第12話 約束

紫音は男の方に足を踏み出した


「行く必要ないって・・・紫音!」

亮介が紫音の腕をつかんだ


「・・・離して亮介君。信太郎は・・・あの男は亮介君の叶う相手じゃないの」

「紫音?」

「まぁそういう事だ。こいつは俺の言いなりなんだよ」

男、信太郎は近づいてきた紫音の腕を掴むと自分の方に引き寄せた


「こいつは俺に何をされてもはむかわない」

信太郎はそう言って亮介の目の前で紫音のお腹を蹴り上げた


「やめ・・・て・・・おねが・・・」

紫音の目から涙が零れる


「やめろよ!」

亮介は駆け寄ろうとした


「来たらお前も同じ目にあわせてやる」

「・・・!」

そう言われた瞬間亮介は自分のこぶしを握り締め立ち止まる


「所詮その程度か。それより紫音、この間のお仕置きはこんなものじゃすまないことぐらい分かってるだろうなぁ?」

信太郎はそう言いながら亮介の目の前で紫音を殴り続ける


『バキッ!』

鈍い音がして信太郎が地面に倒れこんだ


「や・・来な・・・で・・・いやぁーっ!!」

紫音が悲鳴のような声を上げた


「大丈夫だ紫音」

優しい声が響く


「ごめなさ・・・何でも聞くから・・・もう・・・殴らな・・・で・・・」

紫音の体が痙攣するかのように激しく震えていた

焚迦釈は自分の上着を脱いで紫音の肩からかけると優しく抱きしめた


「俺は紫音の敵じゃない。だから落ち着くんだ」

静かに諭すように焚迦釈は言う


「紫音」

髪をなで、頬に触れる

そしてなでおろすようにして顎に手を添えると焚迦釈は紫音にキスをした


「・・・」

「・・・俺が分かるか?」

「・・・焚迦釈く・・・」

紫音は焚迦釈の胸に顔をうずめた


「湊龍何で・・・?」

「明憲たちが知らせてくれた。紫音の後をつけるみたいに変な男が歩いてたって」

「・・・」

「お前にならこいつ幸せに出来ると思ったけど間違いだったみたいだな」

焚迦釈は冷ややかな声で言う


「今のは・・・」

亮介は言い訳しようとした


「・・・こんなことなら来させるんじゃなかったよ」

焚迦釈はそう言って紫音を抱きしめたまま新太郎の襟首をつかんだ


「ひっ・・・」

「紫音はお前の親父から解放されてる。もうお前のもんでも何でもねぇんだよ!」

「あ・・・わ・・・わかったから・・・放してくれ!」

「・・・そう言ってた紫音をどれだけ痛めつけた?」

「・・・」

「焚迦釈君、もう・・・」

紫音が焚迦釈の服を握り締める


「・・・」

「今度紫音の前に現れたら覚悟しとくんだな」

「も・・・もう二度と現れない・・・!」

焚迦釈は信太郎を地面に叩き付けるように突き飛ばすと紫音を促して歩き出した


しばらく無言のまま歩いていたものの川原に出たとたん焚迦釈は紫音を強く抱きしめた

「た・・・か・・・?」

「・・・悪かった。俺が・・・」

何を言おうとしているのかは分かる

紫音は首を横に振った


「あれぐらいは何ともないから・・・でも焚迦釈君が来てくれて嬉しかった・・・」

怒ったり責めたり恨み言が出てきて当たり前なのに紫音はその正反対の言葉を口にした


「紫音・・・」

焚迦釈は紫音にキスをした

優しく でも激しいキス


「・・・いいの?」

紫音が尋ねた


「・・・」

「私・・・焚迦釈君の傍にいていいの?」

「!」

焚迦釈は目を見開いた


「お前気づいて・・・?」

紫音は頷く


「必要以上に人と関わりたくないんでしょ?」

「・・・お前は別」

「焚迦釈君・・・」

「でも辛くなったら俺なんて捨てていけ」

「?!」

「お前が我慢してるって分かっても俺からは離したくない」

紫音の目から涙がこぼれた


「お前がいる間はずっと守るから」

「ん・・・」

それが焚迦釈の約束だった



合宿途中から付き合い始めた紫音と焚迦釈は合宿が終わってからは紫音が通うような形で付き合っていた


「焚迦釈君!」

「あぁ」

駅まで迎えに来ていた焚迦釈の車に乗り込む


「なぁ紫音」

「ん?」

「・・・一緒に住むか」

「え?」

「あと1年で契約切れるんだろ?次の仕事こっちで探せよ」

焚迦釈からの思わぬ提案に唖然とする


「・・・いいの?」

「言ったろ紫音は別だって」

当たり前のように言う焚迦釈に心からの笑みを返す


付き合い出して半年

紫音にとって一番幸せな時だった

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