第22話 自己紹介、いべんと

「はぁ…はぁ…悪かったのら…悪かったから、もう追い回すのはやめてのら…」


僕が電気を流したあと、すぐに氷鬼の能力で痙攣を無理やり止めてまた追い回してたから、どうしても生理的に無理なんだろうね。ちゃん呼びが。


「ったく…もう二度とちゃんを付けるな…まじで無理なんだよ。昔のことがあってな…」


昔になにかあったんだろうな…かわいそうに…


「楓、お前なんか哀れむような目してないか?」


勘が鋭いねぇ…ちょっとここはうまく返さないと殺される盤面だな。


「いや?そんなことないよ!」


僕は満面の笑みを浮かべる。


「嘘くせぇ…」


こんな事を言われたが殺されるのは回避した。危ない危ない。


「えっと…どういう状況のら?」


「とりあえず自己紹介しとけば大丈夫だよ。」


僕はアプローチしてあげる。なに口走るか分かったもんじゃないからね…


「あ、私は、大久保 愛理のら…えっと、【水鬼すいき】のら。元水鬼と戦ったときに、左腕と右目を負傷して、右目は見えなくなって左腕は折れたのら。いま、ものすごく痛いのら。まぁ、よろしくのら。」


「大丈夫ですか…?あ、僕は【炎鬼えんき】の炎谷ぬくたに 蒼葉です。一応、応急措置はできるので、ちょっと腕を出してください。」


炎谷さんが手際よく骨折の応急処置をしてくれている。この人…何者!?


「僕は保健室の先生でしてね…これくらいはできるんですよ。はい。できました。無理しないようにしてくださいね。」


「ありがとうのら!」


愛理ちゃんが嬉しそうにしている。不便だっただろうからね。あの腕の向きは。


「えっと、雷鬼は言ったから、あ、次は僕の番か。僕の名前は、影山 秋だよ!分かってると思うけど役職は【影鬼かげおに】だよ!情鬼さん、使えたんだけどなぁ。途中で騎士に見つかって殺されちゃったからなぁ…過ぎたことはいっか!じゃあ次、鬼の二人方。」


この子なんかすごいしっかりとしてるなぁ。ヤバイ、私達が恥ずかしくなってきた。なんでこの子の前で醜い争いしてんだろ。


「あー、俺ね。俺は鬼丸 行人。ただの【鬼】だな。そこまで期待しないでくれ。ただ俺達は走って捕まえるだけだからな。よろしく。」


「僕もだYO!僕ゴンザレス。タダの【鬼】だYO!よろしくNE!」


「ゴンザレス…テメェ、余裕綽々としている時間も今の内…」


雁木さんのしつこい恨みに、恥ずかしさと怒りで頭の中でブチッと言った。


「雁木さん?」


「あぁ!?なんだよ、このチビが。」


「貴方、執着が激しいですよ?ここには私達より年下の子だっているんです。分かってます?貴方はその子を困らせているんですよ?恥ずかしいとは思わないんですか?あと僕は愛理ちゃんよりチビじゃないからチビじゃないです。」


「ちょっと!私のことをディスってないかのら!?」


愛理ちゃんがそう叫ぶが気にしない。


「どうなんですか?雁木さん?」


すると、歯切れが悪い声で言ってくる。


「いや…だってよぉ…」


「良いですか?私達にはやった時の記憶がないんです。そこを詰めたってどうにもならないと思わないんですか?今までの話を聞いている限り私達がやったのは確かなんでしょう。そこは謝ります。すいませんでした。ほら、ゴンザレスさんも」


「ハ、ハイ…ス、スイマセンでした…」


ゴンザレスさんが頭を下げる。


「はい。頭を下げましたよ、ゴンザレスさんは。それでも雁木さんは許さないんですか?」


私は笑顔を作る。こうでもしないと頑固な雁木さんは許さないと思うからね。あと、脅しって意味もあるけど…


「わ、分かったよ。許す。許すからもう怒らないでくれ…」


雁木さんが恐れ慄く。うん。これで鬼陣営が平和に近づいたな。


ピコンとスマホがなる。ちょっと待ってこのタイミングのスマホの着信は嫌な予感しかしな…


そんな思いとは裏腹に


『これから【いべんと】を始めていきたいと思います。そのイベント名は…』


僕は愛理ちゃんにぶつかる。ちょっと近くにいすぎたかな?


『一身同体です。』

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