憧れの先輩に告白したら、何故かペットになることになった
笹塔五郎
特別な関係
わたし――
一年上の先輩で、中学の頃からずっと憧れていた
黒髪のストレートに整った顔立ち――清楚で可憐とは、まさに彼女のためにある言葉だと思う。
正直、一目惚れだった。
けれど、彼女が色んな人から告白されているのも知っているし、その告白の全てを断っているのも知っている。
だから、わたしが告白したところで――受け入れられるとは思っていない。
思っていなかったけれど、わたしは決心した。
ダメで元々――告白して玉砕される方が、きっと後悔はない。
同じ高校を選んだのも、わたしは黒花先輩が好きだったからだ。
「それで、用ってなに? 大波さん」
校舎裏――黒花先輩にそう問われ、わたしは息を呑んだ。
苗字だけでも覚えてくれている。
それだけで感動するほどだけれど、今日のわたしはそこで終わるわけにはいかなかった。
「じ、実は……黒花先輩に言いたいことがあって」
「ふぅん、もしかして告白?」
「……!?」
言う前に、察せられてしまった。
――いや、後者裏に呼び出して、この雰囲気なら、黒花先輩なら察すると思う。
ここで「違います!」と照れ隠しに否定してしまえば、黒花先輩に恥をかかせることになってしまう。
「は、はい、そうです」
だから頷くしかなくて――黒花先輩は、少し困ったような表情を見せた。
「そうね……私、恋人はいらないと思っているの」
「――」
やっぱり、ダメだった。
ただ、実際に言われると、やはり泣きそうになってしまう。
ここで泣いてしまうのは、黒花先輩に迷惑をかけることだから、何とか我慢するけれど。
「そ、そうですよね。わたしなんかじゃ、先輩とは釣り合わないし……」
「釣り合わないなんてことはないわ。大波さんは可愛いし。小動物みたいで」
その可愛さは褒められているのか――ふと、黒花先輩は思いついたような表情を見せた。
「そうだ。実は私、恋人はいらないと思っているけど――代わりに欲しいものがあるの」
「ほしいもの、ですか?」
「ええ、そうよ。大波さんなら、ひょっとしたら叶えてくれるかなって」
告白を断られて、逆に黒花先輩からのお願い。
本当は一刻も早くここを去りたい気持ちもあるのだけれど、わたしは一縷の望みを持っていた。
まだ、先輩のことを多く知っているわけじゃない――その頼みを聞いたら、少しは親密な関係になれるのではないか、と。
「その、欲しいものっていうのはなんですか?」
「実は私、ペットを飼いたいと思っていたの」
「……へ? ペット、ですか?」
「そう、ペット。やっぱり、猫や犬の番組を見てると癒されるじゃない?」
そういう番組を見るんだ――と、どこか親近感を覚える。
けれど、黒花先輩がどうして、その願いをわたしに叶えられると思ったのか分からない。
「……えっと、一緒にペットショップに行ってほしい、とか?」
「いいえ、ペットを飼うのって一生の問題でしょう? ただ可愛いってだけで飼うのはいいことじゃないもの。だから――大波さんがペットになってくれない?」
「……へ、わ、わたしが、ですか……!?」
いきなりの言葉に、困惑する。
わたしがペットになる――一体、黒花先輩は何を言っているのだろう。
「申し訳ないけれど、恋人は私がほしいとは思っていないから――でも、ペットはほしいの。主人とペットも、特別な関係でしょう? 大波さんが私のペットになってくれるのなら、特別な関係にはなれると思うわ。こんなこと言うの、大波さんが初めてなのだけれど」
――普通に考えたら、ペットになるなんて提案、断るに決まっている。
恋人どころか、人としての扱いかどうかも怪しい。
けれど――わたしは『初めて』、『特別な関係』という言葉に惹かれてしまった。
きっと、ここで断ったら――黒花先輩とは二度と関わり合いになれない。
わたしが、彼女から逃げてしまうだろう。だから、
「ペ、ペットから始めても、恋人になれる可能性って、ありますか……!?」
それだけは聞いておきたかった。
特別な関係になれる機会だからこそ、その先も見据えて。
「確約はできないけれど、私はあくまで今の段階では恋人はいらないと思っているだけ――それで答えになるかしら」
それは、黒花先輩に有利な答えだった。
今はいらない――それで、わたしがペットになることを承諾したからと言って、恋人になれるかどうかなんて分からない。
でも、黒花先輩に告白した人の誰もが――求められなかった関係だ。
「……分かりました。今日から、わたしは黒花先輩のペットになります……っ!」
だから、わたしは彼女の提案を受け入れることにした。
友達からではなく、ペットから始めるという選択をしたのだ。
「本当? 嬉しいわ」
そう言いながら、彼女は懐から何かを取り出した。
そのまま、わたしの首元に手を伸ばすと、カチャリと何かをはめ込む。
「え、先輩、何を……?」
「チョーカーを着けてあげたの。それが首輪の代わり――今日から、あなたが私のペット、だものね」
そう言いながら、優しい手つきて黒花先輩は私の喉元の辺りに触れる。
ぞくぞくとして、思わず後ろに下がってしまいそうになるけれど、我慢した。
すると、黒花先輩はより一層――嬉しそうな表情を見せてくれる。
嬉しい気持ちと、どこか背徳的な気持ちになるこの関係――黒花先輩の恋人になるために、後戻りのできない道を進み始めた瞬間だった。
憧れの先輩に告白したら、何故かペットになることになった 笹塔五郎 @sasacibe
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