文字の速度

後藤麻衣子

文字の速度

甚平のひとに助けてもらう駅


鮎ほどの長さの薪を篝火へ


梅干や夜露の気配裏返す


ぬるく桃切る平熱にとけてゆく


朝月夜チャイム北舎に跳ね返る


十月の沈黙に雨音のきれい


山眠る汽車はふるえてのぼりきる


重力を狂わせ綿虫の下降


丑三や蒲団をかける母の役


看板屋の看板剥がれかけて雪


読初の字は速すぎて声に出す


今朝塗った爪に名前をつけて春


トイレあの凧に向かって左だよ


フェイスパックめくってかじる桜餅


本能で折る鶴一羽イースター


満員電車の天井を風船


詩を読んで思い出す絵や麦の秋


廃業の顔して観光簗の開く


巣へ運ぶために初めて飛ぶ蚯蚓


隣人のアラームさやかHello,world!

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文字の速度 後藤麻衣子 @goma121

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