第21話 オリエンテーション
カレンとの再会を果たした入学式の翌日。
前日より少しだけ早起きしたルクスは、新入生向けのオリエンテーションとクラス分けの発表ののため、講堂に訪れていた。
周囲を軽く見回すと、まだ朝早いからか、集まっている生徒は少ない。
「......ハァ」
「どうしたんだ、ケイ」
「どうしたじゃねぇ、俺はアンタとつるむ気はねぇって言ったはずだぜ? なんで普通に着いてきてんだ?」
右隣でため息をつくケイにルクスが声をかけてみると、相変わらずの答えが返ってきた。
ルクスの所感では、ある程度言葉の棘は減ったと認識していたが、貴族と仲良くする気がないという考えを改める気はないらしい。
「チッ……アンタのことはまあいいさ、慣れたからな。けどよ──」
ケイは、そこで一旦言葉を止め、視線をルクスの左隣にいる少女に向ける。
入学式に出席した者であれば、全員が知っている顔、カレン・ルイワッタだ。
「なんで、新入生代表様までいやがんだ?」
「えへへ、ルクスとは友達なの」
「んなこと聞いたわけじゃねえんだが……ま、アンタとの伝手が出来んのはありがたいか。俺はケイ、よろしく」
そう言って、ケイはカレンに右手を差し出した。
ケイが自分から握手を求める光景に、ルクスは思わず目を見張る。
しかし、少し考えてカレンが平民であることを思い出す。
(思っていたよりも線引きが明確だな……中々骨が折れそうだ)
「うん、私はカレン・ルイワッタ。よろしくね!」
「へへ、どうも」
ルクスの思考をよそに、カレンが笑顔でケイの手を取る。
ケイは口角をあげ、視線をルクスに向ける。その表情は、どこかしたり顔だ。
「なんだ?」
「いいや、別にぃ」
「……それならいいが、カレンとは仲良くしてやってくれ。こう見えて人付き合いは苦──」
「っ、ちょっと!!」
ルクスが人付き合いは苦手、と言い切る前にカレンが焦った様子で、声を張り上げ遮る。
「あ、あはは……ごめんね。私、ちょっとルクスに話すことあるから、先に行ってて?」
「ん? ああ」
ケイは首を傾げながらも、カレンの言葉に頷き、講堂の奥へと歩いて行った。
「ふぅ……さっきの! なに目線で話してるんでっ、のさ! 昨日色々話したのに、変な感じになっちゃうじゃん! ケイだっていたのに」
ケイの姿が見えなくなったのと、周りに誰もいないことを確認してから、カレンが捲し立てる。
カレンにしてみれば、あれは明らかな子供扱い。
昨日の友達としてイチから、という約束に反する問題だ。
「む……言われてみれば、そうだな。悪かった……自分が思うよりも染み付いているものだな」
カレンの叱責を受けて、どうにも昔の感覚が抜けないと、心の中でぼやきながら、ルクスは軽く頭を下げた。
カレンはその様子に毒気を抜かれたのか、直前の勢いを失い、気まずそうに視線を逸らす。
「いや、謝ることはないんだけど……私だって完全に慣れたわけじゃないですし。
まあ、なんにせよ切り替え! お互い気をつけよ」
「ああ、そうだな。次からは気をつける」
「よし! それじゃあ行こっか」
カレンは、いつもの調子に戻ってニッと笑うと、ルクスの手を掴んでぐいっと引っ張る。
そして、二人はケイの後を追って講堂の中へと入った。
◇ ◇ ◇
外で話をしているうちに講堂の中は、多くの新入生で賑わっていた。
とはいえ、入学式の時のようにキッチリと整列しているわけではないので、あちこちで談笑する声も聞こえてくる。
それぞれの出身や境遇は違えど、皆、これから始まるアカデミー生活への期待に胸を膨らませているようだった。
ルクスはカレンは、新入生達の中から、ケイを探し出すと、その隣の空席に腰を下ろした。
「お貴族様と一緒じゃ落ち着かねえ、別のところにしろ」
「悪いが空いている席が少ないのでな。互いに理解し合えるいい機会かもしれないぞ? 寮外の交流も大事だ」
「冗談じゃないね。一生理解したくもねえ」
「あ、ははは……」
相変わらずなやり取りを続ける二人を、カレンは苦笑しながら見つめていた。
やがて、講堂の正面に設置された壇上に、数名の教師たちと共に、恰幅のいい初老の男が上がった。
男は軽く咳払いをしてから口を開く。
「えー、新入生の諸君、おはよう。私は、王立魔術アカデミーの教頭、バルトロメウス・アークライトだ。本日はオリエンテーションにようこそ」
教頭と名乗った男は、新入生たちを見渡しながら、ゆっくりと話し始めた。
オリエンテーションの内容は、至って一般的なものだった。
アカデミーの歴史や校則の説明、施設の紹介、カリキュラムの概要など。
ルクスは、時折頷きながら、真面目に教頭の話を聞いていた。
神代とは異なる、この時代の魔術教育の最先端を走る、王立魔術アカデミーの教育方針をなどの情報は、彼にとって面白い情報ばかりだ。
カレンも、既知の事実が多いため、少しだけ退屈そうな様子だが、比較的真面目に話を聞いている。
その一方で、ケイは、真面目に話を聞く2人の隣で退屈そうに腕組みをしながら、あくびを連発していた。
「まったく、眠くなるような話ばかりだ。これなら、サボった方が有益だったかもな」
「少しは真面目に聞いたらどうだ?」
「そうだよ、後で困っちゃうよ?」
ケイの態度に対して、ルクスとカレンが諭す。
しかし、ケイは興味なさそうに鼻を鳴らした後、口を開いた。
「あらかた頭には入ってる。ただ、どうせこういうのは貴族が有利になるような仕組みに出来てんのさ。 聞いてても時間の無駄だね」
「それはどうだろうな。このアカデミーは完全実力主義だと聞いているが」
「建前だけさ。どうせ裏では──」
「さて、諸君。アカデミー生活における最も重要なことの一つに、クラス分けがある」
ケイが何かを言いかけようとしたその時、教頭がクラス分けの話題を切り出した。
ケイは、教頭の言葉に、面白くなさそうに舌打ちをする。
「このアカデミーでは、定期的に生徒の能力を評価し、それに応じてクラス分けを行う。
クラスは、上から順にS、A、B、C、Dの五段階に分けられる。
そして、クラス分けは再評価され、変動する可能性もある」
教頭の言葉に、新入生たちは、緊張した面持ちで耳を傾けている。
王立魔術アカデミーに入学した以上は魔術師として高みを目指したい。
そのために、より上のクラスに配属されることを望むのは彼らにとっては当然の感情だ。
「教頭先生、そのクラス分けはどのように行われるのですか?」
新入生の一人が、教頭にそう質問した。
教頭は、その質問に待ってました、と言わんばかりにニイッと口角を上げた。
「良い質問だ。それはだね……いや、説明はしては意味がないか。
では、勝手ながら始めよう! 王立魔術アカデミー名物、クラス分けテスト!!」
教頭がそう宣言すると、新入生達の困惑をよそに教師の一人が前に出てくる。
そして、魔法陣を展開し始めた。
複雑な紋様が描かれた魔法陣は、みるみるうちに巨大化し、講堂全体を覆うほどの大きさになる。
そして、魔法陣は、新入生一人一人を包み込むように光を放ち始める。
「不安にならずとも良い、単なる転移魔術だ。転移後は、まず胸ポケットを確認したまえ、テストの概要が記した紙が入っているはずだ。それでは諸君、健闘を祈る!」
教頭の言葉が終わると同時に、ルクスは、魔法陣の光に包まれた。
視界が白く染まり、意識が朦朧としてくる。
そして次の瞬間、ルクスは見覚えのない森の中に立っていた。
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