雨上がりの空の下で笑えば。
兎森うさ子
1.
それは、バイト帰りの出来事。
自転車で帰宅途中、鼻先に冷たいものを感じ、自転車を止め、ふっと空を仰ぐと、ぽつぽつと降っていき、やがて、叩きつけるような土砂降りへと変わる。
天気予報は快晴と言っていたはずだが、──いや、自分なんかが天気予報をアテにしてはいけないじゃないか。
自分が外出した時は、必ずといっていいほど予報外の天気になる。だから、この天気も予想内とは言えばそうなのだが。
すっかり濡れ鼠となりながらも再び漕ぎ始めた、その時。
前方に黒い物体が現れた。
「わっ……」
常に眠い頭で判断が遅れ、直前になって回避しようとしたものの、バランスを崩し、地面に叩きつけられる。
「い、……っ……」
受け身に失敗し、骨を折ったのではないかと思うくらいの全身の痛みと、水溜まりに入ってしまったことで、さらに濡れてしまい、萎んでいく風船のように深いため息を吐いた。
その目と鼻の先で、ぴくっと、こうなった原因のが弱々しく動いたことにより、痛む身体を無理やり起こして、恐る恐る拾い上げる。
その際に顔が見えた。が、目を瞠る。
解れかかった包帯の左目に大きな引っかき傷があった。
多くの人は、この傷を見て眉を潜めるであろう。
しかし、自分と同じようだと頬に貼ったすっかり濡れたガーゼに触る。
見た目はポメラニアンのような犬であるが、どこからか逃げてきたのだろうか。
自分と同じように。
今にも息が絶えそうな犬を放っておけることが出来ず、起こした自転車のカゴに入れ、家路へと急いだ。
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