【完結】back space
湊 マチ
第1話 京都の秋
藤堂樹は、秋の風に舞う落葉の中を静かに歩いていた。京都の街道は、赤と金の絨毯に彩られ、まるで自然が織り成す美しい絵画のようだった。木々の間から差し込む陽の光が、地面に揺れる葉の影を落とし、光と影の舞が彼の足元で繰り広げられていた。
その風景は、樹の心に深い感慨を呼び起こした。彼の瞳に映る紅葉の鮮やかな赤は、かつての記憶を色鮮やかに蘇らせる。かつての仲間たちとの日々、ハッカーとしての栄光と挫折、そして失われた信頼。それらの断片が、秋の風景とともに彼の中で交錯した。
「まるで昨日のことのようだな」と樹は心の中で呟いた。紅葉が舞い散る様は、彼の過去の断片が風に吹かれて散り、再び集まるように感じられた。風が冷たく頬を撫でるたびに、彼の心もまた冷たく締め付けられるようだった。
樹は足を止め、目を閉じた。目の前の風景は消え去り、代わりに彼の内面に広がる記憶の世界が現れた。夜の闇に包まれた部屋、青白い光が煌めくモニター、そして指先で操るキーボードの感触。あの頃の彼は、全てを掌握していると思っていた。しかし、真実は異なり、彼は多くを失った。
目を開けると、再び現実の風景が彼の視界に戻った。樹は深呼吸し、前を向いて歩き出した。京都の秋の風景は変わらず美しいが、その中で彼の心は、過去と現在が交錯する苦悩を抱えながら進むことを余儀なくされていた。
「これからどうするべきか……」樹は問いかけるように呟いた。しかし、答えは風に乗って遠くへと流れていった。ただ、足元に広がる紅葉の絨毯だけが、彼の歩む道を示しているように見えた。
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