天上の神に愛された姫君と姫君を愛してしまった地上の若君
うめもも さくら
序章であり結末 歪んでしまった貴女への愛
私が恋をした女性は、神に愛された姫君だった。
彼女はこの世界とは全く違う世界から現れ、私はそんな神に愛された彼女を守る一族の人間。
出逢うべくして出逢い、決して実ることのない恋情を心にひた隠しながら、私は彼女のそばにいる。
彼女が足音を立てて、私の部屋に近づいてくる。
いつもならば、散歩でも楽しむようにゆっくりと、けれど軽い足取りで歩く貴女だから、これは急を要している時。
彼女がなにかに困っている時、自身じゃ解決できない緊急事態を前にして、私に助けを求めている時。
もう足音一つで、貴女の声を聞かずとも、貴女の
長く、人の身では長すぎるほど永く、彼女とともにいて、私が彼女を守ってきたのだから。
私の自室の
私は体ごと顔をそちらに向けて、飛び込んでくる彼女を抱きしめるように支えた。
これには少しばかり、動揺した。
いくら私とは常識も生き方も違う彼女だけれど、男である私に飛びついてくることは滅多にない。
けれど、その動揺も一瞬のこと。
彼女がこんなに慌てふためいている。
素早く事態を把握し、彼女のためにできる最善の行動をしなければ、と思考を巡らせる。
その時、彼女を支えていることで、自身の
まだ私の胸に顔を
――泣いている?
私は、物言わぬ花や木にでもなったかのように、ただ静かに彼女の背をさする。
時間の経過と私の手の温度、そして私という存在によって、彼女の体と心が落ち着きを取り戻すまで、ずっと。
どれくらいの時間そうしていただろう。
とても短い時間のようにも、永遠にこの時間が続くかもしれないと思えるほど長い時間にも感じた。
その時間は、私の胸から顔を離し、私の目をみつめながら放たれた、彼女の悲痛な叫びにも似た言葉によって破られた。
「
私の名を呼び、彼女は自身の身に起きた突然の変化を動揺と戸惑いに揺れつつ語った。
それは突然のことだったと彼女は言う。
昨日までは何事もなかった、それといった前兆や予兆すらなかった。
朝、目を覚ましたら、世界がいやに静かだと感じたらしい。
それが、彼女にのみに聞こえていた神々の声が聞こえなくなったせいだ、と気づくに時間は要さなかったそうだ。
その上、神様の加護ゆえに彼女のみに使えていた人ならざる力も使えず、彼女のみに見えていた神々や
私は自身の人差し指を優しく彼女の頬に添わせて、その花に伝う白露の如き雫を拭う。
私はこみ上げる気持ちを
そして今度はこちらから抱きしめ、力を込めて、彼女に言った。
「大丈夫、大丈夫です。私がいる。私がいますから。今までもそうだったように、この先、貴女の身に何があろうともこの私、
私の言葉に、彼女は小さく何度も頷いて、私の背中に手を回した。
貴方の顔はまた私の胸に埋められ、私の表情は
今の彼女には、私が纏った着物と、私が纏う香の匂いしかわからないだろう。
だから、怺えていた感情が決壊して表情に出てしまっていても、それを悟られることはない。
私は今、
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