宝石姫

下東 良雄

第1話 ヒトの価値

 私たちの世界とは異なる世界、異なる時間軸での物語。


 巨大な大陸の大部分を長きに渡り統治する王国があった。それは人間を中心とした国であり、その大陸に暮らすエルフやドワーフなどの他の種族は、進んでその王国と接触を持とうとはしなかった。価値観があまりにも違い、またそれを理解することができないからだ。


 その価値観とは「ヒトの価値」であった。

 王国では、髪の色がヒトの価値のすべてなのだ。


 アメジストパープル(アメジスト:紫水晶)の王族、サファイアブルーの上級貴族、ルビーレッドの下級貴族、エメラルドグリーンの上級平民、アンバーイエロー(アンバー:琥珀こはく)の下級平民と、髪の色は宝石の色になぞらえて呼ばれ、明確なヒエラルキーが出来上がっていた。

 王族には紫の髪の子どもしか生まれず、上級貴族は青い髪の子どもしか生まれないなど、髪の色によるヒエラルキーは神による啓示であると考えられている。稀に、異なる髪の色の子どもが生まれることがあったが、それは「神の悪戯いたずら」と呼ばれ、公然と間引きが行われていた。


 そして、そのヒエラルキーの最下層には、この王国の人口の三分の一以上を占める黒髪のストーンブラックが存在していた。ヒトとして認められない彼らは、ジュエラー(宝石の名を冠している下級平民以上の総称)たちの使い捨ての奴隷となるか、明日をも知れない生き方を強いられ、苛烈な差別の対象となっていた。


 ある日のこと。王家お抱えの占星術士の占いによる予言が王に伝えられた。


『この地を統べる者の下に、まもなく光り輝く命が降臨する。その者は根をしっかりと張り、新しい風を吹き込み、その輝きにより永久とこしえの繁栄を約束する新たな宝石となるだろう』


 その予言に王は喜んだ。王妃がまもなく出産を控えているからだ。予言は、産まれてくる子どものことを指しているのは間違いなく、その新たな宝石に否が応でも大きな期待を寄せた。


 そして、王妃は可愛らしい姫を出産。その髪の色は紫ではなく、美しい銀色であり、部屋の灯りを反射してキラキラと光り輝いていた。王は姫の髪の色をダイヤモンドシルバーと呼び、王族の中でも特別な存在であることを主張。王国のさらなる繁栄を願った。



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