家族の味、中華料理ジャン

第7話 山笠の季節

博多の夏、山笠の季節がやってきた。町中が祭りの熱気に包まれ、男たちの力強い掛け声が響き渡る。「中華料理ジャン」もその雰囲気に影響され、活気に満ちていた。

ある日、店の開店準備をしていると、店の外から賑やかな声が聞こえてきた。明と玲子が外を見ると、山笠に参加する男たちが、大勢で店にやってきた。

「おう、中華料理ジャンさん！今日は祭りの練習が終わった後、みんなでご飯を食べに来たんだ！」リーダー格の男が明るく声をかける。

「いらっしゃいませ！」玲子が笑顔で迎え入れる。「今日は祭りの日ですね。何を召し上がりますか？」

「祭りの日は特別だから、豚の天ぷら定食を頼むよ！みんな大好きなんだ。」男たちは口々に注文を伝えた。

店内は男たちの笑い声と元気な声で一気に賑やかになった。美咲も厨房から出てきて、手伝いを始めた。

「お父さん、こんなに大勢のお客様が来てくれるなんて、嬉しいね！」美咲が興奮気味に言った。

「本当にそうだな。でも忙しいぞ、頑張ろう！」明は力強く答え、いつも以上に気合を入れて中華鍋を振った。

男たちの注文を受け、家族全員で料理を準備していたが、玲子はふと、定食のサラダについて考えた。「お祭りの男たちには、きゅうりは出せないわね。」

「どうしてなの、お母さん？」美咲が興味津々で尋ねた。

「山笠の期間中は、きゅうりを食べることが禁じられているのよ。輪切りにしたきゅうりの切り口が、山笠の祭神である素戔嗚尊（すさのおのみこと）のご神紋である木瓜（ぼけ）の花に似ているから、ご神紋を口に入れるのは畏れ多いとされているの。」

「それじゃあ、どうするの？」美咲が心配そうに尋ねた。

「トマトに変更しましょう。トマトもみんなに元気を与えるわ。」玲子は微笑みながら、美咲に手伝いを頼んだ。

サラダに新鮮なトマトを加え、定食を完成させた家族は、男たちに料理を提供した。

「豚の天ぷら定食、どうぞお召し上がりください！」美咲が元気よく料理を運ぶと、男たちは歓声を上げた。

「おお、今日はトマトのサラダか！これもまた美味しそうだな！」リーダー格の男が笑顔で言った。

男たちは豚の天ぷらを楽しみながら、トマトのサラダにも満足していた。「これ、本当に美味しいな。祭りの日にぴったりだ！」一人の男が感動して言った。

「ありがとうございます。お祭りの日を楽しんでくださいね！」玲子が笑顔で答えた。

その日の営業は、山笠の男たちの賑やかな声と笑顔で溢れ、家族全員が忙しくも楽しい時間を過ごしていた。

「こんなにたくさんのお客様が来てくれて、本当に嬉しいわね。」玲子が笑顔で言うと、美咲も満足そうに頷いた。

「これからも、私たちの料理でたくさんの人を幸せにしていこう。」明は静かに、しかし力強く家族に語りかけた。

その日から、「中華料理ジャン」はさらに多くの人々に愛される場所となり、家族の絆と美味しい料理が、訪れる人々の心に深く刻まれていった。山笠の季節に訪れた男たちとのエピソードが、新たな思い出として加わったのだった。