第16話 スタンピード

「ん?なんか騒がしいな」


 魔物を切り、まるで魔物専門の辻斬りの様な風になっていた俺の耳にどたどたという音が聞こえて来た。


「……なんだ?」


 じっと耳を傾けていくと、なんとなく分かった。

 魔物の大群に、冒険者さんたちが追いかけられている。

 

「これはまずいかな」


 俺はそう思って、冒険者さんの方へと足を進めていけば、そこには厳つい男性2人と細身で若い男性がいた。


「……こういう時は、美少女が相場って決まってるんじゃなかったんですか?」


 なんて誰に尋ねるでもないが、思わずそう虚空に尋ねる。

 ……まあいっか。


 そんなこんなしていると、冒険者さんたちは俺の事に気が付いたようだ。


「何かあったんですか?」


 知ってるけど一応聞く。


「何ってっ!スタンピードだよ!」


 スタンピード……別名、魔物氾濫。

 この事情は、魔物がまるで津波のようにダンジョンから湧き出す現象だ。

 約5年ぶりの現象だ。

 前のスタンピードでは、数千人の死傷者が出たって聞いたことがある。


「俺達はこれから上に報告に行く。嬢ちゃんも早く逃げろ……っておい!」


 魔物がダンジョンの外に出たら、いくら早く報告が上がったって少なくない死者が出る。

 ★1最弱の魔物でも、一般人にとっては脅威以外の何物でもないのだから。


「待てっ、とまれっ!」


 ダンジョン奥へと歩き出した俺の手をリーダーっぽい冒険者の人に掴まれた。


「……何です?」

「何です?じゃねえ!お前、死にてぇのか⁉」

「死にたくはないね」

「そうだろう?さっ!早く逃げるぞ!」


 ふと見れば、冒険者さんは今一人だ。

 もしかしたら、俺を引き留めるため彼だけが残ってくれた……みたいな感じかもしれない。


「……あんた、いい人だね」

「え?」

「だから、あんたはちゃっちゃと逃げな?良い人は簡単に命を落としちゃいけないんだから」


 そう言って手首をグリンと回して引き抜く。


「まあ、そこで見ててくれても別にいいんだけどさ」


 そう言うと俺は刀を引き抜き上段に構えた。


「……だって別に――」


 気が付けば足音が大きくなり、すぐ近くから地鳴りが聞こえてくる。


「くっ、もうきちまったのか!」


 そう言うと冒険者の人は絶望した顔をした。

 ……ぱっと見は基本的に★1~3の魔物ばかりで、なみの冒険者さんなら楽に倒せる物ばかり。


 しかし、「戦いは数だよ兄貴!」という言葉があるように、これだけ数が居たら、流石に勝つことは難しいだろう。


 その上”普通”の冒険者さんなら討伐するのが難しいとされる★5、才能があって最前線で活躍する冒険者じゃないと倒すのが難しいとされている★7の魔物も見える。


 俺は、上段に構えた刀に”気”を貯める。

 別に特殊な効果なんてことはない。

 全集中して一撃に全てを込める、そんな感じの心意気をするだけだ。


 ゼロ秒。


 銀色の刀身が七色に煌めく。


「チェストっ……!」


 一撃の後に、スタンピードを殲滅した。


「な、何が……」


 一撃で消え去った魔物たちを見て、冒険者の人は目を真ん丸にしていた。


「冒険者さん……あれ?冒険者さん?」


 何の返事もない、ただの屍のようだ……

 なんてそんなことはなく、ただ驚いて固まってるだけなようだ。

 その証拠に、目の前で手をぶんぶんしたらすぐに反応が返ってきた。


「これで、スタンピードは殲滅完了ってことで……いいよな?」

「え、あ、ああ……そうなのか?」


 そう言って冒険者さんは軽く頷き……


「はっ……い、いやまだスタンピードは終わってねえ!おい、今のうちに逃げるぞ!」


 そう言って冒険者さんは焦ったように言った。


「え?何が……」


 その時、俺も気配を感じた。

 ああ、そう言う……

 ここまで近寄られてないと気が付かないなんて、ちょっと油断しすぎかな……


「アイツらだけじゃねえ……深層の魔物が出てきてるんだよ!ほら、あれを見ろ!」


 そう言われて見ると、いつもお世話になってる見慣れた魔物が居た。

 ★13の魔物、ゴブリンエンペラーさんを筆頭に、★10の魔物が歩いてきていた。


 どうやら、一足遅く歩いてきていたようで殲滅の範囲外になってしまっていたらしい。


「はぁ……」

「さ、今度こそ早く逃げ……」

「死んどいて」


 そう言って俺はもう一度上段から振り下ろして、ゴブリンエンペラーたちを殲滅する。


「もう、居るなら一緒に来てよ。めんどくさい」

「え、えぇ……」

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