紅のフェンリル 革命の羨望編

水波練

プロローグ 平和の国、アルカンテネス

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 一人の少女が丘を見上げていた。薄く霧がかったその丘はまるで雲の中にあるかのようだった。

 ――あの丘の先には何があるの?


「今日は出発の日だ、ミナ。一緒に行こう……ミナ?」

「…………」

 

 少女が振り返ると、いつものようにそこには兄が背もたれに背中を押しつけるようにあぐらをかいて座っている。

 その少女は名をミナという。控えめな暗めの金髪に、白と緑に近い青でできた服を、リボン紐で軽く結んでいるといった容姿をしている。

 彼女には、アルトというただ一人の家族であり最愛の兄がいた。

 

「どこへいくの?お兄ちゃん。」

「決まっているだろう?隣国、アルカンテネスだ。」


 彼らは外の世界に憧れていた。いや、正確には丘の向こうの理想郷に憧れていたのだ。

 ――アルカンテネス、そこは戦の末に人々が初めてたどり着いた理想の都。あの丘の向こう側には私たちが望む全てが詰まっている!


「平和」「幸福」「永遠」


 その美しい名前を持つ隣の国には圧倒的な文明と平和があった。周りの国の人々は皆、その国に憧れ、羨んだ。

 

 ミナは“出発”する直前、軽く家の窓から丘を眺めてみると、木々が風に靡いて静かに音を立てていた。


 

 ミナは兄に手を引かれながら家を発ち、ゆっくりと丘を登って行く。頂上近くに達したとき、その下には一面と緑と深緑の巨大な“芝生と木々の絨毯”が広がり、ふとそのさらに向こうを見てみると、陽の光を伸びやかに浴びて光っているかのような綺麗な家々の姿が数多に分かれた街道の両側に敷き詰められている。

 ――世界が美しい……!

 

 ミナが景色にうっとりして兄の腕を握る力が弱まった頃――。

 突然、強風が吹き始めた。ミナはもう一度その草原に目を向けてみると、立派な服装の何人かの男の人と女の人が疎に立っている。前からいたのだろうか、なぜか彼らはその場から一歩も動かない。その人達は皆顔を伏せ、中には座り込む人もいるようだ。

「何をしているのだろう……?」

 

「駄目だ、”あれ”には近づくんじゃない。それは君が知るには重すぎる。」


 ミナの視線に気付き、兄がぎゅっとその手を握る。

 兄は急に少し声を荒くしていた。

 しかし、ミナの腕を掴む兄の力は優しく、警告の割にすぐに解けてしまいそうだった。ミナは少し体が前へ崩れると、そのまま転げ落ちてしまいそうな寒気が瞬間的に背筋を襲う。また、その時なぜか、後ろからは赤く、張り裂けるような空気が彼女を”襲った”。


 ――「ああ、なんて世界は神秘に満ち溢れているのだろう!」

 気のせいだったのだろうか?彼女が丘から落ちる瞬間、どこからか、そのような声が聞こえたような気がした――。





○第一部視点


 ――ミナ(主人公視点)

 ――神狼

 ――レイデヤ

 ――国の幹部

 ――親衛隊

 ――その他個人視点

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