第14話 わからない

「紫音」

「・・・圭希君・・・どうしたの?」

うつろな目で圭希を見返す


食事を取ることも減りやせるというよりはげっそりとした紫音を圭希は直視することができなかった


焚迦釈との事を聞かされた日から圭希は時々様子を見に来ていた

でも紫音は心を閉ざしていく一方だった


そんな紫音を見ていられずにたずねた焚迦釈の部屋はすでに空き家になっていた

どこにいるのかすら分からない


みんなが『裏切られた』ような感覚に襲われたまま時間だけが過ぎていく


「圭希君」

「?」

「私ね・・・幸せだったの」

「・・・」

宙を見つめて淡々と吐き出される言葉に聞いてる方も辛くなる


「焚迦釈君一度は私と一緒に住んでもいいって思ってくれた・・・それがどんなことよりも嬉しかった・・・」

「紫音・・・」

「どうしてあの日・・・『キライ』になったって言ってくれなかったのかな・・・例え嘘でもそう言ってくれたら諦めも付いたのに・・・焚迦釈君ならそれも分かってたはずなのに・・・」

「・・・」

圭希は何もいえなかった


確かに焚迦釈ならそれぐらい分かっていただろう

紫音に幸せになれと言うくらいなら嘘でもそう言ってやるべきだろうことも分からないはずがなかった


どれだけ悩んでも出てくる結論は一つだけ

分かっていてもその言葉だけは口に出来ないほど焚迦釈が紫音を想っていたということ

だからこそ紫音はこうして塞ぎ込んでしまったのだ


でもなぜ離れる必要があったのか・・・

それが分からない以上紫音は立ち止まったまま進み出すことが出来ない


圭希も紫音もその日を境にそのことに触れることはなかった

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る