自分、不器用ですから

 もう誰も住んでいない夫の実家を処分することになり、ここ数か月、夫婦で片づけに行っております。

 いままで、たまに空気の入れ替えをするだけで、気にはなりつつ三年以上ほぼ放置状態でした。

 義実家は、昔ながらのザ・長屋で、周りのご近所さんも昭和感満載。昼間のおじじおばばの町内パトロール(暇つぶしの散歩)につかまって話し込まれる、なんてこともあります。帰れない。助けて。…まあ、それは置いといて。思ったのは、


『人が住まなくなると家はすぐ傷む』


 はい、実感しました。


 玄関の引き戸は途中でつっかえ、畳は歩くとへこむボコボコになっており、ぐるり見回せばクモの巣があっちにもこっちにも。なぜかタンスの扉は閉めても勝手にゆ~っくりと開いていきます。ハンドパワーじゃないよ。

 いやそれよりも何よりも、いちばん厄介なのが、イタチ!

 どこからかはいり込んでいるようで、あちこちに転がったフンに、尿をしたと思われるシミもあり、もう靴を脱いで入ることはできなくなりました。

 夫が土足はちょっと抵抗があるということで、雨のときに靴の上から履くカバーみたいなのをして中に入り、服が汚れそうなのでカッパのようなものも着て、まるで鑑識みたいな格好でせっせと片付けをしています。

 でも、これがねえ、あっっつい!!! カッパが暑い! 頭の皿に水を下さい。


 切手や硬貨や乗車券やミニカーや、いろいろと集めるのが大好きだった義父。

 絵が好きで、自分でも描いていた義母。

 夫と同じく音楽が好きで、CDをたくさん所持していた義兄。


 そんなこんなな物が所狭しとあり、それを、夫が残したい物、売る物、捨てる物、とに分けるのが本当に本当に、ほんとーーーに、はあ大変です。

 そんな中、最近は夫も慣れてきたのか諦めなのか、面倒になったのか(たぶんこれ)、カバー無しの靴でそのまま家に上がるように。

 そして、わたしはその日、夫が持って帰ると言っていたCDのホコリを拭いていました。いち、にー、さん、しー。もう数えたくないくらい大量に積んであります。仕方ない。じっと動かず、その場でふきふき。

 ふきふき、ふきふき、ふきふきすること数時間。終わるころには、この道何十年のいぶし銀なベテラン職人になった気分でした。


 その晩のこと。


 足が無性にかゆくなり、見ると――

 右足首に三つ。左足首に一つ、その少し上のふくらはぎ近くに三つ。

 ジーパンと靴下の間、肌が出ていた所。


 虫刺され。これは蚊じゃない。しばらくかゆいやつ。ダニかな。ノミかな。

 夫は? 平気なの? くっそお。かゆいぞ。


 虫よけスプレーしたからと油断していました。効かないのもいるからね。

 あれ、でもいままでは? 同じような服装で、同じようにスプレーしてたけど?


 あ。もしかして。


 そう、

 いままで靴の上からしていたカバー。

 ちょうどそこ、ジーパンと靴下の間の数センチ、カバーの範囲内だったのだ。虫よけスプレーよりも鉄壁、完璧な守りじゃないか。


 くうぅ、カバーくん。こっそりわたしの肌も守ってくれていたのか。言ってよ~。


 ありがとう。

 次からは、またキミを頼ることにするよ。めんどくさいけど。

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