第15話 踏み出した一歩

霜月

第15話 踏み出した一歩

 黒板を見つめる。先生が何か話しているが、全く頭に入ってこない。今日はダメだな。響.5の言葉が頭から離れず、授業に集中出来ない。



 授業を聴く気力もなくなり、机に肘を付き、外を眺める。そう、俺にとっては全て大事な物。その中からひとつを選ぶなんて。



 いや、そもそも許嫁が出来た時点で、選ぶも何も、選択肢は凛しかない。俺の気持ちを無視して決められた婚約。



 俺自身も、写真を見てカラダが良いという最低な理由で凛を選んでいる。凛は可愛い。笑う顔は天使みたいにさえ、思える。どこにでも居る平凡なスペックな俺には勿体無い。



 凛は俺のことが好きなのかな。



 俺は? 俺の気持ちは?



 誰が好きなんだ?



 自然に目線が廊下側に座る友理奈へ移る。授業を聞きながら一緒懸命、ノートを取っている。俺の視線に気づくと、友理奈は目を細め、微笑んだ。



 いや、別に。ただの幼馴染だし。恋愛感情とか持ってないし。その微笑みにドキッとするのはなんでだろう。



 んーー。ないないない!! 友理奈はない!! 自分に言い聞かせ、机の下でこっそりスマホを見る。凛からメールが来ていた。



【帰りに渡したいものがあります。校門で待っています】



 渡したいものってなんだろう。俺から凛へは何もしていないのに、まぁ、飽きもせず毎日メールを送り、朝は一緒に学校へ行き、週末はデートをする。



 凛は俺と仲良くしようと努めている。



 真剣だ。



 たとえ、俺が凛に対してまだ恋愛感情がなかったとしても、この凛の気持ちは大切にしなければならない。



 ないがしろには出来ない。 



 いいじゃん、これで。そうだよ、選択肢は凛しかないんだ。凛を選べよ。俺。何も迷う必要はない。ただ、流されるまま、凛と過ごしてきた。それではダメだ。凛をちゃんと見よう。今日はまず、その一歩だ。



 凛へメールを返す。



【楽しみにしてる!】



 頭の中でグルグルしていた考えは晴れ、先生の声が次第に耳へ入る。黒板を眺め、授業に集中する。



「俺もなんか持って行った方がいいのかな?」



 貰うだけじゃ申し訳なくね? でも何を渡していいかわからない。用意する時間もない。う~~ん。どうしよう。シャーペンを右手で回しながら考える。



 凛が喜ぶようなことってなんだ?

 晴れたはずの脳内はまた曇り始めた。



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「ぁああぁあぁあぁあ!!!」両手で頭を抱え、叫ぶ。

「たぁくん、うるさい」友理奈がその様子をじーーっと見つめる。


 結局何も決まらないまま下校時間になっちまった!! もう待ってるよね?! 窓から外を覗く。居る。行くしかねぇ!!



「たぁくんどうしたの? なんかあるのぉ?」友理奈は匠に訊く。

「凛と約束が。俺、行くわ!」スクールバッグを手に取り、駆け足で教室を出た。



 今日は友理奈に来てほしくない。まぁ、GPSでいくらでも追跡可能だとは思うけど。



「ぇえ~~! じゃあ今度うちと学校帰りデートしてね!」友理奈は匠の背中に向かって叫ぶ。

「え? おう?!」ん? 余計な約束した気がする!



 靴を履き替え、校門で待つ凛の元へいく。凛は恥ずかしそうに手を触り、待っていた。なんか、可愛いな。



「お待たせしました!! はぁっ……はぁ」走ってきたせいで、暑い。

「わざわざ走ってきて下さったのですか?」凛は鞄からハンカチを取り出し、匠の額に垂れる汗を拭いた。



「ありがとう、洗って返した方がいい感じ?」これ、クリーニングかな。ハンカチ高そう。

「ふふ。そんなの必要ありません。行きましょう」凛は口元に笑みを浮かべ、歩き始めた。



 学校の近くにある公園へ向かう。ベンチに2人で腰をかける。凛は鞄から、紙袋を取り出した。紙袋すら、高級感を感じる。身分の差に少し引く。



「これ……朝、作りましたの」凛から紙袋を受け取る。

「作った?」紙袋を開き、中からひとつ取り出す。ブラウニーだ。

「甘い物はお好きですか?」凛は匠を見つめる。

「まぁ、普通?」匠はブラウニーの入っているビニール袋を開ける。ブラウニーを取り出し口へ運んだ。



「美味しい!」甘すぎず、苦すぎず、ちょうど良い。

「ほんと?! 良かったです」凛は嬉しそうに笑った。



 これ、朝から俺のために作ったのかな? 大変だっただろうなぁ。だとしたらやっぱり何かお返しをしたい。あんまりハードなことはできないぞ?! うーん、うーーん、うーーーーん。全く思いつかない。



 凛の顔を見る。凛も俺を見つめた。見つめ合う、無言の空間。えっ。こ、こここここここれは!!!



「…………」

「…………」



 まさか……キス?!?!



 確かにお返しするには今は何も持ち合わせていない!! 肉体的なお返ししか出来ないが!!! 恋愛経験値皆無。DTな俺に出来るのか?!?!



 凛のおうちの人とか怒りませんかコレェ?! いいの?! やっちゃうよ?! 俺、やるからね!! 初キッス緊張する!!



 怖気付くな!! 男を見せろ!!! 白川匠!!!



 匠は目を瞑り、凛に顔を近づけた。










 あとがき。

 第二回リレー小説企画。

 霜月が勝手に先走って書いたため、採用されるかはわからない。


 匠は最終的な誰を選ぶのか。顔を近づけた後の展開はラブなのか、ギャグなのか、次の走者に任せたい。楽しみだ。

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第15話 踏み出した一歩 霜月 @sinrinosaki

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