第19話 傷跡

「ふぅ……食った食った」

 

 あの後、なんやかんやあって、雄太と一緒にすし屋に行くことになった。

 寿司やって行っても回転寿司の方だ。高いところは庶民の俺たちには手が出せないからな。

 

「っぱ、寿司はうまかったな」


 たまにはこういう贅沢もいいだろう。

 そう思いながら、洗面台に行き歯磨きをする。

  

 シャカシャカシャカ……


 一定のリズムで歯を磨いていると、目の前の鏡が映る。

 うんっ、今日も俺は可愛い。 


 「ぺっ……」


 歯を磨き終え、ついでにシャワーを浴びる。

 

 二日……?三日ぶりくらいのシャワーだ。


「………ふぅ」


 ……昼間はああいったけどな。

 シャワーを浴びながらふと、昼間の会話を思い出す。


『なんの被害が出なかった。それだけで最高にハッピーエンドって奴だ』


 か。


「……本当にそうなのか?」


 風呂から上がり、服を着替えて早々に布団に入る。

 

 一般人には被害が出なかった。

 誰も死んでないし、街に被害はなかった。

 誰も悲しい思い何て……


 そう考えたところでふと、雄太の顔を思い出した。


『なんの被害が出なかった。それだけで最高にハッピーエンドって奴だ』


 雄太はどこか誇らしげなように言っていた。

 本心から、きっと被害が無くてよかったって思ってた。

 だけど……だけど少しだけ、悲しそうな。そんな哀愁を漂わせてるように、俺には見えたんだ。


 なんていうか、強がっている。

 そんな風に感じたんだ。


「してる奴は、いるか……」


 目を閉じる。

 魔物の傷跡は無い。

 けど、言葉の傷跡は残った。


 他ならない人間がきづ付けた傷が。


 ………だけど、それでもあいつは誇らしいと、ハッピーエンドだといった。


 だけど、それで本当にハッピーエンドなのか。

 正直わかんないや……



 ■■■


「……ここは?」


―ようやく起きたかー眠り姫ちゃん!


 そう言った人物は、ふふふと笑っていた。


「え?高校?……いや、俺はもう成人して……」


 いや、違うのか?

 何故だろうか、今いる場所がしっくりくる。


―さ、着替えて早く体育館に移動しねーと。また怒こられちゃうよ?


「あ、ああ……」


 そういって俺はうんと頷いて手を引かれて廊下を歩いていく。

 がやがやとした日常。


―そういえば聞いた?


「何が……?」


―○○君探索者になったんだって


 また、〇〇君の話か。


―すごいよねー探索者!私もなりたいなー


 そういってキラキラ輝かせながら言う、彼女に俺はモヤモヤを抱えていた。

 

「〇〇君って、そんなすごいの?」


―そうだよ!まあ、君にはわからないかーだって君、まったく探索者とか興味ないもんねー


「それは……そうだね」

 

 そういってうなずく。

 そうだ、あんな野蛮な物……馬鹿がやる底辺のゴミなんだから。


 そう思っていた時だった。

 突然壁が崩れ、魔物があらわれた。


「魔物……!?」


 幸いこっちには気が付いていない。

 けど……


 取り残されて、襲われてる子がいる。

 がれきの下敷きになった子がいる。


―っ……助けないと


 そういってあの子は助けに走っていく。


「おいっ、早く逃げるぞ」


 その声も届かず彼女は、みんなを助けようとする。

 数人を助けた時だった。

 彼女を見つけた魔物が、近づいてくる。


―あっ


 彼女は人を助けることに集中していて気が付いていなかった。

 魔物が彼女喰おうとする。


「んでだよ……なんで身体が動かねえんだ……」


 そんな様子を、俺は何もせず黙ってみてるだけしかできなかった。



 気がつけば目の前から魔物は消えていた。

 〇〇君が倒したらしい。

 その様子を彼女はほほを赤らめながら興奮気味に話してくれた。


 気分が悪かった。

 

 そうか、そうだった……

 あの時、俺は……


――すごかったね、〇〇君……カブトムシみたいだった。


「ああ、え?」


 カブトムシ?


■■■



ジりりりりりり……



「ん、うーん……」


 嫌な音が聞こえて俺はゆっくりと目を開ける。

 目に入ってくるのは見慣れた天井……


 ああ、そうか……


「夢……」



ジりりりりりり……



 たっく、いやな夢見た……ん?

 何かにつかまれたなと思ってみれば、俺の手を何処からか入り込んだカブトムシの雄がよじ登っていた……


「夏か……」

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