第9話 あの場にいた理由

「あれ?焚迦釈じゃね?」

突然誰かが声をかけてきた


「あぁ」

車から降りてきた3人の男たちに焚迦釈は反応する


「お前今日来るつってたじゃん?」

「わり。野暮用」

「ふ~ん・・・まぁいいけどさ」

彼らは焚迦釈の後ろにいた紫音たちを見てそれ以上言うのをやめた


「湊龍の知り合い?」

圭希が尋ねた


「あぁ。高校の」

「へぇ・・・」

「あ、もしよかったら一緒にどうかな?」

愛里が尋ねた


「俺らは別にかまわねぇけど・・・」

「じゃぁ決まり~。大勢いたほうが楽しいもんね」

美咲が嬉しそうに言う


「いいのか焚迦釈?」

「いんじゃね?」

「ふ~ん・・・じゃぁよっろしく~」

彼らは笑顔で言った


結局9人で店に入ることになった

部屋に入って簡単な自己紹介だけを済ませて皆次々と曲を入れていく


「焚迦釈君は入れないの?」

「あ~・・・」

「苦手なんだ?じゃぁ悪いことしちゃったかな?」

「この場自体は嫌いじゃない」

「そっか。よかったぁ」

そのほっとしたような笑顔に焚迦釈の友人の一人が声をかけてきた


「こいつ分かりにくいだろ?」

「え?」

「よく誤解されんだよ。怒ってるとか見下してるとか・・・」

「そうなんですか?でも焚迦釈君不器用なだけなんじゃ・・・?」

「?!」

その言葉に焚迦釈が驚いていた


「へぇ・・・今日来なかったのは紫音チャンがらみ・・・」

「止めろ」

「あ・・・」

「ん?」

言葉をさえぎった焚迦釈に紫音が明らかに戸惑っていた


「今日って・・・?」

「紫音には関係ない」

焚迦釈は突き放すように言った


「焚迦釈言い方気ぃ付けろ」

「・・・」

「ごめんなさい」

「え?」

友人の弘樹が紫音を見る


「私が焚迦釈君を揉め事に巻き込んじゃって・・・」

かすかに震えている声に弘樹はためらう


「圭希さん」

「ん~?」

「紫音気分悪そうだから連れて帰る」

「え?あぁ。わかった」

「これとりあえず預けとく。2人分」

「ん。気ぃつけてな」

「あぁ。悪いな弘樹」

「いや、俺は・・・」

「また連絡する」

焚迦釈はそう言うと紫音を促して店を出て公園に向かった


「焚迦釈君?」

「・・・気にすんなって言ったろ?」

焚迦釈はため息混じりに言うとベンチに腰をおろす


「・・・」

「もともと行けるかわかんねぇって言ってあったからなんともないんだよ」

「でも・・・」

紫音は今にも泣きそうだった


「・・・紫音」

「え?」

「お前何でそう・・・」

焚迦釈は髪をかきあげた


「焚迦釈君?」

紫音がしゃがみこんで不安そうに焚迦釈を見ていた


「お前さ」

「?」

「もっと自信持て」

「・・・」

「お前は悪くないんだからさ」

焚迦釈はそう言って紫音の髪に触れた


「でも・・・」

「でもじゃない。あの時助けたのは俺の意思だ。紫音を守りたいと思っただけだ」

「焚迦釈く・・・」

紫音の目から涙が零れた


焚迦釈はそっとその涙をぬぐう

「・・・頼むからこれ以上・・・」

「え?」

紫音の驚いた顔に焚迦釈は我に返ったように口をつぐんだ


「・・・なんでもない。とにかくもう気にするな」

「焚迦釈君・・・?」

このとき紫音は焚迦釈の飲み込んだ言葉だけが気になっていた

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