第24話 推し不人気がバレる
「愛され力を高めるにはどうしたらいいと思う?」
その日、握手会に参加していると推しはいきなりそんなことを聞いてきた。
愛され力?僕の推しは今度は何を考えているのだろうか?
推しは舞台の主演を務める事になっていたので、今日が終わるとしばらく接触イベントは無く、会えなくなってしまう。それなのになんて答えづらい質問をしてくるのだろうか。
確かにここ最近、グループ内の人気格差が広がりつつある。推しの人気も上がっているので人気が下がるということはないのだが、人気上位のメンバーはもっと上がっているので追いつくのは困難な状態になっていた。
「主演女優さんなんだからもっと自信持ったら?」
「絶対、バカにしてるでしょ」
「じゃあ、もう男前キャラが定着しつつあるから、愛され力とかじゃなくて男前キャラでいけば」
僕がそう言うと推しはいつものように目を細め怒ったような表情になった。
「誰が、男前だっ!」
「そうやってすぐ怒るー、そういう言い方するから悪いんじゃん」
何が愛され力高めたいだよ。絶対無理でしょ。
一般的に男性ウケはしにくいタイプだとは思うが、僕はそのはっきりとした性格が好きだから握手会に足繁く通っているのだ。そのままでいいと思う。
今から路線変更するとか考えてないで、男前キャラを推していけばいいと思うのだが、本人が嫌がっているようなので無理そうだ。
「何か必殺技でも作ってみたら?」
「そんなので、人気出てるメンバーいる?」
あー、確かにいないねー。必殺技を持っているメンバーもいるけど、皆んないじられキャラになってる。
「でも親しみやすくはなるんじゃない」
そう言うと推しは押し黙ってしまった。
「自分ではどうなりたいの?」
「皆さんに愛されるアイドルになりたい」
皆さんに愛されるねー。
推しは顔は可愛いし、体格も小柄なのだから愛され力あっても良いと思うのだが。
「顔は可愛いんだから、何も喋らず黙っていれば良いと思うよ」
再び目を細めてくる。
「それ、どういう、意味?」
静かなトーンでゆっくりとした口調でそう言ってくる。怖っ!
「話すとガサツさが目立つから、黙って座っとけってこと」
「はぁーっ!お淑やかで、有名なんですけどっ!」
お淑やかな人はそんな顔は絶対にしません。
「じゃあ、やっぱり舞台頑張って、新たなファン獲得してくるしかないね」
「それはそれで頑張るけどー、、」
しばらく会えなくなるというのに、歯切れの悪い感じで終了してしまった。
握手会が無く、寂しいなーっと思っていた時、驚きのニュースが飛び込んできた。何と応援しているグループが某有名コンビニエンスストアとコラボをするというのだ。
凄い、凄すぎる。僕の応援しているグループはここまで大きくなったのかと思って感激してしまったのだが、そのコラボ内容を聞いて全身に悪寒が走った。
対象のお菓子を2個購入すると生写真が1枚もらえるという企画があったのだ。
紹介動画で、推しはこの企画に対し、多くの人に手に取ってほしいと言っていたのだが、いやいやいや、自分の知名度がどれくらいか知っているのかよ。
キャンペーンの詳細は、1つの店舗にメンバー10名の生写真が6枚ずつ置かれていて、対象のお菓子を2個購入すると、好きな生写真が1枚貰えるというものだったのだ。
ということは、人気のあるメンバーから無くなっていく事になるではないか。つまり人気がないと貰ってもらえないという状況が発生してしまうじゃん。
不味い、これは不味い事になった。推しの不人気が表面化してしまうではないか。
人気の指標となる握手券の売り上げは順調だが、ハッキリ言って数名の太ヲタが買い占めをしているから順調そうに見えるだけで、恐らく人数的にはここ数年増えてはいないだろう。
これは大変なことになったぞ。
キャンペーンが始まり、近所のコンビニに行ってみると特設ブースが設けられていて、対象のお菓子が並べられている棚の上に生写真が並べられていた。
キャンペーンの詳細がディスプレイされているところに写真が入るサイズのポケットが10個付いていて、そこに6枚ずつ写真が入っている。
生写真は自分で選んで取って、お菓子と一緒にレジに持って行くシステムのようだ。
ポケットから6枚の写真を取り出してみると裏にはご丁寧に、『このメンバーの配布は終了しました』との文字が。
マジかよ。この娘の写真は無くなっているのに、この娘の写真はまだ残っているんだー。と言われてしまうのがオチではないか。
