると合いの手を入れたり、クラップを入れたりと大盛り上がり。

 いつも応援しているグループより規模は断然小さいが、ファンの方の熱量は同じのようだ。


 ライブ終了後まず2ショット撮影会が始まる。


 好きなメンバーをスタッフさんに告げ、自分のスマホで撮影してもらう感じなのだが、なんと撮影するのは手の空いているメンバーが撮影してくれるようだ。

 ステージ上でメンバーとファンが入り乱れている状態だ。僕の応援しているグループのイベントでは考えられないような距離感だ。


 一応メジャーデビューしているのだから、地下アイドルよりは上のクラスなのだろうが普通はこんなものなのだろうか。


 その様子を驚きながら見ていると、あっという間にステージ上にいたファンの人達の姿が見えなくなってしまった。


 撮影会に参加を希望する方いませんかーっとの声が上がる。えっ!もう終わりなの?あんな綺麗な人達と2ショットが撮れるのに、希望している人はこれだけしかいないの?


 アイドル格差凄すぎないか!


 僕が驚いている間にステージ上に長テーブルが手際よく並べられ、4、5人のグループに分かれ、券一枚で4、5人と握手できる感じのようだ。

 一人一人に剥がしなんてついていない。ファンの方々がそれぞれ節度を守って、時間が来たら次のメンバーへ移動するを繰り返している。


 こっちの全国握手会なんて剥がしの人に剥がされようとも、粘って剥がされまいとするような奴なんていくらでもいるというのに。民度が違いすぎて驚いてしまった。


 そして握手会の列もあっという間になくなってしまい、希望される方はいないですかーっとの声がまた聞こえてきた。


 えっ!もう終わりなの?


 推しがいたら僕は20ループはするけど!?


 最後にメンバー全員一列になってハイタッチ会が始まった。これも列があっという間になくなってしまいそうだったので、僕は慌てて最後尾に並んだ。


 ハイタッチをしながらメンバーに頑張って下さいと繰り返す。皆んな、「はい」とか「ありがとう」とか笑顔で返してくれる。対応も全然悪くない。


 応援しているグループのイベントより、断然近い距離で楽しむことができた。なのになんでこんなに人が少ないのか理解不能なんですけど。


 推しに使い込んでる金額を注ぎ込めば、すぐにでも認知してもらえるだろう。距離は近いし、混んでないし、美人さんだしこっちの方がいいんじゃね。と思いながら家路についたのだが、帰ったら思わぬ吉報が届いていた。


 前シングルのスペシャルイベントの参加券が届いたのだ。


 応募したのはもう5ヶ月も前のことだったので、応募したことすら忘れていた。ていうかもう最新シングルが発売になっているというのに、前シングルのイベントとは。


 まあ人気が出過ぎてメンバーのスケジュールの調整がつかなくて、ずれ込んだのだろうけど。


 それにしても奇妙なタイミングだな。


 なんだ、なんだ、僕にスパイでもつけているのか?他に気移りしているのを知っているかのように、繋ぎ止めるためにスペシャルイベントに参加させとこうとでも思ったのだろうか。


 スペシャルイベントとは以前も参加した、メンバーと1対1で行う黒ひげ危機一発である。


 狙ったようなタイミングで当選結果が到着するなんて、なんか気持ち悪いんですけど?神様はこの世にいるのだろうか?それとも人為的な策略によるものなのだろうか?


 ただ趣味程度に楽しんで応援できるアイドルグループを探しているだけで、推しは推しで応援するから大丈夫なんですけど。


 まあ有り難く思い参加することにしましょう。



 当日、会場に赴くと今回から一部ルールを変更することにしたとのアナウンスが。


 前回までは黒ひげをメンバーより先に飛ばしたらステージ上から降りなければならなかったのだが、今回からどちらが先に飛ばしたとしても最後までステージにいていいとのことだった。


 会場からはこの神変更に拍手が巻き起こった。


 となるとゲームなんてチャチャっと終わらせて、推しと会話を楽しんでればいいんじゃね。


 そんなことを考えていると、進行役の方に呼び込まれメンバー達が場内に入場してきた。推しも入場してきた。


 推しを目の前にすると先日見てきたユニットの、どのメンバーよりも美人さんだなーっと改めて思った。

 このまま単推しを続けていけたらいいのだが、握手券が当たらないのではこればかりはどうすることもできない。


 自分に順番が回ってくるといただいた時間は全て有効に使いたかったので、早々にステージに上がり、今回はなんの捻りもなく推しの前に座る。


「おはよう、この前の鬱メッセージ面白かったよー」


 僕がそう言うとデリカシーの無い奴だなと思ったのだろう。一気に表情が曇った。


「あのコメントなーに?」


 怖っ!静かなトーンで薄笑いを浮かべながら言ってくる姿に狂気を感じる。


 あのコメント?コメントなんて入れたっけ?


「人が真面目に言ってるのに、笑うなっ!」


 あー、あれか!


 2年ほど前にグループの結成当初から追いかけたドキュメンタリー映画が公開されたのだが、その映画が先日テレビ放送されたのだ。

 その内容が推しにとっては放送されたくないような内容だったので、ファンの方に引かれないように保険をかけた、言い訳じみたメッセージが放送日前日に送られてきたのだ。


 僕はそれを茶化すようなコメントを入れていたんだった。


 『登場シーン、やらかして謝罪させられてたとこだけだったもんねーwww』確かこんな感じのこと入れていたような。


 だから怒ってるのか。


「そうやっていつもファンの人に冷たいから、反省して謝罪しなきゃいけない状況になるんですよ」


 ファンの人、つまり僕に冷たいから酷い目に遭うんだよ。という意味で言ったのだが、推しはその言葉の意味を瞬時に理解したようだった。


「冷たく、あり、ま、せーん」


 なにー、その言い方!絶対冷たいでしょ!


 今回は残念ながら推しが途中で黒ひげを飛ばしてしまったので、スペシャルグッズはゲットできなかったが。楽しい時間を過ごすことができました。


「なに飛ばしてんだよ。バカなの!」


「グッズ貰えないように、阻止したんでスゥー」


 嘘つけっ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る