第37話 千載二遇(2)

考えごとをしてた。

或いは、夢を見てたのかもしれない。


飛行機の四角い窓から富士山を見下ろしながら

昔のことを思い出してた気がする。


「あのねぇ!ワープなんかできちゃったら航空業界、たまったもんじゃないよそれ。」


「科学の進歩だ近未来だなんだ言って、瞬間移動の1つもできないわけ!?人間は!!」


ジェットとお京の口論で機内が揺れる。


「音季の大切な人がチンピラのせいで死んじゃったのよ!?」


めずらしく声を荒げるお京。

全身全霊で怒りに震えているのがわかる。

見たこともない獣のような目つきに

ジェットが両手を挙げて尻込む。


「帰りも飛行機の手配してくれただけでも充分だよ。愛知に着いたら、警察に行こう。」


わたしが宥めるも、焼け石に水。

お京の怒りの炎は収まらない様子だった。




※※※※


『男の人がわざとぶつかって来たらしくて』


火葬場で野月さんとの別れ際、彼女から聞いたその言葉で確信した。


あの朝の曲がり角の当たり屋だ。(♭.1参照)

岬ばあは、おそらくあの当たり屋に突き飛ばされたのだ。

わたしのせいだ。

わたしがちゃんと、通報していればよかったんだ。


そのことをお京に伝えると、私怨に駆られた殺人犯の様な形相で

「なによそれ…許せない…」と静かに溢した。


お京は歯を食いしばったままわたしの手を取ると


「大丈夫。悪は必ず罰を受けるの。許せない。

絶対にブチのめしてやる…。」


と西の方角を睨んで空港へと歩き出した。


ブチのめす、なんて久しぶりに聞いた。

わたしの知らないお京みたいで、少し怖かった。


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