第二章 縁結び編

第二章 1話

 撃墜された小型艇からの脱出時点からボロボロになり、マジェイ君の話よればここは岐阜の山奥らしく、各所に泥で汚れてしまったラバータイプの宇宙服から着替える為、木陰に隠れているところ。


 私が搭乗していた軍艦から脱出する際に持ち出しておいた物の1つとして、次元縮小にして縮めた野球ボールサイズの玉から予備の服を取り出す。


 心情を出せないから自分ではわかっていないのだけど、おそらくこれは私の性格だから念の為に持ち出した物は全部無事だった。


 代わりに小型艇に備わっていた備品と、ポットにも備わっていた奴が全て木端微塵と化してしまっているから、地球人として身を潜められずに原始人からスタートするはめになっていたんじゃないかな。


 それから彼、マジェイ君は私が着替え終えるのを待つついでに、爆発したポットと戦闘機の火を消化してくると言って側から離れている。


 敵の元親玉なんだからさっさと始末しておけばいいのに、律儀な彼は私から事情聴取をしたいらしく、先に着替えを終わっていたら何処にも行かずに待っていてほしいと頼まれているんだよね。


「……これからどうしようかな」


 わざわざ地球まで追ってきて、私のことを始末しようとしていた戦闘機をマジェイ君が撃墜し、敵である私の命を助けてくれた訳だけど。


 三者からの視点だとおそらく、私がアレアバ帝国の宿敵であるヒーローに助けを求め、帝国を完全に裏切ったという証明になってしまうでしょうね。


 私に熱い信頼を向けてくれる人なら、多少違和感を持ってくれるのかもしれないけどあの嫌な上司、ペテクローラは私の事を物凄く始末したがっているから、恐らく陰謀操作とかで罪を着せられるんじゃないか。


 そうなると今後、私を始末しに誰かが地球へとやってくる訳だ。


「小型艇は破壊されているし、こんな星に宇宙船なんてないだろうし。

 ……何処かで身をしばらく隠す必要があるか」


 天才の私なら壊れた小型艇を修理するという手もあるけど、端末のマップで落下位置を確認したら、歩いて数週間はかかる距離だから難しいんだよね。


 命を狙われているというのに、吞気に姿を隠さずに動き回るのはとても良い選択じゃない。


「ううん、どうしたものか」


 手が少し隠れる長い袖とぶかぶかする白のパーカーを最後に着替えは終わり、独り言を呟きながら木陰から姿を現した。


「マジェイ君はまだ消化中かな?」


 彼の姿が見えなくて、戦闘機が墜落した場所へと向かった。


 遠くはない直ぐ近くで、彼の手のひら先から水が噴出され、遠方からは池か川の水を念力で運んで燃える火に向かってばら撒く工程をたった一人でこなしていた。


「あそこまでエデルタルを使って大丈夫なんだね」


 声をかけるよりも、彼の能力の高さに驚き、考えが科学者の思考に切り替わっていた。


「いくら潜在能力への解放は無限とはいえ、デメリットは存在しないわけがないのに」


 これはもう少し、侵略時間を延長してもらって彼への調査を続けたいところ……って。


「私はもうアレアバ帝国の科学者じゃなくなったんだった」


 いけないな、鬼才の科学者と呼ばれていた私が、先程まとめた考えを忘れてしまうなんて。


「火の消化は順調そうだけど、終わる時間はまだまだのようだね」


 彼は待っていてくれと言っていたけど、そもそも私と彼は元々敵同士だったわけだし、待った後に彼が私のことを始末してくる可能性が高い。


「何も告げずに去る行為は、助けてくれた者にとても失礼すぎるのかもしれないのだけど、ごめんねマジェイ君」


 小言で謝り、彼に気づかれないよう、コソコソとその場から離れていく。


 ――10分後。


 行き先はとりあえず落下した小型艇がある方向だが、道なき道を通るのは私の身体能力的に厳しいので、先ずは舗装された道がある場所に向かっていた。

 

 道中、熊のような危険な生物に遭遇することはなく、彼にはまだ見つからずに順調だっただけどな。


「見つけたよ君」


 向かう先の目の前上空から、マジェイ君の声が聞こえて振り向くと、彼は両腕を組ながら無表情な顔で静かに下りてきた。


「光学迷彩を起動したいたのだけど、どうやって私の居場所を突き止めたんだい?」


 透明な状態を解除し、何も見えない場所から私が姿を現して、マジェイ君に質問を無表情に聞いてみた。


「君に一度接触していたおかげで、気配を感知することが出来たのさ」

「なるほど、既に君からは逃げられなくなっていたわけか」


 気配に関する原理が分からないのだけど、エデルタルに常識を求めてはいけないから別にいいのだけど、緊急事態だったとはいえ、彼に一度抱えられたあの時点で積みだったのか。


 戦闘力0の私じゃ、数千万の軍勢をほぼ単騎で全滅させた最強の人物から逃げるなんて無理ゲー。


「お手上げだ、大人しく君に捕まるとするよ」


 こんなところで死ぬのは、身を挺して守ってくれたオペレーター君に悪いからね。


 それにさっき始末されると言ったけれど、別に直ぐ殺される訳じゃないと思う、多分、だから脱出するチャンスを何処かで見つけて逃げられるようにしよう。


「ああ、ごめん、君をどうするのか話す前に、放火した場所の事後処理を付近からくる消防団と本部に説明をしなきゃいけないんだ」

「だからもう少しだけ待ってろ、かしら?」


 拳状の両手首をくっつけて、手錠をかけやすいように差し出していたのだけど、マジェイ君の説明に私は無表情で首を傾げた。


「うん、君の行動を長時間縛らせて、物凄く困らせているのは分かっているよ。

 だけど僕にも責務といものを全うしなきゃいけないんだ、だからもう少しだけ待っていてくれないか?」


 私は君から逃げていただけなのに、彼はそんな事を気にしていないどころか、何故か勘違いしているのは何故なのかな?

 

 まったく、別の意味で困った男だよ、裏切り者の私からアレアバ帝国に関する情報を引き出したいのなら、私を自由に動けないよう木などに縛っておけばいいのに。


「はぁ、わかった。

 じゃあ元の場所に戻ろか」


 とりあえず断ったら良くない気がするし、ここは抵抗なんてみせず、素直に彼の指示を従っておく他に選択肢なんてないか。


「いや、いつまでも暗くなりかけている森で君を待たせるのはとても悪いよ。

 だからここへ飛んでくる時に見つけた近くの町へと送ってあげるから、そこでしばらく休める場所で待ってもらうことにするよ」

「え!?」


 帝国から命を狙われないよう身を隠す前に、彼に私の事を敵である認識を改めさせる必要があるんじゃないかと、この私に考えを悩ませる自体が発生した。

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