第15話 隠されていた想い
「ん・・・?」
スマホの着信音に目を覚ます
『焚迦釈君?!』
ディスプレイの表示に目を疑う
「・・・はい」
震える手で携帯を耳に当てる
「梓紫音さんですか?」
見知らぬ女性の声がした
「そう・・・ですけど・・・」
「私湊龍焚迦釈の母親です。突然ごめんなさい」
「・・・焚迦釈君の?」
紫音は妙な胸騒ぎを覚える
「あの子があなたに酷いことをしたのは分かっています。でもお願いです・・・焚迦釈に会ってやってもらえませんか?」
「え・・・?」
紫音は事態が飲み込めずにいた
「あなたを苦しめることになるかもしれないけど・・・でも母としてあの子の最後の願いを叶えてやりたいんです・・・」
「最後・・・って・・・?」
紫音の声が震えた
「後ですべてお話します。だからお願いです。どうか・・・」
焚迦釈の母親は病院の名前と場所を伝えて電話を切ってしまった
『行か・・・なきゃ』
なぜかそう思った
その先に待っている事態が想像できないわけではなかった
でもそれでも会いに行かなければならない
紫音はその思いに突き動かされていた
渋滞の多い通りだけに車では埒が明かない
圭希に電話しバイクを出してもらうと行き先だけを伝えて向かってもらう
「ここに・・・何が?」
「分からない・・・でも多分行かなきゃ私は前に進めない」
きっぱり言った紫音に圭希はため息をついた
「・・・そっか・・・頑張れよ」
「ん・・・」
圭希の言葉に頷き建物内に足を踏み入れた
消毒薬の匂いがやけに鼻に付く
知らされていた病室の前で立ち止まる
『湊龍焚迦釈様』
その名前だけが掲げられた病室
紫音は足が震えるのを必死で抑えていた
意を決してドアをノックすると疲労しきった女性が出てきた
「・・・梓です。先ほどお電話をいただいた・・・」
その言葉に女性は泣き出した
「ごめんなさいね・・・どうかあの子を許して・・・」
その言葉に心臓が高鳴る
「焚迦釈・・・君?」
女性の肩越しにベッドに横たわる焚迦釈を見つける
紫音は思わずかけ寄っていた
「焚迦釈君!」
手を握り呼びかける
その声に焚迦釈の目が静かに開く
「・・・紫音・・・俺・・・夢・・・?」
「夢じゃない・・・会いたかった・・・ずっと・・・」
紫音の目から涙がこぼれた
筋肉が落ちやせこけた焚迦釈の手が伸びてくる
涙をぬぐい頬に触れる
「ごめん・・・な・・・」
途切れ途切れの声に首を横に振る
「・・・イヤになん・・・て・・・・・・俺が・・・幸せ・・・てやりた・・・か・・・た・・・」
「焚迦釈く・・・」
紫音は右手で焚迦釈の頬に触れると焚迦釈にキスをした
焚迦釈もそれに応えるように紫音を抱きしめる
「・・・愛・・・して・・・お前・・・けは・・・失・・・いたく・・・なか・・・た」
「私も愛してる・・・だから・・・生きて!お願いだから・・・」
叶わないと分かっていても言わずにいられなかった
願わずにいられなかった
「・・・ごめん・・・な・・・幸せに・・・な・・・れ・・・・・・」
それ以上焚迦釈の言葉は続かなかった
焚迦釈の体からつながれていた機械が焚迦釈の心停止を告げていた
「や・・・嫌ぁ・・・!!」
紫音は焚迦釈の体を抱きしめる
冷たく硬くなっていく体が焚迦釈がもう還らぬ事を物語っていた
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