取り敢えず推しの写真を3枚持って、お菓子を6つ取ってレジに向かった。
実はこの時、対象のお菓子ではない物も持っていってしまったのだが、店員さんもよくシステムが分かっていなかったようで、無事に推しの写真をゲットすることができた。
違う商品を売って写真渡してんじゃねーよと、店長に怒られていないと良いのだが。店員さん、なんかすいませんでした。
今日から僕は群馬に出張だ。残りの3枚、無くなってくれると良いのだが。
その日は一度本社に顔を出してから、自分で運転し前橋に向かって出発。前橋駅前のビジネスホテルを拠点にし、2週間かけて群馬県内の支店を回る予定だ。
次の日仕事を終え、ホテル近くのコンビニに行ってみると、メンバーの1人が配布終了となっていて、もう一人が残り一枚、他のメンバーも1、2枚は減っているようなのだが、、。
僕の推しは1枚も減っておらず、6枚のままだった。
キャンペーンが始まって2日目で配布終了してるとか人気ですぎだろ。
その日から僕は推しの写真の配布終了作戦を開始した。
作戦は単純なものだ。朝、支店に向かう前にコンビニに寄って、お弁当とお菓子を4つ買い、推しの写真を2枚貰って帰る。
泊まっているホテルには無料の朝食が付くのだが、利用しないでお弁当を食べることに。お菓子だけ買っても良いのかもしれないが、何となく、お弁当を買ったついでにお菓子も買って、写真も貰えるならついでに貰っておこう感を出して買う事にしていた。
変なところでプライドが出てしまう。
お昼休憩にまた同じコンビニに行ってお弁当を買って、お菓子を4つ買って、写真を2枚貰う。
帰りも同じことを繰り返し、6枚の写真を貰い切って、配布終了させ人気がある感を出すという。しょーもない作戦だ。
ヲタ活の資金捻出のためコンビニで買い物はしない主義だったのだが、そうも言っていられない状況だった。
その日から僕の食事は3食コンビニ弁当になることに。
日によって行くコンビニを変えていたのだが、どこに行っても推しの写真は残っていた。
原因は棚に並べられている推しの写真の写りが悪すぎる。
あんなに可愛い顔をしているのに、何でまたこんな写りの悪いのが選ばれてしまったのだろうか。
それにタイミングの悪いことに推しは今、舞台の主演をしているのでグループ活動メインではなく、舞台の仕事をメインで頑張っている。
音楽番組にグループで出演する機会があっても、推しのポジションには他のメンバーが代打を務めて入っている状態だった。
テレビを見て『あの娘可愛いじゃん。あっ!写真もらえるんならもらっておこう』というのも望めない状態だった。
ヲタとしては自分の推しの生写真が残っているなんて、人気がないように見えるので許せない。職場周辺とホテル周辺の行ける範囲のコンビニの写真は全て貰い尽くしてやる覚悟だった。
お菓子は職場の女子社員に配ることに。毎日のように各部署にお菓子運びをするものだから、僕はお菓子を運んできてくれるオジさんとしてちょっとした人気者になってしまった。
出張を終え帰る時も、道すがらにあるコンビニに寄ってお菓子を4つ買い2枚減らす作戦を繰り返す。
しっかし、どこの店舗に行っても上位2名のメンバーは配布終了になっていた。
本当にグループ内の人気格差が顕著になっているようだった。推しの焦る気持ちもよくわかる。
自宅に戻り最寄りのコンビニはどうなっているのかと思って寄ってみると残り1枚になっていた。
うっそーっ!誰かもらってくれたんだー。ありがとうございます。
前回間違ったと思われるのでお菓子を3つ持ち、最後の1枚を持ってレジに進む。
自宅周辺、ホテル周辺、職場周辺は配布終了させた僕って偉い。今度あったら褒めさせてやろう。
後日の握手会。
「ミドリムシ、お久ー。元気してたー」
くっそー、気軽に話しかけてきやがって、今回のキャンペーンどれだけ苦労したと思ってんだ。
でもまあ、全国に2万店舗ある中のたかだか十数店舗で配布終了させただけなのだから、あまりデカイ顔できるような数ではないんだけどね。
「あっ、主演女優様、お疲れ様でした。本当に素敵な舞台で感動いたしました。握手させて下さい」
「はーっ!ふざけんなっ!」
本当に舞台上の推しは輝いていたのでそう言ったのだが、推しは別の意味として捉えたようだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます