神代最強の魔術師だけど、1000年後の未来に転生したら最弱だった件 〜魔術が発展しすぎて通用しなかったので、1から鍛え直してもう1度最強を目指します〜
傘重革
序章
プロローグ
ひび割れた石畳の隙間から、雑草が力強く伸びている。
かつては神々しさすら感じさせた白亜の柱は崩れ落ち、壁には蔦が絡みついている。
もはや、かつての栄華を偲ばせるものは何も残っていない。
唯一、ここがかつて栄えていた神殿であったことを示すものは、空間を重く淀ませる魔力の残滓だけだった。
「ふぅ、完成か。やっと終わり……長かったような、短かったような」
廃墟と化している神殿の中央に立つ男――マギアは、自嘲したような乾いた笑みを浮かべながら、足元に広がる複雑な魔法陣を見下ろしている。
マギア自らの手で創り出した、遥か未来へ転生するための魔法陣だ。
「……昔は、楽しかったな」
マギアの視線は、まるで思い出を探すかのように、廃墟となった神殿の空間をゆっくりと巡る。
かつて、この場所で繰り広げられた激闘の数々。魔術師としての誇りをかけた、命を懸けた戦い。
しかし、それも既に過去でしか無くなってしまった。
数多の敵を打ち倒し、頂点に立ったマギアを待ち受けていたのは、果てしない虚無と退屈な日々だった。
最強の名を欲しいままにした栄光の日々、全てを手にしているはずなのに、全く満たされない。
その矛盾が、常にマギアを蝕んでいる。
「マギア様」
マギアが思考に耽っていると、背後から透き通るような女の声がした。
「……シャイナか。よくこの場所が分かったな」
振り返ると、そこには長く艶やかな銀髪を揺らし、憂いを帯びた紫色の瞳でこちらを見つめる美しい女性――シャイナの姿があった。
彼女はマギアが気まぐれで拾い育てた、唯一の弟子であり、娘のような存在だ。
そんな彼女の才覚は、最強の名を欲しいままにするマギアにさえ、匹敵するレベルである。
「マギア様。偉大なる我が師よ……本当に旅立たれてしまうおつもりなのですね」
「すまないな。お前を残して行くことになる」
悲しそうなシャイナに、マギアは僅かに申し訳なさを感じつつも、きっぱりとした口調で答えた。
シャイナはマギアの決心が揺らぐ事がないのを悟ったのか、マギアの言葉に、こくりと小さく頷くと、静かに彼の横へと歩み寄る。
「マギア様が決めたことであれば、否定するつもりはございません……ただ、このシャイナ。愚かにも、貴方様がいなくなることが、たまらなく寂しいのです」
そこまで話して、シャイナはマギアに抱きつくと、その胸に顔をうずめた。
マギアは、愛弟子であり愛娘でもあるシャイナの頭を優しく撫でながら、ゆっくりと口を開いた。
「……最強の称号を得、もはやこの世界に敵はいない。永遠にも等しい時を生きる俺にとって、残された道は、ただただ同じ時を繰り返すことだけだった」
マギアの声には、諦念にも似た静かな響きがあった。
「孤独、退屈、戦いなき世界への虚無感。そして、心の奥底で燻り続ける、新たな刺激への渇望……お前が隣にいてなお、俺には耐えられなかった」
マギアは、自身の深層心理を吐露するように、言葉を紡いでいく。
「……俺は、この閉塞した世界から抜け出し、まだ見ぬ世界へと旅立ちたいのだ。そこで、新たな刺激、新たな出会いを求め、再び、己の力を試したいと願っている」
「……っ」
シャイナは、マギアの言葉に、ただ静かに耳を傾けている。
しかし、彼女の紫色の瞳は、涙に濡れており、今にも泣き出してしまいそうな様子だ。
マギアは、そんなシャイナの様子を察して、頭を撫でる手に少し力を入れ、さらに声色を柔らかくして言葉を続けていく。
「シャイナ、お前は優秀な魔術師だ。師である俺の背中を、ただ追いかけるのではなく、いずれは追い越してみせろ」
マギアは、俯くシャイナをまっすぐに見つめて言い放つ。
「だが、俺が味わったような孤独を味わう必要はない。魔術を極め、そして、その先にある新たな可能性を切り開いてみせろ。この世界には、お前が成すべきことが、まだまだたくさん残されている」
「……ですが、私は──」
シャイナは、反論しようと口を開くが、マギアはそれを遮るように言葉を続けた。
「心配するな。転生は、死ではない。
魂は時空を超えて、新たな肉体を得て生まれ変わる。これは、終わりではなく、新たな始まりだ」
マギアは、自身の胸に手を当て、力強く宣言する。
「だから……いつか、再び会おう。その時は、成長したお前の姿を見せてほしい」
「……っ! マギア様……!」
シャイナは、師の言葉に悲しみながらも受け入れる決意ができたのか、涙をぐしぐしとぬぐって顔を上げた。
そして、少しだけ赤くなった目でしっかりとマギアの目を見据える。
「はい……! マギア様! このシャイナ、貴方様の教えは、決して忘れません!
絶対に貴方様を越えてみせます……なので、いつか必ず、再びお会いしましょう!」
いつか再会できることを信じ、出来る限り力強い声で、マギアに最後の別れを告げた。
「ああ、約束だ。シャイナ……今まで、ありがとう」
マギアは、普段なら見られないジャイナの様子に、安心したように小さく微笑んでから、最後にシャイナの顔を見つめ、感謝の言葉を述べる。
そして、マギアは、静かに目をつむると、足元に広がる転生魔法陣に魔力を注ぎ込み始めた。
次の瞬間、魔法陣が眩い光を放ち、マギアの姿は光に包まれていく。
(あぁ……楽しみだ)
マギアは、そう心の中で呟くと、意識は光の中に溶けていき、完全に姿を消したのだった。
◇ ◇ ◇
とある貴族の屋敷の一室で産声があがる。
「おぎゃー! おぎゃー!」
柔らかな産着に包まれた赤子は、まだ小さく頼りないながらも、力強く泣き声をあげていた。
「おめでとうございます、奥様。元気な男の子でございます」
傍らに控える侍女の言葉に、ベッドの上の女性は、安堵の表情を浮かべながら、ゆっくりと目を開けた。
「まぁ、男の子……よかったわ。あの人も喜ぶから」
まだ出産の疲れが残る体に鞭を打ち、女性は震える手で赤子を抱き上げる。
小さな小さな命を腕に抱き、愛おしそうに見つめる。
赤子は、女性の温もりに安心したのか、先程までの激しい泣き声は嘘のように静まり、小さく口を開けて、にこ、と笑ってみせた。
「ふふ、あなたはルクスよ。ルクス・エルフィンストン」
女性は、ルクスと名付けられた赤子の額に、そっとキスを落とした。
(ルクス、それが今世の俺の名か。転生は、成功したようだな)
ルクス――転生したマギアは、転生が成功したことと、これから起こる未知の出来事に胸を躍らせていた。
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